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★ リゾート惑星「KO-N89」・丘陵観光区画『ワイトオメ温泉 紅白閣』
緑の丘陵地が見渡せる旅館の一室。夕暮れ空の景色。 部屋に差し込む橙色の光の中、コポコポ、とポットから湯を急須に注ぐ夏美。 畳張りの部屋で、テーブルに向かって座椅子の上で胡坐をかいているギロロ。 暮色に染まる外の風景を眺めている。 コト、と湯呑を乗せた茶托をギロロの前に置く夏美。 夏美「（微笑んで）はい、お茶」 ギロロ「（夏美を見て）すまんな」 もうひとつの湯呑を手にして、座布団に座る夏美。 湯呑には薄赤い茶が淹れられ、酸味のある香りと湯気を放つ。 それを手に取り、香りを吸い込んでから茶を口にするギロロ。 夏美「変わったお茶よねぇ。どう？」 ギロロ「（ふう、と息を吐き）宇宙ラズベリーの花茶か・・・いい香りだ」 夏美「（一口啜り）・・・ホント、いい香りね。落ち着くわぁ」 そして再度、目を細めて夕焼けの丘陵を眺めるふたり。 夏美「綺麗な夕焼け・・・これって宇宙共通なのね・・・」 ギロロ「処や時間が変わろうと、美しいと感じる気持ちは同じなのだな」 夏美「（ギロロを見て、笑顔で）やっと観光らしくなってきたね」 ギロロ「（ふっ、と笑い返し）まったくだな」 暫くの間、夕暮れの風景を遠くに見ているギロロと夏美。 夏美「何か・・・昼間のことが凄く前のことに思えるなぁ・・・」 ギロロ「短い時間で要素の濃い事件に携わったからな。過密な一日だった。だからこそ、今のこのゆっくりとし た時間で、そう感じられるのだろう」 夏美「（ギロロを見詰め）お兄さんとお父さん、まだ宇宙警察に立ち会ってるのかな？」 ギロロ「（夏美を見詰め返し）事後処理に相当時間を取られる、と言ってたな。この観光惑星であれだけの事件 は例がないから、現場検証も相当綿密にしていそうだ。結局親父とガルルは、今晩はここを一部屋キャ ンセルして市街地のホテルに泊まるらしいからな」 夏美「・・・あたしたち、ここでノンビリしてていいのかな？」 ギロロ「俺もそう思うのだが・・・今回の件で、ガルルは随分と責任を感じている。俺たちをペコポンから呼び寄 せた挙句にこの事件に関らせてしまった、申し訳ない、と言ってた。親父からも、後は自分たちでやるか ら気にするな、と言われたが・・・」 夏美「当の戦闘をやったのって、あたしたちだもんね」 花茶を一口啜り、飲み込んで息をつくギロロ。 続けて、夏美も同様にする。 ギロロ「・・・とは言え、夏美。正直、疲れただろう？」 夏美「（ハッ、と顔を上げ）え？ そうでもないケド？」 ギロロ「とにかく、折角の温泉地だ。ここで羽根を伸ばしておくに越したことはない。明日にはペコポンに戻らね ばならん。少しでも観光気分を味わっておくとしよう」 夏美「そうね、うん、そうしよっか？」 笑顔で眼差しを交すふたり。 湯呑をテーブルに置き、居住まいを正す夏美。 夏美「ところでね、ギロロ。夕食までまだ時間あるケド、どうするの？」 ギロロ「そうだな・・・土産物でも見てくるか、それとも一風呂浴びてくるか・・・」 夏美「お風呂は大浴場にするの？ 内風呂？」 ギロロ「（思わず顔を上げて）内風呂があるのか？」 夏美「（微笑んで）あるの。見てみる？」 夏美、立ち上がって襖を開け、隣の板張りの部屋へ向かう。 ギロロも彼女に続いて移動。木細工の家具の置かれたそこを抜け、広いベランダへ出る。 木の板の目隠しの陰に、一段高くなって眺望が広がる空間。 そこに鎮座する、一枚岩をくり抜いて作られた小さな露天風呂。 