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★ リゾート惑星「KO-N89」・銀河鉄道駅改札口付近
ドーム型の改札前ホールに、改札機を抜けて歩いて出てきたギロロと夏美。 数多くの異星人たちがひしめき、あちこちから交差する混雑振り。 寄り添って、慎重な足取りでホールの中央付近の、高くそびえるオブジェに向かう。 夏美「すっごい人ねぇ。いろんな宇宙人がいっぱいいるし」 ギロロ「俺から離れるなよ、夏美」 夏美「（コクン、と頷いて）判ったわ」 ギロロに寄り添い歩く夏美。 進行方向前方と彼の姿を交互に見ながら進む。 やがて、細かい円柱を多段に重ねた、黒曜石と思しきオブジェの近くまで来る。 周辺には、待ち合わせをしているらしき数多くの異星人たち。 ギロロ「待ち合わせ場所はこの辺りの筈だが・・・」 立ち止まって、キョロキョロと見回すギロロ。 すると、ふたりのケロン人がギロロの右後方から近付いてくる。 ガルル「定刻通りだな、ギロロ」 声に、ハッ、となってその方向を振り向くギロロと夏美。 そこには、ガルルともうひとり、ギロロより薄い赤褐色の男性ケロン人がいる。 バンダナのような布で頭部を覆い、額の部分に濃いグレーのスカルマーク。 眉が黒く太く、顔の輪郭から飛び出しているほど長い。細長い吊り目。 黒く濃い口髭。腹には薄緑色の腹巻、不敵な笑みを湛える。 その男性を見詰めて、驚愕のあまり口を大きく開いて凝固するギロロ。 ギロロ「・・・お・・・親父ッ！」 夏美「（続いて驚き）えええええっ!!!」 目を丸くして動きを停止するふたり。 ピコピコ、と足音を立てて近付いてくるガルルとギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「（ニイッ、と笑い）久し振りじゃねぇか、ギロロ！ ロクに便りもよこさんと何してやがった！ ガル ルからいろいろ聞いてはいるがよ、ペコポン侵略は遣り甲斐がありそうでよかったな！ カッカッ カ！」 ギロロ「（訝し気に）な・・・何で親父がここにいるんだ？」 ギロ/ガル父「てやんでぇ！ 細けぇことゴタゴタ抜かすんじゃねぇ！」 ガルル「本当は俺ひとりで来る筈だったんだがな。話をしたら親父が、どうしても、と言い出して仕方なかっ た。止むを得ず、だ」 ギロロ「お袋はどうした？」 ギロ/ガル父「ああ、かーちゃんは今年の町内会の世話人やってからよ、会合があって来れねぇんだ。おめぇ らによろしく、とのことだ」 ふと、傍らで未だに茫然と立っている夏美を目に留めるギロ/ガル父。 それに気付いて、ハッ、と我に返る夏美。 夏美「（頬を染め、慌てたように）あ、は、はじめまして！ ひ、日向夏美です！（一礼）」 ギロ/ガル父「（目を見開き）おお！ あんたが噂の！ いやぁいろいろと話は聞いちゃいるがの、間近で見ると こりゃまたえれぇ別嬪さんな嬢ちゃんじゃねぇか！ ウチのかーちゃんといい勝負だ！ カッカッ カ！」 夏美「（赤面）い、いえいえ、そ、そんなコトないです」 ギロ/ガル父「（ニヤッ、と笑い）まったくよぉ、ギロロの奴も隅に置けねぇな！」 ギロロ「（ガルルを睨み）・・・貴様、一体どういう話をしてるんだ？ まさかある事ない事吹き込んでるんじゃな いだろうな？」 ガルル「俺は客観的事実と正直な感想しか話していない。大体ギロロ、今まで親父にはロクに彼女のことを話 してないのだろう？ むしろお前の方から話をするのが筋だ。本末転倒ではないか？・・・まあいい、後 は自分で親父に話をしてみろ」 グッ、と押し黙るギロロ。 