|
★ ドロロと小雪の家（水車小屋）
夕闇に染まる、ドロロと小雪の住む水車小屋。 行灯の橙色の光がほのかに満ちる、室内。 囲炉裏の傍らの板間で、正座をして向かい合うギロロ、ドロロと私服姿の小雪。 ギロロ、自分の前に夏美が書いた招待状の封筒を置く。 ギロロ「前に話した通り、お前たちを式に招待しようと思ってな。これは夏美からの招待状だ」 ドロロ「わざわざご足労頂き、かたじけない。無論、何に於いても参列いたす所存」 膝に両手を置き、一礼するドロロ。 隣の小雪、目を伏せて沈んだ表情。ギロロを見ようともしない。 それを、じっ、と見て、眉間に皺を寄せるギロロ。 前に置いた封筒を、スッ、と押すようにふたりの前に差し出す。 ドロロ、傍らの小雪に目をやり、そのまま動かない。 暫くして、翳りを溢れさせて澱んだ視線を封筒に向ける小雪。 緩慢な動作でゆっくりと右手を伸ばしていく。 突然。 ギロロ、いきなり封筒を取り上げて、立ち上がる。 驚いた表情を向ける小雪を、据えた目線で睨む。 ギロロ「（重い声色で）やはり、貴様は来るな。（ドロロを見て）来てもらうのはドロロだけでいい」 ドロロ「ギロロ殿！ 何を急に！」 小雪「どうして!? 私だって夏美さんの・・・」 ギロロ「（やや力を込めて）貴様は今の顔を夏美の前でも見せるつもりかッ！」 ハッ、と息を飲んで、目を丸く見開いて凝固する小雪。 怒りの形相のギロロを見て、それから小雪に視線を移すドロロ。 ギロロ「（重厚な口調で）今の貴様の顔を夏美が見たらどう思うか、まったく予想出来ない訳ではないだろう？ 夏美にとって貴様は、同じ女同志として最も近しい間柄の筈。同性として、男の俺では解り得ない感情 を共有可能な関係ではないのか？ 夏美がその関りに如何に重きを置いているか、まったく知らない 貴様ではあるまい」 徐々に強張りを解き、ゆっくりと顔を伏せていく小雪。 ギロロ「（ふう、と息を吐き）・・・貴様が夏美を慕っているのは重々承知だ。夏美と俺の結婚がどれだけ意にそ ぐわぬものであるか、それも判っている。だから今日、俺が来た」 小雪とドロロ、ギロロに視線を向けて息を飲む。 ギロロ「貴様も言いたいとこがあろう。だが、それを夏美にぶつけさせる訳にはいかん。（ギン、と睨み）ならば 俺に叩き付けてみろ。何なら実力行使でも一向に構わん。遠慮は無用だ」 ドロロ「（立ち上がり）争いなど、拙者が許さぬでござる！ 止めさせて頂く！」 小雪「（ドロロに顔を向け）大丈夫、ドロロ！ 闘うなんてしないから・・・」 思わず小雪を見詰め返すドロロ。 そして、切なそうに瞳を潤ませ、力ない笑顔になる小雪。 小雪「・・・そんなことしたら・・・夏美さん、悲しむから・・・」 ドロロ「・・・小雪殿・・・」 それを見て、ふっ、と口許に笑みを浮かべるギロロ。 小雪、ギロロに少し落ち着いたような目線を向ける。 小雪「返事は、後からでもいいかな」 ギロロ「・・・ああ、構わん。だがこの場で約束しろ。参列するのであれば、決して夏美の前で嘆いた顔をする な。いいな？」 小雪「（頷いて）約束する。それと、これだけは言っておくよ・・・ギロロを傷付けるってことは夏美さんを傷付ける ってこと、私は理解してるつもりだから」 ギロロ「（両目を閉じて）そうか・・・ならば俺からは、これ以上言うべきことはない」 ドロロに近寄り、封筒を差し出すギロロ。 ギロロ「（声を落とし）・・・後は、任せて良いか？」 ドロロ「（大きく頷き）・・・承知いたした。後日、改めて伺うでござる」 ギロロから封筒を受け取り、改めて頷き返すドロロ。 くるり、と踵を返して三和土に降り、そのまま入り口の障子戸を開けるギロロ。 ドロロ、ギロロに近寄り、入り口を挟んで向かい合う。 そして、ペコリ、とお辞儀をするドロロ。軽く会釈で返すギロロ。 水車小屋を離れ、林の中へと続く飛び石を歩いて去っていくギロロの姿。 彼が宵闇に見えなくなるまで立ち竦むドロロ。 それを確認すると、ふう、と息を継いで障子戸を閉める。 振り向き、囲炉裏端でこちらに背を向けて膝を抱えている小雪を見る。 静かに近付き、小雪の背中側に腰を下ろし、背中合わせに座る。 胡坐をかいて両目を閉じるドロロ。 風の音。 鹿威しの軽やかな音が聞こえる。 目を伏せて俯き、膝頭に視線を投げているだけの小雪。 彼女の背側で、背筋を伸ばして座禅を組んでいるドロロ。 永い時間が過ぎる。 ゆら、と行灯の光がなびく。 小雪「（強張った声で）ホントはね・・・ずっと前から判ってたんだ。夏美さんにはギロロしかいない、って・・・だ からいつか、この日が来るってことも知ってた・・・まさか、こんなに早いとは思わなかったけどなぁ・・・」 両眼を開けて、前に目線を向けるドロロ。 小雪「・・・私、笑顔になれるかな・・・夏美さんの前で・・・」 ドロロ「今まで通りで良いでござるよ、小雪殿」 ハッ、と思わず顔を上げる小雪。 一度大きく頷くドロロ。 ドロロ「先ほどご自分で話したでござろう。