周囲には玉砂利が敷き詰められ、壁際には緑の植物が植えられている。 滾々と溢れる豊富な湯、ほのかな硫黄の香り。 ギロロ「（目を見開いて）・・・驚いたな。まさかこれほどとは・・・内風呂というか、立派な露天風呂じゃないか」 夏美「ね、風情あるでしょ？ 今の時間なんか、夕焼け観ながら入れるわよ」 ふと、夏美を見返すギロロ。 少し瞳を潤ませ、頬を薄紅色に染め上げて彼を見詰める夏美。 夏美「（赤くなり、笑顔で）・・・一緒に入ろっか？」 ギロロ「（声が裏返り）なあっ！ い、い、い、い・・・一緒にぃッ!?」 夏美「（恥し気に）だ、だってさ、もう、あたしたち・・・こ、婚約してるんだし・・・あ、あたしは！・・・もう、いいか な、って・・・ギロロは、どう？」 ギロロ「（声を震わせ）そ、そそそそそんないきなり・・・お・・・俺は・・・」 カーッ、と頭の天辺から朱色に染まり、足元まで真っ赤になるギロロ。 猛烈な勢いで、頭頂から湯気を噴出させる。 突然。 ピキッ、と凝固して全身を硬直させるギロロ。 白目を剥き出しにして、そのまま後方に倒れていく。 夏美「（慌てて）ちょ！ ギロロっ！」 ハシッ、と床に落ちる寸でのところで彼を抱き止める夏美。 膝を付き、正座をしてギロロを腿の上に寝せる。 ギロロ、完全に白目になって気を失っている。ヒクヒク、と微かに震えている。 夏美「（はあ、と溜め息を吐き）・・・もう、折角勇気を出して言ったのに・・・何も気絶することないじゃない・・・昼 間なんか、あんなに頼もしくて、カッコ良くて、素敵だったのに・・・こんなんじゃ先が思い遣られるなぁ・・・ （ふっ、と微笑んで）でもホント、アンタらしいわよね・・・」 気絶したままのギロロを、キュッ、と抱き締める夏美。 そして彼を抱いたまま立ち上がり、その額に口付けをする。 夏美 《このまま入っちゃおうっと。身体くらい洗ってあげないと、ね・・・もし入ってる最中に気が付いたら・・・ ギロロ、どんな顔するかなぁ・・・ふふっ》 柔らかくはにかんだ笑顔で、脱衣籠のある衝立に向かう夏美。 【Ｎ】「で、結局ギロロ伍長が途中で目覚めたかどうかは、皆様のご想像にお任せします」 ★ 銀河鉄道駅観光リムジン・車内 【Ｎ】「そんでもって翌朝。朝食を済ませたギロロ伍長と夏美ちゃんを、観光リムジンが迎えに来ました。ガルル 中尉と親父さんが同乗してきて、４人して銀河鉄道の駅へと向かっております」 静かな走行音で、なだらかな幹線道路を市街地へと進むリムジン。 その車内、向かい合わせのベンチシート、進行方向側に並んで座るギロロと夏美。 反対側、後方に向いて座っているガルルとギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「どうでぇ嬢ちゃん、ちったぁのんびり出来たか？」 夏美「（笑顔で）ええ、お陰様で。お風呂もご馳走も堪能しました」 ギロ/ガル父「そうかい、そいつぁ何よりだ。あの旅館の風呂はそんじょそこいらの観光惑星にもねぇ癒しっぷり と評判でな、気に入ってもらえたようで何より（ギロロを見て）ってギロロ、おめぇ何赤くなってやが んだ？」 ギロロ「（慌てて）い、いや！ 別に何でもない・・・」 赤面して俯くギロロ。隣で彼を見詰めて頬を染めている夏美。 ギロ/ガル父「まあいいや。あの旅館『紅白閣』だがよ、ガルルがリサーチして見付けたんだ」 夏美「へぇ・・・（ガルルを見て）結構詳しいの？ 旅行とか温泉とか」 ガルル「いや、軍の情報の一部を閲覧したまでだ。