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★ 日向家・ギロロ伍長野営テント内
【Ｎ】「今日は12月２日、夏美ちゃんの誕生日。夕方からパーティーが開かれたんですが、ギロロ伍長との婚約 後初めての誕生日とあって、秋ママがお休みを取って張り切って手料理を振舞い、西澤家お抱えパティシ エ特製の超絶豪華バースデイケーキが用意されたり、ケロロ軍曹は用意してた隠し芸が全部スベるとい う、それはもうスンゲー盛り上がりだったのでした。んでもって今は夜の８時、後片付けはママと冬樹くん、 それと軍曹が行ってて、夏美ちゃんとギロロ伍長はみんなの計らいで、ふたりっきりの時間を過ごして ます」 ランタンの橙色の灯りが、テント内を明るく照らす。 膝を突き合って座るふたり、夏美はギロロの右手を左掌で握って彼に視線を注ぐ。 ギロロは頬を染め、自分の左側に置いてあった小さな紙袋を手に取る。 ギロロ「（夏美を見詰め）改めて、誕生日おめでとう、夏美」 夏美「（見詰め返し）ありがと。婚約してから、初めての誕生日なのよね」 ギロロ「それでだ・・・あいつらの前では、ちょっと渡しづらかったんで・・・（紙袋を差し出し）これを・・・」 薄いピンク色単色の小さな紙袋、真っ赤なリボンの飾りが折口に付いている。 それを両手で受け取り、目を細めて微笑む夏美。 夏美「開けていい？」 ギロロ「ああ、構わん」 紙袋を優しい仕草で開け、中を覗く夏美。 そこには蒼い小箱。それを取り出し、袋を横に置き、改めて両手で小箱を持つ。 パカ、と貝開きの小箱を開ける。 途端、鮮やかな七色の光が溢れ出し、夏美の顔を染め上げる。 小箱の中央、群青色のヴェルヴェットに覆われて鎮座する、指輪。 ラウンド・ブリリアントカットの宝石、薄い水色の水晶体。 宝石内には、濃桃色と赤褐色の幾本の筋が中心に向かっている。指輪の素材は銀色。 夏美「（驚いて）うわぁ・・・すっごい・・・」 ギロロ「（口籠もって）た、誕生日のプ、プレゼントということで・・・あと、だな・・・その、ペコポンには指輪を送る 習慣がある、と聞いたもので、な・・・（赤面して）婚約指輪も兼ねて、いる・・・」 夏美「（ギロロを見て）え？」 ギロロ「一緒にしてしまってすまんが・・・受け取ってくれ・・・」 柔らかく温かい笑顔を浮かべてギロロを見詰める夏美。 夏美「（瞳を潤ませ）ギロロ・・・」 ギロロ「（はた、と顔を上げ）あ！ 今回は何者とも闘ってないから、心配するな！ 宇宙人街の宝石商に行っ て買った物だ。ちゃんと箱の底に保証書も付いてる」 夏美「（軽く噴き出し、可笑しそうに）もう、先に言われちゃった！ じゃあ、ありがたく受け取らせてもらうわ ねっ！」 小箱から指輪を取り、左手薬指に挿入する夏美。 少し緩めだった指輪が、シュルッ、と音を立ててピタリと指に嵌まる。 それを、じっ、と見詰めて頬を染め、目を細めて凝視する夏美。 夏美「・・・綺麗ね・・・何て石なの？ これ」 ギロロ「店主の話だと、コズミックレインボー・ジルコニアとかいう種類らしくてな、通常は透明地で虹色の光を 出す。中でも薄い水色の素体のやつは、別名“シリウスの瞳”と呼ばれるらしい。実はな・・・こいつには 細工が施してある」 夏美「細工？」 ギロロ「ああ。宝石内に幾本の筋が入ってるだろう？ これに向けて斜め下の方から光を当ててみろ」 ギロロに手渡されたペンライトを右手で持ち、宝石の斜め下に当ててスウィッチを入れる夏美。 すると光と反対方向、宝石を挟んだ指輪のすぐ上の空間に、ポウ、と淡い光が出現。 