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★ 日向家・キッチン
【Ｎ】「ここは日向家、日曜日の朝。キッチンには朝食の準備をしている夏美ちゃんがいます。んでもって突然で すが！ 今日は夏美ちゃんにナレーションを代わってもらいますんで、ヨロシク！」 味噌汁の味付けを確認している、エプロン姿の夏美。出来に満足気に、大きく頷く。 そして振り向いてこちらに、ペコリ、と頭を下げる。 夏美「（明るく）おはようございます、日向夏美です。今日は、あたしの家族を紹介しますね」 落ち着いた足取りで、リビングからキッチンに入ってくる秋。 夏美を見て、爽やかな笑顔を浮かべる。 秋「おはよう。あら？ もう支度終わってるの？ 早いわねぇ」 夏美【Ｎ】「あたしのママ、日向 秋。出版社の編集者で、漫画家の担当をしています。時には厳しいケド、優しく てあったかくて、大好きなママです。メチャメチャ忙しいんであんまり家にいてくれないのが、ちょっと 寂しいかな」 トタトタ、とやや忙し気に廊下を歩き、軽く首を回しながらキッチンに来る冬樹。 冬樹「（やや眠た気に）おはよう姉ちゃん。あれっ、ママもこれから？」 夏美【Ｎ】「あたしの弟、日向冬樹。オカルト大好きの中学生。勉強やスポーツは苦手みたいだけど、気は優し いし、宇宙外交官なんて面もあって頼れるトコもあるのよ。あとね、怒らすとホントーに怖い！」 鼻歌混じりに地下への扉を開けて、軽やかな足取りで冬樹に続いて入ってくるケロロ。 ケロロ「（喜色満面で）おはようであります！ おお！ 今日も美味そうな朝ご飯でありますな！」 夏美【Ｎ】「ウチの居候、ボケガエル。地球侵略にやってきた異星人なんだけど、やれプラモだガンプラだって毎 日で、何しにここに来てんだかぜーんぜん判んない。取り敢えず家事当番はやらせてるケドね」 ふう、と息を付いてコンロの火を止める夏美。 近付いてきた秋と顔を合わせ、一度だけ頷いてその場を離れる。笑顔で見送る秋。 そしてリビングを抜け、カラカラ、とサッシを開けて庭を見る夏美。 夏美【Ｎ】「そして・・・ね。この人が・・・あたしの旦那様」 庭の野営テント前のブロックに腰掛け、こちらに背を向けているギロロ。 武器を磨いており、ゆっくりとウエスを持った手を動かしている。 夏美、薄く頬を染めて、柔らかい微笑みを彼の背に向ける。 夏美「ギロロー、朝ご飯出来たわよー」 ギロロ「（ブロックから立ち上がって振り向き）わかった。すぐ行く」 夏美【Ｎ】「ギロロ。ケロン星宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊、通称ケロロ小隊の機動歩兵で、階級は伍長。生 まれ育ちや今までそんな経験が多い所為か、バリッバリの軍人気質で、堅物で頑固で口下手。でも ね・・・どんな危険な時もあたしを救けに来てくれたり、そん時に自分の何倍もある敵に挑みかかった り、普段は誰よりもあたしを気遣ってくれて、あたしを見守ってくれてる、とっても優しくて素敵な・・・」 ケロロ「ステキな赤ダルマであります！」 夏美「そう、ステキな赤ダルマ・・・」 ガシッ！と、ケロロの頭を鷲掴みにする夏美。 手に渾身の力を込め、ミシッ、と音がする。 夏美「（憤怒の表情）・・・何、人のモノローグに乱入してんのよ、ええぇ？」 ケロロ「（全身蒼ざめて、冷や汗）いやいやいや夏美殿わわわわ我輩はただたたた・・・」 ゴスッ！ メコッ！と、渾身の力で頭を壁に叩き付けられるケロロ。 壁に亀裂が走り、めり込んで、プラーン・・・と身体を揺らす。 夏美【Ｎ】「さて、気を取り直してっと。そう・・・ギロロも最初はあたしに戦いを挑んで来たのよね。あたしが彼の 仕掛けたトラップを全部突破して、彼との一騎打ちに勝ったのがそもそもの始まりかな。最初は警戒 してたあたしだったけど、彼がすっごく美味しく焼いてくれた焼き芋をくれてから・・・ギロロを見る目が 変わったわね。