何をすれば夏美殿が悲しむか、小雪殿は解っておられる。それは今 さっき生まれた感覚ではなく、既に存在していたもの・・・その気持ちを持ちながら、小雪殿は夏美殿の 前であれだけ明るく素晴らしい笑顔を見せてこれた・・・何も難しいことはござらん。何も変えず、何にも 拘らず、今までの小雪殿であれば―――すべては問題なく、滞りなく進んでいくのでござる」 小雪「（肩越しに振り向き）ドロロ・・・」 ふっ、と柔らかい笑みを口許に湛える小雪。 小雪「・・・そうだね、ドロロ。（顔を戻し）私は今だって夏美さんが大好きだし、それはこれからも変わらない・・・ 夏美さんが笑顔でいてくれるなら、それが一番だもの・・・」 ドロロ「（頷き）その通り。今度夏美殿と会われる際には、またいつも通りで結構。だから・・・（少し俯き） 今は・・・」 目を閉じて黙るドロロ。 何事かという表情で、再び彼を振り返る小雪。 ドロロ「今は・・・拙者だけでござる・・・だから・・・」 ゆっくりと目を開け、顔を上げるドロロ。 ドロロ「（優しい声色で）今だけは・・・泣いてもいいのでござるよ・・・」 ハッ、と目を見開く小雪。少しの時間、動きを止める。 そして顔を再び戻し、自分の真正面の空に目をやる。 暫くの間、動かない。 やがて瞳が震え、彼女の目頭から、ポロッ、と涙が一筋落ちる。 バッ、と面を伏せ、額を膝に押し当てて固く両眼を閉じる小雪。 しゃくり上げを始め、肩がそれに応じて幾度も跳ねる。 声も立てず、静かに泣き続ける小雪。 両目を閉じて、彼女を背中越しに感じているドロロ。 ドロロ「（深い響きを持った声で）今は、思う存分泣かれると良い・・・涙で、心を洗い流すことも必要でござるか ら・・・拙者がここにいる故、安心して泣かれよ、小雪殿・・・」 頭を垂れたまま、何度か頷く小雪。 小屋の外から、一度だけ聞こえてくる、梟の永い鳴き声。 ★ 西澤家・本館玄関前 【Ｎ】「さて、いろいろありましたが遂に！ ギロロ伍長と夏美ちゃんの結婚式を遥か宇宙の彼方で執り行うべく、 時は12月23日のお昼頃、西澤家本館に皆さん勢揃いと相成りました。ガルル中尉の迎えの宇宙船が、こ このだだっ広い玄関前広場に来るそーですが・・・桃華ちゃんは玄関ポーチ前ロータリーっておっしゃりま すけど、どう見ても野球場が２面取れる広さです。本当にありがとうございました」 ポーチに揃って待つ一同。 ケロロ、既に相当浮かれた様子で踊っている。釣られて一緒に踊っているタママ。 手持ちのノートパソコンを開いているクルル。 ポーチの庇の上に立って、目を閉じて腕組みをしているドロロ。 ポールが慌しい様子で、親衛隊メンバー数人に大量の荷物を積んだパレットの置き場所を指示。 やたらうず高く積み上げられた段ボール箱。横には“NPG Foods Corporation”のロゴ。 小雪と桃華、そしてモアに囲まれてお喋りをしている夏美。 ギロロ、大きな荷物を並べて確認している秋と冬樹を見ている。 ギロロ「（腕組みをして）用意は万全か？」 秋「バッチリよ。衣装合わせも完璧、当日が楽しみね、花婿さん？」 ギロロ「（頬を赤く染め）そ、そ、そうだな」 冬樹「ねえ伍長、ちょっとお願いがあるんだけど・・・」 ギロロ「何だ？ 改まって」 冬樹「少し早いんだけど・・・（言いにくそうに）今日から“義兄さん”って呼んでいいかな？」 ギロロ「（目を見開いて）そっ！ それは！・・・（口籠もって）いやいや、やはりそれは・・・俺には今まで通りで いいんだが・・・第一、呼びづらいだろう？」 冬樹「そんなことないよ。確かに最初は慣れないと思うけど・・・でもね、僕だって、今までいっぱいお世話にな ってる伍長が正式に家族になるの、すっごく嬉しいんだよ。だからさ、一日も早く“義兄さん”って呼びたい んだ。いいでしょ？ 駄目？」 秋「（腰に両手を当て）ほら冬樹、ギロちゃん困ってるでしょ？ その辺にしときなさい」 冬樹「はーい。でも式が終わったら考えといてね、伍長」 ギロロ「あ・・・ああ」 荷物を確認しているふたりの元に、夏美が近付いてくる。 夏美「あたしも荷物チェック、しとくわ。（ギロロを見て）アンタの持ち物も大丈夫？」 ギロロ「問題ない。また一緒にしてもらってすまんが」 夏美「（笑顔で）遠慮しないの。そろそろ時間だから、最終確認やっとくわ」 ギロロ「判った、よろしく頼む」 日向家３名が、各荷物を再確認し始める。 それを見届けてから、ギロロは小雪の近くまで歩み寄る。 ギロロに気付いた小雪、身体を正対させる。 ギロロ「（立ち止まり）吹っ切れたか？」 小雪「（しっかりと頷き）うん」 ギロロ「だろうな。今日の貴様は、以前と何ら変わらん表情だ」 小雪「それは・・・ドロロのお陰なんだけどね（微笑む）」 ギロロ「そうか。奴に感謝するのだな」 小雪「それと、言い忘れてた。（満面の笑みで）結婚おめでとう、ギロロ」 ギロロ「（僅かに驚いた様子で）ほお・・・貴様からその言葉が来るとは思わなかったな」 小雪「あ、もちろん夏美さんには言ったよ、真っ先にね。