|
★ サロン型準光速宇宙船・中央談話室
眉を顰めて、腕の通信機に目をやるケロロ。 ケロロ「（茫然と）何で、宇宙アブが船内に・・・どっから入ったの？」 ドロロ『恐らく、船内の何処かに成虫が卵を産み落とし、それが孵化したか・・・あるいは人為的な可能性も考え られるでござる』 ケロロ「（驚き）人為的ぃ!? じゃ、じゃあさ、誰かが狙って仕掛けたのッ!?」 ドロロ『あくまで可能性の一環と申し上げたまで・・・それより隊長殿、かなりの数を撃退したものの、未だ相当 数が船内にいる模様。拙者と小雪殿は引き続き宇宙アブ掃討を続行する所存でござる。しかしこれだけ 広い船内、アブはあちこちに飛来していると思われる。手分けして駆逐をお願いいたす！』 ケロロ「（頷いて）判った。こっちからも退治しに出るよ。何か見付けたらすぐに連絡頂戴！ 頼むよドロロッ！」 ドロロ『承知ッ！』 ピッ、と通信が切れる。 直後、大急ぎで押してきた卵型医療ポッドの電源を入れ、透明なカバーを開けるモア。 全員の視線が集中する中、荒い息を繰り返すガルルの傍らに片膝を付くクルル。 ガルルの左手の脈を確認し、肩から首筋に掛けての傷口を凝視する。 眉を思い切り顰め、こめかみから汗が伝うクルル。モアに目配せをする。 頷いたモア、ガルルの身体を、そっ、と持ち上げて、ポッド内に寝せる。 カバーを閉め、素早くポッド側方の設定パネルを操作するモア。 内側に寝せられたガルルの身体が、自動的にベルトで固定される。 傷口に向かってロボットアームが伸び、消毒液を噴き掛け始める。 未だに茫然とそれを見て、凍り付いた表情の秋。 両膝を床に付いたままの姿勢、瞳は焦点が合っていない。 夏美「（秋の横に跪き、肩に手を掛け）ママ・・・しっかりして・・・」 冬樹「（もう片側に屈み）大丈夫だよ、ママ・・・ケロンの医療ポッドの性能は凄い、って軍曹言ってたもの・・・」 秋の眼前に寄ってくるケロロ、ギロロ。 虚ろに彼らを見ている秋。 ギロロ「（しっかりとした目線で）ガルルはこれしきのことでやられる奴ではない。仮にも“ゲロモンの悪夢”のふ たつ名を持つ男だ。何度も俺以上に死線をくぐり抜けてきた。だから・・・信じてやれ、奴の復帰を」 ケロロ「（大きく頷き）ギロロの言う通りでありますよ、ママ殿。名を聞けば敵性宇宙人の大部分は震えて逃げ 出す、あのガルル中尉がここでリタイヤするなどあり得ないのであります！ そしてどうか、ケロン医療 技術を信じて・・・」 グッ、と拳を握って、言葉に力を込めるケロロ。 途端。 医療ポッド内で苦しそうに息を上げているガルル、目を開けて僅かに首を向ける。 モア「（驚いて）ガルルさん！」 その声に、ビクッ、と反応した秋、血色の戻った視線をガルルに向ける。 ガバッ、と大きな動作で医療ポッドに飛び付き、今にも泣きそうな瞳で彼を見詰める。 続けてポッド周囲に群がる一同。 ガルル『（秋を見て）・・・醜態を晒してしまい・・・申し訳ない・・・』 秋「（声を震わせて）・・・ガルちゃん・・・」 ガルル『ケロロ隊長・・・お願いがある・・・』 ケロロ「（身を乗り出し）はっ！ 何なりと！」 ガルル『只今よりこの宇宙船での全権限を一任したい・・・事は一刻を争う・・・害虫駆除、頼みました・・・』 ケロロ「（敬礼して）了解でありますッ！」 フッ、と安堵の表情を一瞬見せるガルル。再び仰向けになり、長い息を吐く。 床に叩き付けられた、15cmほどの宇宙アブの遺骸をしゃがんで凝視しているクルル。 立ち上がって渋い表情でケロロに向く。 クルル「隊長、この宇宙アブは厄介だぜぇ。吸血属性がありやがる。しかも天然のビームコーティングされた硬 質の皮膚を持ってっからよ、ケロンの飛び道具のほとんどは効かねぇ。ビームサーベルは例外的に効く みてぇだが、後は物理的に棒や鉄パイプとかでブッ叩いて倒すしかねぇぜ」 ケロロ「（眉を寄せ）確かにそれは厄介でありま・・・（ハッ、と気付き）あ！ 確かここの談話室には掃除道具 あったよね？ モップでもあれば柄が武器になりそーだけど・・・」 部屋の奥にある掃除道具入れに駆け寄るタママ。 中を覗き込み、何かを数えてからケロロを振り向く。 タママ「モップが２本だけですぅ。後は掃除機が一台・・・」 ケロロ「２本だけ・・・（少し考えて）それは、冬樹殿と桃華殿がお持ち下され」 冬樹「（ゴクッ、と唾を飲み）判ったよ、軍曹。でも、姉ちゃんは？」 ギロロ、刃を仕舞ったビームサーベルの柄を夏美に放る。 パシッ！