一歩進み出て、夏美の前で腕組みをするギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「ところで嬢ちゃん、早速で悪ィ。昼飯だがよ、おめぇさん、炭水化物系植物が好きだとか聞いた んでな、デカンショ星名物を食わせてくれる店に予約入れといたぜ。まずはそこに行って、じっくり 話でもしようや」 夏美「（微笑んで）あ、はい。ありがとうございます」 ガルル「それからいくつか観光名所を案内し、夕刻には宿に着く予定だ。気楽に過ごして頂ければよかろう」 夏美「あ、そうだ。（ガルルに向き直り）チケットわざわざありがとうございました。（一礼）でも高かったんじゃ ・・・あんな素敵で豪華な客室で旅が出来るなんて思ってもみなかったから、ずっと驚きの連続だったわ」 ガルル「（首を振り）いやいや、今回の旅費一切は軍からの報奨金で出してるので、ご心配無用。しかもこれ は、君が受け取るべきお金なのだから」 夏美「あたしが？」 ガルル「そう、君が、だ。何故なら今回の報奨金、ヴァイパーＧ殲滅が成功した報労に対して支給されたもの ―――君の協力があってこそ、作戦は成功した。胸を張って受け取ってもらって構わんのだよ」 夏美「でも・・・あたしはギロロを救けたい一心で・・・（薄く頬を染める）」 ギロ/ガル父「結果オーライじゃねぇかよ、嬢ちゃん。カネのこたぁ気にすんなって。ここでのバカンスを楽しんで くんな。（ギロロを見て）ああ、おめぇもついでにな」 ギロロ「ついでか俺はッ！」 顔を赤くして、少し怒った様子のギロロ。 ついつい、微笑んで彼を見詰める夏美。 ガルル「そろそろ予約時間だ。店舗に向かうとしよう」 くるり、と踵を返すガルルとギロ/ガル父。 歩き出す彼らに続いて、ギロロと夏美も並んで追いていく。 人込みを擦り抜けて歩きながら、ギロ/ガル父の後ろ姿に目をやる夏美。 夏美「（ギロロの方にやや傾ぎ）ねぇ、アンタってお父さん似なのね？」 ギロロ「（夏美を横目で見て）姿はな。顔立ちはお袋に似てる、と言われるが」 夏美「そう言えば、お兄さんの目はお父さん似なのかな。じゃあ、アンタのお母さんってどっちの方に似て るの？」 ギロロ「お袋の姿はガルル似だ。目は俺の方が似てる、と思うが・・・」 途端、左人差し指を頬に当て、想像する夏美。 【コラージュモード】 ガルルの姿、目はギロロのような半月型、目の色は金色。 布巾を頭に巻き、割烹着。手に持つは、お玉とハタキ。 やたら濃い赤い口紅。オマケに投げキッス。 【コラージュモード終了】 あまりの想像図に、思わず口を押さえて笑いを堪える夏美。 プルプルと肩を震わせて、立ち止まって顔を伏せる。 それを傍から見ていて、ジト汗で眉を顰めるギロロ。 ギロロ「（呆れたように）・・・ひょっとして物凄い想像してないか？ 夏美」 ★ リゾート惑星「KO-N89」・大気圏外宇宙空間 漆黒の宇宙空間の闇の奥から、ゴウンゴウン、と腹に響く重低音が近付いて来る。 惑星に接近する、凄まじい大きさの超巨大戦艦。闇に融けるような漆黒色。 全体の形は、三角錐を歪めたような形状。巻貝と酷似する螺旋形のフォルム。 段々と惑星への距離を縮め、やがて、スゥーッ、と姿を薄めながら消える。 ★ 銀河鉄道駅前通り『宇宙割烹マルジュウ』 落ち着いた和装、畳張りの個室で食事を済ませた一同。 食後の茶を口に含み、飲み込んで、ほぉ、と息をつく夏美。 夏美「（満足気に）美味しかったー、ご馳走様でした」 ギロ/ガル父「そっかそっか、そいつぁ良かった。（茶を啜り）おめぇさんの星の料理に近ぇとか説明されてたか らな。まあ、気に入ってくれて何よりだ」 夏美の横で茶碗を持ってそれを見て、暫く何かを考えている様子のギロロ。 