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★ ヴァイパー超弩級宇宙戦艦（空中）
晴天の空に次元転移してくる、凄まじい物量の漆黒の戦艦。 それが上に凹んだ黒い渦の中心から、ゆっくりと斜めに登場している。 タンカーのような平たい躯体を横に３つ並べたような本体が、少しずつ先端から出てくる。 中央のフィギュアヘッド部には、超巨大なヴァイパーの顔が設置。 その口の部分が、何故かスピーカーのような形状になっている。 まだ全容は現わしていないが、転移された船体はゴテゴテと異様なフォルム。 無数に配置された砲門やミサイル射出口が、所狭しとひしめき合っている様子。 雷電と黒い雲を纏って、見る者に威圧感を与えている。 ★ ヴァイパー超弩級宇宙戦艦・艦橋 無駄に広い艦橋。数十席も設置されている座席。 星と見紛うばかりの数の計器類や、何百と並べられたモニターやサブモニター。 その真ん中の、豪華な革張りの座席に座り、踏ん反り返っているヘビ型異星人。 黒緑色の肌、全身のほとんどが機械化されている。目には分厚いゴーグル。 斜め上のメインパネルに映し出されているホテルの建屋を睨んでいる。 その一部がクローズアップされ、ホテルの上空にゆっくりと浮かび上がってくるふたつの影。 キュイン、とその影が画面に大写しになる。戦闘待機状態のギロロと夏美。 それを確認し、ニヤアッ、と厭らしい笑いをする。 手前にコンソールのマイクを掴み取り、更に顔を歪めて悪鬼の表情となる。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（上空） スパーク音を響かせ、未だに姿を現わし続ける宇宙戦艦。 その先端部、ヴァイパー顔の口の部分が、ピーィッ、とハウリング音を響かせる。 ヴァイパーＧＴＲ『（ハウリングに紛れて）あー、あー、マイクテス、マイクテス、本日は晴天ナリ、本日は晴天ナ リ・・・（咳払いをして）ガーラガラガラ！ 待たせたなテメェら！ オレ様は不死身で宇宙一の 蘇った超絶天才、ヴァイパー・グレイテスト・トラディッショナル・リヴェンジャー、略してヴァイ パーＧ！ Ｔ！ Ｒ！様だァ！ 今まで積もり積もった恨み辛み、纏めて返しにきてやったずェ！ そこの下にいるマヌケなケロン人どもも、ついでにあの世に逝かせてやっから楽しみに待って やがれェ！ ガーラガラガラ！ ガーラガラガラ！』 戦艦先端部のスピーカーから、大音量で轟くヴァイパーＧＴＲの声。 ホテルの上空300ほどの高さに、飛行ユニットの羽根のみで浮かぶギロロと夏美。 戦艦からの放送を無表情で聞いてから、はああああ・・・と盛大な溜め息を同時に漏らす。 ギロロ「（物凄く呆れた様子で）馬鹿さ加減に磨きが掛かってるな・・・」 夏美「（物凄く呆れた様子で）何か・・・相手すんのもヤになってきたわ・・・」 ギロロ「とは言っても、終わらせねばならんからな・・・（夏美を見詰めて）行くか？」 夏美「（ギロロを見詰め返し）オッケー」 夏美、首許のスカルマークスウィッチを、カチ、と一度押す。 ピピピピピ、とダイオードが点滅。スウィッチの色が緑に変化する。 ナビ『・・・起動・・・イージスシステム、オールグリーン・・・』 夏美「久し振りね、ナビ。元気そうな声で安心したわ」 ナビ『私は常に万全だ。気に掛けるまでもない』 ギロロ「（ニッ、と笑い）俺が判るか？ ナビ」 ナビ『（少しの沈黙の後）・・・その声・・・マスターか？』 ギロロ「ああ、そうだ―――まさかこうして会話する日が来ようとは思わなかったがな」 ナビ『私もだ。本当に奇妙な感じだな』 ギロロ「（真剣な表情で）最終迎撃砲を起動させる。全ユニットを立ち上げろ」 ナビ『（ピピッ、とアラーム音の後に）了解・・・召喚スペル、詠唱せよ』 夏美とギロロ、向かい合って見詰め合う。 ギロロの右手と夏美の左手が固く結ばれ、ギュッ、と強く握り締め合う。 そしてふたりが、空いている方の腕を、バッ！と前方に振り抜き、そちらに顔を向ける。 眉を寄せ、キリッ、と引き締めた視線を前方空間に固定する。 ギロロ・夏美「「詠唱、開始！」」 途端。 ふたりの前方、約50メートルほど先の空間に縦に白い光が走り、裂けるような亀裂を作る。 キュイイイイイイィィン・・・と高周波の音が、周囲の宙に撒き散らされ始める。 夏美の首許のナビ、ダイオードの点滅を加速させる。 片方の腕を真っ直ぐにして、掌を翳して光を見詰めるギロロと夏美。 ギロロ「（凛とした声で）地の理と星の断罪の力を以てしてッ！ 眼前の敵に鉄槌を下しッ！ 完全殲滅を執り 行うッ！」 夏美「（凛とした声で）破滅の章第五十七、究極の奥義を今ここに与えんことを願う！ 我らが言霊を聞き、導 きに従いて出でよっ！」 ギロロ「我が名は、ギロロ！」 夏美「我が名は、夏美！」 ギロロ・夏美「「召喚!!! “グランド＝クロス”!!!」」 直後。 バシュウウッ！と何かが弾けるような音と共に、縦の光の上部横に別の光が走る。 その全景は、白い光で造られた巨大な十字架。 光の十字架に蒼白い放電が纏わり付き、バババババ・・・と激しいスパークを放つ。 段々と十字架が太くなり始め、やがて直径が５メートルほどに変化する。 その途端、パアァァァッ！と一気に光が四散して消え、中から別な十字架が登場。 縦長手の軸が全長50メートルほど、横の軸が30メートルほど。 軸の断面形状は八角形、直径が３メートルほどの太さ。 白地に赤褐色と濃桃色がラインを成し、黒灰色で“GRAND-CROSS G66723”と表記。 十字架の交差する部分の背面には、片翼が50メートルを超える飛行ユニットの羽根が、全８枚。 他にも随所に設けられた軌道補正ノズルで、安定して宙に浮かんでいる。 本体のあちこちに赤色ダイオードの光。ゴンゴンゴン・・・という重厚な起動音。 ギロロ・夏美「「目標！ 前方ヴァイパー戦艦！ 黒式システム発動ッ!!!」」 ゴウン！と一際大きな稼動音を放ち、十字架が軌道補正ノズルで転回を始める。 巨大な飛行ユニットの羽根を上にして、下に伸びた長手の縦軸が前方に迫り上がり始める。 横軸を中心に縦方向に回転し、地面と水平位置を通り越し、仰角30度付近に達する。 再び、ゴウン・・・と音を発して、十字架の下部、長手縦軸を戦艦に向けて停止。 前方に向けられた軸の面には、深いすり鉢状のビーム射出口が大きく開いている。 横軸よりやや後部の縦軸表面が、ガコン！と音を立てて上側に開く。 その中から、コクピットのような複座型席が迫り上がる。 前部座席は小さく、後部座席は大きい。席を取り囲むようにコンソールが配置。 一連の動きを終えた後、すべての準備稼動状態を一旦停止させる。 確認後、翳していた手を下ろし、再度見詰め合うギロロと夏美。 ギロロ「まずは夏美がセッティングをやってくれ。ナビの指示に従ってな。その間、俺は奴の攻撃を防ぐ。途中 からは、俺と交代だ・・・（声に力を込め）最後はふたりで決めるぞ」 夏美「（頷いて、笑顔で）うん、一緒に決めよっ・・・そして結婚式の続き、ねっ！」 繋いでいた互いの手を離し、スッ、と掌を向けて翳し合う。 一瞬、掌を後ろに引いてから、パァン！とハイタッチするギロロと夏美。 掌を合わせたまま、ニコッ、と笑みを交わす。 ギロロ「（戦艦を睨んで）行くぞッ！ 夏美ッ！」 夏美「（キッ、と目線を投げて）オッケー！ ギロロっ！」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 茫然と下から上空の状況を眺める、クルルとモア以外の参列者一同。 ガルル、傍らのクルルに顔を向ける。 ガルル「（重い声色で）あれが、ふたりへの『結婚祝い』なのか？」 クルル「（ニッ、と笑って）その通りだぜぇ。ま、ちっとばっかカサ張って、持ち歩きにゃ不便ってのが“玉にキズ” だけどよぉ」 愉快そうに、短く口許で笑うクルル。