だからギロロにもちゃんと言わなきゃ、って思った。 夏美さんと一緒になれて良かったね、ギロロ」 ギロロ「（目を閉じ）まったくだ。改めて言われると、感慨深い」 目を開けて小雪に目線を向け、口許を引き締めるギロロ。 ギロロ「祝いの言葉、ありがたく受け取らせてもらうぞ。感謝する」 サッ、と腕を上げて敬礼をし、すぐに戻すギロロ。 柔らかく微笑んで返す小雪。 それからギロロ、ケロロたちの許に歩み寄っていく。 その後ろ姿に目をやり、ふう、と短く息をつく小雪。 庇から彼女の傍らに飛び降り、見上げるドロロ。小雪と視線を合わせる。 小雪「（笑顔のまま）ありがとう、ドロロ。お陰でまた笑顔になれたよ」 ドロロ「礼には及ばぬ。すべては小雪殿がご自分で導き出した結果でござるよ」 目を細めて微笑みを交すふたり。 直後。 ズゥゥゥゥゥ・・・という、飛行物体の機関音が、頭上遥か上空から響いてくる。 一斉に空を見上げる一同。西澤家上空の白い雲がゆっくりと渦を巻き始める。 その中央付近が上側に凹み、濃蒼色の空間が口を開ける。 内部から放電が迸り、スーッ、と静かに宇宙船が姿を現わす。 純白の外観、直径100メートルほどの円盤型。ケロン語の文字がズラリと外周に書かれている。 目を見張る冬樹、桃華、秋、小雪、モア、ポール。 ギロロと夏美、並んでそれを見上げてから顔を合わせ、感慨深げに頷き合う。 ケロロ、タママ、ドロロ、数歩前に進み出る。パソコンを閉じてそれに続くクルル。 実にゆっくりとした速度で降下してくる宇宙船。 そして地上５メートルほどで、ピタリ、と静止して浮かぶ。 こちらに向いている円盤の下部が、ガゴン、と音を立て開く。 宇宙船の装甲がそのまま下に外れて降り、緩やかで長いスロープとなる。 そのスロープの一番上、宇宙船内部の縁に立って、後ろ手に組んでこちらを見ているガルル。 スロープが完全に地上と連絡したのを確認し、落ち着いた足取りで降りてくる。 勢揃いする一同の前に、進み出るガルル。 ケロロ小隊５名、一歩前に出て横一列に整列する。 ガルルが立ち止まった瞬間、一斉に敬礼をする小隊一同。 それに応じて敬礼を返すガルル。 ケロロ「（声を張り上げ）ご足労様でありますッ！ ガルル中尉！ ケロロ小隊５名、ペコポン人５名、出立準備 完了でありますッ！」 ガルル「総員、ご苦労様です。今回の“作戦”は今までにないものとなっております。ミッション・コンプリートまで 気を抜かないで頂きたい」 ケロロ「（ニッ、と笑い）こんな楽しい“作戦”なら、いつでも大歓迎でありますよ」 敬礼を解くガルル。続いて敬礼を解くケロロ小隊５名。 くるり、と踵を返すケロロ。全員を見渡す。 ケロロ「（大声で）では諸君！ ミッション・スタートであります！」 ギロロ・タママ・クルル・ドロロ「「了解ッ!!!」」 一斉に動き出す一同。 ポール、ガルルの傍に近付く。顔を上げたガルルに会釈するポール。 ポール「（段ボールの山を示し）当家からの差し入れでございます。飲料水、お酒、食料等、各種揃えさせて頂 きました。どうぞお納め下さい」 ガルル「（会釈を返し）恐れ入ります。では、貨物庫まで運び込んで頂けますか？」 ポール「（深々と頭を下げ）畏まりました。（親衛隊に）許可が下りた。運び込め」 返事をする親衛隊メンバー。フォークリフトを運転し、パレットごと段ボールを運び始める。 ポール、桃華の近くに歩み寄り、彼女と正対する。 ポール「旅のご安全をお祈りいたしております。いってらっしゃいませ、桃華様（一礼）」 桃華「（頷いて）留守をお願いしますね、ポール」 【Ｎ】「いよいよ出発となりました。祝典惑星ニモリトマまでは、亜空間ドライヴを２回行って約20時間ほど掛かり ます。地球から宇宙空間に出て、最初の移動でいきなり亜空間に入ったみたいです。まずはそれで銀河 系を飛び出すって訳で・・・何かホント、スケールがでっかいッスねー」 ★ サロン型準光速宇宙船・中央談話室 【Ｎ】「で、亜空間ドライヴに入って数時間後・・・宇宙船中央にあるサロンを兼ねた談話室では、クリスマスを前 にした宴会が催されていました。つーかもう、すっかり出来上がってらっしゃる方もいますが・・・」 談話室中央の一段高くなった床に、大きな円形カーペット。 そこに車座になって座る全乗員。笑い声が部屋中に響き、かなりの盛り上がり。 小雪「以上！ 小雪忍法・水芸七変化でしたっ！」 ドロロ「（拍手）見事でござった小雪殿！」 冬樹「相変わらず凄いよねー、東屋さんの術」 桃華「何処からあの水、持ってきてるのか判りませんよね」 ケロロ「（泥酔中）やっふー！ んじゃあ！ 次の隠し芸イッてみやうッ！」 モア「おじさま、はい、どうぞ（一升瓶を差し出す）」 ケロロ「（満面の笑みで）おおぅ、スマンですなぁモア殿。コップじゃ物足りないんで、そのドンブリで頂戴！ ん でペコポンも１個ちょーだい！ 何つってー！ ゲッゲロー！」 