そして徐に顔を上げ、ギロ/ガル父に目をやる。 ギロロ「親父・・・最近ケロン星からほとんど出ない親父が、わざわざここまで来たということは、やはり何か話 があるからじゃないのか？」 ギロ/ガル父「（ニッ、と笑い）流石におめぇもそれほど馬鹿じゃねぇってこったな。んじゃあ、話させてもらおう かの。や、話っつーかよ、（ギロロと夏美を交互に見て）おめぇらに質問なんだがな」 ギロロ「質問？」 身を乗り出すように、ずいっ、と前に出て、鋭い視線を向けるギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「単刀直入に聞くぜ・・・式はいつにすんだ？」 ギロロ・夏美「「・・・はい？」」 思わず素っ頓狂な声を上げるふたり。 暫しの、間。 ギロロ「（物凄く訝し気に）・・・何の、式だと？」 ギロ/ガル父「んなもん決まってんじゃねぇか。おめぇと嬢ちゃんの結婚式だ」 ギロロ・夏美「「（声が裏返り）結婚式ぃ!?」」 驚愕のあまり目を丸くして、真紅に染まった顔のまま凝固するふたり。 それを不思議そうに見てたギロ/ガル父、左目を半分閉じて疑念の表情。 ギロ/ガル父「何だギロロ、その為に嬢ちゃんを連れてきたんじゃねぇのか？」 ギロロ「（大慌て）待て待て待てっ！ 誰がそう言った！ 俺たちは今回旅行でここに来たんだ！ 第一、そう だったら俺から親父に連絡のひとつくらいする筈だろう！」 ギロ/ガル父「（隣のガルルを見て）おい、ガルル・・・おめぇの話と随分違うようだが？」 ハッ、としてガルルを見詰めるギロロと夏美。 全員の注目を浴びているガルル、無表情のまま、沈黙。 沈黙。 沈黙。 ガルル「・・・『善は急げ』と言うからな」 ギロロ「（怒声）急ぎ過ぎだッ！ あとタメ過ぎだッ！」 ギロ/ガル父「何でぇ何でぇ、話がよく判らねぇな。まあいい、式はまだ考えてねぇ、ってことにしとくか。（夏美 を見て）嬢ちゃんに訊ねるがよ、おめぇさんとギロロは“悪くねぇカンケイ”・・・や、違ぇな、世間で 言うとこの“お付き合い”してるってんでいいんだろ？」 夏美、頬を薄紅色に染め、隣のギロロを見詰める。 対して眼差しを夏美に返して絡め、同じく赤くなるギロロ。 同時に前に向き直り、無言のまま、コクリ、と一度だけ頷く夏美。 フシュゥ、と湯気を顔から出して、俯くギロロ。 それを目の当たりにして、ニヤッ、と不敵に笑うギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「（感心して）まったくよぉ、初々しいことこの上ねぇな。俺とかーちゃんの若ぇ時を思い出すぜ」 ガルル「・・・親父、そろそろ次に移動するとしよう。会計を済ませてくる」 席を立って部屋を出ようとするガルル。 続いて立ち、襖を開ける彼に歩み寄るギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「待て、ここの払いは俺が持つぜ」 ガルル「いや、今回の支払いは報奨金ですべて賄える。心配ない」 ギロ/ガル父「んなこと言うなって。ちったぁ親らしいとこ見せとかねぇと・・・」 話しながら廊下に出ていくガルルとギロ/ガル父。 襖が、ピシ、と閉められて、部屋に取り残されるギロロと夏美。 黙って正面に視線を投げ、ふたりとも頬を染めたまま強張った表情。 夏美 《何よ何よぉ、いきなり話が進んじゃって・・・ギロロとあたしの結婚？ だってだって、あたしたちまだ 数ヶ月しか経ってないし・・・やだ、列車の中で考えたコト、現実になっちゃうのっ？ ホントに急過ぎる よぉ・・・でも・・・ギロロってば・・・さっき結婚するってコトに関しては否定しなかったよ、ねぇ・・・》 ギロロ 《何だ何だ、この展開は・・・夏美と俺の結婚？ 待て待て、俺たちはまだ日が浅いぞ・・・まさかこっち に来る前に考えたことが、よもや現実になるのかっ？ しかし、いくら何でも急ぎ過ぎだとは思うが・・・ だが・・・夏美は・・・先ほどは結婚の話を拒絶した感じではなかったようだが・・・》 ちら、と互いに横目で相手を見るふたり。 夏美 《ギロロは・・・どう思ってんのかな？》 ギロロ 《夏美は・・・どう考えてるんだ？》 ゆっくりと、同時に顔を向けて合わせるギロロと夏美。 思い切り視線を絡ませ、ドキン！と心臓が鳴って、跳ねるような仕草を見せる。 ギロロ「（冷や汗を浮かべ）ど、ど、どうした？ 夏美」 夏美「（焦って）な、な、何でもないわよっ。ギ、ギロロこそ、どうしたのよ？」 ギロロ「お、俺も、な、何でもないぞ」 ゴクリ、と同じタイミングで唾を飲み込むふたり。 もう一度正面に向き直り、頬を赤らめたまま目線を宙に浮かす。 ギロロ「（口籠もって）あ、さ、さっきはだな、親父がいきなりあんな話をして・・・ガルルの奴が勝手に話をして いるようだが・・・」 夏美「（やや慌てて）え！ あ、別にそれは！ うん、大丈夫だから！」 ギロロ「急にああいう話を切り出されて・・・（声を落とし）俺も知らなかった展開とはいえ、気を悪くしていたら 謝る・・・すまなかった」 夏美「え？・・・（ギロロを見て）どうして謝るの？」 ギロロ「（夏美を見て）旅行の筈が、予想もしてなかった話が降って湧いたんだ。しかも決め付けるような流 れで・・・気を害しても仕方あるまい？」 夏美「（軽く微笑んで）謝られるようなコト、された覚えないんだけどなぁ・・・」 ギロロ「怒ってないのか？」 夏美「怒るワケないじゃない？ いきなりなんでビックリはしたけどね」 ギロロ「そうか・・・ならいいんだ」 夏美「怒るどころか・・・（小さな声で）ちょっと期待しちゃってる・・・」 ギロロ、聞き取れなかった言葉に思わず顔を上げて夏美を見詰める。 対して頬を鮮やかな紅色に染めて、優しげな笑みを向ける夏美。 ★ 銀河鉄道駅前・噴水広場 石畳の広場を突っ切って、駅舎方向に歩いていくガルル、ギロ/ガル父。 その後ろを並んで着いていくギロロと夏美。 噴水の周辺には、観光客が大勢たむろしている。土産物売りの屋台もいくつかある。 ギロ/ガル父「さてと、こっからだがよ、（ギロロと夏美を振り返り）観光周遊艇が着くまであとちっとばっかし掛 かる。今の内に土産物でも見とくか？」 夏美「あ、そうですね。それじゃあ、少し見・・・」 突然。 ハッ、と上空を仰ぐ夏美、ギロロ、ギロ/ガル父。 上を見ずに、ピクッ、とこめかみの付近を反応させるガルル。 シュルルルルルル・・・と真上から何かが猛スピードで接近。 バッ！と素早い反応で、夏美を抱きかかえるギロロ。 彼の動きに同調させ、思い切り後方に跳ねる夏美。 タンッ、と石畳を蹴って、真後ろにトンボを切るギロ/ガル父。 フッ、と姿を消すガルル。 直後。 無数のレーザー弾が、４人が空けた空間の真上から降り注ぐ。 ドドドドドドド！と凄まじい音響を轟かせ、石畳を抉り取る。 ギロロ、夏美の手を取り、速い動きで噴水の陰にふたりで身を潜める。 朦々と土煙が上がる中、悲鳴を上げて逃げ惑う他の観光客たち。 フシュッ、と地面に穿たれた穴の近くに現れるガルル。 その右手方向に、片膝をついて眉間に皺を寄せているギロ/ガル父。 途端。 ヒュウウウウウウ・・・とレーザー弾が降ってきた上空から降りてくる影。 やがて、ドン！