それは直径５cmほどの白い球形を成し、半透明の中にくっきりと文字を浮かび上がらせる。 文字は『G66723』と配列されている。 夏美「（茫然として）・・・これ・・・ギロロとあたしの・・・」 ギロロ「そうだ。夏美と俺のコードネームを、店主に加工してもらって入れた。光をその方向から当てると浮か び上がる隠し細工だ。あまり長い文字は入れられなかったのでな・・・」 夏美「（笑顔で、ギロロを見詰め）・・・アンタってさ、無骨っぽくてこういうのと縁がないみたいだケド、もっの凄く センスあるわよね」 ギロロ「そうか？ よく解らんのだが」 夏美「だってさ、前にもらった手袋もピンクの迷彩色で可愛いデザインだったじゃない？」 ギロロ「（慌てて）あ、あれはたまたまあったのを渡しただけだ！」 夏美「あ、そうそう、あん時の開発室使用料、あたしが立て替えといたから」 ギロロ「そうか、すまんな・・・（大声で）って何でそれを知ってるんだッ！ （ハッ、と口を押さえ）あ、 いやその・・・何だ・・・」 ニコニコと満面の笑みで、ヒョイ、とギロロを抱き上げて膝に座らせる夏美。 一気に赤面が顔全体に広がって凝固するギロロ。 夏美「（顔を彼の後頭部に近付け）ホント、ギロロって嘘つくの下手よね」 ギロロ「いや・・・決してそんなつもりでは・・・」 夏美「手袋だって、傷だらけの手で渡してくれたし・・・もっともあたしも、後から考えてみて気付いたんだケド ね。自分で作ったならそう言ってくれればいいのに・・・それを言わないのが、アンタらしいわよねー」 ギロロ「（俯いて）面目ない・・・」 夏美「（ふふっ、と笑って）そんなアンタだから惚れ込んじゃったのよ、あたし」 思わず、すぐ真上の夏美の顔を、振り仰ぐように向いて見るギロロ。 彼と眼差しを絡め、頬を染めて優しく微笑む夏美。 夏美「指輪、ありがと・・・最高に嬉しいよ、ギロロ・・・」 ギロロ「・・・夏美・・・」 彼女の膝の上で身体を返し、夏美と向かい合うギロロ。 ギロロの身体に両腕を回したまま、顔を近寄せていく夏美。 夏美の頬に右手を添え、同じく顔を寄せていくギロロ。 両目を閉じ、唇と唇の距離を狭める。 途端。 ピーッピーッピーッ・・・と、武器用木箱の上に置いてあった通信機が鳴る。 顔を近付けた状態のまま、凝固するふたり。 鳴り続ける呼び出し音。 やがて、はあああぁ、と全力で溜め息を漏らして項垂れるギロロと夏美。 ギロロ、怒り満面で木箱まで歩み寄り、荒っぽく通信機を手に取る。 ギロロ「（怒声）何だッ！ 今取り込み中だ！ 後にしろッ！」 ガルル『そうか、だがこちらも取り急ぎの用件だ』 ギロロ「（驚き）ガ、ガルルかっ!?」 夏美「（驚き、大声で）お義兄さんっ!?」 直後、通信機の向こうで沈黙。 沈黙。 沈黙。 ガルル『・・・65分経過の後、また掛け直す』 ギロロ「（大慌て）待て待て待てーっ！ 貴様何か余計なこと思ってないかっ!? それに何だその細かい 時間設定はっ！」 ガルル『ギロロよ、私はそこまで不躾な男ではないぞ。最低限の礼節は弁えているつもりだ。邪魔をしたな、 すまない。改めて掛け直す』 ギロロ「い、いや、いいんだ。本当にいいから、構わず用件を言ってくれ」 夏美「（通信機に届くくらいの声で）ホントに大丈夫だから！ こっちは気にしないで！」 ガルル『・・・判った、手短に伝える。夏美くんがいるなら一緒に聞いてくれ給え。ふたりに関する要件だ』 ギロロの傍らまで、膝を寄せて近付いてくる夏美。ギロロと顔を合わせる。 通信機の向こうで咳払いをするガルル。 ガルル『実は現在、ペコポンに来ている。