ギロロ「（怒声）おいケロロ！ 貴様呑み過ぎだ！ 少しは自重せんか！」 ケロロ「んなーにをおっしゃるウサギさん！ 我輩のザルっぷり、知らないあーたじゃないっしょ？ だーいじょー ぶ、ふたりの式は明後日じゃん。明日一日休んどきゃ大丈夫だってば」 ギロロ「ほお？ 明日の夜は何もせんと？」 ケロロ「もちろーん！ 明日の夜はクリスマス・イヴだしぃ、パーティーやるに決まってんじゃん！ ゲーロゲ ロゲロ！」 ギロロ「（大声で）何しに行くつもりだ貴様ッ!!!」 夏美「（水のボトルをギロロに差し出し）今に始まったことじゃないでしょ、ボケガエルのこーいうトコ。まあ、賑や かなのは悪くないわね。今回は大目に見てもいいんじゃない？」 ギロロ「（コップに注いでもらい）しかしだな、こうも羽目を外されたんでは・・・」 ドロロ「今回は特別でござろう。正直、拙者も楽しませて頂いている所存。それに、隊長殿は数日前から浮かれ ていた様子でござるから、ここはひとつ、許されては？」 ギロロ「・・・まあいいだろう。ただし！ （ケロロを睨み）貴様の隠し芸はもう結構だ」 ケロロ「（顔を真っ赤にして驚き）うえっ！ 何でよー！ あと63の演目があるのにー！」 タママ「でも軍曹さーん、今までウケたネタってありましたぁ？」 クルル「隊長、あんたの隠し芸データとネタを見た観客の反応データ纏めて持ってきてんだけどよぉ、観とく かぁ？（ノートパソコンを取り出して、画面を開く）」 タママ「あ！ 観たいですぅ！」 冬樹「へぇ、面白そうだね。僕も見てみたいなぁ」 秋「私が観てないネタもあるかしら？ ちょっと興味あるわね」 夏美「（呆れた表情で）・・・あたしは遠慮しとくわ」 ギロロ「（溜め息を吐き）俺もいい。疲れるだけだ」 クルル「ま、賛成多数っつーことで、観たい奴ぁコッチに集まりな・・・（ケロロを見て）どーした隊長？ 急に暗い 顔しちまってよぉ」 ケロロ「（顔に縦線が入り）・・・何か、急に酔いが醒めたよーな・・・」 クルル「何だ、変な自覚はあるんだな隊長よぉ。く〜っくっくっく」 小雪「（拳を握り）大丈夫ですケロロさん！ 私の面白い話より面白いですから！」 ドロロ「・・・小雪殿、それは微妙に褒めてないでござるよ・・・」 桃華「（ガルルを見て）お酒、強いんですね、ガルルさん」 ガルル「（コップを空にして）いえ、さほどでもありません」 秋「（ウォッカのボトルを差し出し）最初からストレートでグイグイ呑んでるけど、ガルちゃん全然酔った感じがし ないもの。でもギロちゃんは下戸よね？」 ギロロ「体質だからな。その分、親父やガルルは底なしだ」 夏美「確かにお義父さんって、すっごく呑みそうな感じよね。植木職人とか、大工の棟梁みたいな雰囲気ある のよ」 秋「へぇ・・・（笑顔で）楽しみだわぁ、式場で会えるの」 傍らの秋を見詰め、酒を注がれたコップを一気に飲み干すガルル。 コップを手前に置き、スッ、と立ち上がって後ろ手に組む。 ガルル「（しっかりとした声で）さて、宴もたけなわではあるが、ここで“中締め”とさせて頂く。引き続き宴を進め たい者は残って結構、休みたい者は各自の判断で中座してよろしい。この談話室を囲む回廊に沿って、 安眠カプセル室が並んでいる。睡眠は各自そちらで取るように。そして只今の時間より10時間ほどの 後、ここ談話室で朝食を摂って、到着時に備えてもらいたい。以上だ」 各自、返事をする。 ギロロと夏美、顔を見合わせて、一度頷いて立ち上がる。 ケロロ「（驚いて）うえっ！ もう行っちゃうのおふたりさん？ 主役が中座してどーすんのよ」 冬樹「いいじゃん軍曹、後は僕たちで盛り上がろうよ」 秋「そうよケロちゃん、主役は大変なんだからチカラ溜めといてもらわないとね。（ふたりを見て）こっちは勝手に 楽しんでるから、気にしないで休んで、ね？」 ギロロ「すまんな、では先に休ませてもらう（一礼）」 夏美「おやすみなさーい」 一同、それぞれが挨拶を返す。 扉に向かったふたりにガルルが近付き、カードキーを差し出す。 ガルル「場所は乗り込み時に説明した通りだ。起床時まで、ゆっくり過ごすといい」 ギロロ「（キーを受け取り）そうさせてもらう」 夏美「かえって申し訳ないわ、お義兄さん。わざわざあたしたちの為に用意してくれて・・・」 ガルル「いや、最低限の礼節、というやつだ。気にするな」 プシューッ、と自動扉を開けて通路に出るギロロと夏美。 談話室内に立ち、ふたりを見送るガルル。 ガルル「（扉越しに）では、よい夢を」 笑顔で頷く夏美とギロロ。 再び扉が閉まり、それを見届けてから顔を合わせる。 頬を染める夏美、続いて顔が朱色になるギロロ。 そして進行方向に視線を向け、並んで歩き出す。 ★ サロン型準光速宇宙船・貨物室 大量の段ボール、他の荷物等がひしめく貨物室内。 暗い部屋の片隅に、ラグビーボールに似た形状のスチール製ケースが転がっている。 外観は漆黒、ヘビの目のような彫り物が施されている。 