と鮮やかにそれをキャッチして、不敵な笑みを見せる夏美。ギロロを見詰める。 フッ、と軽く笑うギロロ、サバイバルナイフを取り出して、くるっ、と右手で一回転させる。 ギロロ「その気遣いは無用だ、冬樹」 夏美「そうよ。あたしたち夫婦に、武器の心配はいらないわよ」 クルル「（ニッ、と笑い）気が早ぇなオイ。式の前から夫婦呼ばわりかよ」 夏美「ええ、『善は急げ』って言うじゃない？」 クルル「言うねぇ日向夏美、“赤い悪魔”と一緒になるだけのこたぁあるな」 ギロロ「（ケロロを見て）指示を出してくれ、ケロロ」 大きく頷き、一同を見渡して後ろ手に組んで直立するケロロ。 ケロロ「（キッ、と目を据え）ではッ！ ギロロ伍長と夏美殿は、機関室に至急向かうこと！ 宇宙アブが電気系 統を噛み千切る前に、エンジン部の保護を実行！ クルル曹長とモア殿は艦橋に行き、亜空間ドライヴ 航行を維持しつつ、ワープアウト座標を違わぬよう監視！ タママ二等は我輩と、通路にいるアブを完全 に駆逐しながら移動する！ そして冬樹殿と桃華殿！ ふたりはこの談話室入口扉を守護し、室内にア ブが入り込まぬよう撃退すること！ すなわち、ガルル中尉とママ殿を護って頂きたい！ 以上、異議は ないかッ!?」 全員、決意に溢れた表情で頷く。 ケロロ「（秋を見て、優しい声で）ママ殿・・・ガルル中尉を、よろしくであります」 段々と瞳に意志を漲らせ、眉を上げて口許を引き締める秋。 コクン、と明確な動作で頷き、医療ポッド内のガルルを見詰める。 ケロロ「（再度、全員を見渡し）総員、配置に就けッ!!!」 ギロロ・タママ・クルル・モア「「了解ッ!!!」」 【Ｎ】「いきなりの戦闘モード発動に、気合いを込めるケロロ小隊と夏美ちゃん、冬樹くん、桃華ちゃん、そしてモ アちゃんです。さあ、みんな頑張って、宇宙アブを倒しまくってよッ！ あ、私はナレーターですから、ここで 温かく見守ってますね」 ★ サロン型準光速宇宙船・通路 通路を並んで走っていくケロロとタママ。 ケロロは、談話室から持ってきた掃除機を、ガラガラガラ・・・と引き摺りながら走る。 物凄く怪訝そうな表情でそれを見るタママ。 タママ「軍曹さーん、どーすんですかその掃除機ぃ」 ケロロ「（右手人差し指を立てて振り）チッチッチ、読みが甘いなタママ二等。この掃除機が宇宙アブを殲滅させ る最強武器になるんでありますよ。まあ、見ててご覧なさいって」 タママ「（前方を指差し）軍曹さん！ あれ！」 通路の前方、まるで行く手を阻むかのようにいっぱいに広がる宇宙アブの群れ。 急ブレーキを掛けたように、キキィッ、と立ち止まるふたり。 ケロロ「うっしゃあ！ ここが我輩の見せ場ッ！ （掃除機のノズルを構え）部屋に蔓延るノミ、ダニ、シラミから ありとあらゆる害虫を一気に吸い取って駆除するハイパーな吸引力！ これぞ宇宙TVショッピングで過 去最高の売り上げを記録した掃除機、その名も『コスモクリーナーF91』！ それに我輩の、家事で鍛え たお掃除テクニックが加われば、向かうところ敵なぁしッ！」 タママ「（感動の目でケロロを見て）すっごいですぅ！ カッコいいですぅ！」 ケロロ「ゲーロゲロゲロ！ 喰らえぇッ！ 宇宙アブどもぉッ！」 手元のスウィッチを、カチッ、と入れるケロロ。 何も起こらない。 シーン・・・となる通路。アブの羽音だけが不気味に響く。 ケロロ「あれ？ （何度かスウィッチを入り切りして）あれ？ あれ？ おっかしーなー？」 タママ「（物凄いジト目で見て）・・・軍曹さん・・・電源は？」 ケロロ「え？ コード式だけど？」 タママ「どっからコード引いてるんですぅ？」 掃除機全体を見回すケロロ。 沈黙。 沈黙。 ケロロ「（ジト汗）・・・どっからかなー・・・」 いきなり痺れを切らしたように、一斉に襲い掛かってくる宇宙アブの群れ。 ケロロ「（悲鳴）キィィィヤァァァ!!!」 タママ「（バッ、と宙に跳ね）危ない軍曹さんッ！」 空中で、クルッ、と身を翻し、アブに渾身の蹴りを見舞うタママ。 そのまま次、また次とアブを蹴り飛ばし、壁に叩き付ける。 ストッ、と軽やかに着地するタママ。 タママ「（ドスの効いた声で）どっからでも掛かってくるですぅ！」 ケロロ「おおッ！ 流石はタママ二等！ 我輩も負けてられんッ！ （掃除機のホースを握って）うおりゃあああ ああッッ!!!」 全身を使って、気合いでホースを、ブンッ！と振り回すケロロ。 掃除機本体が、ゴッ！と唸りを上げてアブの群れに飛び込んでいく。 