結納の品物を持参した』 ギロロ「そうか。しかし急だな。前もって連絡することは出来なかったのか？」 ガルル『急であることは充分承知だ。だが、本星の事態が切迫しつつある。一刻も早く事を起こさねばならなく なりそうだ』 ギロロ「・・・何か事件でも起きたか？」 ガルル『これから起きる可能性が高い。すまんが、今から時間を取ってもらいたい。夏美くんの母君には既に 連絡を付け、了解を得ている。夜分遅くになるが、この機会を逃すと状況は芳しくなくなる。ふたりには 申し訳ないと思うが、これからの為だ、よろしく頼む』 ギロロ「・・・了解。直接ここに来てくれ」 ガルル『では』 プツッ、と通信が切断される。 通信機を木箱の上に戻し、怪訝そうな視線を前方に浮かせるギロロ。 そして夏美を振り向き、身体を正対させて胡坐をかく。 ギロロ「・・・どうやら、ガルルは『任務』で来る」 夏美「（息を飲み）あたしたちの結納なのに？」 ギロロ「それも含めて、何か大きな動きがあるんだろう。詳しくは話を聞いてみないと解らないが・・・それにして も、奴がこれほど切羽詰ったような物言いをするのを、俺は初めて聞いた。冷静沈着とは、奴の為にあ るような言葉だからな」 夏美「そっか・・・（心配気に）本星が切迫、って言ってたよね。何が起こるのかな・・・」 ギロロ、夏美の左手を自分の右手でしっかりと握る。 思わず見返す夏美の眼差しと、ギロロのそれが宙で絡み合う。 ギロロ「何が起ころうと、俺はお前を離さんから安心しろ。判ったな」 夏美「（微笑んで、頷き）あたしもアンタから離れないから、安心して」 大きく頷き合い、凛々しい表情を交し合うふたり。 ★ 日向家・リビング 客間から廊下を通り、リビングに入室してくるギロロと夏美。 すぐ後ろから続いて入ってくるガルル。 台所から茶と菓子の準備をして、トレーからテーブルに置いている秋。 秋「ふたりとも、お疲れ様。ガルちゃんもどうぞ」 ガルル「どうぞ、お構いなく。（ギロロと夏美を見て）それにしても、ふたりとも見事だった。まさか一撃で仕留め るとはな。私の知っている限り、これだけ短時間で結納の儀を完了させたのは例がない」 秋、並べ終わってテーブルの傍らに跪き、ポットから湯を淹れ始める。 ギロロと夏美、ソファーに並んで座る。ガルルは反対側のソファーに座る。 秋「（ガルルを見て）それにしても、ケロン星の結納って凄いのねぇ。持ってきた結納品７つが合体して、あんな 生物になるなんてね。それを紅白縞模様の槍で仕留めないと、結納にならないのよね？」 ガルル「（秋に視線を向け）ええ、夫婦になるふたりが一本の槍を持ち、それで急所を突き刺せば作戦完了と なるのです。このふたりは絶妙の意気投合を見せ、僅か数秒で終わらせた。（再度、ふたりを見て）本当 に見事だった」 顔を赤らめて頬を、コリコリ、と掻く夏美。 隣で腕組みをし、頬を染めて目を閉じるギロロ。 各人の前に紅茶を入れたカップを置き、自分もガルルの隣に座る秋。 ガルル「（横の秋を見て）完成した結納の品は、台座ごと床の間に飾っておきました」 秋「ありがとう、ガルちゃん。それで・・・（神妙な顔になり）お話は、まだあるんでしょ？」 ガルル「ええ・・・少し深刻な話をせねばなりません。心して聞いて頂きたい」 ガルル、正面のふたりに目線を移し、眉を寄せる。 ガルル「ギロロ、夏美くん、単刀直入に言う・・・ペコポン時間で次の正月までに、結婚式を執り行ってもらいた い」 ギロロ「（驚いて）何だとっ！」 夏美「（驚いて）ええっ!?」 秋「（飄々と）あら、随分と急ね。