彼の後ろで笑顔で頷くモア。 クルル「（神妙な声で）・・・『最終迎撃型黙示録級爆縮波動砲：グランド＝クロス』・・・先輩と日向夏美、ふたり の生体認証と声紋認証でしか召喚、発動出来ねぇ兵器でな、どちらかひとりでは呼び出せねぇし使え ねぇようになってる。ありゃあな、モアたちアンゴル族の使う究極奥義“星の断罪”の中でも、更にディー プな奥義“黒式”を再現する為に造ったヤツだ。もっともよ、あのふたりはアンゴル族じゃねぇから、完全 な再現は無理。第一“断罪”は、アンゴル族の能力とルシファー・スピアが連携して初めて発動するもん だからなぁ。だがよ、どうせ造るんならハンパねぇ破壊力の方が面白ぇに決まってんだろ？ んで、モア の能力とスピアの構造、“断罪”時の物理的現象を総合して解析して、奥義発動状態に極めて近い攻撃 が出来るようにしたんだぜぇ」 モア「（明るい声で）つまり、あの移動砲台はルシファー・スピアの代わりって訳なんですよ。ただし、私の使う 『黙示録撃』を100％使えるんじゃなくって、奥義のひとつ“破滅の章・第五十七”のみを再現出来るんです けどね」 ケロロ「（驚愕して）そ、そんじゃアレって！ 擬似ペコポンを土塊にした、あの・・・」 クルル「ビンゴ。内側への爆縮崩壊、だぜぇ。使いようによっちゃあ、アレだけで惑星ひとつ潰せる。ま、あのふ たりがそんなことすっとは思えねぇけどよ。あとオマケによ、俺なりのオプション効果を付けといてやった。 その効果も、最後まで見てのお楽しみ、ってヤツだ」 ガルル「（ふう、と息をつき）確かにあのふたりなら、使い道も違わんだろう。しかし・・・この上なく強烈な“結婚 祝い”だな、クルル」 ガルルを見て、ニッ、と不敵な笑みを浮かべるクルル。 クルル「日頃から言ってんじゃねぇか。俺の作る兵器は、いつだって侵略の為の兵器だぜぇ。く〜っくっくっく・・・ （モアを振り返り）んじゃ、次の仕事に取り掛かっか。アレ、やっとけ」 モア「了解ですっ！ （ポケットから白いリモコンを取り出し）ぽちっとぉ！」 リモコン中央のボタンを、満面の笑みで、ピッ、と押すモア。 すると突然、ホテルの屋上から、キラッ、といくつかの点が光って地上200ほどに上昇する。 クルルの顔を模った黄色い筒状のユニット。全４体。 それはふたつずつ左右に分かれ、その距離を500ほどに広げる。 途端、バリバリバリッ！とオレンジ色の電撃がユニット同志を連絡する。 左右に分かれたユニットの内、ひとつずつがその空中に留まり、別のひとつずつが移動。 動き出したユニットは、凄まじい勢いで宙を一気に走り、電撃の枠を広げていく。 やがて４つのユニットは、広大な絨毯状の電磁バリアを空中に形成して停止する。 その範囲、ホテルの位置する丘全体から箱庭、庭園、丘周辺の相当域をカヴァー。 ただただ、茫然とその様を見上げている参列者たち。 クルル「（満足気に笑い）先輩たちが闘ってる間、いろんなゴミが落ちてくっかも知んねぇからなぁ。鬱陶しいか ら“傘”差しといたぜぇ。（再度モアを見上げ）さて、行くか」 モア「（頷いて）はい」 その場を離れ、つかつか、とベンチの端のトロロに近付くふたり。 クルルは自分の席に置いておいたノートパソコンを持って歩み寄っていく。 そして、ドカッ、とトロロのすぐ隣に腰を下ろして、上空の様子を見上げるクルル。 思い切り眉を顰めて、物凄く嫌そうな表情でクルルを睨むトロロ。 クルル、それも意に介さず、パソコンを開けて起動させて腕組みをする。 トロロ「（苛立ったように）な・・・何やってんだヨ・・・」 クルル「おめぇには関係ねぇよ。（画面を暫く見て）ふーん・・・奴さん、今回は10ペタフロップスまで上げてきや がったか・・・容量は300エクサ、っつーとこか・・・ま、楽勝だな。（キーボードを操作しながら）おいクソガ キ、邪魔だからゲームの続きは部屋に戻ってやれや」 トロロ「だからゲームじゃないって言ってんジャン！ 何なんだよさっきから！」 クルル「（画面を見たまま）システム監視もロクに出来ねぇオコサマはスッ込んでろ、っつーこった。俺は今から あのヘビ野郎の戦艦のシステムを堕とす。また余計なことして邪魔しやがったらタダじゃ済まねぇぞ」 トロロ「（赤くなって怒り）ボクがいつ邪魔したヨッ！ いっつもいっつもバカにしてッ！ （フン、と鼻を鳴らし）何 だい、300エクサくらいだったらボクだったら５分でクラック出来るもんネッ！」 クルル「５分？ 長ぇな。俺なら３分だ」 トロロ「（激怒）ムッキーッ!!! 頭にキタッ!!!」 クルル「（トロロを見て）だったら、どっちが早くあの戦艦をクラック出来るか勝負すっか？」 トロロ「いいヨッ！ 受けて立つヨッ！ 吠え面かかせてやるッ！」 クルル「（ニッ、と笑い、モアを見て）モア、時間計っとけ。300エクサのタイムトライアルだ」 モア「はいっ。（腕時計のストップウォッチを稼動させ）では、よーい・・・スタートぉ！」 途端。 動体視力で捕捉出来ないほどの猛烈なスピードで、キーボードを叩き出すクルルとトロロ。 目は画面に固定されたまま、タタタタタタタタ・・・とリズミカルな音だけが響く。 歯を食い縛って、余裕のない表情のトロロ。こめかみに汗が浮かぶ。 対して、ゆとりのある顔で小さな鼻歌混じりに進めるクルル。楽しそうな表情。 ★ ヴァイパー超弩級宇宙戦艦・艦橋 ニヤニヤ、とひねた笑いをへばり付かせ、座席に踏ん反り返るヴァイパーＧＴＲ。 メインパネルに大写しになった十字架型の兵器を睨んで、フン、と鼻で嘲笑う。 ヴァイパーＧＴＲ「ケッ、無駄だ無駄だ。どんな武器だろーが兵器だろーが、この超弩級宇宙戦艦が完全に転 移し終わったら、ヴァイパークラッシュバスターで一気に滅ぼしてやっからよォ」 手前のモニターにカウントアップしている数字と“solidness 45%”の文字。 それを見て、僅かに眉を顰めるヴァイパーＧＴＲ。 ヴァイパーＧＴＲ「（怪訝そうに）まーだ45％しか転移終わってねぇのか。ちっとデカく造り過ぎちまったかな・・・ ま、こんなこともあろーかと！ 対策は打ってきたがな」 ニヤアッ、と歪んだ笑いを浮かべるヴァイパーＧＴＲ。 コンソールのキーボードを少し操作し、エンターキーを、パシッ、と打つ。 ヴァイパーＧＴＲ「（声を張り上げ）行けェ！ オレ様の分身どもォ！」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（上空） 未だに全体を転移し終わってなさそうなヴァイパー戦艦。 その先端、大きなヴァイパーの顔の両頬の部分が、パカ、と開く。 そして戦艦内部から、わらわらわら・・・と雲霞の如き数の人型ロボットが宙に出てくる。 ヴァイパーそっくりに作られ、飛行ユニットと武器を装備したコピーロボット。 それが瞬く間に中空を埋め尽くし、イナゴの大群の様相を呈してくる。 対峙するギロロ、呆れたような表情になり、ふう、と溜め息を漏らす。 ギロロ「ここまで来ると、馬鹿さ加減よりも自己顕示欲旺盛、といったところか・・・」 チラ、と斜め下後方で、グランド＝クロスの座席に座っている夏美を見るギロロ。 真剣な眼差しでコンソールを操作している彼女を見詰め、フッ、と微笑む。 ギロロ「（低い声で）夏美には掠り傷すら付けさせん・・・」 正面に向き直り、ギンッ！と凄まじい眼光でロボットの大群を睨むギロロ。 そして、ジャキジャキジャキィ！と何本もの武器を手元に転送する。 ギロロ「（カッ！と目を見開き）行くぞッ！」 ギロロ、飛行ユニットのブースターに点火し、ロボットの群れに急接近する。 ヴァイパーロボ群、ギロロの姿を捕捉し、それぞれが銃を構える。 次の瞬間、ゴッ！ ボゴッ！と頭部を撃ち抜かれ、ドォン！と爆破されるロボットたち。 次々に襲い掛かってくるヴァイパーロボを、銃とランチャーを巧みに操って倒すギロロ。 