バシン！ バシッ！と叩き落される宇宙アブ。床に、ボトボトッ、と落下して動かなくなる。 掃除機を手元に引き寄せて、ニヤ、と笑うケロロ。 ケロロ「（腰に手を当て）ゲーロゲロ！ 思い知ったかコスモクリーナーF91の威力ゥ！」 タママ「（呆れ顔で）・・・明らかに使い方間違ってますけどぉ・・・」 残ったアブの群れ、ふたりに襲い掛かってくる。 ケロロ「フッ、ムダなことを・・・（ホースを振り翳し）そんなアブども、修正してやるゥッ!!!」 全身をバネにして、前方から襲来する宇宙アブに向けてホースを振り下ろすケロロ。 ブオン！と後方から、凄まじい反動で前に飛ぶ掃除機本体。 途端。 スッポーン！ ヒュウゥゥ・・・と軽い音と共にホースが外れ、本体だけが吹っ飛んでいく。 それを何気に避けるアブの群れ。 遥か遠くに落下する掃除機本体。カッシーン・・・カラン・・・カラン・・・と空しい音。 茫然と抜けた顔で、口をあんぐりと開けてそれを見ているケロロとタママ。 ケロロの手元には、ブラーン、と掃除機のホースが垂れ下がって残る。 タママ「・・・軍曹さん・・・ツッコんでいいですかぁ？・・・」 ケロロ「・・・ごめん・・・後にしてくれる？・・・」 気が付くと、更に通路の向こう側から集まってきている無数のアブ。 ひとつの黒い塊になって、未だ数を増やしている模様。 ケロロ「（冷や汗を垂らし）仕方ない・・・“アレ”を使うでありますよ、タママ二等」 タママ「（驚き）ええっ！ でも“アレ”はあまりにも・・・」 ケロロ「この場を乗り切れる、たったひとつの方法でありますよ・・・背に腹は変えられんっつーことで、どっす か？」 タママ「うええ・・・本気ですかぁ・・・」 ブワッ！と、再び襲い来る宇宙アブたち。 羽音も高らかに、一気に突っ込んでくる。 くるうり、と踵を返して、顔面蒼白で元来た通路を走り出すケロロ。 ケロロ「（悲鳴混じりで）逃げるんだよォォォォォォ!!!」 タママ「（慌てて追い）やっぱりそーなんですかぁーっ！」 全力疾走で駆け去っていくケロロとタママ。 獲物とばかりにそれを追い、空中を黒い塊となって飛んでいく宇宙アブ。 静かになる通路。 突然、去っていった通路の奥の方から、ぷちっ、と何かが切れる音。 暫くの間。 通路の遥か向こうから、大慌てで飛んで逃げてくる宇宙アブの群れ。 その後方から、掃除機のホースを、ブンブンブンブンッ、と凄まじく振り回すケロロが追う。 目は血走って丸く見開かれ、顔面に血管を浮き上がらせている。 まるで般若のような、激怒の表情。 ケロロ「（ドスを効かせた声で）家事手伝いを舐めんじゃねぇゴルァァァァァァ!!!!!」 少し遅れて、必死でケロロに追いて走るタママ。 タママ「（半泣きで）軍曹さんが壊れたですぅ！ 怖いですぅ！」 死に物狂いで逃げる宇宙アブたち。 鬼神の如き走りで追い掛けるケロロ。怯えながら追いて走るタママ。 ★ サロン型準光速宇宙船・艦橋 中央の“コの字”型のコンソールの座席に座っているクルルとモア。 目にも止まらぬ速さでキーボードを打っているクルル。 隣で計器類とサブモニターを矢継ぎ早に見て、眉を顰めるモア。 モア「（重い声色で）ワープアウト座標、誤差が３パーセクにまで拡大しました」 クルル「（舌打ちをして）・・・しゃあねぇ、マニュアル操縦に切り替える」 更にキーボードを叩き、パシッ！とエンターキーを打つクルル。 全モニターとサブモニターが一斉に緑色になり、何段かに数字列が並ぶ。 操縦桿を両手で握り、奥歯を噛み締めるクルル。 クルル「・・・正直、このテのヤツぁ苦手なんだがな・・・」 モア「（クルルを見て）クルルさんでも苦手があるんですか？」 クルル「当たり前だ。誰だって苦手くれぇあるだろ。（モアに顔を向け）おめぇの目も苦手だ。混じりッ気のねぇ、 真っ直ぐな目で見やがるからな」 モア「（少し悲し気に）・・・ごめんなさい・・・」 クルル「（口許を歪め）いちいち謝んな、鬱陶しい」 瞳を伏せ、申し訳なさそうな表情になるモア。 正面のモニターに再び目を向けるクルル。 クルル「（小さな声で）・・・だけどよ、今はおめぇが必要だ・・・」 モア「（思わず顔を上げ）えっ？」 クルル「（モアを見詰め）おめぇのその、細けぇ変化も見逃さねぇ“目”が必要だ。この船の命運を握ってるのは 俺たちなんだぜ。ミスは許されねぇ。確実に式場まで辿り着かねぇとな」 クルルを見詰め返し、パアッ、と明るい笑みを浮かべるモア。 