まあ大体１ヶ月くらいなら、何とか出来そうよね」 ギロロ「いや待て、行うのはいいが、１ヶ月では段取りをすべて完了させるには無理がないか？ こういったこ とはもっと準備に時間が掛かる筈じゃないのか？」 ガルル「解っている。だがそうも言ってられない。事は一刻を争うのだ」 ギロロ「（訝し気に）・・・本星で、何があった？」 ギロロの視線を受け、ふう、と溜め息を吐いて腕組みをするガルル。 ガルル「・・・『円卓』のメンバーが２名、交代になる。名前はここでは明かせんが、貴様も聞いたことがある奴ら が２名、新たな『円卓』メンバーになるのだ。その交代時期が、今度の正月。それを過ぎると、この結婚 自体が難しくなるやも知れん」 夏美「（首を傾げて）『円卓』って何？」 ギロロ「我々ケロン軍を統括する総帥閣下直轄の、10人のメンバーで構成される組織だ。正式名称『ケロン軍 最高幹部議会』だが、略称“軍議会”、我々の間では通称で『円卓』と呼ばれる。主としてこの『円卓』の 議決が、軍の動静を決定するんだ。俺たちがペコポンに来たのも、そこの決定による。最高決定機関だ けあって、一度『円卓』で承認された事項は、そう簡単に覆すことは出来ん」 ガルル「我がガルル小隊、そしてケロロ小隊の直属上長である大佐も、この『円卓』メンバーのひとりだ。この 『円卓』メンバーのうち、いわゆる“穏健派”と“強硬派”のバランスが、今までは５対５で均等が保たれて きた。しかし今回の人事で“穏健派”の２名が降格となり、新たに“強硬派”が２名加わる。軍部最高部 署が、一気にタカ派の色に染められるのだ。今現在でははっきりとしたことは言えんが、大佐の話によ ると、交代があった後には全宇宙で展開されている侵略や防衛の作戦をすべて見直す、ということにな るらしい。そうなると・・・ここペコポンで今まで行ってきた作戦はもちろん精査し直され、今後の作戦にも 大きな影響は避けられない」 秋「（声を落とし）それじゃ、ケロちゃんたちもみんな・・・」 ガルル「・・・場合によっては、小隊員の交代、あるいは全員の交代もあり得る」 夏美「（目を見開いて）嘘っ！」 ガルル「（夏美を見て）あくまで推測の範囲を出ないが、可能性は決してゼロにならない」 蒼褪めた表情で肩を落とし、茫然と項垂れる夏美。 傍らのギロロ、即座に彼女を右手を握り、じっ、と見詰める。 彼に眼差しを返し、僅かに潤んだ瞳で見詰め合う。 秋、心配気にふたりを見て、それからガルルに目線を送る。 一度秋を見て、再び正面のふたりに視線を投げるガルル。 ガルル「（しっかりとした声で）それをさせない為に、今日、私はここに来たのだ」 秋「・・・何か考えがあるのね、ガルちゃん。私に出来ることなら遠慮なく言って。ふたりを引き離すような真似、 私がさせませんから」 ガルル「（視線を返し）ご協力感謝します」 秋「（微笑んで）親として当然です」 ギロロと夏美を凝視して、ソファーから降りるガルル。 そして中庭に面するサッシ窓に近寄り、外の宵闇を見詰めて後ろ手に組んで立つ。 窓に移るガルルの姿。それとガルル本人の背中に視線を送る３人。 ガルル「（外を見たまま）まずはっきり言わねばならんのが、今日ここに私が来たのは、大佐からの指令・・・ つまり“任務”であるということだ」 ギロロ「・・・そうでないかとは思ったが、大佐自らの指示か。しかし何故、夏美と俺の結納が“任務”となるの だ？」 ガルル「私は今までのペコポンでのケロロ小隊の活動を、漏らさず大佐に報告してきた。ケロロ隊長自らの報 告書、そしてクルル曹長から提出されている報告書以外に、私が纏めた物だ。