俺が実際に体験してきた訳ではない」 夏美「何にしても、お陰でゆっくり出来たわ。ありがとうございました（一礼）・・・それと、ヴァイパーの件は結局 どうなったの？ あたしたちが当事者なのに、ノンビリさせてもらっちゃって申し訳なかったケド」 ガルル「（ふう、と息をつき）宇宙警察の現場検証の結果、湖に墜落した機体からは奴が発見出来なかった。 姑息な奴のことだ、あの状況で脱出した可能性もあり得る。あの機体はケロン軍工作班を派遣してもら って引き揚げ、警察と合同で更なる検証と実況検分を行う。これから俺と親父は、それの立会いをしなけ ればならん。すまんが、駅舎の外で見送りとなる」 ギロ/ガル父「嬢ちゃん、かえって迷惑掛けてすまなかったな。詫びはいずれキチンと入れるぜ」 夏美「（軽く首を振り）いえ、気にしないで。それよりお膝の方、大事になさって下さい」 ギロ/ガル父「おう、ありがとな。ホントおめぇさん、良く出来た娘だなぁ」 照れた表情で微笑む夏美。 途端、ギロロが意を決した表情で顔を上げる。 ギロロ「（落ち着いた声で）親父、ガルル、話がある」 ガルルとギロ/ガル父、ギロロに目線を固定する。 ギロロと並んで居住まいを正し、真剣な表情になる夏美。 ギロロ「実は・・・夏美と結婚することにした」 ギロロの言葉の後に、大きく頷いてみせる夏美。 ギロロ「昨日、申し込んで了解してくれた。夏美も俺と一緒になりたいと言ってくれた。近い将来、どういう形に なるか判らんが、式も行いたいと思う。詳細は追ってふたりで考えていきたい。とにかく・・・俺たちは 夫婦になると誓い合った」 ガルル「（眉を寄せ）ギロロ・・・自分たちの立場を理解して考えたのか？」 ギロロ「無論だ。今、俺はケロン軍としてペコポンに侵略の為に派遣されていて、夏美はペコポンを防衛する 立場・・・敵対の位置にある。だが現在、ケロンとペコポンの全面的な戦闘もない状態で永い時間が経 過している上、我々小隊全員が何らかの形でそれぞれペコポン人と繋がっている。表面の題目と内面の 実情は大きく食い違いが生じているのだ。その中で夏美と俺はパートナーとなり、敵性宇宙人掃討や古 代ケロン事象の鎮圧を共に行ってきた。そんな日々が続いて、当人同志が想いを寄せ合っても不思議 ではあるまい」 ガルル「つまり・・・軍の政策にも一因がある、と言うのか？」 ギロロ「それはあくまで、ほんの一部分に過ぎない。政策云々が要因ではないからな」 ガルル「（腕組みをして）ならば・・・我が軍とペコポンが全面戦争になった時はどうする？」 ギロロ、ふっ、と不敵な笑みを浮かべる。 ギロロ「俺は夏美の夫になるんだ。答えは決まっているだろう」 ガルル「・・・軍の命令があれば、俺はお前に銃を向ける。彼女にもそうなる」 ギロロ「相手が誰だろうと、俺は夏美を護り抜く。そしてふたりで生き抜いてみせる」 目を細め、口許に笑みを湛えるガルル。 ガルル「・・・その言葉が聞きたかった。見事な答えだ、ギロロ」 安堵したように、ふうっ、と息を吐き、柔らかい笑顔になる夏美。 ガルルの隣で、ニッ、と笑うギロ/ガル父。 ガルル「自己犠牲に基づく答えであれば、俺は反対したろう。しかしギロロ、お前は俺の思っていた以上に、行 く道の先を見ているのだな。夫婦の契りを結ぶことは、同じ人生を歩むということ。最早自分だけの命で はない。共に生き永らえる、と誓えるのだな？」 ギロロ「（大きく頷き）ああ、夏美と共に生きる。生き抜いてみせる」 夏美「（凛とした声で）あたしも、ギロロと一緒に生きる。