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★ 祝典惑星ニモリトマ・中央宇宙港
雲ひとつない晴天の、広大な宇宙港。 半円形の巨大なターミナルビル、何本も伸びるペデストリアンデッキ。 無数に泊まる宇宙船の中に、ケロン軍サロン型準光速宇宙船がある。 そのすぐ横には、ガルル小隊宇宙艇が並んで停泊。 宇宙船と接続された通路から、数名の白衣姿の異星人に付き添われて現れる医療ポッド。 内部にはガルルが落ち着いた呼吸を繰り返し、眠っている。 それを迎えるプルル、タルル、トロロ、ゾルル。一歩進み出てポッドを覗き込むプルル。 すぐさまポッド横の操作盤を見て、いくつかのキーを押す。 続いて通路内から現れる乗員一同。プルルの姿を確認し、走り出てくるケロロ。 ケロロ「（駆け寄って）プルルちゃん！」 プルル「（ケロロを見て）詳細はさっき、クルル曹長との無線で聞いたわ。大変だったわね・・・折角のギロロくん と夏美さんの結婚式に、こんな事態が起こるなんて・・・」 ケロロ「全乗員の下船と荷物の運び出し完了してから、あの宇宙船は封鎖しといたよ。もしかしたら、船内探索 で何か見付かるかも知れないけど・・・」 プルル「（コクン、と頷き）私たちも調査に協力するわ。今は、隊長を優先しなきゃね」 並んでポッド内のガルルを見詰めるふたり。 プルル「ポッドのデータを見させてもらったけど、今は落ち着いてるわね。とにかく隊長をこれから、医療センター に運ばせてもらうわ。私は付き添いで一緒に行くから、ケロロくんたちは先にホテルに向かってて。後か ら私も合流するから」 ケロロ「（頷いて）判った」 プルル「それと・・・（微笑んで）司令官代行、お疲れ様。頑張ってピンチを乗り越えたね、ケロロくん」 ケロロ「（頬を染め）い、いやぁ・・・それほど大したことじゃ・・・」 目を細めてケロロを見詰めるプルル。照れて頭を掻いているケロロ。 他のメンバーも続々通路からデッキに出て来て、ケロロたちに近付く。 仲睦まじ気なケロロとプルルの姿を見付け、ビクッ、と肩を跳ねさせて立ち止まるモア。 右の拳を、グッ、と握り胸に押し当てて、悲し気に目を伏せて俯く。 すぐ側に一旦止まり、一瞬モアを見上げるクルル。 だがすぐに正面を向き、無表情のまま先に歩を進める。 プルルたちの許へ歩み寄ってくるギロロと夏美。 それを見たプルル、直立して、サッ、と敬礼をする。 立ち止まって敬礼を返すギロロ。慌てて敬礼をするケロロ。 ドロロ、タママ、クルルもギロロの横に並んで敬礼を行う。 プルルが敬礼を解いたのを確認して、全員が直る。 プルル「ギロロくん、夏美さん、ご結婚おめでとうございます（一礼）」 夏美「（礼を返し）ありがとう、プルルちゃん。わざわざ今日は早く来てもらって悪いわね」 ギロロ「しかし、お陰で助かったな。宇宙港までの誘導、世話を掛けた」 プルル「ううん、隊長から指示があった通りに動いたまでよ。（医療ポッドを見て）それじゃ、私は医療センター に行くからね。後はタルルくんたちが案内してくれるわ。（タルルを振り返って）しっかり頼むわね」 タルル「（頷き）任せて下さいっす！」 医療ポッドに寄り添い、心配気な表情でガルルを見詰めている秋。 プルル、秋に近付き、そっ、と両手を彼女の左手に重ねて握る。 こちらを向く秋と視線を合わせ、コクリ、と大きく頷く。 切な気に瞳を震わせて、小さく頷き返す秋。 手を離し、他の医療スタッフに指示を出すプルル。 秋に、ペコリ、と一礼して、スタッフたちとポッドを押してデッキを歩き出す。 それを見送って、目を閉じて項垂れる秋。 夏美、冬樹、桃華が、秋の傍に歩み寄る。 冬樹「（秋を見詰め）さっき医療スタッフに聞いたんだけど、ここはケロン星からも研修に来る人がいるくらい、 技術が発達してるんだって。安心していいと思うよ」 夏美「（二度頷いてから）・・・とにかく、後はプルルちゃんたちが頑張ってくれるわよ。ホテルで待っていよう、 ママ」 秋「（消え入りそうな声で）・・・判ったわ・・・」 トロロとゾルルの許に、クルルとドロロ、そしてモアと小雪が近寄る。 クルル「（睨んで）何しに来たんだクソガキ。ここにゃママはいねぇぜ？」 トロロ「（眉を吊り上げ）うっさいヨ！ 隊長命令だから仕方なく来たんだ！ じゃなかったら誰がオマエなんかと 顔合わせるかヨッ！」 クルル「ふーん、そっかい。残念だがおめぇの出番はナシだぜぇ。セキュリティ関係も俺ひとりで充分だ。ま、俺 より凄ぇハックツールのひとつも作ってから来るこったなオコサマ」 トロロ「（激怒）何だトォッ!!!」 モア「（ふたりを宥めるように）まあまあ、折角のお目出度い席なんですから、ここは協力してやりましょうよ。 てゆうかぁ、呉越同舟？」 モアの言葉にも、ふん！と顔を背けるトロロ。チッ、と舌打ちするクルル。 一方のゾルル、ドロロを睨んで正対する。 ドロロに後ろに立つ小雪、何事かとドロロとゾルルを交互に見る。 ゾルル「・・・隊長からの命だ。貴様との決着は先に延ばしておいた、ゼロロ・・・」 ドロロ「（目を閉じ）左様でござるか。ところで、ひとつお尋ねしたい」 ゾルル「・・・何だ？」 ドロロ「貴殿・・・（目を開け、頭を掻いて）どなたでござったかな？」 途端。 ガーン！・・・という効果音の後、背景が真っ暗になり、白色化してしまうゾルル。 風が、ヒュウウウ・・・と空しい響きを残して通り過ぎる。 膝を抱えて“体育座り”でこちらに背を向けて、凝固して動かなくなるゾルル。 近寄って来たケロロ、ポン、とドロロの肩を叩く。 ケロロ「（悪戯っぽく）ダミダヨー、いたいけな戦士をいぢめちゃ」 ドロロ「（涙を流し）いぢめてないよ～ケロロく～ん！ ホントに判んないだってばぁ！」 小雪「そうですよケロロさん！ ドロロはいぢめてなんかいません！ ただドロロが覚えてないだけで・・・きっと それは、あっちの人が（ゾルルを指差し）ドロロより影が薄いだけですから！」 グサッ！ グサアッ！