ロボが照準を定めるより早く、縦横無尽に宙を飛び回り、撃破を続ける。 時には鋭角的に、時には円の動きをもって一発の撃ち漏らしもなく戦うギロロ。 あっという間に、その空域一帯が爆発の光の朱に染まっていく。 それをグランド＝クロスのコクピットから見上げ、柔らかい笑みを浮かべる夏美。 夏美「（笑顔で）さっすが、あたしの旦那は強いわね。惚れ惚れするわ」 ナビ『惚気ている最中で済まんが、次の操作を頼む』 夏美「（頬を染め）判ってるわよ・・・エネルギー注入バルブ、開けるわね」 ナビ『一気には開くなよ。10秒で全開まで持っていくように』 夏美「オッケー・・・」 ギュウウウウン・・・と、十字架の内部から何かが蓄積されていくような音。 長手の軸の側面を、虹色の光が幾筋も走って砲塔の先端に吸い込まれていく。 すり鉢状のビーム射出口の一番奥が、純白の光を放ち始める。 ナビ『バルブ全開放確認、続いてディメンション・フィールドを展開する。コンソール右、縦に並んだ白い４つの キーをすべて押せ』 夏美「了解っ！」 ナビの指示通りに、プラスチックカヴァーを開けて、タタタタンッ！と白いキーを押す夏美。 直後、十字架の横軸の端面が、グォン、と外側に開く。 中には白い筒状のユニットが左右４基ずつ、シュボッ！と推進ノズルに点火して宙に出る。 ユニットは前方に向かって４基、猛スピードで飛行を開始。 後方に浮かんだ４基は、グランド＝クロスを中心に大きな正方形を宙に成す。 やがてそれぞれが、戦闘空域やヴァイパー戦艦付近を遥かに超えてすべて囲んだ場所に停止。 ８基を線で結ぶと、とんでもなく巨大な直方体の形となった位置で浮かんでいる。 ナビ『フィールドユニット、配置完了。これで心置きなく撃てるな。では次の操作の後、マスターに引き継ぐとし よう』 夏美「（ニコッ、と笑い）判ったわ」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 式場内で、上空の様子をただただ見上げて固唾を飲んでいる参列者たち。 ギロロがヴァイパーロボを撃墜する度に、おおっ、と声を上げる。 その反応を、チラ、と見遣り、満足気に頷いて再度パソコンに目を落とすクルル。 クルル「（ククッ、と口許で笑い）人気モンだねぇ、“戦場の赤い悪魔”さんよぉ」 隣でトロロ、ニヤッ、と笑って顔を上げてクルルを見る。 トロロ「（自信たっぷりに）ヘッヘーン！ 第３階層突破だもんネーッ！」 クルル「ふーん、へぇー、ほー、そーかね・・・。（パソコンから、ピリリッ、と音）おっ、第４階層突破したか。（トロ ロを見て）んで？ 何を突破したってボクぅ？」 見る見る激怒の形相へと変わっていき、頭から湯気を勢い良く出すトロロ。 これ以上ないほどの怒りを顔に表し、バッ、とパソコンに向き直る。 トロロ「（大声で）負けてたまるかヨォッ!!!」 再び凄まじい勢いでキーボードを叩き始めるトロロとクルル。 ★ ヴァイパー超弩級宇宙戦艦・艦橋 芳しくない戦況に、苦虫を潰したように歯軋りしてメインパネルを見上げるヴァイパーＧＴＲ。 手前のモニターには“solidness 70%”の文字が表示されている。 ヴァイパーＧＴＲ「（舌打ちをして）ったくよォ、転移が遅すぎるぬァ。先頭の砲台を開けるか・・・いやいや、バス ターの負荷に耐えらんなくても洒落になんねぇ。それにあの野郎どものことだ、何を仕込んでや がんだか判らねぇからよ。慎重に事を進めねぇとな」 ヴァイパーＧＴＲ、腕組みをして眉を顰めて再びパネルを見上げる。 コンソール横の小さなサブモニターの画面が、一瞬暗転したことに気が付かない。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（上空） グランド＝クロスのコクピットで、いくつかのダイアルを操作している夏美。 キンキンキン・・・という軽めの金属音が、長手軸前方から聞こえてくる。 ナビ『装填準備完了、これより装填作業及び発射準備へと移行する。マスターと交代せよ、夏美』 夏美「オッケー。（上空を見上げ、大声で）ギロロっ！ 交代よっ！」 ヴァイパーコピーロボを撃墜中のギロロ、夏美の声に振り向き、すぐさま身体を返す。 ギュウン！と飛行ユニットを加速して戻って来るギロロ。 座席から立ち上がって即座に宙に飛び出し、羽根で浮かぶ夏美。 スッ、と右掌を掲げて接近するギロロ。笑顔で右掌を差し上げる夏美。 そして、パーン！と鮮やかな音を響かせてハイタッチするふたり。 ギロロ「（ニッ、と笑い）無茶はするなよッ！ 夏美ッ！」 夏美「（ニコッ、と笑い）任せてっ！ ギロロっ！」 途端、アフターバーナーに点火して一気にロボの群れに飛び込んでいく夏美。 ギロロは軽やかな動作で、先ほど夏美が座っていた座席の前部、小さい席の方に座る。 コンソールにざっと目線を走らせ、キーボードを叩き始める。 夏美に急速接近する、何十体のヴァイパーコピーロボット。 即座にツインテール髪に装備してあるビームサーベルを両方抜き、両の手に握る夏美。 次々に銃を構えるロボ、だが次の瞬間には横に両断され、あるいは縦に分断される。 ひとつの爆発が連鎖するように、宙のコピーロボが見る見る爆発して消滅していく。 ギロロの動きをなぞるような華麗な動きで、ロボの間を翔け抜ける夏美。 100体近いロボが、巨大な塊のように夏美に迫り来る。 夏美の真横、両側に５基ずつ出現するファンネル。間髪入れずそれらにビームを浴びせる。 ボゴン！ グオン！と破裂し始めるロボたち。残ったそれが尚も勢いは止めずに迫る。 ギュイン！と全ファンネルが黒い塊に飛び込んでいく。ガガガガッ！と炸裂するロボの群れ。 そして夏美、両方のビームサーベルを格納し、再び髪の位置に装着する。 直後、両腕を前方に突き出し、襲い掛かるヴァイパーロボの塊に向ける。 ナビ『プロトンレーザー、マックスモード』 突き出した夏美の両腕、手首の付近のユニットから、バシュウウウッ！とレーザーが射出。 ピンク色のそれが一気に真っ直ぐに伸びていき、延長線上のロボを砕く。 途端、両腕を前方に向けたままで、グルン、と前に円を描くように回す夏美。 前方空中にひしめくヴァイパーロボ、次々とレーザーの餌食になる。 ゴ！ ボゴッ！ グバッ！と片っ端から破壊され、爆発が瞬時に戦闘空域に満ちる。 夏美、そのまま斜め上に飛び込んでいく。爆炎に紛れて襲い掛かるロボの残兵。 だがそれも、夏美の操るレーザーに貫かれ、斬られ、粉砕される。 まったく無駄のない凄まじい攻撃が、瞬く間にヴァイパーの機械部隊を消滅に追い込む。 それをグランド＝クロスのコクピットから見上げて、不敵な笑みを浮かべるギロロ。 ギロロ「（嬉しそうに）流石は俺の嫁・・・とことん惚れ直させてくれる」 手前のコンソールのモニターを見遣り、一度頷くギロロ。 ギロロ「（呟くように）よし・・・そろそろだ」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 式場内は、水を打ったように、しーん・・・と静まり返っている。 ただクルルとトロロの叩くキーボードの音だけが、規則正しく響く。 上空を見上げる参列者、特にケロン人参列者が言葉を失い、夏美の戦いを見詰める。 ケロロ「（ガルルに寄り、小声で）・・・もしかして、夏美殿の戦いを見るのは初めての方が多いんでありましょう か？ 釘付けでありますよ皆さん・・・」 ガルル「（小声で）確かに、ミッション・レポートは『円卓』メンバーしか知らない筈。これはしかし・・・彼らには刺 激が強過ぎましたかな？」 ケロロ「（ニッ、と笑い）いえ・・・最高の宣伝効果でありますよ」 ガルル「（頷き）私もこの事態は想定しておりませんでした。これで軍に戻れば・・・嫌が応にも話題は広まるで しょうな。