それからもいろんなコトがあって、あたしたちの距離はどんどん縮まっていったような 気がするの。そしてプロポーズされて、あ、あたしからもすぐにプロポーズしたのよねっ。それから結婚 して、３ヶ月経ちました・・・まだあたしが学生ってこともあって、生活は以前と変わりありません。変わ ったのはあたしとギロロが夫婦になったってことで・・・」 ケロロ「ま、あの“かませ犬”がここまで来れたのも、ひとえに我輩の人徳の・・・」 ドバギィィィィッ!!!と凄まじい夏美の蹴りで、開いたサッシから空に飛んでいくケロロ。 ケロロ「（悲鳴）ゲッロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!・・・・・・」 キラーン・・・と光の点になって消える。 ふうっ、と嘆息をつきながら空を見上げ、夏美の元に来るギロロ。 ギロロ「（呆れて）まったく、朝っぱらから騒々しいな」 夏美「（呆れて）ほーんと、いつまで経ってもあんなんだから」 ギロロ「とにかく飯にするか」 夏美「うん」 夏美を見上げて、優し気な表情でリビングに上がってくるギロロ。笑顔で迎える夏美。 ギロロの姿を見て、笑みを浮かべて歩み寄ってくる冬樹。 冬樹「（明るく）おはよう、ギロロ義兄さん」 ギロロ「（ちょっと赤面して）に・・・冬樹、呼び捨てでいい、って言った筈だろ？」 冬樹「あ、ごめん。でもたまには呼ばせてよ。いいでしょ？」 夏美「まあ、“お兄さん”が出来て嬉しいのは判るけどね。あんましギロロを困らせないでよね」 冬樹「はーい。ところで姉ちゃん、軍曹知らない？」 夏美「（抑揚のない声で）さーねー。夕ご飯までには帰ってくるんじゃない？」 キッチンに入る３人。食卓に配膳中の秋を目にする。 ケロロ「夏美殿ッ！ 今日の目玉焼きはサニーサイドアップでよろしくであります！」 ズンガラガッシャアァァァン!!!・・・と盛大にコケる夏美とギロロ。 ジト汗で、食卓のひとつの席に落ち着いているケロロを見る冬樹。 ガバッ！と見事にシンクロした動きで身体を起こし、ケロロに目線を据える夏美とギロロ。 ギロロ「（声を荒げ）きっ、きっ、貴様ーッ！ いつの間にーッ！」 夏美「つーか戻ってくるの早ッ！」 ケロロ「（自慢気に）おやこれはおふたりさん、何を驚いてらっしゃるやら。ま、隊長ともなると何でもアリアリ空手 チョップアリってことで、どっすか？なのでありますよ。ゲロゲロリ」 夏美「（物凄く不審な目で）ワケ判んない・・・」 秋「（動揺せず、落ち着いた声で）さあさあみんな、席に着いて。夏美は卵を焼くの、手伝ってくれるかしら？」 夏美「（気を取り直し）あ、うん。判ったわ」 秋と並んでコンロの前に立ち、手際よく卵を焼き始める夏美。 食卓のリビング側、ケロロの隣の席に座るギロロ。ケロロと角を挟んだ席に腰を下ろす冬樹。 ギロロ、キッチンに立つ夏美の後ろ姿を腕組みをして、じっ、と見詰める。 そんなギロロを見て、ニッ、と不敵な笑みを浮かべるケロロ。 ケロロ「（顔を寄せ、小声で）ギロロく〜ん、相変わらず見惚れちゃてるね〜」 ギロロ「（赤くなり、小声で）なッ、何を言い出すんだケロロッ・・・」 ケロロ「いつまで経っても新婚ホヤホヤっつーワケで、よろしいでありますなぁ」 ギロロ「（焦って）あ、朝っぱらから煩いぞッ。余計なことは言わんでいいッ」 ふたりの遣り取りを、傍らでニコニコしながら見ている冬樹。 やがて食卓の上、各自の前に目玉焼きが乗った皿が、秋によって銘々に配膳される。 ご飯と味噌汁をテキパキと装い、それらを次々と食卓に並べる夏美。 そして夏美はギロロの真正面、秋はケロロの向かい側に着席する。 秋「（全員を見回し）それじゃ、食べましょうか」 ギロロ「そうだな、では」 夏美「いただきます」 ケロロ・冬樹「「いっただきまーす！」」 食卓に向いた各人の手が一斉に動き出す。 カチャ、カチャ、と箸が茶碗や皿に当たる音がキッチンに響く。 笑顔を浮かべながら、朝食を食べ進める一同。 