と、何かが刺さるドロロとゾルル。 そしてドロロもゾルルと並んで、黒背景で白色化して“体育座り”をしてしまう。 風が、ヒュウウウ・・・と虚しく吹き抜ける。 小雪「あれ？ ドロロったらどーしたんでしょね？」 ケロロ「（ジト汗）・・・天然って怖いでありますなぁ・・・」 タルルの傍らに笑顔で駆け寄ってくるタママ。 タルル「（目を細め）今回は“ごっこ”は封印っすね、師匠」 タママ「ああ、ちゃんと仕事やっとかないと、中尉さんに怒られるよね？」 タルル「（神妙な顔で）隊長の気合いの入りよう、マジ凄ぇんすよ。まあ弟さんが結婚するからってのもあるんっ しょ。しっかしそれにしても・・・（一瞬、ギロロを見て）あの“ウッカリギロロ”が、よくお嫁さんをもらえること になったっすねぇ」 タママ「伍長さんは“ウッカリ”でも、決める時は決めるからねー。（しみじみと）あのヘッポコッぷりにさー、僕らも ずーっとヤキモキしてたんよ。だから感慨深いよー」 夏美「・・・ホントに感慨深いわよねー」 タママ「そうそう、ヘタレな赤ダルマだったんだけどねー・・・って、うええええッッ!!!（大驚愕）」 ゴゴゴゴゴゴ・・・と背後に怒りのオーラと炎を背負い、顔上部に黒い影を作っている夏美。 髪の毛が逆立ち、目は真っ赤に爛々と光っている。 タママ・タルル「「ひぃええええッッ!!!」」 ガシッ！と、ふたりの頭をそれぞれ鷲掴みにして、自分の目の高さまで持ち上げる夏美。 ガチガチガチガチ・・・と歯の根が合わないタママとタルル。 恐怖のあまり瞳孔を開きっ放しにして、顔面から冷や汗を滝のように流す。 夏美「（地の底から響くような声で）人の旦那捕まえて“ウッカリ”だの“ヘタレ”だの言ってくれてるのは何処の どなたかしらねぇ・・・」 タルル「（半泣きで）オ、オレは“ヘタレ”って言ってないっすよーッ！」 夏美「・・・口ごたえするのはだぁれ？（ミシッ、と掌に力を入れる）」 タママ「（悲鳴）うぎゃあッ！ ナッチー許してですぅ！」 ギロロ「（夏美の後ろから）そこまでにしといてやれ、夏美」 ふっ、と怒りのオーラも炎も消え、パッ、と両掌を話す夏美。 垂直落下して、強かに尻を打ち付けて苦悶の表情で転がりまくるタママとタルル。 振り返ってギロロを見詰める夏美。既に平静時の表情。 ギロロ「折角の式の前に、返り血を浴びることもあるまい」 夏美「それもそうね。（タママとタルルを見て）あんたたち、あんまし変なコトばっか言わないでよね。今回は許し てあげるケド」 コクコクコク、と何度も頷いてみせるタママとタルル。 互いに涙目で顔を向け合い、ガシッ、と抱き合って再び泣く。 タママ「（ボロ泣き）うえええ・・・怖かったぁぁぁぁ・・・」 タルル「（しゃくり上げて）生きててよかったっすねぇ、師匠ぉぉぉ・・・」 【Ｎ】「とまあ、祝典惑星に到着してガルル小隊メンバーと合流した一行、この後リムジンバスに乗って、実際に 式典が行われるホテルに向かうことになりました。そのホテル―――名前を『ニモリトマ中央インペリアル ホテル』といいまして、この惑星№１の広さと設備と豪華さを誇るんですよ。無論、これらはすべてガルル 中尉のお膳立てによるものです。今晩はそこで全員が一泊して、明日の結婚式に備える訳です。はい」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・メインロビー 小高い丘の上に聳え立つホテル。地上13階建て、扇形の外観、弓形のカーブを成す。 相当な数のバスやリムジンがひっきりなしに、玄関ポーチを出入りしている。 メインエントランスを入ったすぐ右側に、やたら広い吹き抜けのロビー。 その１区画に陣取っている、ケロロたち一同とタルル、トロロ、ゾルル。 タルルは全員に向いて立ち、手にクリップボードを持って、挟んである紙を黙読。 トロロはひとつの椅子に反り返って座る。ゾルルはタルルの後ろの柱に腕組みして寄り掛かる。 それ以外のメンバーは、各々椅子に座ってタルルを注視している。 タルル「（咳払いをして）えー、荷物を部屋に置かれたばかりで忙しいとこで申し訳ないっすけど、看護長からの 指示で、改めて皆さんに集まってもらったっす」 ケロロ「プルルちゃんからの？」 タルル「はい、そうっす。えっと、今後の打ち合わせと・・・（ボードの紙を捲り）ケロン軍上層部からの伝達事項 があるっすよ」 ギロロ「（眉を顰め）何だと？」 夏美「（怪訝そうに）あたしたちの式に関してなの？」 タルル「伝達事項は、結婚式とは直接関係ないっす。関係あるのは打ち合わせの方で・・・まあとにかく、伝達 しなきゃならないことからお話するっすね」 クリップボードに改めて目線を走らすタルル。 タルル「（再度咳払い）えーと、ケロン軍最高幹部議会発表っす。『対ケロン同時多発攻撃について』ってタイト ルが書いてあるっす」 ケロロ「ちょ・・・ちょっと待つであります・・・“同時多発”って？」 タルル「皆さんが宇宙船で例の宇宙アブの襲撃を受けたっすよね？ あれと同じような攻撃が、この10時間ほ どでケロン軍関連で一斉に起こったんすよ」 ケロロ「（驚愕）何ですとォォォォォッ!!!」 タルル、トロロ、ゾルル以外の全員の顔に、驚きが貼り付く。 タルル「対象はケロン軍保有の宇宙船や戦艦50隻前後、正確な数字はまだ把握し切ってないっす。手段はい ずれも、他の生物を襲う習性のある宇宙生物を仕掛けて放ち、乗組員を襲撃させるって手口っす。宇宙 アブだけじゃなくて、宇宙バエ、宇宙スズメバチ、宇宙蚊なんかが使われたっすよ。宇宙スズメバチで攻 撃された巡洋艦なんか、乗組員95名全員が即入院で、重篤者も何人も出てるっす」 蒼褪めた表情で、両手を膝の上で握り締める秋。 次第に眉を寄せ、口許を引き締め、静かに怒りの表情を浮かべる。 心配気に彼女を見詰める夏美、冬樹。 トロロ「オマケに軍中枢のマザーコンピュータにクラッキングされちゃってサ、セキュリティシステムも一時的に 止められちゃったんだよネ。