突然、それの内部から、ゴト、ゴト、と何かが動く音。 パキッ、とケース表面にヒビが入る。 そして再び沈黙。 ★ サロン型準光速宇宙船・特別寝室 カードキーを扉横のリーダーに通し、シュウッ、と開いた扉から入室するギロロと夏美。 中に入ると、ポウ、と部屋の灯りが点く。扉が閉まり、カシュッ、と自動で施錠される。 部屋全体は黒を基調とした壁、家具。水色の寝具の大きなダブルベッド。 夏美「（部屋を見渡し）素敵な部屋ねぇ・・・」 ギロロ「（口籠もって）そ、そうだな・・・」 ベッドに腰を下ろし、枕元のライトのスウィッチを入れる夏美。 彼女の目の前に立ち、腕組みをするギロロ。 ギロロ「ここにはシャワーが装備されているそうだ。寝る前に浴びてくるといい」 夏美「（微笑んで）うん、ありがと」 じっ、とギロロの瞳を覗き込み、軽く首を傾ける夏美。 夏美「ねぇギロロ・・・ちょっと聞いていい？」 ギロロ「何だ？」 夏美「アンタってさ・・・いつからあたしを想ってくれてたの？」 頬を染め上げ、一度視線を外して俯くギロロ。 少しの後、顔を上げてしっかりと夏美を見詰める。 ギロロ「お前こそ、どうなんだ？ いつから俺を・・・その・・・（口籠もる）」 夏美「あたし？ あたしはね・・・（笑顔で）わかんない」 ギロロ「（苦笑して）何だそれは」 夏美「自覚したのって、確か・・・アンタに辞令が下りて銀河鉄道で帰っちゃった後、かなぁ。それもハッキリして ないんだケドね。今から思うと、多分そのずっと前から・・・アンタを想ってたような気がするの。ただそれ を気付かずに、気持ちの奥の奥に潜めてた、んだと思う・・・」 ギロロ「そうか・・・」 キリッ、と力強い表情と視線を夏美に向けるギロロ。 ギロロ「俺は・・・（凛とした声で）最初からだ」 夏美「（思わず顔を上げ）えっ？」 ギロロ「お前に叩き伏せられた、最初の出逢いからだ」 目を丸く見開き、ギロロの両眼から眼差しを外せずにいる夏美。 ギロロ「俺の仕掛けたすべてのトラップを躱し、防ぎ、そして完膚なきまでに敗北させたあの日から―――お前 は俺の中に住み始めた。その日から、俺のすべてはお前中心に動き始めたんだ」 息をも抑えて、ギロロを見詰め続ける夏美。 腕組みを解き、しっかりとした体制で立って彼女と視線を交すギロロ。 ギロロ「これほど誰かを想ったことなど、かつてない。それが行動に現れてしまうのに、さほど時間は要しなかっ た。しかし何するにせよ不器用極まりなく、抑えも効かぬ言動ばかりで、お前に迷惑を掛けっ放しだった な・・・そんな俺を、お前は生涯の伴侶として選んでくれた。こんな嬉しいことはない。そして明後日には、 お前と正式に夫婦になれるのだ。至上の喜びとは、このことを言うのだろう」 １歩近寄って、笑顔を見せるギロロ。 ギロロ「（目を細め）ありがとう、夏美。俺は最高の幸せ者だ」 途端。 ポロッ、と夏美の両眼から涙の滴が落下する。 ハッ、と驚いたギロロを、両手で包んで胸元に引き寄せ、ギューッ、と抱き締める夏美。 一気に頬が朱に染まるギロロ。しかし両目を開けて、落ち着いた表情。 夏美「（ギロロの耳元に口を付け）あたしも・・・あたしも・・・」 幾筋もの涙を零し、目を固く閉じて柔らかい笑みを浮かべる夏美。 夏美「・・・ありがと・・・好きになってくれてありがと・・・お陰であたしも・・・（声を震わせて）最高に幸せなの・・・ どうしようもなく幸せなの、ギロロぉ・・・」 ギロロ「（両腕を伸ばして抱き締め）夏美・・・」 より一層力を込め、身動ぎもせずに抱き締め合うふたり。 一瞬、腕の力を抜き、流れるように顔を近付け合う。 互いに両目を閉じ、唇を重ねる。 そのまま、動かない。 永い時間の後。 ゆっくりと、静かに、名残惜しそうに離れる唇。 潤んだ瞳でギロロを見詰める夏美。揺るぎない眼差しを返すギロロ。 ギロロ「（低い声で）・・・シャワー、浴びるか？」 夏美「（微笑んで）・・・うん・・・」 ギロロを抱き締めたまま立ち上がり、シャワールームに向かう夏美。 ★ サロン型準光速宇宙船・艦橋 さほど広くない艦橋。中央にある“コの字”型のコンソールには座席がふたつ。 座席のすぐ前に操縦桿が突き出ている。ズラリと並ぶスウイッチや計器、メーター。 両脇、壁に向かってふたつずつ、計４席が計器類とサブモニターに向かって配置。 正面斜め上には、巨大なメインスクリーン。そこに映される蒼白い星団。 艦橋の灯りはなく、その蒼い光が部屋中に満ちる。 中央コンソールの座席、向かって右側に腰を沈め、スクリーンを見詰めるガルル。 フシューッ、と背後の扉が開き、カツカツ、と足音が近寄る。 扉が自動で閉まり、足音もガルルの背後で止まる。 身体を起こして振り向くガルル。そこには秋の姿。 ガルル「・・・眠れませんか？」 秋「（微笑んで）ええ・・・宇宙に出たの、初めてなもので」 ガルル「そうですか。ならば、安眠カプセルのレベルを上げてみるとよろしいかと」 秋、ガルルを覗き込むように見詰める。 