いよいよ“流れ”が動き出しますよ、ケロロ隊長」 ケロロ「我輩も気を引き締めるでありますよ、ガルル隊長」 顔を合わせて、不敵に笑顔を交すケロロとガルル。 ★ ヴァイパー超弩級宇宙戦艦・艦橋 未だに実体化を続けている超弩級宇宙戦艦、漸く全貌を現しつつある。 艦橋の中央コンソール、モニターに“solidness 98%”と表示されている。 それを目にして、ニイイイイヤァァァ・・・と悪鬼の笑みを表すヴァイパーＧＴＲ。 ヴァイパーＧＴＲ「キタぜキタぜェ・・・いよいよあのクソ野郎どもを皆殺しに出来るァ・・・さあて、バスター準備に 入るか・・・ガーラガラガラ！」 途端。 プシュウウウ・・・ブン・・・と、艦橋内全モニターとメインパネルが暗転。 それっきり真っ黒の画面で、何も表示されない。 ヴァイパーＧＴＲ「（抜けた顔で）アレ？」 コンソールのボタンやキーボードを操作するも、何の反応もない。 これ以上ないほど訝し気な表情になるヴァイパーＧＴＲ。 直後。 ピリリリリリリリーッ！と、猛烈な音量のアラームが一斉に艦橋内に轟く。 そして全部のモニターとパネルに電源が入り、画面が真っ白になる。 次々と浮かび上がってくる“クルルズ＝ラボ”のロゴと、ケロン軍の星型の紋章。 それらが競うように連鎖し、ありとあらゆる画面を埋め尽くしていく。 ヴァイパーＧＴＲ「（絶叫）何じゃコリャアァァァァァァッ!!!」 呆然と画面を凝視し、立ち尽くすヴァイパーＧＴＲ。 やがて、ハッ、と何かを思い出し、顔面蒼白で脂汗を垂れ流して震え出す。 ヴァイパーＧＴＲ「（震えた声で）こ・・・こりゃあ・・・あの辺境惑星でハッキングしてきた・・・あのとんでもなく嫌な ヤツの・・・（顔を引き攣らせ）まさかッ！ 300エクサのホストコンピュータをクラックしやがってブ チ壊したってのかよォ！」 ガクガクガク・・・と膝が震えて、腰が砕けそうになるヴァイパーＧＴＲ。 ヴァイパーＧＴＲ「（泣きそうな声で）・・・ちょっと待ってみようか・・・もしかしてオレ様・・・ヤヴァくね？」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 眼前のパソコンの画面に表示された“Cracking Complete”の文字を見詰めるクルル。 ニッ、と笑顔になり、満足気に頷いてから、傍らのモアを見詰める。 腕時計のストップウォッチを停め、クルルに視線を返すモア。 モア「（微笑んで）２分58秒966、新記録です！」 クルル「（再度頷き）ザッとこんなもんかねぇ。く〜っくっくっく・・・」 そしてクルル、誇らし気にモアに向けて、拳の右手親指を立てて突き出す。 モア、満面の笑みでサムズアップを返す。 一方のトロロ、パソコン画面を見たまま動かず。やがて、ワナワナと肩が震え出す。 ポロッ、と大粒の涙が手の甲に落ち、それが何粒も手やキーボードに落下し始める。 トロロ「（泣きじゃくりながら）・・・アリエナイ・・・またボクが負けたなんてアリエナイ・・・何でいっつもいっつも・・・ Ａ級のボクがここまでヤな負け方しなきゃなんないんだヨォ・・・」 そっ、とトロロに近寄り、彼の顔を覗き込むように屈むモア。 モア「（優しい声で）メソメソしてても始まりませんよ。私もクルルさんに教わりました。笑顔でいましょうよ。そうす れば、きっとイイこともありますよ。てゆうかぁ、心機一転？」 クルル「・・・いや、俺はそこまで言ったつもりはねぇんだが・・・ま、いいか」 トロロ、しゃくり上げたまま顔を上げてモアに目線を向ける。 クルルはノートパソコンを閉じ、胡坐をかいて上空の様子を見上げる。 クルル「（上を見たまま）おいガキ、悔しいか？ 悔しかったらいつでも相手ンなってやる。おめぇみてぇな歯応 えのあるガキは嫌いじゃねぇからな。ペコポンとケロンの間でも構わねぇ、仕掛けたけりゃ仕掛けてきや がれ。迎え撃ってやるからよぉ・・・ま、今は上を見ておけや。面白ぇショウが始まるぜぇ」 暫く茫然として、クルルの横顔を見詰めているトロロ。 それから言われた通り、上空での戦いに視線を投げ、そのまま居住まいを正す。 ふたりの様子を見定めてから、微笑んで上空を見上げるモア。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（上空） どうやら、完全に転移を終えた様子のヴァイパー超弩級宇宙戦艦。 口を開けていた異空間も閉じ、圧倒的な威圧感と異様な風貌を曝け出している。 今まで見たどの宇宙船よりも長く巨大。だが、浮かんでいるだけで動きがない。 戦艦手前の空域に、僅かに残ったヴァイパーコピーロボを見上げる夏美。 それらも動きを停止させ、まったく攻撃する様子がないことに気付く。 ギロロ「（大声で）夏美ッ！ 発射態勢に入る！ 戻って来い！」 ギロロの声に振り向き、鮮やかに宙でトンボを切って反転する夏美。 滑らかな曲線を描いて、十字架のコクピット部に戻り、後部座席に身体を入れる。 夏美が座った脚の間にギロロが座るような体勢となっている操縦部。 夏美「（訝し気に）コピーロボットが止まったみたいね。戦艦も動かないわ。何かあったのかしら？」 ギロロ「（レバーを操作したまま）恐らく、クルルの奴だろうな。戦艦のシステムをクラックしたに違いない・・・俺 たちを助けたというより、自分で楽しんでるだけだろうが、な」 夏美「まあ何にせよ、いろいろと準備してたみたいだケドね。（下の電磁バリアを見て）今回はモアちゃんも大活 躍だし」 ギロロ「（正面を凝視し、フッ、と笑い）・・・いよいよだ。あの野郎に引導を渡す」 夏美「（ギロロと同じ方向を見て）オッケー、いくわよっ！」 夏美、右横の操作盤のボタンをいくつか押す。そしてダイアルに手を掛ける。 ウィィィィン・・・とギロロの手前のコンソール機器が、すべて起動する。 夏美「（眉を寄せ）黒式エネルギー、充填開始！」 ダイアルをゆっくりと回していく夏美。 ギロロの目の前にある大きなレベルゲージに数字が浮かび上がり、カウントアップしていく。 それを見詰め、コンソールのいくつかのメーターを確認するギロロ。 ギロロ「エネルギー充填、30％。安全弁開放、クーラントチューブに冷却材投与」 ギロロ、パネル横の透明なボタンを３つ、立て続けに押す。 十字架の長手軸の側面に、細長い蒼白い光が数本、スゥーッ、と走って帯を成す。 戦艦に向けたすり鉢状の射出口の奥が、ブウゥゥゥゥゥ・・・と重低音を放つ。 同時に奥底に純白の光が次々に溢れ、射出口すぐ手前の空中に白い点が無数現れる。 それらが連続して中に吸い込まれ、キュルキュルキュル・・・という音を高めていく。 ギロロ「エネルギー充填、60％！ 各ユニット状況を確認しろ！」 夏美「（左右のパネルを目視して）異状なし！」 ギロロ「了解！ 発射態勢続行！」 射出口内の光、ますます大きくなって膨らんでいく。 ギロロ「エネルギー充填、80％！ ターゲットスコープ、オープン！ 対ショック、対閃光防御装備！」 左横の赤い大きなボタンのカヴァーを開け、グッ、と押すギロロ。 途端、コンソール中央が左右に開き、中から銃の引き鉄を備えたユニットが迫り出す。 同時にユニット前方に、大きなオレンジ色の四角いスコープ板が登場。 ギロロと夏美、カシュン、と自分のアイシールドを装備する。サングラス並みの濃い色。 ふたりの腰の辺りから、自動的にベルトが１本ずつ突出して、身体を座席に固定させる。 更に座席が少し移動し、ふたりが密着するような状態へと移行して停止。 ギロロ「エネルギー充填！ 100％！」 レベルゲージの画面が赤く染まり、点滅を始める。 ビーム射出口の光が、ギュルルルルル・・・と圧縮されるように一気に丸くなる。 夏美、ギロロに覆い被さるように両腕を前に出す。 同調した動きで、引き鉄に両手を置いて握るギロロ。その手の上に夏美の両手が重なる。 ふたりの指が引き鉄に絡み、その視線は真剣そのものでスコープを覗く。 