ま、ボクが本部にいたらすぐに修復出来ちゃうんだけど。プププ～」 ゾルル「・・・生物攻撃に不慣れな連中が軍には多かった。被害も大きい・・・」 タルル「今現在、本星では情報収集に躍起になってるっす。んで『円卓』からの指令は、各方面の部隊及び小 隊は今回の攻撃についての調査を至急実施せよ、ってなことなんすよ。オレたち小隊もその指令を受け てるっす」 ケロロ「（頷いて）なるほど・・・であれば、我々ケロロ小隊も協力するであります。何と言っても、実際に攻撃さ れた当事者でありますからなぁ」 タルル「感謝するっす。あ、それとこの調査に関して、看護長から言われてるっすけど・・・（ギロロを見て）ギロロ 伍長は調査メンバーから外れるように、とのことっす」 ギロロ「（訝し気に）何故だ？ 俺も当事者ではないか？」 ケロロ「（物凄く呆れた様子で）あーのーねーギロロくーん・・・式の主役は他にやることいっぱいあるっしょー？ 後始末は我輩たちに任せてさ、あーたは夏美殿と式の段取りの打ち合わせしなさいよ。判った？」 ギロロ「む・・・そうか、判った。調査は頼む」 申し訳なさそうに頬を掻き、それから腕組みをするギロロ。 ボードの捲った紙を戻し、一度全員を見渡してから目線を紙に戻すタルル。 タルル「それともう一点・・・オレたち小隊以外で、本星から招待されてる方々っすけど、同時多発襲撃事件の 難は逃れたらしいっす。でもこっちに来る途中で事件が起こったんで、最寄のケロン領の惑星に立ち 寄って内部点検と確認をすることになってるっすよ。ニモリトマ到着はここの時間で明朝になる予定で、 式開始までには何とか間に合わせるって話っす」 ケロロ「（安堵の表情で）そっか・・・父上も間に合いそーだね」 ドロロ「拙者の母上も同乗している筈。襲撃がなかったのは何よりでござった」 ギロロ「（ふう、と息をつき）しかし親父の奴、当家ならもっと早く出てくればいいものを・・・式直前では下手する と挨拶もロクに出来まい」 夏美「仕方ないわよ、事情が事情だけに。当家の準備や挨拶は、あたしたちで何とかしましょ」 ギロロ「（頷いて）判った」 タルル「それでは、今の指令を含めた本日のスケジュールと番割りを発表するっす」 タルル、ボードの紙を指で一通りなぞって、もう一度読み直す。 そして顔を上げ、全員をひとりひとり目で確認し始める。 タルル「ケロロ隊長、クルル曹長、ゼロロ兵長、師匠、ゾルル兵長、トロロ、そしてオレは、宇宙船内の探索と 調査を実施する班。ギロロ伍長とペコポン人の方々、それとアンゴル族の娘さんは、ホテル側と式次第 の打ち合わせなんかを実施する班ってことでよろしくっす。一応すべてを夕方までに完了させる段取り で進めてほしいんで・・・んで夕方から食事なんで、またこのロビーに集合お願いするっす。時間は、 そーっすね、1815に集まって下さい。総合の取り纏めはケロロ隊長、お願いしていいっすか？」 ケロロ「了解であります、タルル上等。（立ち上がって）んでは諸君！ 以上の通り、行動よろしくであります！ 一時解散！」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場 ホテルの真裏に位置する、屋外結婚式場。 半円形のステージ、それを取り巻く多数のベンチ、収容人数100名前後の規模。 ステージ背後の三角型のオブジェ、式場を取り囲む低い手摺り、足元の石畳。 それらがすべて、純白に薄茶色の模様を散らした大理石で造られている。 式場中央に真っ直ぐ伸びる通路を、並んで歩いているギロロと夏美。 ステージに背を向け、客席を抜けて歩を進め、やがて鉄製のアーチの真下に立つ。 そこから真正面、眼前に広がる緑の林と大き目の人工池。池の周りには無数の花が咲き誇る。 向こう側が見通せない広大な箱庭で、緑と水のコントラストが絶妙な配置。 アーチから外は下り階段になっており、この式場自体が小さな丘のようになっている。 夏美「（目を輝かせ）うっわぁ・・・素敵ねぇ・・・」 ギロロ「まったくだな・・・見事な風景だ。室内ではこのような演出は出来ないからな」 夏美「地球じゃ今頃すっごく寒い頃なのに、ここは気持ちいい気候なのね」 ギロロ「ニモリトマは全天候をコントロール出来る。祝典惑星の名の通り様々な祝い事や祭りが催されて、その 内容に応じて地域や場所別に天気や温度を設定出来るという話だ」 夏美「へぇ・・・（ギロロを見詰め）ねぇギロロ、ここを選んだのってお義兄さんでしょ？」 ギロロ「（夏美を見詰め返し）そう聞いている。奴らしからぬと思うが、な」 夏美「そうかしら？ すっごくセンスあると思うわ。センスに関してはギロロもそうだし、そこんトコはやっぱ兄弟 だなぁ、って思えるケド？」 ギロロ「そ、それはだな・・・（頬を染め、腕組みして）だ、だから前に、身内の評価など出来んと言っただろ う・・・」 夏美「（口を尖らせ）もう、まーだそんなコト言ってる・・・アンタこれからもずっとヤな弟でいるつもり？」 返答せず、赤くなったまま正面の風景に視線を投げるギロロ。 ふう、と息を継いで、後ろ手に組んでギロロと同じ方向に目を向ける夏美。 夏美「（柔らかい口調で）センスの話はとにかく・・・お義兄さんがあたしたちの為にいろいろ動いてくれたから、 今こうして、ギロロと結婚出来るまでになったと思うの。お義兄さんにはお義兄さんの立場があるのに、そ れを差し置いてまでいくつもの段取りをしてくれて、アンタとあたしをここまで導いてくれたのよね・・・」 夏美に顔を向けるギロロ。真剣な眼差し。 彼と瞳を合わせ、優し気な微笑みを湛えて視線を絡ませる夏美。 夏美「いっぱい感謝、しなきゃね」 ギロロ「（一度大きく頷き）・・・解っている」 再度、正面の箱庭を眺めるふたり。さあっ、と静かな風が周りを駆け抜ける。 ギロロ「・・・秋は、少し気が紛れたようだな」 夏美「うん・・・流石はママね、ホテル側との段取りのテキパキとしたことったら・・・押し通すトコは押し通すから、 相変わらず凄いわ。