秋「隣、いいかしら？ 周りの機械には触らないようにするから」 ガルル「（少し考えて）・・・どうぞ」 ガルルの隣の座席に腰を下ろす秋。 スクリーンに映し出される蒼白い星団に視線を向けて、ふう、と息を継ぐ。 その様子を一通り見て、自分もスクリーンを見詰めるガルル。 秋「綺麗ねぇ・・・」 ガルル「ここは、私が気に入っている場所なのです。ペコポンに行った帰りに時間がある場合、ここを通って帰 還するのですよ」 秋「（ガルルを見て）へぇ、ガルちゃんのお気に入りなの？ あの星」 ガルル「はい。球状星団Ｍ79という名前です」 ニッコリ、と目を細めて、笑顔を彼に向ける秋。 そして前に直り、星団を見上げて両手を腿の上で組む。 秋「（しみじみと）ガルちゃんって、今まで自分のことほとんど話さなかったけど・・・今日ひとつ、ガルちゃんの好 きなものが判ったわ」 ガルル「私の趣向など、さほど話に上げるほどではないので」 秋「（ガルルに顔を向け）そんなことないわよ。第一、ガルちゃんは私のこと、随分知ってるようだし・・・例えデ ータ的なものだとしてもね、何か、そうねぇ・・・（笑顔で）こっちもガルちゃんのこと知らないと不公平かな、 ってね」 ガルル「（苦笑して）恐れ入ります」 秋「これから私たちは親戚になる訳だし、もっともっと知っててもいいと思うの。だからね、機会があればいろい ろ質問とかするから、覚悟しなさい、ね？」 ガルル「・・・お手柔らかにお願いしますよ（ふっ、と笑う）」 もう一度メインパネルを見上げる秋。 秋「不公平、とか言っちゃったけど・・・（艶やかな声で）本音は、ただ単にガルちゃん自身を知りたいだけ・・・」 少し驚いた様子で、秋に顔を向けるガルル。 秋「ガルちゃんにはケロン軍の士官という立場があって、ギロちゃんのお兄さんって立場もある・・・それは譲れ ないものだと思う。なのにガルちゃんは、私たちの為にいつも行動してくれている・・・私はね、ガルちゃん、 お互いがどんなに親しくなっても譲れないものは存在する、って思ってるの。それが“親愛と敵対”っていう 矛盾を生んでる訳なんだけど・・・そんな関係でも、ギロちゃんと夏美は矛盾を乗り越え、明後日には夫婦 になるわ。それって物凄いことだと思う。矛盾を越え、違いを越え、そして宇宙すら超えちゃったのよ・・・そ して、ふたりのバックアップをしてるガルちゃんも・・・（ガルルと視線を合わせ）何かを越えようとしてるのか な、って・・・」 身動ぎもせず、秋と眼差しを絡めるガルル。 少しして僅かに視線を外し、短く息をつく。 ガルル「それは・・・私にも解りません。正直なところ、事を成し遂げることに精一杯です。今はただ、あのふたり を送り出してやらねば、と・・・」 秋「（ふっ、と笑い）・・・ガルちゃんらしい答えね」 ガルル「（再度秋を見て）私らしい？」 秋「ええ、そう思うわ。当たってるかどうか判らないけど、そう感じたの」 暫し俯くガルル。 ゆっくりと正面に向き直り、メインパネルの星団を見詰める。 秋もそれに続いて、同様の動作をしてパネルを見上げる。 ガルル「・・・ひとつ、お尋ねしてもよろしいですか？」 秋「なあに？」 ガルル「（声を落とし）失礼ですが・・・ご主人は如何されました？」 途端。 顔を伏せて眉を寄せ、切な気な表情で薄く微笑む秋。 非常にゆっくりとした動きで、首を左右に振る。 それを僅かに顔を向けて目にし、再度パネルを見るガルル。 ガルル「・・・苦労、されましたな・・・」 秋「（少しずつ顔を上げ）いいえ・・・子供たちの為ですもの、苦労などと言えませんわ」 ガルル「なるほど・・・」 それから暫くの間、無言でパネルを見続けるふたり。 やがてガルル、静かに息を吐き、口許を引き締める。 ガルル「私はまだ“親”にはなっていない。ただギロロを幼少の砌から見てきた立場から言って、成長を続ける 者を見守るという行動や感情を、僅かほどは理解しているつもりです。今まで貴方は、夏美くんをずっと 見守ってきました。これからもそれは変わらないでしょう。同様に、私もギロロに対してそうするつもりで す。ですので・・・」 言葉を切り、肘掛の上で右手を強めに握るガルル。 ガルル「これからは、見守るのは貴方ひとりではない・・・」 思わずガルルを見詰める秋。 ガルル「（凛とした声で）私も貴方と共に、見守らせて頂けますか？」 目を丸くして見開き、驚いた表情になる秋。 そして緩やかに笑顔を浮かべて、そっ、と身体を寄せる。 緩やかな動作で右手をガルルの左手に重ね、握る。 重なった手を見てから、ゆっくりと秋を見詰めるガルル。 秋「（温かな口調で）ありがとう、ガルちゃん・・・心強いわ・・・」 ガルル「・・・そう言って下さると、私も嬉しいです」 目を細めて、満面の笑みを見せる秋。 ガルル「（一瞬、コンソールの時計を見て）そろそろ、再度の亜空間ドライヴに移行します。あの星団も見えなく なり、後は祝典惑星近くの宙域まで一気に飛びます。