生き抜いてみせるわ」 斜向きに座り直し、ギロロと夏美を交互に見るギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「ガルルが脅すようなこと言っちまったがよ、ま、心配すっこたねぇ。こいつぁ最初っからおめぇらの 味方だからな。もちろん（右手親指で自分を指し）俺もだ」 夏美「（ニッコリと笑顔で）判ってたわ。言われなくても」 ギロ/ガル父「まあ正直、軍の方はもうちっと時間が掛かるな。だがよ、こっちの方は任せてくれねぇかな？ 俺にしろガルルにしろ、ある程度は顔が効くからよ」 ギロロ「（頭を下げ）すまん、世話を掛ける」 ギロ/ガル父「水臭ぇぞ、ギロロ。親としておめぇの晴れ舞台くれぇ、ちゃんとしてやっからよ。それと嬢ちゃん・・・ おおっと、夏美さんと呼ばなきゃなんねぇな」 夏美「（可笑しそうに）いえ、呼び捨てでいいですよ」 ギロ/ガル父「ま、すぐには難しいかもな・・・それでだな、近い内に挨拶を兼ねて結納の品を届けようと思うん だが、俺か、じゃなかったらガルルが行くんでな、お袋さんによろしく言っといてくんねぇか？」 夏美「解りました、帰ったら伝えます」 隣のギロロを見詰めてから、前を向き背筋を伸ばして口を結ぶ夏美。 つられたように居住まいを正すギロロ。 夏美「（しっかりとした声で）お義父さん、お義兄さん、不束者ですが末永くよろしくお願いします」 丁寧な動作と温かい笑顔で礼をする夏美。 彼女を見詰めて、少し驚いた表情をするギロロ。 ガルル「（目を細めて）義兄、と呼ぶには少し早くないか？」 夏美「（ニコッ、と微笑んで）『善は急げ』でしょ？」 一瞬、あっけに取られた顔になるガルルとギロ/ガル父。 そして、パン！と膝を掌で叩いて、喜色満面で笑うギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「カッカッカ！ 一本取られたなガルル！」 ふっ、と口許を緩ませるガルル。 眼差しを交し合って、自然な笑顔になるギロロと夏美。 【Ｎ】「かくして、ギロロ伍長と夏美ちゃんの初めてのツーショット旅行は、様々な顛末はありましたが無事に終わ り、婚約という大きな実りを持って帰ることと相成ったのです。帰りもガルル中尉の計らいで、銀河鉄道超 高速特急のスイートルームで地球に戻ってまいりました」 ★ 日向家・客間 【Ｎ】「地球を旅立って３日目の夕方、日向家に到着しましたふたりは、迎えたケロロ軍曹たちにお土産を渡し 終わってから、秋ママに事の次第を報告する為に時間をとってもらったんですが・・・何やら緊張した雰囲 気・・・ママの眉間にも皺が寄ってますけど・・・」 和室の客間で、テーブルを挟んで向かい合うギロロと夏美、秋。 秋の表情は険しく、ふたりを見据えて身動ぎもしない。 目線を落として俯いているギロロと夏美。 秋「（ふう、と息をつき）話は解りました。それが、あなたたちの結論なのね？」 ギロロ「（顔を上げ）ああ。俺は夏美を嫁にしたい。自分の立場も承知した上で、だ」 夏美「（続いて顔を上げ）あたしも、ギロロと一緒になりたい。もう何があっても、ギロロと離れたくないの」 宙でぶつかる、３人の視線。 暫くの沈黙。 秋、夏美に目線を固定する。 秋「（重々しい口調で）夏美に聞きます。結婚するということは、あなたにとってどういう意味があるの？」 夏美「え？・・・意味って？」 秋「意味があるから、ギロちゃんとの結婚を決めたんでしょう？ まさか他に何の意味もない、ただ単に、好きで 一緒にいたいから、って理由じゃないんでしょうね？」 一瞬、戸惑ったように視線を落とす夏美。 しかし直後、キッ、と力強い眼差しを秋に向ける。 