ママがしっかりと打ち合わせしてくれてるから、こうしてあたしたちが下見出来る時間 が取れたのよね」 ギロロ「そうだな。（夏美に身体を向け）ところで、夏美」 夏美「（ギロロを見て）なーに？」 ギロロ「（重い口調で）“奴”が来るぞ。明日の式本番を狙って、だ」 夏美、ふっ、と不敵な笑みを浮かべて眉を寄せる。 夏美「ギロロもそう思った？ あたしもそんな予感がしてたわ」 ギロロ「（口許で微笑んで）流石だな。既に読んでいたか」 夏美「恐らく、あの宇宙アブはあたしたちを狙って仕掛けたのよね。そんなエゲツない手を使いそうなのって、 約１名しか思い当たらないんだもの。それでも、今日の話聞いて驚いたわ・・・まさか軍全部をターゲットに してたなんてね・・・」 ギロロ「（奥歯を噛んで）まったく、何処までもしつこい野郎だ。しかもケロン全体を無差別に攻撃とはな・・・『下 手な鉄砲も数打ちゃ当たる』ということだろう」 夏美「（キッ、とした目線で）ホントに許せないわ・・・」 ギロロ「夏美、俺が何をしようとしてるか、判るか？」 身体をギロロと向かい合わせ、笑顔で彼を見詰める夏美。 夏美「あったり前じゃないの。あたしは“戦場の赤い悪魔”の奥さんよ」 ギロロ「（フッ、と笑い）ならば・・・その準備もせんとな。忙しくなるぞ」 夏美「（ふっ、と笑い）望むところよ。これ以上はみんなを巻き込まないようにしなきゃ」 ギロロ「部屋に戻るぞ」 夏美「オッケー」 くるり、と踵を返して、元来た方向に並んで歩いていくふたり。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・エレベーターホール 一基のエレベーター前で、ボタンを押すでもなく佇むモア。 俯き、切な気な目線で斜め前をぼんやりと見ている。 ふと、宇宙港でのケロロとプルルの姿を思い浮かべ、急に悲しそうに両目を閉じる。 下瞼に溜まっていく涙、抑え切れずに右手人差し指で拭う。 クルル「（ボソッ、とした声で）・・・辛気臭ぇな」 ハッ、と思わず振り向き、涙の滴を散らすモア。 自分の背後に立って後ろ手に組んでいるクルルに視線を投げる。 クルル、ゆっくりと近寄ってきて、モアのすぐ横に立つ。視線は前方を見たまま。 クルル「・・・おめぇはそうやってメソメソ泣く為にここに来たのか？」 モア「（項垂れて）・・・ごめんなさい・・・」 クルル「（モアに顔を向け、きつい口調で）だからよぉ、いちいち謝んじゃねぇって何度言ったら解るんだ!?」 言葉もなく、両の瞼を固く閉じるモア。 奥歯を噛み、口許を、グッ、と結んで俯く。微かに震える肩。 ふう、と溜め息を吐き、数歩前に進んで再度立ち止まるクルル。 クルル「（振り向かず）・・・モア、ちょっと来い。話がある」 顔を上げ、クルルの背中を見詰めるモア。 一度頷いてから、彼のすぐ後ろに立つ。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・客室（出張クルルズ＝ラボ） ホテルの一室、５台のノートパソコンがベッドの上や机に乗っている。 ケーブルで繋がれたパソコン同志の画面が、常にウィンドゥを開けたり閉めたりの動作。 数字列のスクロール、自動計算やデータ算出を繰り返すのもある。 その中のベッド上の１台の前に座り、キーボードを打っているクルル。 すぐ横にモアが座り、膝を崩してクルルの操作する画面を凝視する。 クルル、横に置いていた透明な楕円形のプラケースを出す。中には黒い鉄片。 クルル「（ケースをモアに渡し）見てみろ、何の鉄クズだか解るか？」 モア「（じっ、と凝視して）・・・タングステン鉱石から抽出した鉄鉱と似てますね。でもそれほど硬度は高くなさそ うです。どちらかと言えば、アルミ合金に近いような・・・（クルルを見て）地球の鉱物ではありませんね」 クルル「流石、よく解ったな。種明かしをすりゃあな、こいつは俺たちの乗ってきた宇宙船の貨物室から見付か ったんだ。その一欠けをコッソリと拝借してきたって寸法よ」 モア「（不思議そうに）・・・貨物室、ですか？」 クルル「宇宙アブ生体反応確認のデータをディスクにコピーしてきたんだがよぉ・・・（画面のウィンドゥを指差し） 今、時間を逆にして再生するぜぇ」 宇宙船内見取り図の画面を、無数の白い点が動き回っている。 それが段々と一箇所に集まり始め、最後にある部屋で一点に纏まる。 モア「（息を飲んで）まさか！」 クルル「（ニッ、と笑い）その“まさか”だぜぇ。宇宙アブの発生源は貨物室だ」 モア「・・・ロビーで聞いたケロン軍の情報と同じですね。じゃあ、これは同じ人物か組織による同時多発攻撃、 って訳ですか？ その一環として、私たちの船が狙われたと・・・」 クルル「同時攻撃のターゲットはケロン軍全体だ。あの船がケロン軍保有の船だからな、そう考えるのが自然 なんだが・・・（声を落とし）俺の考えだが、先輩たちが直接狙われた、と見てる」 モア「ギロロさんと夏美さんが？ そんな・・・誰に狙われたんでしょうか？」 クルル「犯人の目星はついてる。その証拠が、この鉄クズなんだぜぇ」 モア「・・・証拠？」 クルル「これを見な。（パソコンのキーボードを叩き）貨物室から見付かった鉄クズの、成分解析データがこれ ・・・んでこっちは・・・ペコポンに戦艦で乗り付けてきやがった、あのイカレた野郎の落ちた戦艦から拾っ た・・・いくつかの鉄クズのデータの内のひとつがこれだ」 画面にふたつ並んだ円グラフ。いくつかに分割されて色分けされて、成分名が書かれている。 両方を見比べて、両目を素早く動かすモア。 モア「（驚いて）まったく一緒です！」 クルル「そうだ。んじゃあ質問・・・ペコポンに乗り込んできた戦艦の持ち主は誰だった？」 直後、ゆっくりと目を丸く見開くモア。 口を半開きにして、茫然とクルルを見詰めている。 クルル「判ったようだな。そう、“奴”は生きてやがる。恐らく貨物室の鉄クズは、宇宙アブを仕込んだ容器の欠 片だったんだろうな。それをケロン軍の宇宙船なんかに仕掛ける。