夏美「（秋を見て）ママが日曜にお休みって珍しいわよね」 秋「吉崎先生の原稿が予定より早くアップしてね、一発ＯＫだったから休めたの」 冬樹「（秋を見て）折角だからどっか出掛ける？」 夏美「でも、ママは１ヶ月振りのお休みだもの。１日ゆっくり休んだ方がいいわ」 冬樹「（頷いて）そうだね。今日はのんびりしててよ、ママ」 秋「（ニッコリと）ありがとう、ふたりとも」 ケロロ「（ご飯を口に含んだまま）ママ殿は日向家隊長でもありますからな、まさに激務続き。たまには羽根を伸 ばされた方がよろしいでありますよ」 ギロロ「（ケロロを横目で見て）貴様は少し秋を見習うべきだな。それと、飯を飲んでから喋れ」 ケロロ「（ゴクン、と飲み込んでから）うえッ？ 何で？ 我輩だって激務続きじゃーん。少し休みたいねー」 ギロロ「（怒り）ガンプラ三昧の何処が激務だッ！」 ケロロ「（半泣き顔で）そんなぁ、ヒドいでありますよギロロ・・・我輩だっていろいろ大変なんだよー。隊長職って やることいっぱいあるし、炊事、洗濯、風呂掃除！ 家事手伝いも大切な仕事！ 宇宙広しと言えど、我 輩以上に仕事してる隊長なんていないじゃん！」 夏美「居候の身でゴチャゴチャ言うんじゃないわよ」 ケロロ「ドッギャーン！ （目をウルウルさせ）何てヒドいお言葉・・・そんなこと言ったら、ギロロだって居候で しょー！」 夏美「（味噌汁を啜って）ギロロは居候じゃなくて、あたしの夫」 ケロロ「（愕然として）うっわー、それって差別じゃーん！ 冬樹殿もママ殿も何か言ってやってよー！」 冬樹「・・・ゴメン軍曹、正論だけにちょっとフォロー出来ないや（ご飯を口に含む）」 秋「でもケロちゃん、ケロちゃんの場合、居候って言っても家族と変わらないからね。日頃から私の代わりに忙 しい思い掛けちゃってるから、本当に感謝してるわ。そこは自信持っていいわよ」 ケロロ「（両目を潤ませ）何てお優しいママ殿・・・」 夏美「ママはボケガエルに甘過ぎよ。まあ、その分あたしはビシバシ行くケドね」 ギロロ「そうだな。（ケロロを見て）こいつは少し緊張感がなさ過ぎる」 ケロロ「ふーんだ、夫婦揃ってのイヂメにも負けないもんねー」 ギロロ「（怒り）人聞きの悪いことを言うなッ！」 冬樹「ところでさ、姉ちゃんと伍長が結婚して３ヶ月になるけど・・・ケロン軍本部からは、特に何も連絡がない の？ 最近は中尉からも音沙汰がないんだよね、ママ？」 秋「（柔らかい微笑で）ガルちゃんは必要最低限の連絡で済ます人だから、大丈夫でしょ」 ギロロ「用件がないと動かない奴だからな」 冬樹「結婚祝いとか手当てとか昇格とかあってもいいんじゃ・・・あ、ゴメン、変な話になっちゃって。ケロン軍は 会社とは違うんだもんね」 ケロロ「確かに、配下の軍人が結婚したってのに、上層部は特進も何もしてくれる様子がないでありますなぁ。 ぶっちゃ毛、ちょっとケチっぽくね？」 ギロロ「俺は今はこのままで構わん」 ケロロ「（意外そうに）へ？ 何で？ 階級が上がるくらいオッケーじゃん？」 ギロロ「そういう見方もあるが・・・焦って上に行こうとは思っていない」 ケロロ「折角の出世出来るチャンスなのに？ ギロロってば、昔はバリバリ出世したいって言ってたけど・・・何 か、丸くなっちゃった？」 ギロロ「（コップの水を少し飲んでから）出世欲がない訳ではない。ただ、機動歩兵である今のポジションが心 地いいというのもあるし、現状に満足しているからな」 ケロロ「夏美殿と結婚出来たから？」 ギロロ「（両眼を閉じて）ああ。俺は居候の身から、夏美の夫になったんだ。これ以上の大出世はあるまい」 途端。 静まり返る食卓。 そっ、と両目を開くギロロ。他の全員がこちらに注目している。 驚いた顔で真っ直ぐにギロロに目線を向けるケロロ、冬樹、秋。 引き攣ったように瞳を正円に開いて、茹だって真っ赤になっている夏美。 キョロ、キョロ、と一通り全員を見回すギロロ。 ギロロ「（訝し気に）何だ？ 俺に何か付いてるのか？ （夏美を見詰め）どうした夏美？」 