スコープ板を通して見える、沈黙しているヴァイパー超弩級宇宙戦艦。 ギロロ「（優しい声で）俺に呼吸を合わせろ、夏美」 夏美「（艶っぽい声で）うん・・・いこう、ギロロ」 コンソール周辺、全ユニットの高周波音が一気に高まる。 ギロロ「エネルギー充填ッ！ 120％ッ！」 スコープ板の四隅から赤い光の点が中心に向けて動き、一点に集まらんとする。 ふたりの呼吸が、同時に一瞬止む。 ４つの光の点が、戦艦を向こうに見たターゲットスコープの真ん中で重なる。 ギロロ・夏美「「発射ッ!!!」」 グッ！と見事なタイミングで、同時に指に力を込めるギロロと夏美。 クワアアアアッッ!!!と、射出口から大きく膨れ上がる純白の光。 【サイレント】 丸く大きな光球が一瞬渦を巻き、猛烈な勢いで射出される。 それは恐ろしく太いビームへと変化し、周囲の空間に光の輪の余韻を残して伸びる。 凄まじい反動が十字架に掛かり、背凭れから引き離されそうになる夏美。 空かさずギロロを抱きかかえ、ギュッ、と腕に力を込める。 横軸の後方に並んでいる補正ノズルが点火、噴射を開始する。 未だに放出されるビームの反動慣性とバランスがとれ、安定するグランド＝クロス。 純白のビーム、ドリルのような渦状になり、猛スピードで戦闘空域を劈く。 延長線上にあったヴァイパーコピーロボ、光に飲み込まれる。 次の瞬間、ロボット群は墨汁のように溶けて白色の渦に巻き込まれて消滅。 尚も宙を突き進むビーム。一気にヴァイパー超弩級宇宙戦艦のフィギュアヘッドに衝突。 途端。 まるでハンマーで殴られたように、内側に大きく凹む戦艦。 内包する力を解放し、瞬時に真っ白な光の球体と幾重ものリングを生み出すビーム。 それは見る見る戦艦全体を飲み込んでいき、とうとう覆い尽くしてしまう。 凄まじく巨大な純白の光の球の中に、ヴァイパー超弩級宇宙戦艦。 全体の輪郭がゆっくりと溶け始め、随所が次々と内側に陥没していく。 すると、遠方に浮かんでいた８基のフィールドユニットが動き出し、急接近。 光の球体を取り囲む位置に停止、即座に電磁バリアを発生させて包み込む。 直後。 まるでケーキでも押し潰すかのように、柔らかく圧縮されていく戦艦。 フォルムなどないかのように曲がり、うねり、砕け、溶け落ちる。 とんでもない威圧感があった戦艦は段々と小さくなり、光球の中心部に向け質量を潰していく。 何かに握られるように、見る見る小さく丸まっていくヴァイパー超弩級宇宙戦艦。 やがて、バスケットボールほどの大きさまで圧壊されてしまう。 【サイレント終了】 突然。 キュウウゥゥゥゥン！という高周波音を放って、純白の球体が瞬時に縮まる。 中心部にある金属の塊に向かってその範囲を狭め、小さく変化していく。 そして、パッキィィィィィン・・・という軽やかな音を残し、消滅する。 その空間にあった金属塊も、白い光が消えると同時に跡形もなくなる。 沈黙。 沈黙。 ヒュウ・・・と一陣の風が戦闘空域を駆け抜ける。 グランド＝クロスのコクピットからそれを見上げるギロロと夏美。 カシュッ、とアイシールドを外し、夏美はギロロを抱き締めたまま彼を見詰める。 ギロロ、首を真後ろに反らし、視線を上げて夏美と眼差しを絡ませる。 夏美「（微笑んで）終わったね、ギロロ・・・」 ギロロ「（笑みを浮かべ）ああ・・・帰るか・・・」 夏美「うん・・・帰ろっ・・・」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 上空全域を満たした純白の光が終息し、それまでの晴天が戻りつつある式場周辺。 場内の誰もが言葉も発せず、ただただ唖然として宙に浮かぶ十字架を見上げる。 その中、ガルルとケロロの元に歩み寄ってくるクルルとモア。 クルル「見たろ、おふたりさん。あれが『グランド＝クロス』の威力・・・“内側への爆縮崩壊”と、俺が追加した “強制次元転移”のコラボだぜぇ」 ガルル「（驚きの目で）・・・まさか、欠片すら残さんとはな。恐ろしい兵器を造ったものだ」 ケロロ「モア殿の“黒式”だと、最後には土の塊が残った筈・・・それすらも別次元に飛ばしてしまったのでありま すか・・・（眉を顰めて）強烈過ぎて、日頃は持て余す『結婚祝い』でありますなぁ・・・」 モア「最後は綺麗サッパリとお掃除しなきゃいけませんよね。てゆうかぁ、一網打尽？」 ケロロ「（ジト汗）・・・サッパリし過ぎでありますよ、モア殿・・・」 直後。 頭上の絨毯型電磁バリアが、バリバリッ！と電撃を走らせて震える。 ハッ、とそれを見上げる一同。苦虫を噛み潰したような顔になるクルル。 クルル「（舌打ちをして）・・・野郎・・・生きてやがったか・・・」 その式場の全員が注視する、箱庭の遥か端の上、電磁バリアの一区画が激しくスパーク。 バシィッ！と無理矢理バリアを突き破って飛び込んでくる、黒い人型の影。 それが焦げた煙を纏って、一気に宙を飛んでこちらに向かってくる。 飛行ユニットを装備し、右手にビームサーベルを握ったヴァイパーＧＴＲの姿。 途端、走り出すガルル。駆けながら飛行ユニットを転送、装備して、タッ、と石畳を蹴る。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（上空） ４枚羽根が広がり、スウッ、と空中高く浮上していくガルル。 昇りながらスナイパーライフルを手元に転送して、手際よく構える。 スコープを覗き込み、ヴァイパーＧＴＲの顔面をサイトの中心に捉える。 ガルル「（重く低い声で）それ以上神聖なる式場に近付くな・・・外道！」 ライフルの引き鉄を引くガルル。 バシュウウウッ！と、レーザー弾が一気に宙を切り裂き、標的に襲い掛かる。 しかし、ヴァイパーＧＴＲに届いた瞬間、弾は、ブシュッ！と四散して消える。 ガルル「（驚いて）ビームコーティングだとッ！ おのれッ！」 間髪入れずライフルを転送して消し、換わりにビームサーベルを手元に出現させるガルル。 そしてアフターバーナーに点火して、ギュオン！と猛スピードで空中を翔け始める。 ガルル、サーベルの刃を伸ばし、怒りの形相で敵を見据える。 対するヴァイパーＧＴＲ、憤怒で歪んだ顔でガルルを睨み付ける。 凄まじい速度で瞬時に距離を詰め、互いにサーベルを翳す双方。 途端。 ガシュウウッ！と、サーベル同志がぶつかり、即座に離れてはまた斬り合う。 ブン！ バシュッ！ ブオン！と、見事なまでの剣術戦となっている。 ガルル「（怒声）往生際が悪いぞ！ 大人しく冥府に堕ちろ！」 ヴァイパーＧＴＲ「（口角泡を吹かせ）ウッセェ！ テメェらを皆殺しにすんのが先だァ！ そっちこそ大人しくクタ バッとけェ！」 ガルルの剣先が、ブウン、と鮮やかな円を描いて、下方から相手に襲い掛かる。 それを紙一重で仰け反って躱し、靴底をガルルに向けるヴァイパーＧＴＲ。 途端、ボフウッ、と靴底から煙幕を発生させる。咄嗟に避けるガルル。 サーベルや空いた方の手で煙を薙ぎ払い、薄めながら相手を探す。 周りが可視出来る状態になった時、既にヴァイパーＧＴＲの姿がない。 式場の方向を見て、ハッ！と驚くガルル。その方向に向かうヴァイパーＧＴＲを発見。 空かさずブースターに点火、猛スピードでそれを追い始める。 ガルル「（怒声）とことん性根が腐っているな、貴様ッ！」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場（地上） 空中を斜めに下降して、飛行ユニットで一気に式場に接近するヴァイパーＧＴＲ。 見上げるケロン軍関係者が、一斉に手元にそれぞれの武器を転送させる。 ある者は銃を構え、ある者はビームサーベルを持ち、ある者は剣を装備し始める。 突然。 その中をステージに向かって駆け、飛び乗って振り向く秋。 接近するヴァイパーＧＴＲを、ギンッ！と凄まじく鋭利な目線で睨む。 顔の上部に蒼い影を浮かばせ、眼光が紅い光を帯びる。 