時間が経てば中の害虫が目覚める ようにしてな。あんだけ大量にいやがったから、もしかしたら卵の状態から孵化させたのかもよ。ま、ツマ んねぇことしか出来なかった野郎だからなぁ。遣り方もいちいちツマんねぇぜぇ」 モア「・・・確か夏美さんの話だと、その人がリゾート惑星で襲ってきて、ギロロさんとふたりで戦艦を撃破して破 壊したんですよね・・・（声を震わせ）じゃ、じゃあ、その時の復讐なんですか？ これから幸せになろうって いうふたりに対して、宇宙アブを使って攻撃してきたんですか？」 クルル「（冷静に）“奴”の本当の目的は判らねぇ。ただよ、先輩たちをヒデェ目に遭わせる為に、ケロン全体を 無差別に襲撃しそうな野郎ではあるがよぉ」 顔を伏せ、両拳を膝の上で、グッ、と強く握るモア。 クルル「あともいっちょ。俺の読みだと、明日の式本番を狙って“奴”が襲撃してくると見ている。ここのパソコン で、この惑星の周囲２パーセクまで探索してんだがよ、何回か“奴”の認識コードに近ぇ反応があったみ てぇだ。またあん時と同じ、デッケぇ船で乗り込んでくるかもなぁ」 モア、眉を寄せて瞼を半分閉じ、徐々に怒りの色に瞳を染めていく。 モア「（重い声で）そんなの・・・絶対許せません・・・夏美さんとギロロさんの幸せを踏み潰すような愚行・・・（顔 を上げ、大声で）私が身体を張ってでも止めてみせます！」 クルル「（ピッ、とモアに指を向け）落ち着けよモア、おめぇ、この惑星ごとブッ壊すつもりか？ 今回のおめぇの 仕事は、破壊でも“星の断罪”でもねぇ。もっと別なモンだ。その話をする為に、今おめぇをここに呼んだ んだ」 落ち着きを取り戻していくモア、クルルと視線を絡める。 拳に込めた力を抜き、きょとん、とした柔らかい表情へと変化する。 クルル「（指を下ろし）俺たちからの『結婚祝い』・・・今晩中に完成させるぜぇ」 モア「（驚いて）ええっ!? もうそんなに進んでたんですか？」 クルル「まあな。こっちに来る前に、粗方完成させて先輩の武器庫に移動しといた。先輩と日向夏美にも、既に 操作マニュアルを渡して伝えてある。後はこっからパソコンで、システムの再構築と全アプリケーションの 動作確認・・・そしてモア、おめぇがエナジーデータの最終確認と、全ユニットとの連携チェックをしろ。いい な？」 モア「（明るい声で）はい！ でも、時間掛かりそうですね？」 クルル「取り敢えず、夕方まで作業を続行するぜぇ。そんでも終わんねぇだろうから、後は夕飯食ってから続き をやる。徹夜してでも明日の式に間に合わすつもりだからよぉ」 モア「そしたら私も、徹夜、お付き合いしますよ。（笑顔で）てゆうかぁ、共同作業？」 クルル、モアを見詰めて、ニッ、と笑う。 クルル「（少し籠った声で）・・・そんでいいんだ」 モア「えっ？」 クルル「おめぇはな・・・そんな風に馬鹿みてぇにニコニコしてりゃいいんだ」 モア「（穏やかな笑みで）クルルさん・・・」 クルル「おめぇの真っ直ぐな目は苦手だがよぉ・・・泣いてんのはもっと苦手だ。だからよ・・・（身体をパソコンに 向け、ボソッと）いちいち謝ったりメソメソすんじゃねぇぞ・・・」 クルルの横顔を見詰め、ゆっくりと優しい笑顔を浮かべるモア。 少し潤んだ瞳で、彼に眼差しを注ぐ。 モア「（明瞭な声で）了解ですっ！」 クルル「（小さく頷いて）・・・解りゃいいんだ」 モア「ところでクルルさん、（首を傾げて）お腹、空いてませんか？」 クルル「あ？ ああ、昼飯食ってからボチボチ過ぎてっからなぁ」 モア「ここのホテルのベーカリーで、すっごく美味しいカレーパンがあるんですって。私も小腹が空いたので、 ちょっと買ってきますか？」 クルル「（手を止めて）・・・おめぇのオゴリなら食ってやるぜぇ」 モア「（目を細めた笑顔で）はい！ それじゃ、行ってきますねっ！」 軽やかな動作でベッドを降り、いそいそと靴を履いてドアに向かうモア。 ノブを握って一旦振り向き、クルルを真っ直ぐに見る。 ちら、と彼女と視線を一瞬だけ合わせて、再びパソコンの画面を見るクルル。 ニッコリと笑みを浮かべ、扉を開けて廊下に出るモア。ゆっくりとドアを閉める。 カシン、と扉が閉まる音が室内に響く。 キーボードを打つ手を再び止め、胡坐をかいた膝の上に両掌を乗せるクルル。 ふうう、と長い溜め息を吐く。 クルル「（自嘲気味に）・・・ったく・・・らしくねぇったらよぉ・・・」 そのままパソコンの画面に目線を投げているクルル。 脳裏にモアの笑顔や仕草が矢継ぎ早に浮かび、消えるのを繰り返している。 頭を無造作に掻き、腕組みをして、クッ、と短く笑う。 クルル「・・・俺も先輩のこと、どうこう言えねぇよなぁ・・・」 再度、ククッ、と呆れたような笑いを漏らすクルル。 目の前のパソコンが、それに反応したように、ピピッ、と音を放つ。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・メインロビー 夕方、ロビーに再び集まったケロロたち一同。ケロロを除く全員が椅子に座っている。 落ち着かない様子で、並んでいる椅子とテーブルの間を行ったり来たりしているケロロ。 眉間に皺を寄せて、時々立ち止まっては溜め息を漏らしている。 それ以外のメンバーも、いずれも笑みはなく、誰も言葉を発しない。 タママ「（ケロロを見て）落ち着きましょうよぉ、軍曹さん」 タルル「そーっすよ。看護長もボチボチ戻ってくる頃っすよ」 ケロロ「（ふたりを見て、立ち止まり）いや、解ってんだけどさぁ。あれから全然連絡ないじゃん。今夜はパーティ ー会場とかバイキングとか予約してんだけど・・・キャンセルしといた方がいいかなぁ」 トロロ「もったいないヨ、せめてご馳走だけでも食べようヨォ」 クルル「（椅子に反り返って）クソガキにしちゃ真面な意見だな」 トロロ「（睨んで）クソガキって言うなヨ！」 クルル「（ケロロを見て）とにかく落ち着けよ隊長。どっちにしろ夕飯は食わにゃなんねぇだろ。