ミッション・レポートの数も 膨大なものになるが、ありがたいことに大佐はすべてに於いて理解を示して下さっている。更に君た ち・・・夏美くんとギロロの関係も以前より注視しておられ、今回の婚約も大変に喜んで下さった」 ギロロ「（茫然とした顔で）・・・信じられん」 ガルル「だが事実だ。（ふたりを振り向いて）何しろ本人は、『円卓』メンバーでなければ式に参列したい、とまで おっしゃっている」 ギロロ「それはありがたいが・・・そもそもペコポン侵略命令は大佐から発せられたもの。それは、軍として武力 制圧及び作戦を行使するべし、と考えてきた。しかし、だとしたら夏美と俺の結婚は、明らかに戦略と矛 盾していそうな話ではないか？」 ガルル、くるり、と身体を返して、ギロロと夏美に向き直る。 ガルル「大佐の真意は、私にも解らない。ただ言えることは、大佐は『円卓』内で超が付くほどの“穏健派”であ るということと、君たちふたりの味方であるということだ」 夏美「（訝し気に）・・・味方？ 侵略命令を出した人が？」 ガルル「そう。そこは是非、信頼を置いて頂きたい」 未だに疑念が拭えない表情の夏美。隣のギロロを見詰める。 ギロロ、同様に納得がいかないような顔で、夏美と眼差しを絡める。 ガルル「すぐに信じるのが難しいのは重々承知だ。だが大佐は、確かにこう命令された・・・『ギロロ伍長とコー ドネーム723の結納を完遂させ、ペコポン時間で670時間以内に夫婦として登録を済ませ、ペコポン人 及びケロン人で信を置ける者を一同に集わせて結婚式を敢行せよ』とな」 ギロロ「（目を見開いて、ガルルを見て）そこまで命令されたのかっ!?」 夏美「（驚いた顔で、ガルルを見て）・・・信じられない・・・」 途端、ハッ、と何かに気付いた表情になる夏美。 夏美「ちょっと待って。確かあたしって、ケロン軍に“最終防衛ライン”って呼ばれてるのよね？ それじゃ尚更、 軍の上層部は納得しないんじゃない？」 ガルル「（短く息を継ぎ）いや、むしろ逆なのだよ」 夏美「どういうこと？」 ガルル「考えてもみ給え、君は我がケロン軍ペコポン侵略計画に於ける最大の脅威だ。最初に私がここに来 た時に、君がパワードスーツで行った戦闘はすべてレポートとして『円卓』に提出してある。その時の、 大佐以外の幹部連中の表情を見せてやりたかったよ・・・蒼褪めて誰ひとりとして声も出なかった。部下 である私の手前、辛うじて幹部の体裁を保つのに必死だったが、手が震えて怯えを隠せないメンバーも いたよ。何しろ、次の会議に欠席した幹部すら出たくらいだからね」 夏美「（ふてたような顔で）・・・全然嬉しくない」 ガルル「（ふっ、と笑い）それだけ脅威を覚えられる君が、ギロロと結婚するとなると・・・果たしてどう思われ る？」 秋「（明るい顔で）あ、それって！ 夏美が敵対することがなくなる、って思われるわよね」 ガルル「左様、ご名答ですな。連中にとっては最大の脅威が、転じて味方になったと認識される。まだこの話 は『円卓』には上げていないが、間違いなく君たちの結婚は大歓迎される筈だ」 ギロロ「（慌てた様子で）待てガルル。しかしそれでは、俺たち小隊が先行工作を終えたとみなされ、一気に本 隊がペコポンに来ることにはならんのか？」 ガルル「（口許に笑みを湛え）それも抜かりはない。ペコポンを防衛しているのは夏美くんだけではないだろ う？」 秋に向き直り、じっ、と視線を注ぐガルル。 ガルル「事後報告で大変に申し訳ないが、貴方のことも本部に報告させて頂きました」 秋「（少し驚いて）私を？」 ガルル「ええ。貴方と、貴方の母君、それと貴方の息子さんの３名です」 夏美「・・・ママとお婆ちゃんと、冬樹も？」 