その言葉に弾かれたように、カチャカチャカチャ、と一気に茶碗のご飯を平らげる夏美。 真っ赤になったまま、ガタン、と椅子を下げて、自分の茶碗と箸を持って立ち上がる。 夏美「（上擦った声で）ご、ご、ご馳走様っ！」 くるり、と背を向けて、そそくさとシンクに食器を持っていく夏美。 ギロロ、その様子を眉を顰めて、首を傾げて見詰めたまま。 ギロロ「（３人に向け）俺は、何か変なこと言ったか？」 ケロロ「（冬樹を見て）いやぁ・・・我輩の口からはとても・・・」 冬樹「僕からもちょっと・・・後で姉ちゃんに聞いてみてよ」 一瞬うろたえたような顔になるギロロ。夏美の背中と周りを交互に見て、眉間に皺を寄せる。 それを、ニコニコと柔らかい笑顔で見ている秋。 自分の食器をせかせかと洗い、手を止めて、ふう、と溜め息をつく夏美。 夏美【Ｎ】「ギロロったら・・・いきなり恥ずかしいコト言わないでよっ。アイツ、以前にも増して、いきなりもの凄い 台詞を言うようになったの。しかも本人は自覚がないのよ！ 自然に言ってるのかどうか判らないケ ド、聞いてる方が恥ずかしいのよもう！」 チラ、と食卓を振り返る夏美。 こちらを見詰めているギロロと、宙で眼差しが絡み合う。ハッ、とするギロロ。 夏美【Ｎ】「でも・・・すっごく嬉しいよ、ギロロ！」 ニッコリ、と目を細めて、暖かい満面の笑みを向ける夏美。 ドキーン！と心臓と共に跳ね上がり、全身鮮やかな朱に染まって凍て付くギロロ。 突然。 軽やかな電子音の着信メロディが、食卓に鳴り響く。 ハッ、とその場の全員が音の鳴った方に目線を向ける。 秋、ゆっくりと自分のズボンのポケットから携帯電話を取り出す。 パカ、と開いて画面を見て、目を細める。 秋「（口許を綻ばせ）噂をすれば、ね」 鮮やかな指の動きでキーを操作し、視線を画面で上下させる秋。 秋「（振り返り）夏美、お茶菓子はまだあったかしら？」 夏美「（秋を見て）え？ お煎餅とかならあったと思うケド？ 誰か来るの？」 秋「ガルちゃんよ。すぐそこまで来てるんだって」 ギロロ、啜っていた味噌汁を、ブホッ、と軽く噴く。 ギロロ「（目を一層吊り上げて）ガルルの奴！ またいきなり来るつもりか！ いやそれより、いつの間に携帯の アドレスまで・・・」 夏美「あたしたちの式の時に、メアド交換したみたいよ。あたしはどちらかって言えば・・・（眉を寄せて）お義兄 さんが携帯でメール打つ姿が想像出来ないケド・・・」 レスを終えた秋、パタ、と携帯を閉じて椅子から立ち上がる。 秋「ガルちゃんは携帯持ってないわ。地球で言うモバイルPCみたいのを持ち歩いてるの」 冬樹「よく考えたら何か凄いよね。異星人と地球人でメールの遣り取りなんてさ」 ケロロ「（ニマッ、と笑い）メールどころか、ギロロと夏美殿なんかは夫婦になったのでありますよ。こっちの方が もっと凄いってことで、どっすか？」 ケロロの言葉に、一同穏やかな笑顔で頷き合う。 ギロロと夏美、互いに顔を見合わせて、改めて笑みを交す。 ★ 日向家・リビング 夏美【Ｎ】「ママの携帯にメールがあって、お義兄さんが久し振りにここに来るとのことで、あたしたちはお茶の 準備をしてお迎えしました。到着したのが10時頃だったんですが、その・・・久々に逢ったお義兄さん は・・・えーと、何てコメントしていいやら・・・」 リビングの長ソファー、庭側に座って腕組みをしているガルル。 ガルルが座るすぐ横の床には、唐草模様の丸い大きな風呂敷包み。ケロン人の体躯を越える物量。 その真向かいで、ジト汗で眉を顰めてガルルを見詰めるギロロ。 ガルル「以前と変わりなさそうだな。健勝そうで何よりだ」 ギロロ「ああ、特に問題はない・・・（チラ、と風呂敷包みを見る）」 ガルル「夏美くんも変わりなし、か。うむ、実に結構」 ギロロ「あ、ああ・・・そうだな（チラ、と風呂敷包みを見る）」 ガルル「（風呂敷包みに目を遣り）気になるか？」 ギロロ「（弾かれたように）当たり前だ！ こんなもん背負って前振りもなく玄関先に立たれてみろ！ 誰だって 気になるわい！」 