貴方は戻って休まれるといい。私はここに残り、 仮眠を取りながら航行監視を行いますので」 秋、目線を上に向け、少し考えるような表情をする。 それからガルルを再び見詰め、乗り出すように身体を屈める。 秋「私もここにいていい？ 邪魔はしないから」 ガルル「邪魔にはなりませんが・・・慣れない宇宙の移動は身体に負担が大きい。きちんとカプセルで眠った方 がよろしいですよ」 秋「（明るく）大丈夫よ。編集の仕事じゃ、もっと凄い環境で寝てたこともあるから」 柔らかい笑顔を向ける秋。 ふっ、と自嘲気味に口許を緩ませるガルル。 ガルル「貴方には敵いませんな・・・では、ご自由に」 頷くガルル。ニッコリと微笑んで頷き返す秋。 ガルル、すぐ前のコンソールのキーボードを操作し、サブモニターの文字を確認。 操縦桿を握り、いくつかのボタンを押してメインパネルを見上げる。 ガルル「座標軸確認ヨシ。目標、祝典惑星ニモリトマより２パーセク宙域。航行パネル、オールグリーン。亜空 間ドライヴシステム・・・作動！」 コンソール中央の大きな白いボタンを、グッ、と押すガルル。 途端、ブゥゥゥゥン・・・と艦橋内に低い微動音が流れ出す。 メインパネルの球状星団が線を引くように姿を消し、画面が真っ白に変わる。 そしてパネルは真っ暗になり、たまに光の点が画面奥から現れて手前に流れて来ては消える。 ただ黙って、それを見詰め続けるガルルと秋。 艦橋の壁に設備されている常夜灯が、ほの暗い橙色の光を放つ。 幾許かが過ぎた頃。 秋が静かな寝息を立てているのに気付くガルル。 座席から降り、扉近くの小物入れからブランケットを引っ張り出す。 それを抱えて秋の座席に寄り、足元から膝、腿の上まで覆う。 自分の席に戻り、もう一度秋を見る。 暫くそのまま彼女の横顔を見詰め続け、やがて顔を正面に戻す。 先ほど秋が触れた左手を翳し、じっ、と凝視する。 静かに左手を肘掛に下ろし、身体を背凭れに預けて目を閉じるガルル。 ★ サロン型準光速宇宙船・中央談話室 【Ｎ】「んでもって翌朝。宇宙空間ですから“朝”ってのも変ですが」 プシューッ、と談話室の自動扉を開けて入ってくるギロロと夏美。 朝食のトレーを持ったケロロ、ふたりに気付いて振り向く。 大きな丸テーブルで食事を摂っているタママ、クルル、モア。 夏美「おはよう」 モア「おはようございます」 ケロロ「おや、夏美殿にギロロ伍長、おはようであります」 ギロロ「（室内を見渡し）全員揃ってはいないようだな」 クルル、真っ直ぐにギロロの近くに歩み寄ってくる。 クルル「ところでよぅ、先輩」 ギロロ「何だ」 クルル「くっく〜。昨夜はお楽しみのようだったねぇ？」 ギロロ「（眉を顰めて）昨夜・・・」 途端、目を丸くして息を飲んで凍り付くふたり。 見る見る顔を朱に染めていく。 夏美「（これ以上ないくらいの赤面で）まっ、まっ、まっ・・・」 ギロロ「（顔に血が上ったまま）まさか貴様ァァァッ！」 バッ、とクルルの両肩を掴んで、前後に揺さぶるギロロ。 ギロロ「仕掛けたのか！ マイクか？ カメラかぁ！」 クルル「（横を向いて）ん〜？ 何の話かなぁ？」 ケロロ「（ニヤニヤと笑い）まあまあおふたりとも、今更照れることもないでありましょう？」 タママ「夫婦になるんですから当然ですよ伍長さ〜ん。ナッチーもですよぉ」 夏美「（赤面のまま）あ・・・アンタたちぃ・・・」 ギロロ「（白目を更に吊り上げて）キ・・・サ・・・マ・・・らぁ・・・」 直後、自動扉が再び開き、冬樹と桃華が入室。 夏美とギロロを見て、笑顔を浮かべて近付いてくる。 冬樹「あ、おはよう姉ちゃん。昨夜は・・・」 いきなり振り向いて、ギン、と冬樹を睨む夏美。 肩をいからせて、荒っぽい足音を立てて数歩近寄る。 何事かと、少し驚いた表情の冬樹と桃華。 夏美「（怒り混じりで）ええお楽しみだったわよ楽しかったわよ！ 素敵なひとときだったわよ！ ギロロは優しく て素敵で、もうこれ以上ないくらい大満足したわよ！ 絶対に忘れられない最高の一夜だったわよっ！ 本当にギロロと一緒になれて嬉し過ぎて卒倒しそうだったわよ！」 ギロロ「（夏美の右手を引っ張り）待てっ！ 落ち着け夏美ィ！」 捲くし立て、息が上がってゼーゼーと呼吸をしている夏美。 赤面のまま彼女の右手を握っているギロロ。 そして夏美、ふうう、と長い溜め息を吐いて腕組みをする。 夏美「・・・どう？ これで満足？」 冬樹「（少しずつ我に返り）あ・・・あのさ姉ちゃん・・・ノロケはいいんだけど・・・」 困ったように頬を掻き、苦笑いを浮かべる冬樹。 冬樹「僕はただ『昨夜は良く眠れた？』って聞きたかったんだ・・・」 夏美「え？」 夏美、動きを凝固させる。 隣で口を開けたまま茫然としているギロロ。 夏美「（大ショック）えええええええええっ！」 フッ、と夏美の顔から血の気が失せる。 ふら、ふら、と身体を泳がせて壁の方へ数歩歩き、その場にしゃがみ込む。 壁に向かって膝を抱えて“体育座り”をする夏美。 全身白色化。