秋「（腹の底からの声で）来なさいっ！ 私が相手よ！」 会場全員の視線が、一斉にステージ上の秋に向けられる。 参列者それぞれの驚きに満ちた表情。戸惑い気味の目線。 秋の姿を発見し、ニイヤァ、と気味悪い笑いになるヴァイパーＧＴＲ。 ヴァイパーＧＴＲ「（愉快そうに）面白ぇ！ テメェから血祭りに上げてやるァ！」 思わず秋に駆け寄ろうとするケロロ。 ケロロ「（焦って）ママ殿！ 危険でありますよッ！ 我輩たちが代わり・・・」 冬樹「待って！ 軍曹！」 冬樹に咄嗟に肩を掴まれて動きを止められるケロロ。 物凄く怪訝そうに振り向いて、冬樹を見上げる。 ケロロ「（やや怒り気味に）冬樹殿どうして！ ママ殿が危ないでありますよ！」 冬樹「（蒼褪めて）ママ・・・物凄く怒ってるんだ・・・あんなママ、久々に見るよ・・・」 ケロロ「（拍子抜けしたように）ええっ？」 冬樹「今行ったら、巻き添えを喰うと思うよ・・・（ゴクリ、と唾を飲む）」 壇上の秋を見詰める冬樹。恐る恐る目線を投げるケロロ。 ヴァイパーＧＴＲ、秋に目掛けて急降下していく。 式場上空に急速接近飛行中のガルル、それを目の当たりにして息を飲む。 ガルル「（凄まじい大声で）避けろッ！ 秋さんッ！」 しかし、秋は仁王立ちのままヴァイパーＧＴＲを睨み付ける。 スッ、と細く切れ長になる、秋の両方の瞳。 一方、歯を剥き出し、ビームサーベルを後方に振り被って秋に突撃するヴァイパーＧＴＲ。 あっという間に距離を詰め、歪んだ笑いをへばり付かせる。 ヴァイパーＧＴＲ、そのままのスピードで壇上にいる秋に突っ込んでいく。 ヴァイパーＧＴＲ「（醜い笑いで）ヒャハハハハッ！ くたば・・・」 直後。 秋の右の脚が足元を蹴り、ヒュッ、と唸って、鞭の如きしなやかな曲線を描く。 彼女の足の甲が、高速飛行のヴァイパーＧＴＲの左の頬を見事に捕らえる。 ボグシャッ！と何かが砕ける音が周辺に広がる。 【スローモーション】 ビームサーベルを後方に振り被ったまま、完全に止まるヴァイパーＧＴＲ。 秋の足を減り込ませ、メキメキメキ・・・とゆっくりと“くの字”に曲がっていく顔面。 バッキィィィン・・・とレンズが砕け散って四散するゴーグル。 怒りの表情と、殺気を湛えた眼光を相手に固定している秋。 【スローモーション終了】 渾身の力を込めて右脚を振り抜く秋。 ボンッ！と空気が割れる音、ギュオン！と猛烈な勢いで吹っ飛ぶヴァイパーＧＴＲ。 瞬時に、会場端の大理石の欄干に巻き付くように、ドグシャァァァァッ！と叩き付けられる。 更に勢い余って、反動で戻ってくるヴァイパーＧＴＲの身体。 ズゴンッ！と後頭部を石畳に強かに打ち付け、それきり動きを止める。 しーん・・・と、沈黙が覆う式場内。 秋以外の全員が茫然となり、仰向けの大の字になっているヴァイパーＧＴＲを見ている。 その中に、スゥーッ、と緩やかな軌跡を描いて戻ってくるガルル。 サーベルを手にして警戒したまま、ヴァイパーＧＴＲの近くに着地する。 目をグルグルに回し、ピクッ、ピクッ、と全身を痙攣させて気絶しているヴァイパーＧＴＲ。 それを確認し、ふうう、と長い溜め息を漏らすガルル。 つかつか、としっかりした足取りで近寄ってくる秋。 ガルル「（顔を上げて）・・・まさか、たったの一撃で倒すとは・・・」 ガルルを見詰めて立ち止まり、ニッコリ、と笑みを浮かべる秋。 秋「折角の娘の晴れ舞台、台無しにされてたまるモンですか。（ガルルにウィンクして）ねっ、ガルちゃん！」 ガルル「（フッ、と笑い）・・・本当に、貴方には敵いませんな」 それから同時に、上空の十字架を見上げる。 暫くしてガルル、会場内で未だに唖然としたままの参列者たちを見回す。 ガルル「（響き渡る声で）さて諸君！ お騒がせした者は宇宙警察に引き渡すとして、今から会場内の清掃と改 めて式の準備を執り行いたので、どうか手を貸して頂きたい！ そして（上空を見上げて）あのふたりを 労い、迎えようではないか！ （再度、場内を見回し）如何かな!?」 大きな賛同の返事が、次々と式場のあちこちから湧き上がる。 それに大きく頷き、満足気に顔を見合わせ、笑顔を交すガルルと秋。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場 【Ｎ】「式場を襲撃したヴァイパーＧＴＲは逮捕され、駆け付けた宇宙警察へと引き渡されて護送されていきまし た。そして戦闘を終えて帰還したギロロ伍長と夏美ちゃんは、みんなに万雷の拍手と大歓声で迎えられ、 もう一度式を最初から始めることとなったのです。今度こそ、式は滞りなく進行していき・・・さあ、いよい よ・・・“誓いの儀式”ですよ皆さん！」 壇上の祭壇前で向かい合う、ウェディングドレス姿の夏美とタキシード姿のギロロ。 ギロロの足元の小型自動ソーサーがゆっくりと浮かび上がり、上昇する。 やがてギロロの顔と夏美の顔が同じ高さになる。少し距離を詰めるソーサー。 赤面した状態で、震える両手を伸ばすギロロ。 頬を薄紅に染めて両目を閉じた夏美の、両の頬にギロロの両手が触れて添えられる。 自分も両目を閉じ、思い切ったように顔を近付けていくギロロ。 式場参列者全員が、注視。 そして、優しい動作で重なるギロロと夏美の唇。 そのまま、動かない。 会場のあちこちから、ほおお・・・と溜め息の漏れる音。 永い時間が経過の後。 静かに、惜しむように離れるふたりの唇。 同時にゆっくりと両眼を開き、眼差しを絡ませ合って、はにかむ笑みを湛えるふたり。 それに呼応するかのように、祭壇上の水晶ケロン人像が、キラリ、と光を放つ。 プルル『（嬉しそうに）たった今！ ふたりは永遠の誓いを成しました！ どうぞ皆様！ 祝福の拍手をお 願いします！』 途端、物凄い音量の拍手が一斉に式場を満たす。 参列者それぞれが立ち上がり、満面の笑顔で手を叩いている。 そんな参列者席を一通り見渡し、頬を朱に染めて至上の笑みを振り撒くギロロと夏美。 自動ソーサーがゆっくりと下に降り、壇上に着地する。降りるギロロ。 いつ止むとなく続く、スタンディングオベーション。 ステージ横のプルル、コホン、と咳払いしてマイクに向かう。 プルル『それではここで、参列者を代表いたしまして、新郎の所属する宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊、通称 ケロロ小隊の隊長、ケロロ軍曹殿より祝辞を賜りたいと存じます』 段々と治まっていく拍手。席に改めて座り始める参列者たち。 それを見計らって、マイクスタンドを持ってステージ前方へと歩いていくプルル。 参列者席よりステージ正面、壇上のふたりの目の前まで歩いていくケロロ。 続いて、タママ、クルル、ドロロもステージ前に移動。 新郎新婦を見上げる位置で立ち止まるケロロ。その後ろに横に整列するメンバー。 ケロロの手前にマイクスタンドを設置するプルル、それからケロロを見て一度頷く。 コクリ、と頷き返すケロロ。一歩前に進み出て、壇上のギロロと夏美を見詰める。 そして両手を後ろ手に組んで、身体を直立させる。 ケロロ『（咳払いをして）えー、本日はお日柄も良く大安吉日で・・・などと長ったらしい挨拶なんかはスッ飛ばし ましょう。それに新郎新婦の人柄とかエピソードなんかも、話すとメチャメチャ長くなっから割愛しとくね。 新郎か新婦のどちらかに初めてお逢いされた方は、この後に開かれるウェディングパーティーでざっくば らんに聞いてやってちょーだい。今は・・・この場をお借りしまして、我輩の気持ちを話させてもらうね』 僅かに神妙な表情になるケロロ。 彼に視線を注いで、口許を引き締めるギロロと夏美。 ケロロ『（ギロロを見て）ギロロ、ホントに良かったね、夏美殿と一緒になれてさ。あーたがどんだけ葛藤したり 七転八倒してたか、我輩、みーんな知ってたから・・・今もいろいろ考えることもあっかと思うけど、だー いじょーぶ、我輩たちみーんなギロロの味方だもん。