ガルル「ケロロくんのお父上から薦められてな。なるほど、風呂敷とは実に便利な物だ。大量の荷物を一気に 背負えて、汎用性に富んでいる。しかも未使用時には折り畳めて場所を取らず、携帯しやすい。今後は いろいろと使用してみようと考えているところだ」 ギロロ「貴様のアイテム講座はよく解った。しかし！ これだけは言わせろ」 ガルル「何だ？」 ギロロ「（一段と声を低くして）・・・似合わんことをするな」 ガルル「（ふう、と息をつき）何を言い出すかと思えば・・・相変わらず融通が利かない頭だな。もっと視野を大き く持ったらどうだ？」 ギロロ「余計なお世話だッ！（怒り）」 キッチンから茶菓子や茶の準備をし終えて、それらをトレーで運んでくる秋と夏美。 秋「あら、早速仲良くお喋りしてるのね？」 ギロロ「（訝し気に）これの何処が仲良く見えるんだ・・・」 夏美「（ガルルの前に茶菓子入れを置き）でもホント、玄関開けた時はビックリしたわぁ。こーんな風呂敷包みを 背負って立ってるなんて夢にも思わなかったもの」 ギロロ「まったくだ。言葉も出ないとはこのことを言うんだな（頷く）」 秋「ガルちゃん、いいセンスしてるわよね」 ガルル「恐れ入ります（一礼）」 ギロロ「（秋を見て）・・・本気で褒めてそうだから、これ以上は何も言うまい」 秋と夏美、一通りの配膳を終えて、ソファーに座る。 秋はガルルの横、夏美はギロロの横。手元のポットから、コポコポ、と紅茶を注ぐ秋。 秋「（ガルルの前にカップを置き）ところで、何を持ってきたの？」 ガルル「（秋に視線を返し）これは“試作品”なのです。（ギロロと夏美を見て）ふたりに、特に夏美くんに一度確 認してもらう為の」 夏美「“試作品”？ 確認？」 ギロロ「一体何の話だ？」 ガルル「とにかく、見てもらおうか」 ソファーを降り、風呂敷包みの結び目を解くガルル。 ふわさ、と風呂敷を広げ、中身の品物を次々に手に取り、床に並べていく。 それらを目にして、驚きの余り両眼を見開く夏美とギロロ。感心したように目を細める秋。 品物は、ギロロと夏美の写真が入ったり、スカルマークやコードネームを入れた数々の物品。 ふたりの結婚式のワンシーンをプリントした置時計、壁掛け時計、イヤープレート。 ふたりのコードネームをあしらったペンダント、指輪、ピアス、ブローチ、腕時計。 写真とロゴを上手くデザインして配置したトートバッグ、ハンドバッグ、ポシェット。 更に、グラス・皿・カップ類など、割れ物関係が掲載されている分厚いカタログまである。 ギロロ「（口をパクパクさせ）な・・・何なんだこれは・・・」 ガルル「何だ、見て判らんか？ お前たち夫婦のブランドグッズではないか」 ギロロ「（大声で）そんなことは見れば判る！ いつの間に作った!? いやそれより！ 印刷されてる写真は誰 が撮ったヤツだ!?」 夏美「（茫然としながら）式の後のパーティーで、結構いろんな人が写真撮ってたケド・・・」 ガルル「参列者からの提供もあったが、一番の提供者はクルル曹長だ」 途端、ギロロと夏美の頭上に陰と縦線が降りる。 【イメージ映像】 「く〜っくっくっくっく・・・」と、ここぞとばかりの陰湿な笑いをするクルルの映像。 【映像終了】 はああ、とまったく同時に溜め息を吐いて、肩を落とすふたり。 ギロロ「（眉間に皺を寄せ）・・・あまりに当然の流れで言葉も出ん」 夏美「（眉間に皺を寄せ）・・・ベタ過ぎる展開よね」 秋「（ガルルを見て）それで、ふたりのグッズを製品化するって話は何処から出たの？」 ガルル「それはこれからお話します。少し、長く説明せねばなりませんが」 ガルル、再びソファーに座り直し、テーブルのカップを取って紅茶を口に含む。 飲み込んでから、ふう、と満足気に息をつき、改めてギロロと夏美に目線を投げる。 ガルル「夏美くんは、ケロン星でのギロロの知名度を知ってるかね？」 夏美「知名度？ うーん・・・（少し考えて）地球に来る前に大々的な壮行会が開かれたとか、小隊グッズがあっ てその中にギロロのグッズもある、っては聞いてるケド・・・」 ガルル「ケロロ小隊の人気は、本星では相当なものだ。