モア「・・・クルルさん・・・（キッ、と眉を引き締め）そうですねっ、ギロロさんと夏美さんの結婚式、必ず成功させ なきゃいけません！ （笑顔で）てゆうかぁ、大願成就？」 クルル「（ニッ、と笑い）微妙に違ぇけどよ、まあいいんじゃね？」 再び正面を向くふたり。 操縦桿を握る両掌に力を込めるクルル。 クルル「座標計算、任せた。しくじんじゃねぇぜモア！」 モア「（嬉しそうに）はいっ！」 ★ サロン型準光速宇宙船・中央談話室入口前通路 自動扉の前の通路。静けさが満ちている。 モップを握り締めて背中合わせに立つ冬樹と桃華。 緊張感に支配された表情のふたり。こめかみを汗が伝う。 掌も汗だくになり、ズボンで何度も拭いている冬樹。 桃華「（ちら、と冬樹を振り返り）来ませんね・・・」 冬樹「（ゴクッ、と唾を飲んで）多分、軍曹たちがやっつけてくれてるんだと思う。僕たちに負担を掛けないように してくれてるんだよ、きっと・・・」 桃華「そ、そうですわね」 一旦、両眼を閉じる冬樹。 何かを決意したように眉を寄せ、モップを正眼に構える。 冬樹「（低めの声で）西澤さんは、中に入ってて」 桃華「（驚いて）そんな！ 出来ません！ 冬樹くんひとり残すなんて！」 冬樹「（大声で）いいから入って！」 ビクッ、と一瞬たじろいだように、身体を縮める桃華。 そして向きを変え、冬樹の背中に正対する。 冬樹「大声出してごめんね。でも僕だって男だよ。伍長やみんなみたいに強くないけど、誰も護れないようじゃ 駄目だから・・・それに、西澤さんには怪我してほしくないんだ・・・」 桃華「（瞳を潤ませ）・・・冬樹くん・・・」 冬樹「ここは僕が守る。だからお願い、西澤さんは中で、ママのとこにいてくれるかな・・・」 優しい微笑みを湛え、桃華を振り向く冬樹。 桃華「でも・・・やっぱりそれは・・・（一歩近付く）」 途端。 桃華の背後の通路、上方の空調ダクトのメッシュカバーが、バガン！と外れる。 驚いて振り向くふたりの眼前に、１匹の宇宙アブが登場。 瞬時に距離を詰めて襲い掛かってくるアブに、表情を凍て付かせる桃華。 バッ！と素早く桃華の前に飛び込み、アブにモップの柄を振り下ろす冬樹。 だが、スイッ、と避けられ、一旦ふたりを通り過ぎる宇宙アブ。 そして離れた空中で反転し、再び桃華の背後目掛けて飛来する。 冬樹「（アブの前に飛び込み）しゃがんでっ！」 両目を固く閉じて身を屈める桃華。 モップを振り抜く冬樹。しかしアブはそれをも躱す。 冬樹、二度、三度とアブ目掛けて攻撃を続ける。いずれも当たらず。 歯を食い縛ってモップを振るも、アブはすべて避けている。 直後。 バランスを崩して、前のめりに倒れていく冬樹。 冬樹「うわあっ！」 桃華「（ガバッ、と跳ね起き）冬樹くんっ！」 桃華から数メートル離れた位置で、床にうつ伏せに転ぶ冬樹。 宇宙アブが、空中で一回転して冬樹の背中に襲い掛かっていく。 キンッ！と桃華の表情が一変。髪が逆立って尖る。 目にも止まらぬ動作でアブの直線上に入り込み、瞬時に振り向いてアブを睨む。 モップの柄を最小限度の動きで、ヒュン！と空気を唸らせて振り抜く。 鮮やかに宙でアブを捕らえて、そのままの勢いで右真横に柄を薙ぐ桃華。 バシン！と音を立てて、壁に激突する宇宙アブ。事切れて落下する。 身体を起こす冬樹。打ち付けた時の痛みに顔を顰めて立ち上がる。 桃華の背中に視線を固定し、茫然と見詰める。 ゆっくりと身体を戻し、モップの柄を握った手を下ろす桃華。 冬樹「西澤さん・・・」 裏桃華「（重い声で）・・・何でだよ・・・」 冬樹「え？」 裏桃華「（力を込めて）何で冬樹くんばっかりそんな負担背負わなきゃなんねぇんだよ！」 奥歯を食い縛って、項垂れて足元に目線をやる桃華。 目を見開いて、彼女の背を見詰める冬樹。 裏桃華「男だからああしなきゃ、男だから身体張らなきゃなんて理屈、ただ単に苦しいだけで何の解決にもな らないんじゃねぇか・・・何でそこまで冬樹くんが苦しまなきゃいけねぇんだ？ 冬樹くんだけが辛い思い しなきゃなんねぇんだ？ そんなん、俺は嫌だ・・・絶対に嫌だ・・・それに・・・それに・・・」 くるっ、と冬樹に正対する桃華。彼を真っ直ぐ見詰める。 彼女の両の下瞼には、涙が零れんばかりに溢れている。 言葉もなく、ただ彼女と眼差しを絡める冬樹。 裏桃華「（大声で）誰かを護りたい、って気持ちに、男も女も関係あるかっ!!!」 唇を僅かに開き、息を凝らして両眼を見開く冬樹。 裏桃華「俺はな、あんたの姉さん―――夏美さんを尊敬してるんだ。