ガルル「（夏美を見て）その通り。いずれもタイプは違えど、戦闘時に於ける恐るべき高さの能力を保持し、階級 として『ペコポン防衛軍日向家隊長』『ペコポン防衛軍提督』『ペコポン防衛軍対敵交渉外交官兼作戦参 謀』という形で報告させてもらった。実際に弟君の能力はこの目で見させてもらっている。的確且つ冷静 な状況判断には、正直感嘆したものだ。ケロボールを駆使し、我々を手玉に取り一瞬にして窮地に追い 込む手腕は畏怖の一言に尽きるだろう。そして、（秋を見て）貴方の戦闘能力は夏美くんを遥かに凌駕 するのは間違いない。クルルの発明した重機動メカを扱った闘い、その身に備わっている卓越した身体 能力は他の追随を許さない。更に、それらの上に君臨する提督閣下は、未知数の能力を持つ筈だ・・・ これだけのメンバーが揃うペコポン防衛軍に対し、例え夏美くんがこちら側に付いたとしても、即座に戦 いを仕掛ける愚か者はケロンにはおらんよ」 優し気に微笑み、目を細める秋。 秋「そこまで褒められると、少し照れるわね」 夏美「（怪訝そうに）いや、何も照れなくても・・・」 ギロロ「ということは、俺たちが結婚することで急に本隊が来ることはない、のだな？」 ガルル「（ふたりを見て）ああ。そこは大佐が上手く立ち回って下さる。安心しろ」 漸く、ほおっ、と溜め息を漏らして、安堵の表情になるギロロと夏美。 そんなふたりに目をやり、温かな笑顔を向ける秋。 ガルル「（テーブルに数歩近寄り）しかし最初に話した通り、これらが通用するのは『円卓』メンバーが現状であ る次の正月までだ。それを越した場合、非常に難しくなるのは間違いないだろう。よってそれ以前に、 君たちに挙式を済ませて正式に夫婦になってもらいたい。先ほどギロロも言っていたが、一度『円卓』で 承認された事項はそう簡単に覆すことは出来ないからな・・・（ふっ、と笑い）今回はそれを逆手にとって やるのだ」 秋「でもガルちゃん、正月以降はやっぱり・・・（心配気に）何か“動き”があるのかしら？」 ガルル「何もない、とは言い切れません。しかしその“動き”を最小限度に抑え、影響を及ぼさないようにするこ とは可能かと思われます。その為に私も、大佐も、そして我が父も行動を起こし始めているのです」 ギロロ「（驚いて）親父もかっ!?」 ガルル「当然だろう。親父は相当乗り気だぞ。久し振りに血が騒ぐ、とも言っていた。何にせよ、状況が好から ぬ方向に転ぶ前に仕掛けることにする。『兵は神速を尊ぶ』『先手必勝』と言うからな。親父に言わせる と『やったもん勝ち』らしいが」 ギロロ「（呆れた顔で）・・・もう少し表現を考えろ、親父の奴・・・」 秋「（明るく）モアちゃん風に言うと『てゆうかぁ、既成事実？』ってトコね？」 夏美「（呆れた顔で）・・・それ、直球過ぎな気がする・・・ノリノリね、ママ」 改めて姿勢を正し、キッ、と鋭い視線で一同を見渡すガルル。 ガルル「（重厚な口調で）今回の結婚が、ケロン星とペコポンの関係に大きな影響を及ぼすのは確実だ。通常 の婚姻ではあり得ない“楔”を打ち込む筈だからな。これからの未来の流れを左右するものとなろう」 ギロロ「（ゴクリ、と唾を飲み）・・・話が大きくなってきたな」 ガルル「（ふたりを見て）夏美くん、ギロロ、どうだ？ 歴史を動かしてみないかね？」 思わず両眼を見開くふたり。 それを見詰めて大きく頷く秋。 夏美「（微笑んで）上等じゃない。最高の舞台になりそうね」 ギロロ「・・・しかし、まさかここまでになろうとはな・・・」 ガルル「賽は投げられたのだよ、ギロロ。