無数の異星人の支配下にも置かれず、宇宙史から比 べれば生命誕生から日が浅いながらも、深い謎を多く秘めた中立惑星、ペコポンへ向かった勇ましき先 行部隊・・・まさに星を挙げての期待を背負っているのがケロロ小隊だ。知名度は半端なものではない。 特に子供たちの人気は圧倒的で、小隊グッズは次々と新作が発表されるほどなのだよ。我が愚弟なが ら、ギロロの知名度や人気も決して悪いものではない。本星の実家宛てにも、幼年組からの手紙が届く くらいだからな」 夏美「（感心して）へぇ・・・（ギロロを見詰め）凄いんだ、アンタって」 ギロロ「（夏美を見詰め返し、赤面して）ま、まあ、その、特に大したものではない・・・」 ガルル「ではもうひとつ質問。夏美くんは、ケロンに於ける自分の知名度がどれほどかご存知か？」 夏美「（思わずガルルを見て）え？ あたし？ あたしの知名度？」 ガルル「そうだ。今までの情報からで構わない。判るかね？」 夏美「（腕組みをして）うーん・・・軍の上層部はよく知ってるでしょうケド・・・あとは・・・（眉を寄せて）前にクルル がマニアに売る写真を撮ってたから、それ関連かなぁ・・・」 ギロロ「あの写真か・・・」 夏美「（ハッ、として）ちょ！ ちょっと！ まさかギロロ、あの写真見たのっ!?」 ギロロ「（赤面して、大慌てで）い！ いや！ 見たというか渡されたというか・・・」 夏美「（カアッ、と真っ赤になり）やだもう！ 捨ててよそんな写真！」 ギロロ「捨て・・・（口籠もって）お、俺の手で、理由はどうあれ夏美が写ってる写真を捨てることは出来ん。あと で渡す・・・そ、それでいいか？」 夏美「いいケド・・・（口籠もって）ギロロずっと持ってたんだ。恥ずかしいなぁ・・・」 ギロロ「あ・・・いやその・・・すまん・・・」 秋「（パンパン、と２回手を叩き）はいはいふたりとも、ガルちゃんのお話の途中でしょ。惚気だか夫婦喧嘩だか 判らない遣り取りは後にしなさい、ね？」 ギロロ「・・・そうだったな。重ね重ねすまない」 夏美「ごめんなさい、話を折っちゃって」 フッ、と静かに微笑んで、ふたりを改めて見詰めるガルル。 再度カップを口にして、紅茶を一口含んでからテーブルに戻す。 ガルル「夏美くんの見識は粗方合っている。以前話した通り、ケロン軍『円卓』では夏美くんはペコポン最大の 脅威と位置付けられていて、軍全体での印象もさほど変わらない。一方、いわゆるマニア、あるいはコレ クターの間では、“ペコポン最終防衛ライン723”の人気が凄まじい。君も既にご存知だと思うが、写真や フィギュアなどでそのテの連中には大人気だ。しかもこれはケロン星のみならず、ガマ星雲各惑星や、 宇宙インターネットを通じて多くの銀河群でも知れ渡っている。更に・・・宇宙TVやイベンターコロニーから 発信される数々の番組でも、君のことは何度も取り上げられているだろう？ 実感がないとは思うが・・・ 君は宇宙で一番有名なペコポン人なのだよ、夏美くん」 夏美「（ふう、と息をつき）・・・ぜっんぜん実感がないわ・・・」 ガルル、再度腕組みをして、ギロロと夏美を交互に見る。 ガルル「さて・・・ここからが本題なのだが・・・」 ゴクリ、と同時に唾を飲み込むギロロと夏美。 秋も真剣な表情でガルルを見詰める。 ガルル「実は現在・・・ケロン星では空前の結婚ブームなのだよ」 ギロロ・夏美「「はあっ!?」」 素っ頓狂な声を同時に上げ、そのままの表情で固まるふたり。 ガルル「先ほど話したように、君たちふたりは個人個人で相当な知名度が存在していた。そこに降って湧いた 話が、３ヶ月前に挙げた結婚式だ。私やギロロの友人や知人が参列していたのはご存知だろうが、彼ら は本星に戻ってからも式の話題で持ち切りだったのだよ。誰もが賛辞を口にし、ヴァイパー戦艦駆逐に 至っては話す者皆が熱気を抱いてる。