前に家の敷地でギロロを救出した一部始 終、今でもハッキリ覚えてる。夏美さんはあれだけギロロを愛してるから、どんなことをしても救けたかっ たんだろ？ いくらパワードスーツ着てるからって言ってもよ、あんだけでっけぇ戦艦に単身立ち向かっ ていったなんて・・・凄ぇよ、マジに。性別の差なんて関係ねぇ。んなもんはとっくに超えちまってんだ。 そう、夏美さんは・・・（真剣な表情で）俺の理想なんだ」 冬樹「・・・西澤さん・・・」 裏桃華「俺もあんな風に、何も恐れねぇ気持ちを持ちたいって、いっつも思ってる。いや・・・恐れねぇ、って言う より、怖さとかを捻じ伏せられる・・・（口籠もって）相手を想う心を持ちたい、って・・・考えてる・・・」 ただ、じっ、と彼女を見詰め続ける冬樹。 少し間を空けてから、口許を引き締めて眉を寄せる桃華。決意に溢れた瞳。 裏桃華「（噛み締めるように）冬樹くん・・・俺は・・・あんたを護りたいんだ」 ハッ、と息を飲む冬樹。徐々に大きく開かれる両目。 裏桃華「さっき冬樹くん、俺に怪我してほしくない、って言ってくれた・・・（微笑んで）すっげー嬉しいよ。どうにか なっちまうくらい感激してる。でもよ・・・（顔を曇らせ）俺だって・・・冬樹くんが怪我したり苦しんだりするの は、勘弁願いてぇし、我慢ならねぇんだ・・・そんなん目の当たりにして、冷静でいられるほど割り切った 気持ちじゃねぇから・・・（声を張り上げ）そんな目に遭う前に！ 俺は冬樹くんを護りたい！ 本気で そう思ってる！」 途端、桃華の両目から、ほろっ、と涙が一筋落ちる。 冬樹が眼差しを凍て付かせる前で、二筋、三筋と落涙していく。 両目を固く閉じ、項垂れる桃華。 段々と肩をしゃくり上げ始め、声を押し殺して泣き続ける。 裏桃華「（声を震わせ）・・・だからよぉ・・・自分ばっか追い詰めねぇでくれよぉ・・・俺は・・・冬樹くんが無事なの が一番嬉しいんだから・・・」 ぐっ、と息を飲み、肩を震わせて立ち竦む桃華。 冬樹、数歩歩み寄り、桃華のすぐ前まで近付く。 そして両掌を、そっ、と彼女の肩に起き、柔らかい表情で見詰める。 冬樹「（優しい声で）ありがとう、西澤さん・・・そこまで言ってくれるなんて、僕も嬉しいよ」 桃華の震えが止まる。 おずおずと顔を上げ、泣き腫らした目ですぐ前の彼に視線を固定する。 互いの眼差しを、しっかりと繋ぎ合うふたり。 冬樹「僕は、少し拘り過ぎたみたいだ・・・結果的にそれが、反って君に嫌な思いをさせちゃったんだね・・・だか ら、これからは『男だから護る』って考えは捨てるよ。これからは・・・（キッ、と目線を引き締め）『日向冬樹 として、君を護る』って・・・」 目を丸く見開き、瞳を震わす桃華。 それから両の下瞼を右手で拭い、微かな笑みを口許に浮かべる。 裏桃華「（申し訳なさそうに）こ・・・こういうシーンは、俺には似合わねぇな・・・待っててくれ、今、“表”の俺に代 わるからよ・・・」 冬樹「（首を振り）そのままでいいよ。どっちも同じ西澤さんだから・・・」 裏桃華「えっ？」 冬樹「どっちの西澤さんも、同じ・・・僕にとって大事な人だから、ね」 ニッコリ、と目を細めて、頬を染めて満面の笑みを向ける冬樹。 再度、両方の瞳が潤う桃華。緩やかに髪の逆立ちが解け、尖りがなくなる。 見る見る顔を朱に染め上げ、可愛らしい微笑みを湛える桃華。 桃華「（嬉しそうに）冬樹くん・・・」 直後。 先ほどカバーが外れた空調ダクトから、ブンッ！と１匹の宇宙アブが飛び出す。 瞬時に桃華の背中目掛けて襲い掛かってくる。 羽音に気付き、ハッ、とそれを視界に映すふたり。 ガバッ！と桃華を腕の中に引き入れて、自分が覆うような体制で屈む冬樹。 しかし僅かに遅れ、アブが猛スピードで桃華の左手の甲を掠める。 チッ、と音がして、そのまま宇宙アブは数メートル先まで行き過ぎて、宙に留まる。 桃華の左手を凝視する冬樹。 彼女の左甲、スーッ、と血が浮き出てきて線を成す。 驚いて息を飲み、桃華の顔を見詰める冬樹。唇がワナワナと小刻みに震える。 桃華、首を左右に振ってから、ハンカチを取り出して傷口に被せる。 桃華「（一瞬、顔を顰め）・・・平気です。掠り傷ですわ」 途端、冬樹の表情が一変。 顔を伏せ、顔全体が黒い陰に覆い尽くされる。 ゆらり、と身体を起こし、全身からドス黒いオーラを放ち始める。 空中で羽ばたいている宇宙アブが、怯えたように宙で後退りしていく。 くるん、とアブに身体を返す冬樹。 