と抉られた石畳の上に着地する、ヘビ型の顔の宇宙人。 黒緑色の全身、目にはゴーグルを装備し、左半身が機械化されている。 そいつがガルルを睨み、ニヤアッ、と不気味に笑う。 ガルル「（ギリッ、と奥歯を噛み）・・・生きていたか・・・」 ギロ/ガル父「（ガルルを見て）何でぇこのヘビ野郎はよ？」 ガルル「ヴァイパーＧ・・・宇宙最低の敵性種族・・・（眉を寄せる）」 身体を起こす相手を、凄まじい形相で睨むガルル。 ヴァイパーＧＴ「ガーラガラガラ！ 見付けたぜぇ紫のケロン人！ オレ様は不死身だからな、テメェ如きにヤラ レる訳がねぇんだよ！ テメェの所為でオレ様ご自慢の戦艦はお釈迦になっちまったが、天才 で不死身なオレ様は、新たに『ヴァイパーＧＴ』として蘇ったのだ！」 ガルル「・・・大人しく地獄に堕ちていればいいものを・・・」 ヴァイパーＧＴ「バカめが！ テメェをブチ殺すまでは何度でも蘇ってやるぁ！」 ガルル「（憤怒の顔で）・・・いいだろう、何度でも滅ぼしてやる！」 ピシュッ、とビームサーベルを転送して右手に持つガルル。 傍らに寄ってくるギロ/ガル父、左手首に巻いてある通信ユニットに目をやる。 ギロ/ガル父「おめぇの武器庫のアクセスコードは変えてねぇか？」 ガルル「変えてない・・・親父は下がっていろ。俺がやる」 ギロ/ガル父「熱くなり過ぎだ、落ち着けガルル。俺も手ぇ貸すからよ、コンビネーションで行くぞ。（ガルルを ちら、と見て）嬢ちゃんとギロロの為だ、ここは確実に仕留めなきゃいけねぇ」 ガルル「（短く息を継ぎ）・・・判った。フォーメーションＢで頼む」 ニッ、と笑って、右手にビームサーベルを転送させるギロ/ガル父。 一歩前に出て、ゆらり、と身体を泳がせる。 それを眼前にしたヴァイパーＧＴ、訝し気に目を細める。 直後。 タン、と石畳を蹴って、目にも止まらぬ速さで距離を詰めてくるギロ/ガル父。 ハッ！と驚いたヴァイパーＧＴの脇腹に向けて、ブン！とビームサーベルが薙ぐ。 身体を捻って一撃目を躱すが、次の瞬間正眼から振り下ろされる光の刃。 これをギリギリで避けて、ガシン、と銃を構えるヴァイパーＧＴ。 だが、構えた途端に下方から軌跡を描き、ザキィッ！と銃を両断するビームサーベル。 ヴァイパーＧＴ「（驚愕）何だとぉぉぉッ!!!」 茫然と立ち竦むヴァイパーＧＴの前で、不敵に笑うギロ/ガル父。 一方、噴水の陰から一部始終を見守っているギロロと夏美。 夏美「（ゴクリ、と唾を飲み）凄い・・・アンタのお父さん、強いのね」 ギロロ「ああ、とっくに軍は退役しているが・・・“鬼教官”健在だな」 夏美「（ギロロを見て）鬼教官？」 ギロロ「長年、成年訓練所と幼年訓練所の武術教官を務めていた。親父は『宇宙天然理心流』という剣術の 免許皆伝の腕でな、特にビームサーベルを得意とする。とんでもなく厳しい訓練振りに、軍では“鬼教 官”と言われ、上層部にも一目置かれていた」 夏美「へぇ・・・アンタん家って、お父さんが剣術で、お兄さんが射撃の名手、で、アンタは武器マニアってワケ なんだ？ 家族で小隊組めるんじゃない？」 ギロロ「（ふっ、と笑って）非戦闘員のお袋を含めても、人数が足らんな」 夏美「だからさ・・・（口籠もって）そこにあたしが入れば・・・さ・・・」 ギロロ「（思わず夏美を見て）何？」 夏美「（頬を染め、軽く微笑み）・・・何でもないわよ」 ギロロ「そうか・・・（再度、噴水越しを見て）お喋りはここまでだ。万が一に備えるぞ、夏美」 夏美「オッケー」 噴水を挟んだ向こうに注意を向けるギロロと夏美。 こちらに背を向けて立つヴァイパーＧＴ、対峙するギロ/ガル父。 ガルルはその後方に離れた位置で、サーベルを、ブラン、と垂れ下げて正対する。 