夏美くんを見習え。これだけの大舞台を前にして、度胸が据わって早 くも凛々しい表情をしている。心技体、いずれもお前より上だからな。これから戦士として更なる成長を 遂げる為にも、妻となる彼女を見本とすることだ。解ったか？」 ギロロ「（バツが悪そうに）・・・今、それを言わんでも・・・」 恥ずかしそうに頬を染めるギロロ。 目を細めて、笑顔で彼を見詰める夏美。 ひとつ咳払いをして、一同を改めて見回すガルル。 ガルル「既に作戦は発動している。以降は私の指示に従って頂きたい。異議はないな？」 背筋を伸ばし、ガルルに注視して頷く３人。 ガルル「（頷き返し）結構。では早速だが、ふたりには私が持参した用紙二種類への記入を頼む」 ギロロ「用紙？」 ガルル「婚姻届だ。これは代筆する訳にはいかんからな。夏美くんはペコポン語で記入してもらって構わない。 記入後は本星に持ち帰り、大佐の承認印を頂いてから事務局へ提出する。それともうひとつ、これ以外 の各種届出は私が代わりに手続きを行うので、委任状へのサインだ」 秋「地球での手続きは、全部落ち着いてからでいいかしら？」 ギロロ「それはまだ・・・第一、俺たちケロン人はペコポンでは世間に認識されてないだろう？」 秋「あら？ ギロちゃんは外国人として入籍すればいいんじゃない？ ウチの婿養子ってことで」 夏美「それ、いいわね。じゃあ名前は『日向ギロロ』になるんだ。ふふっ（嬉しそうに笑う）」 ギロロ「（慌てて）待て待て！ 急にそれは無謀だろ！ 段階を踏んでだな・・・」 夏美「（拗ねたように）もう、ギロロったら考え過ぎよ。いざって時は地球人スーツ着れば問題ないじゃない。 あたしは一日も早く、アンタの奥さんを名乗りたいんだからね」 ギロロ「（赤面して）い、いや、それはまあ・・・いいんだが・・・」 秋「（冷静に）でも夏美はまだ学生だから・・・学生結婚する人も大勢いるけど、そうねぇ、確かにギロちゃんの 言う通り、こっち方面はもうちょっと様子を見た方がよさそうね。（夏美を見て）こちらの入籍はもう少し待ち なさい、夏美。解った？」 夏美「（ふう、と息を継ぎ）そうね、解った。焦らないわ。（笑顔で）何にしても今年中には、ギロロと一緒になれ るんだものね！」 明るい笑顔を弾けさせ、はにかんで頬を紅色に染める夏美。 そんな彼女と眼差しを絡め、真っ赤になって湯気を噴くギロロ。 ふたりを優しく見詰める秋。頷いて腕組みをするガルル。 ガルル「私は実際に挙式を行う場所を、別な惑星にしたいと考えている。というのも、ペコポンではケロンから の参列者を会させた場合、敵性宇宙人に何らかの反応を起こさせてしまう可能性があるからだ。ケロン 軍と敵対する連中は多いからな。無論、このペコポンにも大勢いる。君たちの挙式を土足で踏み躙る愚 行を許す訳にはいかない。よってここではない、他の惑星で執り行うのが最善の策と、私は考える。移 動に関しては、大佐と私が責任を持って宇宙船を手配しよう」 真剣な表情で聞き入る３人。 ガルル「そこでもうひとつ、君たちへの指令だが・・・他の惑星まで来れる参列者が誰であるか、当方で把握し なければならない。夏美くんはペコポン側から、ギロロはケロン側から招待したい人物をリストアップし て、数日中に私宛連絡してもらいたい」 ギロロ「了解だ」 夏美「オッケーよ」 ガルル「（秋を見て）貴方には夏美くんのサポート全般と・・・今回の作戦の最重要項目を指示させて頂きたい」 秋「最重要？ 何かしら？」 ガルル「（ニッ、と笑い）花嫁衣裳の準備、ですよ」 驚いて目を丸くして、ガルルを見るギロロと夏美。 