クリスマスパーテ ィーじゃなくてもよ、メシ食うのには問題ねぇよ」 冬樹「僕も同じ意見だよ、軍曹。それに、あと10分で会場準備も終わるみたいだから、今からキャンセルは難し いんじゃないかな？」 ケロロ「（唸って）・・・そーでありますなぁ・・・」 プルル「みんな、こんなとこでどうしたの？」 突然のプルルの声に、跳び上がらんばかりに驚く一同。 ケロロ、本当に跳び上がって驚愕し、ロビーの柱の陰から歩み寄ってくるプルルを凝視する。 全員の視線が集中する中、きょとん、とした顔で一同を見回すプルル。 プルル「そろそろパーティーの時間でしょ？ 早く会場に行かないと」 ケロロ「（目を剥いて）プッ、プッ、プルルちゃん！ いつの間に帰ってきたの!?」 プルル「今さっきよ。そんなに驚かれるなんて・・・（眉を寄せて）ケロロくん、私の話でもしてたんでしょ？ 変な 話でもしてたの？」 ケロロ「（首をブンブンと振って）いやいやいや！ してないってばさ！」 夏美「お帰り、プルルちゃん。みんなプルルちゃんが着くのを待ってたのよ」 プルル「あ、そうなんだ。ごめんなさいね、お待たせしちゃったみたいで・・・（ケロロを再度見て）そう言えばさっ き、キャンセルがどうこう、って聞こえたんだけど？」 ケロロ「あ、いや、その、クリスマスパーティーじゃなくって、フツーの夕食ってことにしよーかなー、なんて話し てたんだけどさ・・・」 プルル「あら？ それはもったいないわね。私もパーティー楽しみにしてきたのに・・・（柱の陰を振り向いて） 隊長もそうですよね？」 全員が、ハッ、として目を見開き、プルルと同じ方向に視線を投げる。 途端。 ゆっくりとした、しかし確かな足取りで姿を現わすガルル。 ほとんど一斉に椅子から立ち上がる一同。ガタガタッ、と椅子を動かす音がロビーに溢れる。 後ろ手に組んで歩を進め、プルルの横に立つガルル。背筋を伸ばして全員を見渡す。 ギロロ「（大声で）ガルルッ！」 夏美「（嬉しそうに）お義兄さんっ！ もう大丈夫なのっ!?」 ガルル「（ニッ、と笑い）見ての通りだ。怪我はおろか、体調も以前より良いくらいだよ」 プルル「流石はニモリトマの医療技術は凄いわね。ケロンも見習うべきとこがたくさんあるわ」 ギロロ「それにしても・・・何も柱の陰で待機しなくてもよかろう。気を持たせおって」 ガルル「（目を細め）少しは心配でもしたか？ ギロロ」 ギロロ「（慌てて）だッ！ 誰が貴様の心配なんぞ！」 夏美「ホントは心配だったのよ、ギロロったら。こーいう時、あたしに対しての半分でも素直になればいいのに ・・・（微笑んで）でも良かった、お義兄さんが戻ってきて」 ガルル「すまなかったな。だが、もう大丈夫だ」 ガルルの眼前に進み出て、横一列になるプルル、タルル、ゾルル、トロロ。 プルルが敬礼をし、他のメンバーも続く。敬礼を返すガルル。 プルル「改めて・・・お帰りなさいませ、ガルル隊長」 ガルル「うむ。留守中、ご苦労だった。以降は再び、私が指揮を執る」 敬礼を解くガルル。小隊メンバーも続いて腕を下ろす。 ガルルに近寄ってくるケロロと冬樹。ふたりを見て頷くガルル。 ケロロ「（短く敬礼）お帰りなさいであります、ガルル中尉殿。船での指揮権を譲渡して下さり、感謝申し上げる であります」 ガルル「（短く敬礼を返し）代行、お疲れ様でした、ケロロ軍曹殿。いろいろありましたが、作戦完了までは緊張 感を保ち続けるように。しかし、折角の今晩のパーティーは実施して頂きたい。何しろ病院食は薄味で 私の口には合いませんでな。早々に出てまいりましたよ。それにペコポンの行事である“クリスマス”と やらを経験するのは初めてですから、期待していたのですよ」 ケロロ「（笑顔で）それはそれは。もちろん、楽しいパーティーにしますよー」 冬樹「（少し屈んで）それより、ねぇ中尉、早く行ってあげて・・・（目線で後方を示す）」 冬樹の言葉を合図に、全員が中央に道を開ける。 その向こう、立ち竦んだままただガルルを見詰め続ける秋がいる。 瞳を震わせ、下瞼に涙をいっぱいに溜め、今にも溢れそうな状態。 ゆっくりと柔らかな微笑みを浮かべ、目を細める秋。 静かな足音を立て、一歩ずつ噛み締めるように歩み寄っていくガルル。 それに呼応するかのように、両膝を床に着いて身体を前に傾ける秋。 秋の膝のすぐ前で、ピタ、と足を停めるガルル。 暫くの間、眼差しを絡め合うふたり。 ガルル「（落ち着いた声で）・・・ご心配を、お掛けしました・・・」 深々と頭を下げるガルル。 彼が頭を戻すのを見計らって、緩やかに両手を伸ばし、ガルルを腕の中に抱き締める秋。 自分が彼に覆い被さるようになり、全身で包み込んでいる。 すぅ、と秋の両目から涙が零れ落ち、線を成す。一筋、二筋と流れる涙。 秋「（泣きながら、笑顔で）・・・お帰りなさい・・・ガルちゃん・・・」 申し訳なさそうに顔を伏せ、目を閉じるガルル。 それを微笑んで見詰める、他のメンバーたち。 くるり、と全員に向き直り、右腕を突き上げるケロロ。 ケロロ「（満面の笑みで）そんじゃ諸君！ パーティー会場に移動でありますッ！」 返事と歓声が、ロビーに響き渡る。 いそいそと移動する準備をする一同。ニコニコとして先陣を切るケロロとタママ。 ガルル、秋が腕を解いた後に頷き合い、それからギロロと夏美に近付く。 ガルル「明日の準備は万全かね？ ふたりとも」 ギロロ「問題ない。やるべきことはすべてやった。あとは式本番のみだ」 夏美「（頷いて）とにかく今夜は、みんなで楽しみましょ」 ガルル「うむ、そうだな。明日の格式の前に、今日の無礼講を味わうとしよう・・・（咳払いをして）さて、それじゃ あ私も、パーティーでは隠し芸のひとつでも披露しようか」 ピキッ、と顔を思い切り強張らせて固まる、ギロロと傍らのガルル小隊一同。 大慌てでガルルの許に寄ってくる小隊メンバーたち。 プルル「（固まった笑顔で）た、た、隊長はまだ完全復調じゃありませんよねっ!?」 タルル「（冷や汗を垂らして）そ、そーっすよ！ 無理はよくないっす！」 