目は虚ろ、頭上には陰と縦線。 傍らで大焦りのギロロ、夏美の身体を揺すって心配気に見詰める。 ギロロ「おいっ！ しっかりしろっ！ 夏美ィ！」 ケロロ「ゲーロゲロゲロ、いやぁ夏美殿も言うでありますなぁ。流石は“ペコポン最終防衛ライン”、ああまで言い 放つ度胸は大したものであります」 クルル「誰も何も仕掛けたとも言ってねぇんだけどな。くっく〜」 タママ「ラヴラヴでいいですねぇ伍長さん？」 途端、こちらを振り向くギロロ。 両眼は一層吊り上がり、瞳は灰色になっている。 ケロロ「（ジト汗）あの・・・ギロロくん・・・？」 直後。 ジャキィィィン！と、ビームサーベルを転送させて右手に持つギロロ。 瞳の色が灰色から赤色に変化。牙を剥いてケロロを睨む。 ギロロ「（炎を背負い）ナ・ツ・ミ・イ・ジ・メ・タ！」 ケロロ「どっしぇーっ！ 言語能力を戦闘能力に転換モード発動ぉ！」 ダッシュでケロロに向かっていくギロロ。 悲鳴混じりで逃げ、室内を縦横無尽に走り回るケロロ。追い駆けるギロロ。 ギロロ「（ビームサーベルを振り回し）ナ・ツ・ミ・イ・ジ・メ・タ！ ナ・ツ・ミ・イ・ジ・メ・タ！」 ケロロ「てゆーか何で我輩だけぇぇぇぇぇぇ！」 プシューッ、と自動扉が開き、ガルルと秋が並んで入室してくる。 部屋の中の様子を見て、驚いた顔になるふたり。 ガルル「騒々しいな。何事かね」 秋「（床に座る夏美を見付け）どうしたの夏美？ 具合でも悪いの？」 夏美「（声を雲らせ）大丈夫・・・ちょっと自己嫌悪してるだけだから・・・ハハハ・・・」 ケロロとギロロの姿を見て、ふう、と溜め息をつくガルル。 クルルとタママの近くまで歩み寄る。 ガルル「まあ、大方の予想はつくが・・・（クルルを見て）あまりふたりをからかわんでくれ。度が過ぎると悪ふざ けになる。程々にな」 クルル「（ニッ、と笑い）楽しいウチが華なんだけどよぉ。ま、あんたの顔を潰すような真似はしねぇよ。（ギロロに 目をやり）安心しな先輩、何もしちゃいねぇ。んなことしよーもんなら、俺がガルルのおっさんに八つ裂き にされて宇宙空間の塵になっちまうからよぉ」 未だに顔面蒼白で、必死に逃げ回っているケロロ。 ケロロ「（半泣きで）ホントに何もしてないからッ！ 落ち着いてソレしまってギロロッ！」 突然。 フッ、と室内の照明が消え、すぐにまた点く。 全員が思わず周囲を見回す。その中、再び照明が消える。すぐにまた点く。 何事かと不安気に顔を見合す一同。 ガルル「電圧が落ちているのか・・・しかし系統に異状はなかった筈だ」 クルル「今は亜空間ドライヴの最中だろ？ 早めに手ぇ打っとかねぇと」 ガルル「（クルルを見て）一緒に来てくれんか、クルル」 クルル「んー、了解」 並んで自動扉まで駆け寄るガルルとクルル。 プシューッ、と開く扉。通路に出ようとするふたり。 直後。 ブンッ！と黒い影が通路横から飛んできて、ガルルの頭上を通過して室内に飛び込む。 驚いて振り向くガルル、クルル。 黒い影は一気に空を裂き、秋に向かっていく。 ハッ、とそれに気付いて目を見開く秋。 【スローモーション】 瞬時に距離を詰め、床を蹴って飛び上がるガルル。 渾身の力で秋の肩を押し、屈ませる。影の直線上にガルルの姿。 黒い影、ガルルの肩口に噛み付き、上顎を喰い込ませる。 苦痛で歪むガルルの表情。歯を食い縛って声を上げずに身体を丸める。 バランスを崩しながらも身体を返し、落下していくガルルと噛み付いている影を目にする秋。 両眼がこれ以上ないほど見開かれ、瞳にそれを映して凝固する。 【スローモーション終了】 ドサッ、と床に落ちるガルル。 肩口に深々と噛み付いている、ハエに似た生物。体長15cmほどの巨大な虫。 夏美「（驚いて）お義兄さんっ！」 ギロロ「（我に返り）ガルルッ！」 ダッ！と床を蹴って、一瞬でガルルの傍らに飛び込むギロロ。 手にしたビームサーベルを、ヒュン！と操って生物を串刺しにする。 噛み付いていた顎が外れた途端、渾身の力でそれを床に叩き付けるギロロ。 ビクン、と大きく跳ねた生物、体液を流してそれっきり動かなくなる。 ガルルの元に駆け寄ってくる一同。 床に膝を付き、顔面蒼白で震え始める秋。 クルル「（ガルルを見て）モア！ 医療ポッド！ 大至急だ！」 モア「（頷いて）はいっ！」 部屋の奥へ走っていくモア。 途端、ケロロの腕の通信機が、ピピッ、と入る。 ドロロ『（切羽詰った声で）こちらドロロ！ 隊長殿！ 応答願う！』 ケロロ「どしたの、ドロロ！」 ドロロ『現在通路にて、宇宙アブの群れに遭遇！ 小雪殿と共に交戦中でござるッ！』 ケロロ「（驚愕して）何ですとぉぉぉぉぉッ!!!」 【Ｎ】「何ですとーっ！っとこっちも思わず言っちゃいそうな急展開！ 宇宙船内に突如降り掛かった災難！ 果 たしてケロロ小隊はこの危機を乗り越えることが出来るでありましょうか！ 風雲急を告げる物語は、 次回へ続くッ！」 To be continued... [chapter03] |