夏美くんの花嫁衣裳の素晴らしさ、式の荘厳さも常に語られ、そ れは軍全体はおろか、ケロン星全土に知れ渡るのにさほどの時間も要しなかった。更に・・・ふたりの話 題に追い撃ちを掛けたのが、宇宙インターネット上に存在する動画投稿サイトだ」 夏美「（訝し気に）動画？」 ガルル「そう、ペコポンにも同様のサイトがあるだろう。誰でも自作動画がアップロード出来る『ケロチューブ』や 『ケロケロ動画』などのサイトに、結婚式の直後にいくつかの動画が投稿された。君たちふたりの挙式の シーンや、ヴァイパー艦を撃破するシーンなどがね。瞬く間に天文学的なアクセスカウントを記録したそう だ。ケロン星での話題と同時にこの動画が広がり・・・今や幼年組の初年生ですら、君たち夫婦の話題 で盛り上がっているくらいなのだよ」 ギロロ「（怪訝そうに）一応聞いておくが・・・動画を投稿したのは・・・」 ガルル「無論、クルル曹長だ」 再度、ギロロと夏美の頭上に陰と縦線が降りる。 【イメージ映像】 ニンマリ、と凄まじく厭らしい笑顔のクルル。 「く〜っくっく・・・いやらしいやろぉ、奥さん」と、エコーが効いた台詞を口にする。 【映像終了】 はああああ・・・とまったく同時に溜め息を吐いて、ガックリと肩を落とすふたり。 ギロロ「（顔上部に縦線を浮かべ）俺たち・・・奴の手の上から逃れられんのか・・・」 夏美「（顔上部に縦線を浮かべ）何かもう・・・怒る気すら湧いてこないわ・・・」 ガルル「そしてこの現象が起こり始めてすぐに、ケロン星では結婚式を挙げる人々が急増したのだ」 落ち着いた表情を取り戻し、ガルルに視線を固定するギロロと夏美。 ガルル「ケロン人同志はもちろんだが、特に異星人間の組み合わせが増えた。データバンクによると、ケロン 星だけでもこの３ヶ月での結婚式件数が前年比で10倍、ガマ星雲各惑星トータルだと18倍、更に異星人 間に限っては何と35倍の伸びを示している。これらの人々が口にするのが・・・（ふたりを見て）『ギロロ伍 長と723の挙式に感動した』そして『勇気付けられた』という言葉の数々だ」 ギロロ「（夏美を見詰め）俺たちの・・・式に・・・」 夏美「（ギロロを見詰め）勇気付けられた・・・」 固唾を飲んで顔を合わせ、眼差しを絡ませるギロロと夏美。 向かい側で穏やかに目を細め、一度大きく頷く秋。 ガルル「そして今回、結婚式場を纏めるユニオンと関連企業からの話があってだな。式を挙げる人々や参列者 たちからの要望や依頼が無数に寄せられている“G66723ブランドグッズ”を商品化したい、とケロン軍本 部に要請があった。私が今日持参したのは、そこで挙がった企画を試作品として作ったものだ。君たち ふたりに実際に見てもらい・・・特に、こういった公的製品がなかった夏美くんに確認してもらいたかった のだよ。君たちふたりの許可が下りれば、すぐに生産に取り掛かるそうだ」 改めてガルルに目線を向けるふたり。真剣な表情。 ガルル「もし懸念を覚えたり、気にならない、もしくはやめてほしいのであれば言ってくれ給え。無理にとは言わ ない。意にそぐわぬことを通すのは、私としても不本意・・・」 夏美「（凛とした声で、しっかりと）あたしはＯＫよ、製品化。構わずやってちょうだい」 ギロロ「（驚いて）夏美？ いいのか？」 夏美「（ギロロを見詰め）ええ、構わないわ。ギロロはどう？」 ギロロ「俺はもともと小隊グッズなどが出ていたからな。俺も問題はない。しかし、こういったことを嫌がっていた 筈だろう？ 大丈夫なのか？」 夏美「今回は特別よ。だって・・・（頬を紅くして）アンタと一緒のグッズ、でしょ？」 途端、夏美に向いたまま、顔面真っ赤になって凝り固まるギロロ。 それを目の当たりにして、カアッ、と同様に顔を朱に染め上げていく夏美。 ニッ、と満足気に笑みを浮かべ、数回頷いてみせるガルル。 そして隣の秋と眼差しを絡め、ふたりでもう一度大きく頷く。 ガルル「（ギロロと夏美を見て）結構、それでは許可を頂けたということで本星に報告しておこう。売り上げの報 酬に関しては、いずれ交渉する形を執らせてもらう。