ビクゥッ！と驚いて跳ね上がる宇宙アブ。冷や汗をダラダラ流す。 暗黒に覆われた顔に、爛々と真っ赤に光る両眼。 凄まじい勢いで、オーラが一際高く立ち昇る。 冬樹「（地の底から響くような声で）・・・桃華ちゃんに・・・怪我させたね？・・・」 悲鳴のような羽音を振り撒き、空中で必死で手足をもがくアブ。 ゆらぁり、ゆらぁり、とアブに近付いていく冬樹。 恐怖の余り、それ以上逃げることが出来なくなっている宇宙アブ。 突然。 通路の奥、アブの背の向こうから、大量の羽音。それが段々と近付いてくる。 見える範囲にまで接近してくる、宇宙アブの相当数の群れ。 それは何かに怯えて、逃げてきているかのような動き。 ケロロ「まああああたあああああんんんんんんかあああああああぁぁぁッッ!!!」 掃除機のホースを、ブンブンブンブンッ！と猛烈に振り回して走り来るケロロ。 血管が顔面に浮き出て、両眼は、カッ！と見開かれて血走っている。 彼から逃げてきた宇宙アブの大群、冬樹の前の１匹の仲間を巻き込んで、過ぎようとする。 しかし進行方向の冬樹の姿を発見し、ビクビクビクゥッ！と大袈裟なほど驚いて跳ねる。 怒りのオーラを全身に纏う冬樹。ゆっくりと歩み寄ってくる。 反対側からはケロロが、般若の形相、殺意全開で迫り来る。 冬樹「（低音の声で）・・・逃がさないよ・・・」 ケロロ「（駆け寄りながら）往生せぇやぁぁぁぁッ!!!」 通路中央に挟み撃ちになり、怯えて辺りをキョロキョロと見回すアブたち。 ふと、頭上にある空調ダクト口を発見。 パニック状態のアブの大群、一斉にダクトに飛び込もうと押し寄せる。 直後。 狭いダクトに入ろうと集中したアブたち、衝突し始める。 あるアブは、ゴン！ ガツン！ ゲン！などと、互いに頭部を思い切りぶつけて落下。 あるアブは、ゴインッ！とダクト横の天井に全身を激突させて落下。 あるアブは、恐慌状態の余り自分から床に自爆して気絶。 見る見るうず高く積まれていく、動かなくなった宇宙アブの躯体。 茫然とそれを見ている、床に屈んだままの桃華。 暫くして、静かになる。 その空間にいた宇宙アブ、全部が気を失って堆積して山となっている。 ケロロ、突然、キキキキィィィッ！と急ブレーキを掛けて停止する。 その音で、ハッ、と我に返る冬樹。 冬樹「（呆けた様子で）・・・あれ？ 軍曹、どうしたの？」 ケロロ「（気を取り戻し）おや？ 冬樹殿、ここで何を・・・」 ふと、同時に宇宙アブが積まれた山を目にして、思い切り驚くふたり。 冬樹「うわあっ！ 何これ？ アブの山ぁ!?」 ケロロ「ゲロォッ！ 一体何事？ （冬樹を見て）冬樹殿が退治したのでありますか？」 冬樹「（首を振って）まさか。僕は１匹も倒せなかったよ」 途端、ケロロが来た通路の向こうから、泣きながら駆け寄ってくるタママ。 そのままふたりを通り過ぎ、桃華に飛び込んでいく。 思わずタママを抱き締め、驚いて見詰める桃華。 桃華「どうしたのタマちゃん？ 何があったの？」 タママ「（泣きじゃくって）怖かったですぅ！ メチャメチャ怖かったんですぅ！」 それを見て、アブの山に目をやってから、コホン、と咳払いするケロロ。 ケロロ「（後ろ手に組んでホースを隠し）ま、まあとにかく、こうして宇宙アブも退治出来たことだし・・・良しとする であります！」 冬樹「ひょっとして軍曹、無意識のウチに全部やっつけちゃったんじゃないの？」 ケロロ「（冷や汗）え？ えーと、そ、そーかも知んないしー、そーでないかも知んないしー」 冬樹「（目を輝かせ）凄いや軍曹！ ケロンスターは伊達じゃないんだね！」 ケロロ「（頭を掻きながら）い、いやー・・・それほどでもぉ・・・（口をモゴモゴさせる）」 タママの頭を撫でながら、眉を思い切り顰める桃華。 桃華「（はあ、と溜め息を吐き）真実は黙っておいた方が良さそうですわね・・・」 突然、ケロロの腕の通信機が、ピーッ、ピーッ、と鳴る。 ドロロ『こちらドロロ、隊長殿、応答されたし』 ケロロ「どしたのー？」 ドロロ『貨物室付近に大量に発生していた宇宙アブ、掃討完了でござる。ただし、ここからダクトの配管に潜り 込んで艦内に散らばった個体が相当数いる模様。拙者と小雪殿はこれから艦内を移動し、二次討伐に 出向く所存。そちらの首尾は如何か？』 ケロロ「（笑顔で）おー、こっちも結構やっつけてるよぉ。各人、いい働きしてるからねー。機関室の夫婦は、多 分今頃退治し終わってこっちに戻るかどーかなんて話してんじゃないの？」 