ギロ/ガル父「何でぇおめぇ、弱っちい野郎だなぁ」 ヴァイパーＧＴ「（気圧されて）・・・テメェ・・・ケロンの中じゃ腕利きの方だな・・・」 ガルル「腕は鈍ってないようだな、親父」 ギロ/ガル父「（笑い）カッカッカ、たりめぇよ。まだまだおめぇたちにゃ負けねぇぜ」 ガルル「（軽く笑み）・・・“ミブの狼”ここに在り、という訳か」 ヴァイパーＧＴ「（驚愕）なッ！ まさかテメェが！ あの『鬼の副長』だとぉ！」 ギロ/ガル父「ほお、俺を知ってるのか。何処行っても“鬼”呼ばわりされてっからなぁ。俺もケロロくんの親父 みてぇに有名になったもんだな！」 ヴァイパーＧＴ「（歯軋りをして）・・・クソッ・・・」 ギロ/ガル父「おいおめぇ、ヴァイパー何とかだか知らねぇがよ、とっととけぇれ！ ここの星に来たきゃその物 騒な装備を取っ払ってからにしな！」 ヴァイパーＧＴ「（怒声）・・・ウルせぇウルせぇウルセェェェェェェェ!!!!」 激怒した表情で、両手に銃とミサイルランチャーを転送するヴァイパーＧＴ。 銃を構えて狙うが、次の瞬間には真横から光の刃が飛んで来る。 素早い動きで、射程の死角からビームサーベルを突いていくギロ/ガル父。 大慌てで銃を引いて後方に躱すヴァイパーＧＴ。 しかしそのすぐ背後に、フシュッ、と瞬間移動したように姿を現わすガルル。 顔が引き攣るヴァイパーＧＴ、直後にガルルのサーベルが動く。 ブシュッ！と横に真っ二つになるランチャー。切断面がスパークする。 即座に腹部に蹴りを浴びせるガルル。よろけながら吹っ飛ぶヴァイパーＧＴ。 フッ、と瞬間的に延長線上に回り込むガルル。 飛んでいくヴァイパーＧＴの身体に、追い討ちを掛けようと走るギロ/ガル父。 途端。 ニヤリ、と醜く歪んだ笑いをするヴァイパーＧＴ。 ガルル「（ハッ、となり）いかん！ 親父ッ！」 直後、ヴァイパーＧＴのブーツの靴底が、パカン、と開く。 思わず目を見開くギロ/ガル父目掛けて、ババババババッ！とレーザー弾が乱射される。 くるん、と身体を反転させて、膝から石畳に落ちるギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「（痛みで顔を顰め）くっ！ やべぇ！」 空中で身体を捻り、足を思い切り後方に半円を描いて靴底を向けるヴァイパーＧＴ。 今度はガルル目掛けてレーザー弾を浴びせ掛ける。 シュッ、と残像を焼き付かせて瞬間移動し、距離を取るガルル。 着地したヴァイパーＧＴ、マシンガンを手元に転送させて、ガルルに乱射しまくる。 それらをすべてビームサーベルで叩き落すガルル、余裕のない表情。 更に別のマシンガンを逆の手に転送し、片膝を付いているギロ/ガル父に向ける。 ガルル「（大声で）親父ッ！」 ハッ、と顔を上げるギロ/ガル父。 ニタァ、と笑ったヴァイパーＧＴの引き鉄が引かれる。 ズガガガガガガッ！と凄まじい銃声が広場に響き渡る。 ギロ/ガル父のいた空間が、爆発したように火花と黒煙に覆われて埋め尽くされる。 暫く続く、被弾音と空気を震わす振動。 やがて、銃声が止み、広場に沈黙が訪れる。 シーン・・・となった中で、ギロ/ガル父付近の空間の煙が、風に流され始める。 ヴァイパーＧＴ「まずは１匹・・・」 段々と黒煙が薄まり、その向こうが顕わになる。 直後。 そこにあるのは、赤色と青色で構成された盾。 それを目にして、驚愕のあまり口をあんぐりと開けるヴァイパーＧＴ。 盾を構えた人物が、ゆっくりと身体を起こす。 ヴァイパーＧＴ「（凄まじい驚き）テッ！ テメェは！ 何でここにいやがるんだ！」 凛とした鋭い目線を相手に向ける、パワードスーツ装備の夏美。 