ガルル「（怪訝そうに）何を言う、無理ではない。折角の目出度い機会だからな」 トロロ「（半泣きで）思い直してヨ隊長ォ・・・」 ゾルル「・・・先に休んだ方がいい、隊長・・・」 ガルル「（ふう、と息をつき）気を遣ってくれるのはありがたいが、そんなに柔な身体ではないぞ、私は。（夏美 を見て）僭越ながら、後ほどひとつ披露させて頂きたい。よろしいかな？」 夏美「ええ、楽しみにしてるわ。宇宙船ではお義兄さん、呑んでるだけだったし」 頷いてその場を離れ、秋の許に再び歩み寄るガルル。 互いに顔を見合わせて俯き、頭上に陰と縦線を乗せているプルル、タルル、トロロ、ゾルル。 不思議そうにそれを見てから、ギロロに視線を移す夏美。 ギロロ「（顔面蒼白で）夏美、悪いことは言わん・・・ガルルの芸を見たらすぐに忘れるんだ」 夏美「へ？ どうしてよ？」 ギロロ「・・・パーティーの時に解る・・・」 【Ｎ】「そしてその言葉の意味を、クリスマスパーティーの最中に知ることになる夏美ちゃんでした。そしてその 場に居合わせた冬樹くんは、後に語ります・・・」 冬樹「・・・あん時、ウケてたのはママだけでした・・・何しろ、中尉の後にやった軍曹の隠し芸が反動でバカウケ だったほどで、軍曹、感激のあまり泣きっ放しだったんだ・・・中尉の芸、あれは恐怖以外の何物でもない よ。思い出すだけでも・・・（ブルッ、と震えて）うわぁ！ これ以上は僕も話したくないよ・・・」 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・ロイヤルエクセレントスイート 【Ｎ】「史上稀に見る伝説を作り出したクリスマスパーティーの翌朝・・・はい、いよいよこの日が来ましたね。 ギロロ伍長と夏美ちゃんの結婚式当日の朝となりました」 朝陽に照らされるカーテンの向こうから、鳥の鳴き声が聞こえる。 掛け布団から身体を出し、ダブルベッドの上で胡坐をかいて座るギロロ。 傍らの、布団から出ている夏美の肩に目をやり、布団を引き上げて掛け直す。 すると、咽喉の奥を鳴らし、身体を仰向けにしてから、夏美が目を開ける。 ギロロ「（優しい声で）おはよう、夏美」 夏美「（緩やかに微笑んで）・・・おはよ、ギロロ・・・」 ギロロ「（夏美の肩に手を触れ）少し冷えたようだな。シャワーで温まるといい」 夏美「うん・・・ありがと」 目を細めて、笑顔で頷くギロロ。 横になったまま、彼を見詰めて満面の笑みを浮かべる夏美。 ギロロ「（真剣な表情で）いよいよだな」 夏美「（眉を引き締めて）うん、いよいよね」 ギロロ「昨日話した通り、準備は万全にしておく。ここで決着を付けるぞ」 夏美「そうね。みんなにこれ以上迷惑を掛けないようにしなきゃ」 ギロロ「そして今日が・・・俺たちの新しい第一歩だ」 夏美「ええ・・・一生忘れない日に、なるわね・・・」 夏美の首筋に、そっ、と手を当てて、引き寄せながら自分も顔を近付けるギロロ。 両目を閉じ、首を傾けてギロロの唇を受け入れる夏美。 暫くそのままで、動かない。 ゆっくりと唇を離し、間近で微笑み合うふたり。 夏美「じゃ、一緒にシャワー浴びよっか？」 バッ、と勢い良く布団を跳ね除ける夏美。 途端にギロロ、瞬間的に全身真っ赤になり、頭から湯気を噴く。 ギロロ「（慌てて）ま、ままま待てッ！ 何か羽織れッ！」 夏美「（口を尖らせて）いいじゃない、すぐそこなんだから。第一さ、今更照れてどーすんのよ。ギロロったら“い ざ”って時には全然照れないのに・・・まあ、いいわ。（ギロロを抱き上げ）とにかく行きましょ？」 ギロロ「（熱を発し）ちょ！ ちょっと待ってくれぇ！」 夏美の胸に埋められ、手足をバタつかせるギロロ。 嬉しそうに満面の笑みで部屋を横切り、シャワールームの扉を開ける夏美。 ★ ニモリトマ中央インペリアルホテル・屋外式場 【Ｎ】「そして・・・地球の日向家時間で12月25日午前10時・・・祝典惑星ニモリトマ、中央インペリアルホテルの 屋外式場に於いて、ギロロ伍長と日向夏美ちゃんの華燭の典が、いよいよ執り行われようとしています。 天気は晴れ、多少の雲あり、風は微風、気温は春の陽気・・・」 式場のステージに祭壇が置かれ、そこに水晶で出来たケロン人型の彫像が乗っている。 祭壇前からステージ、通路に伸びる、えんじ色のヴァージンロード。 中央の通路に敷き詰められ、会場端のアーチから先の下り階段まで敷設されている。 鉄製アーチは色とりどりの花で飾り付けられ、式場の随所にもプランターが並べられている。 ステージ横では、プルルとホテル側スタッフ数名が打ち合わせ中。 客席には、総勢60名ほどのケロン人と、冬樹たち地球人がひしめく。 ベンチに座った秋の周りに集まっている、ギロ/ガル父と母、ケロロ父、ドロロ母。 和やかに笑顔を交しながら、時折声を上げて笑って話をしている。 桃華、モア、小雪は３人で並んでベンチに座り、開式をワクワクしながら待っている。 通路からベンチ、会場内を落ち着いた足取りでを歩き回っているガルル。 同僚と思しきケロン人数名と会話して、挨拶をしてその場を離れる。 ピピッ、と腕の通信機の呼び出し音。すぐ様、応答のスウィッチを入れる。 ガルル「（低い声で）現状を報告せよ」 ゾルル『・・・異状、なし・・・以降も警戒を、続行する・・・』 ガルル「頼むぞ。君は式の最中も警戒を続け給え。タルルは式が始まり次第、参列してもらいたい。以上だ」 ゾルル『・・・了解・・・』 タルル『ＯＫっす』 通信機を切るガルル。そこに、ケロロが歩み寄ってくる。 ケロロ「こっちも異状はないであります。ドロロは警戒に就かせた方がいいでありますかね？」 ガルル「いや、彼はギロロの親友だ。開式次第、参列させてもらいたい。後はゾルルに就かせる」 ケロロ「了解であります。（眉を顰め）しっかし・・・本当に来るんでありましょうか？」 ガルル「“奴”の執念深さは相当だ。今回の同時多発攻撃の対象が我が弟夫婦と推察される以上、警戒する に越したことはない。