ドロロ『それは重畳。では、完全殲滅まで引き続き掃討続行いたす』 ケロロ「おっけー、こっちはママ殿周囲の警戒にシフトするね。んじゃ頼むよッ、ドロロ」 ドロロ『心得た。では御免！』 ピッ、と通信機を切るケロロ。一同を見回し、一度大きく頷く。 ケロロ「（真剣な表情で）我輩たちは談話室へ戻って、ママ殿とガルル中尉を守護する配置へと就くでありま す。まだまだ奴らは、艦内を飛び回っているでありましょう。艦橋から駆逐完了のサインがあるまでは気 を抜かぬように。では、移動開始ッ！」 引き締まった顔で頷き返す冬樹、桃華、タママ。 ★ サロン型準光速宇宙船・機関室 広い機関室内、中央から奥に掛けて巨大な推進ユニット動力部。 周囲や壁際、通路のあらゆる場所に、配管や配線、パネルが無数に点在する。 入口扉近くに立ち、両目を閉じてビームサーベルを正眼に構える夏美。 機関室奥、赤く小さな影が目にも止まらぬ速度で、縦横無尽に飛び回る。 影に襲い掛かる数匹の宇宙アブ、触れるか触れないかの瞬間に真っ二つに両断されて落ちる。 更に襲う数匹に、タンッ！と配管を蹴って身体を返して向かっていくギロロ。 サバイバルナイフが、キンッ！と煌き、あっと言う間にアブを仕留めていく。 物陰から２匹が、入口に向かって猛スピードで飛ぶ。 ギロロ「（壁を蹴って追い）夏美ッ！」 瞬時に距離を詰め、夏美に襲い掛かる２匹の宇宙アブ。 カッ！と両眼を見開く夏美。 一閃。 真横から切断されて夏美を通り過ぎ、後方の壁に叩き付けられる２匹のアブ。 右側に薙いだままのサーベルを下ろし、身体を起こす夏美。 ストッ、と夏美の眼前に着地するギロロ。 ギロロ「（夏美を見上げ）流石だな。一太刀で決めるとは思わなかった」 夏美「（笑顔で）ありがと。惚れ直した？」 ギロロ「（フッ、と笑い）ああ。この調子だと、これからも惚れ直せそうだな」 夏美「（頬を染め）言ってくれるじゃない」 ギロロ、機関室奥に目をやり、それから周囲を、ぐるり、と見回す。 ギロロ「ここはほぼ制圧出来たと思うが、再度残存を確認する必要がある。被害のない内に掃討を終えたら、 ケロロに連絡するとしよう」 夏美「そしたらどうするの？ どっかに援護に行くの？」 ギロロ「（夏美を見て）いや、ここに残る。宇宙アブが換気口を通って移動してくれば、元も子もないからな。艦 内のアブを完全駆逐するまでは、ここが俺たちの守備領域だ」 夏美「（頷き）オッケー」 そのまま、じっ、とギロロを見詰め続ける夏美。 それに気が付き、彼女と視線を絡めるギロロ。 ギロロ「どうした？」 夏美「（目を細めて）あたしたちってさ、強いのかな？」 ギロロ「（少し考えて）一般的な戦闘能力は決して低くないと思うが・・・それは個々の話だ。組んでの戦闘は、 当事者だけに客観的な判断が難しいな」 夏美「（上目遣いで）うーん・・・難しいかぁ・・・」 ギロロ「ただ、これは言える。以前基地内を占拠した実体型ウィルスを駆逐した時の、お前のバックアップは完 璧だった。無論それだけではない。如何なるケースにせよ、夏美、お前と組んだ時の戦闘では・・・底知 れぬ自信が湧いてくるのは事実だ」 夏美「（ギロロを見詰め）ありがと。ね、ギロロ、あたしもね、アンタと一緒に闘ってる時ってさ、すっごく自信が持 てるの。それってやっぱり・・・アンタだからだ、って思ってるのよ。前にも言ったケド、宇宙広しと言えどあ たしにそんだけチカラをくれるのは、ギロロだけよ」 ギロロ「そうか・・・（フッ、と笑い）精神的に互いを補え合えているならば、俺たちは強い。そう言い切ってもい いだろう」 夏美「だったらさ、そのウチにあたしたちってさ・・・（嬉しそうに）“最強の夫婦”って呼ばれるかもね！」 腕組みをして、口許に笑みを湛えて目を閉じるギロロ。 ギロロ「夏美・・・もっと上を狙ってみんか？」 夏美「えっ？」 ギロロ「（目を開けて、夏美を見て）“最強”は、最も強い、という意味。つまり並び称される存在が現れる可能 性もある。俺はお前を唯一無二の存在として嫁にもらうんだ。他に何人たりとも夏美の位置にまで到達 することなどない、という不変の事実を全宇宙に証明してやりたい気分でいっぱいだ」 夏美「（頬を染め、柔らかく微笑んで）ギロロ・・・」 ギロロ「お前と俺の結び付きが強く、俺たちの右に出る者たちはいない―――そう呼ばれるまでになりたいと、 俺は思う。そういうのを、何と表現するか解るか？」 夏美「（ゴクリ、と唾を飲み）・・・“無敵”？」 