夏美「（安定した口調で）あるわ。ただ、あたし本位の気持ちになるケド」 秋「・・・聞かせてちょうだい」 居住まいを正し、ふう、と一度息を継ぐ夏美。 夏美「結婚って、あたしにとっての“御守り”なの」 秋「（少し目を見開いて）・・・“御守り”？」 夏美「そう・・・あたしはギロロとの“絆”、ギロロとの“関係”・・・それをハッキリとカタチとして見えるようにしたか った。ギロロが傍にいてくれる時、物凄く安心出来て力が湧いてくる。逆に離れてたり近くにいないと判る と、どうしようもなく不安で堪らなくなる・・・もうあたし、ギロロと離れることなんか考えたくもないの。ずっと 一緒に生きて、生きて、生き抜きたい・・・そしてこれから生きていく中できっと、辛いこと、大変なこと、嫌 なことがいっぱいあると思う。でもそれも、ギロロが一緒にいてくれるなら・・・どんなコトが起こっても絶対 に負けない、って信じられる。ギロロとの結婚があたしの人生の“御守り”になる、ってそういう意味なの」 秋「（目を閉じて）なるほど、そういうこと・・・（夏美を見て）でもね夏美、それじゃあ随分とギロちゃんに依存し過 ぎだと思うんだけど？ ギロちゃんがあなたのことを負担に思ったらどうするつもり？」 ギロロ「（ハッ、として）待て、俺はそんなことは・・・」 秋「（ギロロを見て）ギロちゃんは黙ってて。今は夏美に聞いてるの」 夏美「だったら、その負担になった荷物、あたしが持つわ」 思わず夏美に視線を向けるギロロ。落ち着いて再度娘を見る秋。 夏美「あたしがギロロの重荷になるのなら、その分、ううん、それ以上にギロロを護って、救けたい。すぐには 無理かも知れないケド・・・（凛とした声で）あたしがギロロの“御守り”になりたい！ なれるように する！」 静まり返る室内。 夏美は秋に視線を向けたまま。 不安気に夏美と秋を交互に見ているギロロ。 やがて、ふうう、と長い溜め息を吐いて、ギロロと夏美を一度ずつ見る秋。 秋「（ゆっくりと微笑んで）・・・思った以上の答えよ、夏美。そこまで考えててちゃんと言えたのなら、私から何も 注文することはなさそうね・・・」 夏美「（表情を緩めて）ママ・・・」 秋「（ニッコリと）婚約おめでとう、ギロちゃん、夏美！」 一気に表情が明るく融解するギロロと夏美。 夏美、涙腺に薄っすらと涙を溜める。右手人差し指で軽く下瞼を押さえる。 秋「さっきはごめんね、ふたりとも。あんな難しい顔してたのは別に怒ってた訳じゃなくってね、あなたたちに真 実の気持ちを話してほしかったからなの。本当はね、最初っからふたりの結婚には賛成だったのよ」 ギロロ「（引き締めた顔で）秋、その、一応聞いておくが・・・俺はケロン人だぞ？」 秋「（きょとん、として）あら？ 夏美は地球人でしょ？ それが何か？」 ギロロ「そこのところは、何も言わないのか？ 異星人の俺に文句のひとつもあろう」 秋「（目を細めて）それに文句を言う理由なんて何処にもないわね」 僅かに小首を傾げて、柔らかく温かい笑みを浮かべる秋。 秋「確かにあなたたちって、違いがいっぱいあるわね。人種、年齢、体格、肌の色、携わってきた世界、育って きた環境、価値観、寿命・・・ねぇギロちゃん、そんな違いをいちいち考えて夏美を好きになったの？」 ギロロ「いや、そんなことはない。しかし正直、侵略する側とされる側とか、敵対関係とかは考えたことはある。 だがそれに拘る以上に、夏美を想い続けてきたのは事実だ」 秋「（頷いて）でしょ？ 夏美はどう？」 