何、悪いようにせん。私が責任をもって事に当たる つもりなのでな」 ギロロと夏美、冷静さを取り戻した表情をガルルに向けて、コクリ、と頭を上下に振る。 ガルル、テーブルのカップを手に取り、一口紅茶を啜ってから再び卓上に戻す。 ガルル「さて・・・ここで夏美くんにお願いがあるのだが？」 夏美「（きょとん、とした顔で）何かしら？」 ガルル「折角ペコポンに来たのだ。少しの時間、ギロロをお借りしたい」 ギロロ「（驚いて）はあッ？ 何だと？」 ガルル「実は先日、ケロロくんからメールをもらってね。何でもペコポンには『カラオケ』という“歌・戦士養成訓 練所”があるらしく、対抗すべく基地内に『カラオケくみこ』という施設を作ったので、是非ペコポンに来た 際には利用して頂きたい、とのことだった。本星に戻るまで時間もあるし、丁度いい機会なのでギロロの 唄声を久々に聴こうと思ってな」 ギロロ「（焦って）俺はいい！ 今は唄う気はない！」 ガルル「まあそう言うな。お前の唄う『宇宙軍艦ニッポリ』が聴きたいのだ」 ギロロ「（冷や汗を流して）・・・断る」 夏美「そんなコト言わないで、たまにはお兄さん孝行してらっしゃいよ。いっつもお世話になってるんだから。 （ガルルを見て）あたしは構いませんから、ごゆっくりなさって下さいね」 ギロロ「いや・・・孝行とかそういうのでは・・・（キッパリと）だが断る！」 ガルル「では夏美くんの許可ももらえたので、早速地下に行ってみるか」 ギロロ「（大声で）俺の意志はスルーかッ！」 ソファーから、ストッ、と床に降りて、ギロロに歩み寄るガルル。 そのまま彼の右腕を掴んで引っ張り、ガシッ！と首根っこに腕を回す。 抵抗しようとするギロロ。しかしガルルにガッシリと抱えられて身動ぎ出来ず。 ギロロ「（脚をバタつかせて）離せッ！ 離さんかガルルッ！」 ガルル「（夏美を見て）では夏美くん、旦那をお借りしますよ。正午までには返却しますので」 夏美「ＯＫよ。あ、そうだ。今日は折角だから、お昼も食べてってよ。里芋の煮っ転がしも作っておくから。時間 が大丈夫なら、だけど？」 ガルル「これはありがたい。では、お言葉に甘えるとしますか。（ギロロを見て）お前の唄を聴くついでに、俺との デュオを練習しておくか。『哀愁列車けろん２号』なら覚えているだろう？」 ギロロ「（白目を剥いて）だから俺の意見は無視かと聞いている！」 秋「（夏美を見て）ねぇ夏美、私もちょっとガルちゃんの歌、聴いてみたいんだけど、一緒に行ってもいいかし ら？ お昼を作れる時間には戻ってくるから」 夏美「いいわよ。気にしないで行ってきて」 ガルル「さて、行くとするか。（夏美を振り返って）そうそう、戻るまでにグッズの試作品をよく確認していてくれ 給え。意見があれば後ほど聞かせて頂きたい」 ギロロ「（怒声）だからそっちの俺の意見も語るに及ばずなのかッ！」 ガルル「お前のは後から聞く。今は、俺とカラオケだ。では行くぞ」 ガルルにズルズルと引き摺られ、脚を未だにバタバタさせているギロロ。 その後から追いて廊下に出て、ドアのところで一旦振り返ってウィンクをする秋。 それを優し気な微笑みで受け止め、ソファーに座って３人を見送る夏美。 訪れる静けさ。 夏美、３人が座っていた席を一通り眺め、ふうう、と長めの息を継ぐ。 夏美【Ｎ】「ケロン星でまさかそこまでの話になってるなんて思わなかったなぁ。ちょっと急な話がいろいろ出て きて驚いてるケド・・・ギロロとあたしの結婚に影響されて何組かのカップルが誕生してるって、何つー のかな、その・・・やっぱり嬉しいコトなのよね、これって！」 陽溜まりのような柔らかく温かな笑顔を、惜しみなく浮かべる夏美。 ★ 日向家・上空 日向家の屋根の10ｍほど上空に、浮かぶ影。 漆黒のソーサーに乗っている、コブラのようなシルエットの異星人。 それが日向家の屋根を睨んで、ニイヤァ、とひねた笑いで口を歪める。 To be continued... [after part] |