ギロロ「（ニッ、と笑い）その通りだ。俺はお前と“無敵の夫婦”になりたいと願う」 僅かの間の後、眉を引き締めて不敵な笑みを浮かべる夏美。 夏美「上等じゃない。それでこそ、宇宙を超えたあたしたち夫婦に相応しいわ」 ギロロ「気に入ってもらえたようだな。なら・・・いずれはそのふたつ名を得られるよう・・・」 夏美「いつでも一緒に、ねっ！（破顔一笑で）」 ギロロ「ああ！ いつでも一緒だ！（目を細める）」 突然、天井の通気口ダクトのメッシュカバーを突き破って、数匹の宇宙アブが飛来。 瞬時にふたりに襲い掛かる。牙を剥くアブたち。 直後。 ふわ、と身体を傾けた夏美と、スッ、と身を沈めたギロロ。 光の軌跡を描くビームサーベル。キラッ、と残像を煌かせるサバイバルナイフ。 一瞬でバラバラになって四散するアブの躯体。 ギロロ「（不敵に笑い）俺たちはッ！」 夏美「（凛とした声で）あたしたちはっ！」 尚も飛来する宇宙アブを、あっという間に捌くふたり。 ギロロ・夏美「「無敵ッ!!!」」 見詰め合い、満面の笑みを交わすギロロと夏美。 ★ サロン型準光速宇宙船・艦橋 手前のコンソールのモニターから、横のサブモニターの画面を交互に見るモア。 軽やかにキーボードの上を動かしていた手を止め、ふう、と息をつく。 それからクルルの横顔に目をやって、口許に笑みを湛える。 モア「座標計算、航路計算終了。ナビシステムに転送します」 クルル「（ニッ、と笑い）上出来だぜぇ。後は俺の操縦次第って訳だ。くっく〜」 モア「（笑顔で）はい、頑張って下さい！」 途端。 モアのすぐ前のモニター画面が赤に染まり、ビーッ、ビーッ、と警告音。 ハッ、と驚いて画面に目をやり、空かさずキーボードを操作するモア。 隣のクルル、操縦桿を握ったままそれを見て、眉を顰める。 クルル「どうした？」 モア「（愕然として）次元磁気嵐です・・・かなり大きい・・・あと５分20秒で遭遇します」 クルル「（舌打ちをして）一難去ってまた一難、ってか。ゴキゲン過ぎて泣けてくるねぇ」 モア「回避航路、再計算します。それでは現在の航路を維持してくれますか？」 クルル「磁気嵐に突入したら、今の状態じゃ持たねぇからな・・・頼むぜ」 目にも止まらぬ速度でキーボードを叩き始めるモア。 正面を見詰めて、眉を顰めこめかみから汗を伝わせるクルル。 １分後、突然サブモニターが点滅して、ピピピッ、とアラーム音を鳴らす。 画面は黄色く変わり、ケロン語の文字が表示される。 それを同時に見るクルルとモア。訝し気な表情で顔を見合す。 クルル「ケロン軍認識コードの亜空間通信だ・・・一体何だってんだ？ （モアを見て）おめぇは計算を続けろ。 俺が出る」 無言で頷いて、引き続きキーボードを操作するモア。 インカムのスウィッチを入れるクルル。 クルル「こちらコードネームK66-PKPNID966、現在亜空間内を移動中。所属を述べろ」 プルル『こちらケロン軍先鋒隊、コードネームGLL-KRNIDPLL、応答願います』 ハッ、と顔を見合すふたり。 クルル「（ニッ、と笑い）漸くのお出迎えかい、プルル看護長さんよぉ」 プルル『あら？ 随分な言い方ね、クルル曹長。亜空間内の磁気嵐、今から航路計算して回避するのは至難 の技よ』 クルル「ほぉ？ 流石だな、もうこっちの状況が把握出来てんかよ。磁気嵐以外のこととかはどうなんだ？」 プルル『今はお喋りしてる暇はない筈よ。こっちで安全なルートを計算したナビデータを、今からそっちに送る わ。お話はそれから、いい？』 クルル「ああ、了解だぜぇ。着いたら土産話がたんまりあるからよぉ」 直後、メインモニターに一旦ウィンドゥが開かれて、数字が次々とスクロールされる。 それを一通り目で追い、隣のモアに顔を向けるクルル。 柔らかく微笑んで目を細め、クルルを見詰め返すモア。 クルル「（落ち着いた声で）朝飯、食い損ねてたよなぁ。着いたら何か食っとくか？」 モア「（笑顔で）はい、そうしましょうか。てゆうかぁ、一汁一菜？」 クルル「・・・ホント、もっかい四字熟語勉強しとけよ。く〜っくっくっくっく・・・」 【Ｎ】「プルル看護長の救けも入り、凄まじい闘いが繰り広げられた亜空間ドライヴも間もなく終ります。そしてい よいよ次回！ ギロロ伍長と夏美ちゃんの結婚式が敢行されます！ しかしまたまた、とんでもない出来 事が降って湧くんですが・・・それは次のお話で！」 To be continued... [chapter04] |