夏美「あたしは違いとか考えるよりも先に・・・（頬を染め）ギロロそのものに惹かれたんだと思う・・・ハッキリ 言って、違いなんかどうでもよかったの・・・」 ちら、とギロロを見詰める夏美。艶やかに潤んだ瞳。 彼女の眼差しを自分のと絡め、真っ赤に顔を染めるギロロ。 秋「だったら何も心配はいらないわね。いろいろあるかも知れないけど、きっとふたりなら乗り越えていける、 って信じられるわ。（満足気に）何しろお互いの想いが宇宙を超えちゃったものね、あなたたち」 その言葉に、今度は秋の方を向いて赤面した状態で微笑むふたり。 それを見て嬉しそうに、何度も頷く秋。 秋「そうなると、私は異星人の息子を持つことになるのねー。何かね、早くみんなに自慢したい気分よ。（はた、 と思い立ったように）ふたりとも、式はいつ頃を考えてる？」 ギロロ「（ハッ、として）それは、まだ先だ、ということしか・・・夏美も学生だし、ケロン軍の動静も考えねばなら ない。今すぐ、という訳には・・・」 秋「あら？ 私は明日にでもと思ってるけど？」 ギロロ・夏美「「明日ッ!?」」 思い切り目を見開いて大声を出すふたり。 ギロロ「（慌てて）そ、それはあまりにも早過ぎだろっ!?」 秋「（しれっとして）だって『善は急げ』って言うでしょ？」 眉を寄せて一瞬怪訝そうな顔になり、はあ、と溜め息をつくギロロと夏美。 ギロロ「・・・ガルルよりも上手がいたな・・・」 夏美「・・・流石はママ、ある意味無敵よね・・・」 秋「（満面の笑みで）それじゃあ、みんなの意見を聞いてみましょうか？」 ギロロ・夏美「「みんな？」」 突然立ち上がり、足音を押さえてそーっと廊下側の襖に近付く秋。 静かにゆっくりと動作を行い、右手を襖に掛ける。 直後。 秋がパシン！と勢い良く襖を開け放つ。 その向こうの空間には、ケロロ、タママ、クルル、ドロロ、モア、冬樹がいる。 しかも立ち聞きしていたように、こちらに耳を向けたポーズ。 それらがいきなり開いた襖に驚き、声を上げて客間に倒れ込んでくる。 夏美「（驚愕）ア！ アンタたち何やってんのよっ！」 ギロロ「（目を剥いて）貴様らぁっ！ 立ち聞きしてたのかッ！」 夏美「冬樹っ！ アンタまで何よっ！ モアちゃんまでっ！」 冬樹「（打った肘を擦り）ご、ごめーん姉ちゃん・・・つい、心配になって・・・」 モア「（笑顔で）でもよかったですね夏美さん、ギロロさん。てゆうかぁ、万歳三唱？」 ケロロ、喜色満面で立ち上がって万歳をする。 ケロロ「（すごく嬉しそうに）ギロロ伍長ッ！ 夏美殿ッ！ 婚約おめでとうでありまーす!!!」 タママ「（笑顔で）やりましたね伍長さーん！ 僕も嬉しいですぅ！」 クルル「とうとうここまで来ちまったか先輩。これからも楽しいネタ提供してくれよなぁ。く〜っくっくっくっくっく！」 ドロロ「（頷いて）これで拙者も一安心でござる。おふたりとも、よろしゅうござったな（目を細める）」 横一列に並んだ小隊メンバーを見て、緩やかに笑みを浮かべるギロロと夏美。 それを見渡して、ニッコリと笑う秋。 秋「どうするケロちゃん？ ふたりの挙式、私は早くてもいいと思うんだけど」 ケロロ「そーでありますなぁママ殿、我輩たちとしても準備が整い次第敢行してもよろしいかと考えてるのであ りますが・・・（意味深に笑い）ここはひとつ、まずはケロン人はケロン人同志、ペコポン人はペコポン人 同志で話し合いを持つというのは？」 秋「（頷いて）ＯＫよ。じゃ、日付が変わる前に戻してね」 ケロロ「了解であります！（敬礼）」 会話の内容が理解出来ず、訝し気な表情になるギロロと夏美。 途端、いきなりタママとクルルが、ガシッ、とギロロを両脇から押さえる。 