心配しないで、これからの夏美殿との人生、エン ジョイしてよッ。子供ん時から迷惑掛けっ放しだったからさ、これから少しずつお返ししてくね』 ギロロ「（フッ、と笑い）気を掛け過ぎるなよ。今まで通りで充分だ」 ケロロ『（夏美を見て）夏美殿、ホントにおめでとうであります。最初に我輩がペコポンに到着してから幾年過ぎ たのでありますが・・・思うにそれからも我輩たちがペコポンで日向家にご厄介になっているのも、ひとえ に本日、この目出度い日の為にあったような、そんな気がしてならないのであります。今までも、そして これからも、我が小隊の“名”機動歩兵、我輩の幼馴染みにて大親友のギロロを、よろしくお願いするで あります（一礼）』 夏美「（微笑んで）騒ぎはホドホドにしといてよね。お祝いの言葉、ありがとう」 並んで、ペコリ、と頭を下げる夏美とギロロ。 ふたりが顔を上げたのを確認して、自分も再度姿勢を正すケロロ。 ケロロ『もうひとつ、実はおふたりに贈らせて頂きたいモノが・・・いや、モノっつーか・・・さっきのクルルとモア殿 からの“お祝い”みたいにカタチある物じゃないんだけどね』 何事かと、ケロロを凝視するふたり。 ケロロ『これは我輩小隊一同と、ガルル隊長で話して決めたことなんだけど・・・新しいコードネームを贈らせて もらいたいのであります』 ギロロ「（訝し気に）コードネーム？」 ケロロ『そっ、コードネーム。今使ってるヤツとはまた別の、ね』 ケロロ、もう一度咳払いをして、真剣な視線を送る。 ケロロ『今後、おふたりが同時に我がケロンの作戦に参加される際は・・・おふたりを纏めてひとつのコードネー ム・・・“スカル723”と呼ばせて頂きたいのであります』 夏美「（ゆっくりとした口調で）スカル・・・723？」 ケロロ『左様であります。現在ギロロ伍長は“スカル１”、夏美殿は“723”というコードネームで呼称させてもらっ てますが、夫婦となった今後は、敵性宇宙人掃討作戦などで共に戦いに出撃する機会も多々あるので はないかと・・・ま、単純に組み合わせたと言っちゃえばそれまででありますが、ふたつの名をひとつで呼 ぶ・・・これは我輩たちの願いを込めたのでありますよ』 表情を引き締めるケロロ。 ケロロ『（重みのある声で）おふたりには、何があっても離れることなくいてほしい・・・おふたりには、戦いに赴 いても無事ふたり揃って帰還してほしい・・・我輩たち誰もが、このコードネームを口にする際はそんな祈 りを込めている・・・そう感じて頂ければ、幸いであります。（ふたりを見詰め）如何でありましょうか？』 顔を見合わせ、柔らかな笑顔を交して再度ケロロに向き直るふたり。 ギロロ「（笑みを湛え）ありがたく受け取らせてもらうぞ、ケロロ」 夏美「（笑みを湛え）アンタらの気持ち、感謝するわね、ボ・・・いえ、ケロロ軍曹」 ケロロ『（ニッ、と笑い）“ボケガエル”でありますよ、夏美殿』 タママ「ナッチー、ギロロ先輩、ホントにおめでとーですぅ！ ボクも見習っておふたりみたいに、早くラヴラヴモー ドになりたいなぁ、って思ってるんですぅ。これからも、いつまでも見せ付けちゃって下さいねっ！」 クルル「ホントにあんたらはよぉ、面白過ぎなんだよなぁ。悪ィが俺は嫌な奴なんでな、おめでとう、なんて絶対 言わねぇけど・・・ま、今後も俺たちを目一杯楽しませてくれよぉ〜。期待してるぜぇ。く〜っくっくっくっくっ く・・・」 ドロロ「今日の善き日、お二方の新たなる飛躍に立ち会えたこと、拙者、何よりありがたく思っているでござる。 これからも人生の伴侶として、お互いを想い、慈しみ、そして心を通わせてほしいと願う所存・・・本当に おめでとう、ギロロくん！ 夏美殿！」 ３人の祝いの言葉を頷きながら聞き、再び見詰め合って笑顔になるギロロと夏美。 正面を向いて、小隊メンバーと参列者一同を見回す。 ギロロ「（大声で）感謝する！」 夏美「（大声で）ありがとう！ みんな！」 目を細めて、大きく一度頷くケロロ。 直後、これ以上ないほど真剣な表情を浮かべ、キリッ、と眉を寄せる。 そして一歩、マイクから後ろに下がり、ピッ、と直立する。 ケロロ「（腹の底からの声で）総員ッ！ 起立！ 気ヲ付ケェッ！」 ザッ、と次々と座席から立ち上がる参列者たち。 式場にいるケロン人、地球人全員が号令に従う。 ケロロ「壇上に注目ッ！ ギロロ伍長と日向夏美殿のッ！ 恒久なるご多幸を祈願しィッ！・・・（響き渡る 大声で）敬礼ェェェェェッ!!!!!」 号令一過、ビシィッ！と見事な敬礼を見せるケロロ、タママ、クルル、ドロロ。 会場内の参列者が一斉に、鮮やかな敬礼の姿勢を行う。 全員が壇上のふたりに身体を向け、見渡すと扇状の美しい形態を醸し出している。 座席後方の秋、冬樹、小雪、桃華、モアもそれに倣い、綺麗な敬礼を見せている。 それをステージ上から、ぐるり、と見回すギロロと夏美。 直後。 正面を向いて、スッ、と同時に腕を上げて敬礼を返すふたり。 暫く、その状態。 やがて、ゆっくりと上げた腕を下ろすギロロと夏美。 それに応じて、参列者各位が次々と腕を下ろしていく。 ニコッ、と凄く嬉しそうな笑顔を浮かべるケロロ。 ケロロ「（目を細め、大声で）それではこれにてッ！ ミッション・コンプリートでありますッ!!!」 【Ｎ】「かくして、ギロロ伍長と日向夏美ちゃんは結婚式を完了させ、夫婦としての人生を共に歩み始めたので す。そして、この式の後にホテルで開かれたウェディングパーティーは、このホテル始まって以来の大盛況 であったそうです。ただし、ガルル中尉の隠し芸は何とか理由を付けて“出し惜しみ”してもらったとかいう 話も聞きました・・・あと、ケロロ軍曹とお父さんによる“親子軍曹漫才”が大ウケだったとか、プルル看護 長の“ゾルル兵長消失イリュージョン”が拍手喝采だったとか・・・おおっと、それはまた別の機会にお話し ましょう」 ★ 祝典惑星ニモリトマ・銀河鉄道駅 【Ｎ】「そして翌日、すべての行事を終えた一行はそれぞれ帰途に付き、地球から来た方々も帰ることになりま した。来る時はケロン軍準光速宇宙船でしたが、帰りはまったりと銀河鉄道の列車に乗っていくことにした のです」 ホームに停車中の蒸気機関車。シュウウウ・・・と車輪の下から蒸気を噴き出している。 全体もクラッシックな造りの客車を連結して、重厚な雰囲気を具える。 客車乗降デッキのすぐ前、ホームで向かい合うガルル、ギロロと夏美。 ガルルの後ろにはギロ/ガル父と母が並んで立ち、夏美の隣には秋が立つ。 ガルル「本当にいいのか？ この『サジタリウス』は快速列車で、ペコポン到着までには相当時間が掛かるぞ。 明日まで待ってもらえば、新しい船をチャーター出来るが・・・」 ギロロ「（首を振り）いや、これ以上は迷惑を掛けたくない。それに、ケロロたち賑やかな連中も一緒だ。退屈す ることもあるまい」 夏美「（笑顔で）お義兄さんをはじめ、いっぱいお世話になったから・・・お気持ちはありがたく頂いとくわね」 ガルル「そうか・・・ならば、修学旅行気分で楽しんで行くと良いだろう」 頷いて、口許に笑みを湛えるガルル。 ギロ/ガル父「（夏美と秋を交互に見て）夏美さん、それからお母さん、今度改めてペコポンに挨拶に行かせて もらうぜ。それがスジってもんだからな」 ギロ/ガル母「（苦笑して）とーちゃん、んなコト言ってぇ、温泉地巡りやりてぇんだっぺよ」 ギロ/ガル父「まあいいじゃねぇかよ。かーちゃんも細けぇな。カッカッカ！」 秋「（笑顔で）いつでもいいですよ。ウチは大歓迎ですから」 ガルル「こんな両親ですが・・・（秋を見て）今後とも、よろしくお願いします（一礼）」 秋「こちらこそ・・・よろしくね（一礼）」 ガルル、それからギロロに正対して後ろ手に組む。 ガルル「そうだ、ギロロ。お前に言わねばならんことがある。