もしもの時は・・・（ケロロを見て）ご協力、お願いしますよ」 ケロロ「（敬礼をして）無論であります」 最前列ベンチの端で、ノートパソコンを操作しているトロロ。 そこに近寄っていくクルル。欠伸をして、眠気を覚えている様子。 トロロ「（睨んで）何だヨ、こっち来んなヨ」 クルル「おめぇは何やってんだ？ ゲームなら部屋でやってろよ（欠伸をする）」 トロロ「へん！ ボクはこの星の中央セキュリティシステムの監視やってんだヨ。仕事のしないヤツは部屋で寝 てろヨッ。プププ～」 クルル「あ、そ。ま、精々頑張んなさいね～（踵を返して立ち去る）」 トロロ「（怒った顔で）・・・んだい、バカにして！」 会話の治まらない会場内。 プルル、白い表紙のファイルを持って壇上に上がる。 祭壇側方に設置されたマイクスタンドの前に立ち、咳払いをひとつする。 プルル『ご参列の皆様、間もなく開式のお時間です。ご着席の上、もう暫くお待ち下さい』 次々とベンチに着席していく参列者たち。 ステージに近い方にケロン人、後方に地球人という座席配分。 60数名の参列者全員が着席を完了し、段々と静かになっていく。 暫くの間、沈黙が支配する。 会場を一通り見回して、ステージ横のスタッフに目で合図をするプルル。 プルル『（凛とした声で）それでは！ 只今より、新郎新婦の入場です！ 盛大な拍手を持ってお迎え 下さい！』 音響機器のスウィッチを操作するホテルスタッフ。 会場のあちこちに設置されたスピーカーから、場内に高らかに鳴り響くファンファーレ。 一斉に全員の視線が、後方のアーチに集中する。 やがて。 その向こうの階段から、一歩一歩確実に昇って姿を現わすギロロと夏美。 ギロロは白いタキシード、真っ赤になり緊張で表情が強張ったまま。 夏美は純白のドレス、両肩を出した衣装を、ふわり、と全身に柔らかく纏っている。 頭には銀色のティアラ、そこから長く背中の方に伸びるヴェール。 はにかんで温かい微笑みを湛え、傍らのギロロを優しい眼差しで見詰める。 姿が段々と見えてくる中、目を丸くしてふたりを凝視する参列者たち。 そしてアーチの真下にふたりが並んで立った途端、割れんばかりの拍手と大喝采。 桃華、小雪、モアは揃って夏美に見惚れ、声も出せずに瞳を潤ませて見詰める。 ふたりがヴァージンロードを再び歩き出そうと、数歩進める。 直後。 グオォォォォン!!!と何かが炸裂するような、大爆音。 会場内の全員が表情を一変させ、後方の箱庭の上空、遥かに高い位置を注視する。 止まる音楽。思わず立ち上がって通路に飛び出すガルル。 ギロロと夏美、その場で、くるっ、と後ろに身体を返す。 式場より距離1000ほど、その300ほど上空の宙が、上部に凹んで渦を巻く。 漆黒の中心部から凄まじい放電が起こり、バリバリバリッ！と雷を落とす。 そして渦の中心から、ヌーッ、と姿を出し始める漆黒の鉄の塊。 徐々にその姿が大きく長くなり始め、とんでもなく巨大な宇宙戦艦と思しきフォルムとなる。 ギロロ、表情を落ち着かせたまま、右手にスカルマーク入りのスウィッチを転送させる。 ギロロ「行くぞ、夏美。出迎えてやろう」 夏美「（スウィッチを受け取り）ええ、そしてすぐに帰ってもらいましょ」 ガルル、駆け寄ってきたケロロと向かい合う。 ガルル「即、迎撃体制に移行するように！ （会場内に大声で）武器を準備出来る者は全員装備して頂きた い！ それ以外の者は至急避難を・・・」 途端。 バシュウウウッ！とアーチの方面から光が湧き上がる。 驚いて場内の全員が注目する中に現れる、パワードスーツ姿の夏美。 ギロロはタキシードから、普段の姿に飛行ユニットを装備した状態となる。 あまりのことに、声を失ってふたりを見詰める参列者。 ガルル「（走り寄って）何のつもりだ！ ふたりとも！」 ギロロ「俺たちへの客だ。出迎えてやらねばな」 ケロロ「（駆け寄って）ダメだよギロロ！ 戦闘は我輩たちに任せて、ふたりはここで・・・」 夏美「大丈夫よ、ボケガエル。ギロロとあたしは“無敵”だから。すぐに終わらすわ」 ケロロ「夏美殿まで！ そんなこと言っても折角の式なんだから・・・」 突然、人だかりの後ろの方から掻き分けて、ふたりの前に登場するクルル。 右手で空を、トントン、と切るようなポーズで現れる。 クルル「（軽い口調で）・・・ヨォヨォヨォ、ちょーっとゴメンよ皆の衆」 彼の姿を確認して、客席からクルルの後ろに立つモア。 ギロロと夏美を見て、大きく一度欠伸をするクルル。笑顔のモア。 クルル「先輩、俺とモアからの『結婚祝い』、受け取ってくれっかねぇ？」 ギロロ「（驚いて）完成したのかッ？」 モア「ええ、もう使えますよ。てゆうかぁ、準備万端？」 夏美「（明るい声で）ありがとう、クルル、モアちゃん。これで速攻で決められそうね」 眼差しを絡め合い、笑みを浮かべて頷き合うギロロと夏美。 客席を見回して、不敵な笑顔を浮かべる。 ギロロ「（大声で）悪いが皆は、ここで待っていてくれ！ すぐに戻るッ！」 夏美「（大声で）反って危ないから、戦闘中は上にはこないでねっ！」 そしてもう一度見詰め合い、それから上空に姿を現わしつつある戦艦を睨む。 キッ、と眉を寄せ、飛行ユニットの羽根を大きく開くふたり。 静かに、スゥーッ、と宙に浮かんで、そのまま垂直に上昇していく。 それを、驚きと心配の入り混じった目線で追う、会場内の参列者全員。 ガルル「（クルルを見て）何を渡したんだ、クルル？」 クルル「（欠伸をして）ま、見てりゃ判るって。それとよ、さっき言われた通り間違っても上には行かねぇこった な。気持ちは判るが、巻き込まれたら一巻の終わりだぜぇ。く～っくっくっくっく・・・」 【Ｎ】「招からざる客の襲来・・・果たしてギロロ伍長と夏美ちゃんの結婚式は無事完了出来るのか？ そして クルル曹長とモアちゃんの渡した『結婚祝い』とは何か？ すべては次回、明らかにされます。乞うご期 待！ そして、あなたたちは“無敵の光”を見る―――」 To be continued... [chapter05] |