ギロロ「（驚いて）なっ！ 貴様ら何をするっ！」 ケロロ「それじゃこれから、我輩の部屋にてケロロ小隊のミーティングを執り行うであります。議題は『ギロロ伍 長と日向夏美殿の結婚式作戦』っつーことで。それに関してのリサーチや本人の意見も聞かねばなりま せんからなぁ」 ギロロ「（焦って）おいおいおい！ 貴様ら俺を肴に宴会しようってんじゃないだろうな！」 ケロロ「（ニヤリ、と笑い）判っちゃった？」 ギロロ「図星かッ!!!」 ケロロ「そんじゃそーゆーことで。タママー、クルルー、連行開始！」 ギロロ「（ジタバタして）どわーっ！ 離せっ！ 離さんか貴様らっ！」 タママとクルルに両腕を抱えられ、ズルズルと引き摺られていくギロロ。 茫然と事の次第を見ていた夏美、我に返る。 夏美「（大慌てで）ちょっとボケガエルっ！ ギロロを返しなさいよっ！」 ケロロ「（振り向いて）ご心配いらないでありますよ、夏美殿。ちょーっとギロロをお借りするだけでありますから。 夜までにはお届け、っつーことで」 夏美「ドロロ！ アンタまで止めてくれないの!?」 ドロロ「（振り向いて目を閉じ）夏美殿、申し訳ござらんが、拙者もいろいろとギロロ殿から聞きたい話が山積して ござる故・・・実のところ、楽しみにしているでござるよ。（目を開けて礼をして）失礼ながら、御免」 悲鳴を上げて引き摺られていくギロロと、楽しそうな小隊メンバー。 それを立ち竦んで眺めている夏美。横には笑顔の秋と冬樹、そしてモア。 秋「それじゃこっちは、夏美にいろいろと話してもらわなきゃね」 夏美「（驚き）えええっ！ あたしまでっ!?」 冬樹「いいじゃん姉ちゃん、僕もいろんな話、聞きたいんだ」 夏美「そ、それにモアちゃんもっ!?」 モア「ええ。今回はおじさまたち水入らずで楽しんでもらいたんで。私は夏美さんのお話が是非聞きたいんで す」 秋「（踵を返し）それじゃ、リビングに移動してお茶でもしながら話しましょうね」 冬樹・モア「「さんせーい！」」 物憂げに、はああ、と溜め息を吐いて眉を顰める夏美。 夏美「・・・当事者の意見は無視ですかい・・・」 ★ 夏美の部屋 夜更け、時計の針は11時を差す。 風呂上りでパジャマ姿の夏美、ベッドに腰を下ろして、ふう、と息を継ぐ。 夏美 《もう、ママも冬樹もモアちゃんも質問し過ぎ・・・流石にヘトヘトだわ・・・でも３人ともあたしたちの婚約、 歓迎してくれてるみたいで良かった・・・》 少し微笑んで、足元に視線を落とす夏美。 直後、ドサッ、とドアの外で音がする。 続いて、ピコピコピコ・・・と数人分の足音が忙し気に立ち去る。 慌てて立ち上がって、ドアを開けてすぐ横の壁を見る。 そこには、疲れ切った顔で俯いて、壁に寄り掛かって座るギロロの姿。 夏美「（驚いて）ギロロ！ どうしたのよ！」 ゆっくりと弱々し気にこちらを向き、溜め息を吐くギロロ。 ギロロ「・・・どうもこうも、質問と冷やかしの雨嵐でヘトヘトだ・・・」 夏美「（屈んで）とにかく入って」 次の反応をするより早くギロロを抱き上げ、後ろ手で扉を閉める夏美。 そのままベッドに向かい、彼を腿の上で自分に寄り掛からせて座らせる。 頬を染めながらも、心底疲れた表情で彼女に凭れ掛かるギロロ。 夏美「（据えた目で）もう、アイツらったら・・・アンタをオモチャにしたのね。こんなになるまで質問攻めにしたり 茶化したりして・・・今度お仕置きしとかなきゃ」 ギロロ「（息が上がって）い、いや、もういいんだ。あいつらはあいつらなりに祝ってくれているし、俺も言うことは 言ってきたから・・・」 夏美「（ギロロを見詰めて）言うこと？」 