秋、柔らかく温かく、可愛らしい笑顔でガルルを見詰める。 秋「（優しい声で）これ以上ないくらい、光栄な指示ね。任せて、ガルちゃん。（夏美を見て）私が準備するから、 希望があったら遠慮なく言いなさい、ね？」 夏美「（瞳を潤ませ、しっとりとした声で）・・・ありがと、ママ・・・」 そして直立し、後ろ手に組んで全員を見渡すガルル。 ガルル「（凛とした声で）では！ 今後も追って指示を与える！ 本日はこれまで！」 大きく頷くギロロと夏美、秋。 【Ｎ】「いやー、まさかこんな展開になろうとは・・・一番驚いてるのは当の本人だったりしますが。何にしても、 ギロロ伍長と夏美ちゃんの結婚式が早々に行われることになっちゃいましたねぇ。ちなみにこの晩、秋ママ はガルル中尉に、遅いから泊っていくように言ったのですが、時間が惜しいとの理由で速攻でケロン星に 戻ってしまったのでした」 ★ 夏美の部屋 【Ｎ】「そして後日のガルル中尉との打ち合わせの結果、日取りも決定しまして、地球時間で12月25日のクリス マスに挙式と相成りました。場所は地球から７万光年先のいて座矮小楕円銀河内、祝典惑星“ニモリトマ” にて執り行うということで・・・随分と離れた星ですが、大佐とガルル中尉の取り計らいで、ケロン星で惑星 間旅行に使っているサロン型準光速宇宙船を迎えに出してくれることとなりました。何でもこの宇宙船、 地球と祝典惑星を片道20時間で結ぶっつー、めっさ速い船なんですよ。いやー、宇宙は広いしケロン星の 乗り物も凄いね！」 テーブルに向かい合って座っているギロロと夏美。 夏美は、押し花を施した二つ折りのカードにサインペンで何かを書いている。 ギロロはビーズクッションに腰掛け、それを真正面から見詰めている。 ギロロ「随分と丁寧に作るのだな」 夏美「（笑顔で彼を見て）当たり前じゃない。折角の結婚式だもの、手間は惜しまないわよ。それに今回地球 側から招待するのって、桃華ちゃんと小雪ちゃんくらいでしょ。後はモアちゃんに出すケド、ママと冬樹は 身内だし、３通だけだったら招待状を手作りするくらいワケないもの」 ふと手を止め、身体を起こす夏美。 夏美「アンタの方は何人くらい呼ぶことにしたの？」 ギロロ「ケロロたち小隊４人、ケロロの親父、ドロロの母親、プルルには既に連絡してある。それとガルルを通じ て、本部事務局にいる知り合いや、他の部隊にいる友人にも連絡を送るように言ってある。総員で・・・ そうだな、揃うとなると身内を含めて50人程度といったところか」 夏美「まあ適度でイイ感じじゃない。招待状を送ったの？」 ギロロ「いや、メールや音声通信で連絡した。時間的に手っ取り早いかと思ってな」 夏美「そっか」 再び手元に目線を戻し、ペンを走らす夏美。 ギロロ、ふう、と息をついて腕組みをする。 ギロロ「（夏美の手元に目をやり）・・・ところでな、今日の夕方、ドロロのところに話があるので行って来る。 東谷小雪への招待状、俺が届けてやってもいいが・・・」 夏美「（顔を上げ）ホント？ じゃあ、お願いするね」 笑顔で返事をして、招待状の続きを書く夏美。 それを見詰め、目を伏せるギロロ。 ギロロ 《ケリも付けねば、ならんからな・・・》 奥歯を、ギッ、と噛み締めるギロロ。 【Ｎ】「遂に動き始めた、ギロロ伍長と夏美ちゃんの華燭の典・・・しかしそれに至るまでには、まだまだ大きな波 があるのです。更にふたりを取り巻く人々にも、多彩なドラマが待ち受けているのでした。それらは、順次 お届けするといたしましょう。待て次回！」 To be continued... [chapter02] |