忘れるところだった」 ギロロ「（怪訝そうに）な、何だ？」 フッ、と口許に優しい笑みを湛えて、ギロロを見詰めるガルル。 ガルル「（穏やかな口調で）結婚おめでとう、ギロロ。これからも夏美くんと仲良く、幾久しく健やかに過ごせ」 途端、ハッ、と両眼を見開き、凝固するギロロ。 そして下瞼に涙をいっぱいに溜め、ポロッ、ポロッ、と落涙させる。 ギロロ「（震える声で）・・・兄ちゃんッ・・・」 立ち尽くし、ただひたすら涙の滴を零しているギロロ。 柔らかい笑顔のまま、彼の肩を正面から抱き、嬉しそうな表情になるガルル。 ガルル「馬鹿者、目出度いことに泣く奴があるか・・・」 顔を伏せ、ガルルの肩口に顔を埋めるギロロ。落涙は治まらず。 そんなふたりを見て、思わず下瞼のもらい泣きの涙を、そっ、と指で拭う夏美。 彼女を見上げて、改めて口許に笑みを浮かべるガルル。 ガルル「こんな拙い弟ですが・・・よろしく頼みます」 夏美「（笑顔で、頷き）はい！ 任せて下さい！」 直後、ピリリリリ・・・と発車を告げるベルがホームに鳴り響く。 列車の乗降デッキに乗り込む秋、涙を拭いながら続くギロロと夏美。 ベルが止み、一瞬の静けさの後に、ポオオオオオッ！と汽笛一斉。 プッシュウウウウ・・・と一際高い蒸気音。ゴン・・・ゴン・・・とゆっくりと動き出す列車。 回転する車輪が段々と動きを速め、緩やかに加速を始める。 デッキからホームに立つガルルたちに、スッ、と敬礼をするギロロ。 すぐ横でギロロと同じ方向を見詰める夏美。 ホームのガルル、ピシッ、と綺麗な敬礼をして見送る。 段々と遠ざかり、やがて互いが見えなくなる。 一気にスピードを上げてホームを離れ、斜めの軌道を駆け上がって宙に消えていく列車。 それをすべて確認し、ふうう、と安堵したような溜め息を漏らすガルル。 突然。 ギロ/ガル父たちの後方に、すっ、とケロン人の人影が現れる。 大佐「無事、終わったようだな、ガルル中尉」 ハッ、と驚いて振り向き、こちらに近付いてくる大佐を見詰めるガルル。 ガルル「（驚愕して）来てらしたのですかッ!?」 大佐「（落ち着き払って）ああ。それと黙ってて済まなかったが、実はコッソリと変装して、ふたりの式にも参列 させてもらったよ」 ガルル「（一際驚き）何と！ 気付きませんでした」 大佐「君のご両親には予め話しておいたが、無用な気遣いはされたくないのでな、内緒にしてもらったのだ よ・・・それにしても中尉、これ以上ないほどの見事な結婚式だった。本当は新郎新婦には直接お祝いを 述べたいとこだったが、まあ、またの機会を見ておこう。それと・・・（重みのある声で）作戦完了、確認し た。大変な任務だったが、ご苦労だったな」 ガルル「（敬礼をして）はっ！ 恐れ入ります！」 短く敬礼を返す大佐。続いて腕を下ろすガルル。 大佐「全体は遥か先まで続く壮大な作戦ではあるが、また道半ばだ。しかしこれでやっと、歴史が動き始め る・・・これからも気を引き締めて行き給え。頼りにしているぞ、ガルル中尉」 ガルル「（改めて敬礼）了解ッ！」 それを目の当たりにして、にこやかな笑顔を見せる大佐。 ★ 銀河鉄道・快速『サジタリウス』列車内 ４人掛けボックス型の乗車席が並ぶ客車内。 賑やかな笑い声や歓声が上がり、ケロロたちがひとつのボックス席でトランプをしている。 ケロロ「（嬉しそうに）わーい！ ドロロがババ引いたでありますよーッ！」 ドロロ「（半泣き）ヒドイよケロロく〜ん！ 言わなくてもいいじゃんか〜！」 タママ「軍曹さんって、誰よりも子供っぽいトコが魅力ですよねぇー」 冬樹「（ジト汗）それって魅力なのかなぁ・・・」 その後ろのボックス席では、クルルが通信機を持って何処かと交信中。 クルル「あ？ 材料費の高騰だ？ 知らないねぇ、俺が買った時はそんな値段じゃなかったぜぇ。掛け値通りで 納得しなよ・・・嫌ならいいぜ、モアにそっち行ってもらうからよぉ・・・ヤな奴？ お褒めに与り恐悦至極だ ぜぇ。く〜っくっくっく・・・」 クルルの席と通路を挟んだボックスには、秋、桃華、モア、小雪が座る。 桃華「（クルルを見てから）クルルさん、何処と通信してるんですか？」 モア「えっと、確か業者さんだって言ってました。『グランド＝クロス』造る時に材料を買ったとこです。何だか私 が行った時に随分“勉強”してくれたみたいで・・・」 小雪「凄いですねー、モアさん、遣り繰り上手なんですね。私も見習わなきゃ」 秋、ニコニコとそれを聞いてから席を立って、自分たちの後ろの席に向かう。 並んで座り、車窓から外の宇宙空間を眺めているギロロと夏美。 秋「（笑顔で）賑やか過ぎない？ ふたりで静かな車両に移ってもいいのよ？」 ギロロ「（秋を見て）気にするな。今は、こうしているのがいい」 夏美「（頷き）ええ、大丈夫よ。こっちは気にしないで、ママ」 秋「そう、判ったわ。ふたりがＯＫならいいのよ」 目を細めて満面の笑みを向け、そして自分の席に戻る秋。 ふと、夏美に眼差しを注ぐギロロ。 ギロロ「夏美」 夏美「（見詰め返し）なーに？」 ギロロ「（穏やかな声で）これから俺たちの行く先は、永い旅になる」 夏美「（微笑んで）・・・うん」 ギロロ「いつまでも一緒だ」 夏美「・・・うん」 ギロロ「何があっても、俺はお前から離れん、夏美・・・」 夏美「・・・あたしも、アンタを離さないよ、ギロロ・・・」 艶やかな眼差しを絡め合って動かないふたり。 ケロロ「（言いにくそうに）あのぉ・・・もしかして我輩たち、お邪魔？」 ハッ！と周りを見るギロロと夏美。 今まで席に座ってた面々が、ふたりのボックス席を取り囲むように覗き込んでいる。 途端、カアアアァァッ・・・と同時に真っ赤になるギロロと夏美。 ギロロ「（湯気を噴いて）きッ！ 貴様らーッ！ 見世物じゃないッ！」 夏美「（上気して）もうっ！ 恥ずかしいじゃないのよーっ！」 秋、やれやれ、という表情で、微笑んで腕組みをする。 秋「ホラね、だから移動した方がいいんじゃない、って言ったのよ？」 そして、ふふっ、と嬉しそうな笑顔でふたりを見詰める秋。 宇宙空間を疾走する蒸気機関車が、ポオオオオーッ！と高らかに汽笛を鳴らす。 【Ｎ】「今、万感の想いを込めて、汽笛が鳴る・・・今、万感の想いを込めて、汽車が行く・・・ひとつの旅が終わ り、また新しい旅が始まる・・・ギロロ伍長と夏美ちゃんのこれからの旅路には、一体どんなことが待ち受け ているのでありましょうか。そしてこれをご覧になってる皆さん！ ふたりに多大なる祝福を！ 今後 ともふたりへのご声援を、よろしくお願い申し上げますッ！」 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ [ 次回予告 ] （BGM：ケロッと！マーチ） 冬樹「冬樹です」 桃華「あの・・・桃華です」 冬樹「伍長と姉ちゃんの結婚式、よかったねー」 桃華「はい！ 最高でした！ あの、それでですね、冬樹くん・・・」 冬樹「なーに？」 桃華「（赤くなって）あ・・・あの・・・私も・・・その・・・」 冬樹「え？」 桃華「（口籠もって）あの・・・いつかは・・・わ・・・私も！」 ケロロ「そんなことより次回はッ！」 裏桃華「（怒声）てんめぇボケガエルッ！ “そんなこと”たぁどーいうこったぁ！」 ケロロ「（冷や汗ダラダラ）い、いやいや、そ、そそそそんなつもりじゃ・・・」 裏桃華「覚悟しやがれぇぇぇっ!!!」 ケロロ「（悲鳴）キィィィィィヤァァァァァッ!!!」 冬樹「それじゃ、僕が代わりに予告するね。えっと、次回は・・・『宇宙でもっともラヴラヴな夫婦：突撃スクー プ！ 伍長と姉ちゃんの赤裸々な新婚生活暴露！ ウハウハでイチャイチャでラヴラヴな毎日！ どっす か奥さん！』って・・・これホント？ 放送出来ないんじゃないの？」 ケロロ「（ボロボロになって）次回は２本立てってことで・・・どっすかぁ・・・ゲッゲロ〜・・・ガク」 |