ギロロ「ああ、俺の、気持ちだ。俺は夏美と一緒に生き抜いてみせる、とな」 疲労の色濃い顔で、ニッ、と不敵に笑うギロロ。 瞳を潤ませて、優しく柔らかい微笑みを浮かべる夏美。 そして、ギュッ、と彼をきつめに背後から抱き締める。 夏美「（顔を寄せ）言うようになったわね、ギロロ」 ギロロ「もう臆する必要などないからな。俺はお前と夫婦になり、共に道程を歩いていくんだ。胸を張って言って やるさ」 夏美「・・・そうね。ずっと一緒に歩いていくんだものね・・・」 暫くの間、そのままで動かないふたり。 ふと、夏美が視線を伏せていることに気付くギロロ。 ギロロ「（首を傾げて見上げ）どうした？」 夏美「（少し憂いを帯びた声で）・・・ちょっと・・・寿命のこと、考えちゃって・・・」 ギロロ「・・・そうか・・・」 夏美の腕の中で身体を返し、彼女の腿の上で向かい合わせに座り直すギロロ。 眼差しを絡ませ合うふたり。 夏美「あたしは生きてる間、ずっとギロロにいてもらえるからいいんだケド・・・普通に過ごせば何千年も、あたし がいなくなってもギロロは生きてくんだな、って思っちゃって・・・」 ギロロ「（落ち着いた声で）ああ、そうなる。前にも話したが、ケロンの科学力がどんなに優れていたとしても、生 命を操作するには限度があるからな」 夏美「（湿った口調で）・・・あたしが逝った後、ギロロは寂しがってくれる？ 自惚れたコト言っちゃうみたいだケ ド・・・」 ギロロ「（キッパリと）そこは大いに自惚れてくれ。寂しいどころか、どうにかなってしまうかも知れんな」 自嘲気味に、ふっ、と薄く口許に笑みを浮かべるギロロ。 すぐさま真剣な表情へと転化し、夏美の瞳に真っ直ぐな視線を注ぐ。 ギロロ「夏美は、転生を信じるか？」 夏美「・・・転生？ 生まれ変わり？」 ギロロ「ああ、生まれ変わること、だ」 夏美「（少し微笑み）・・・信じたい、な・・・」 ギロロ「これからは全力で信じてくれ。俺は今まで、そういう漠然としたものに信は置けなかったが、今日からは 何があっても信じることにした」 きょとん、とした表情の夏美。 彼女に揺るぎない眼差しを向け、決意に溢れる顔になるギロロ。 ギロロ「（凛とした声で）もしお前が先に逝った場合、この宇宙の何処かで必ず生まれ変わっておけ。俺は寿命 残されている限り、何処にいようと絶対にお前を見付け出す。そしてまた巡り逢って・・・俺はまたお前を 想う。その時にお前も想ってくれたのなら、また一緒になってくれないか、夏美？」 僅かの間。 静かに、夏美の両頬を伝う涙の滴。 はらはら、と流れ落ちる涙を、彼女の頬を撫でて拭うギロロ。 夏美「（震えた声で）・・・ギロロぉ・・・」 ギロロ「それでいいか？」 ゆっくりとギロロを抱き寄せる夏美。 夏美の両脇に手を差し込み、力を込めるギロロ。 頬を密着させ、互いの温もりを交し合うふたり。 夏美「（しゃくり上げ、艶やかな声で）・・・アンタと出逢えてよかった・・・アンタと一緒になれてよかった・・・嬉し いよぉ、ギロロぉ・・・」 ギロロ「ならば・・・約束したぞ、夏美・・・」 夏美「（泣きながら、笑顔で）・・・うん・・・」 想いを腕に込め、身動ぎもせず抱き締め合うギロロと夏美。 【Ｎ】「宇宙を超えた片想いは、宇宙を超えた両想いとなり、そして今、宇宙を超えた絆へと発展しました。ギロロ 伍長と夏美ちゃん・・・ふたりの悠久の繋がりは、まだ始まったばかりなのです」 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