既に右手にはビームサーベルを構えて、ヴァイパーＧＴと対峙する。 夏美「アンタなんかに答える義理も理由もないわ」 ギロ/ガル父「（目を丸くして）嬢ちゃん！」 夏美「（ちら、と横目で見て）後はあたしがやります。安全なトコに下がって下さい」 ギロ/ガル父「しかし！ おめぇさんにゃ迷惑は掛けたく・・・」 夏美「（力強い声で）大丈夫！ 後はギロロとあたしでやります！ （ガルルを見て）お兄さんは他の観光客の 避難、誘導をお願い！」 そして再びヴァイパーＧＴを、鋭い目線で睨む夏美。 その横顔を見て、ふっ、と短く息を継ぐガルル。 ガルル「・・・判った。無茶はするな」 シュッ、と瞬間的にギロ/ガル父の側に移動し、彼に肩を貸して起こすガルル。 １歩、２歩とヴァイパーＧＴとの距離を詰めていく夏美。 ある程度の距離で立ち止まり、ふう、と息をつく。 夏美「（怒りに溢れた声で）・・・いい加減にしなさいよ。楽しい思い出作ろうとしてるみんなに迷惑掛けて・・・ アンタ、とことん根性腐ってるみたいね？」 ヴァイパーＧＴ「（睨み返し）ああ？ 辺境宇宙の田舎モンに言われたきゃねぇなぁ！」 夏美「（鼻で笑い）何それ？ 今の、挑発のつもり？ バッカじゃないの？ アンタって他のヴァイパーと違って “頭脳派”だ、って聞いてたんだケドさ、今みたいな底の浅い挑発しか出来ないんじゃ、ＩＱも高が知れる わねー。ま、デザイン最悪の武器しか装備出来ないオマヌケさんじゃあ、そんくらいが関の山でしょうケ ドね。大体さ、人の彼氏トッ捕まえてファッションセンスゼロどころかマイナスの銃器ごちゃごちゃ持たせ た挙句に、ボロカスに負けて戦艦まで落とされたヘタレ敵性宇宙人じゃあ、軍の幼年訓練所のお子様に も勝てっこないわよねーっ」 ヴァイパーＧＴ「（超激怒）ウガァァァァ!!! バカにすんじゃねェェェェェェ!!!!!」 ジャキイッ！と両手のマシンガンを夏美に向けるヴァイパーＧＴ。 途端。 上空からいきなり、２発の銃弾。 ガキューン！ ズキューン！と、ヴァイパーＧＴのマシンガンが狙撃される。 バラバラに分解、破壊されて、カラン、カランと石畳に落下する部品。 両手を銃を持ったようなポーズで凝固させ、間抜けにも茫然とするヴァイパーＧＴ。 それを見て、ニッ、と不敵な笑みを向ける夏美。 夏美「動かない方がいいわよ。あたしの最高のパートナーが、アンタの脳天狙ってるからね」 ハッ、と上空を見るガルル、ギロ/ガル父。 冷や汗を全身に掻き、恐る恐る自分の真上に目線を向けるヴァイパーＧＴ。 噴水の上空、約20メートルほどに、飛行ユニットを装備して浮かぶギロロ。 ライフルを真っ直ぐに、ヴァイパーＧＴに照準を合わせている。 ギロロ「夏美に手を出してみろ。貴様自身を立ったままで墓石にしてやる」 眼光鋭く、瞬きもせずに睨むギロロ。 彼に目線を固定したまま、顔面蒼白で引き攣るヴァイパーＧＴ。 夏美「大人しく武装解除しなさいよ。さもないと・・・」 直後。 ヴァイパーＧＴが右足を思い切り踏み付け、カチッ、と何かのスウィッチを入れる。 いきなり、ボフン！と猛烈な煙が、ヴァイパーＧＴのブーツの靴底から起こる。 爆発したような勢いで、瞬間的に広場に充満する。 思わずライフルの構えを解くギロロ。 眼下の煙幕の少し離れた位置から、煙を突き破って宙に飛び出してくるヴァイパーＧＴ。 既に飛行ユニットを装備、こちらを振り向きもせずに一目散に飛び始める。 続いて、ギロロのすぐ足元から煙を掻き分け、空中に浮かんでくるパワードスーツの夏美。 ギロロのすぐ横に寄り添い、彼と視線を絡めて、コクン、と頷く。 頷き返し、キッ、とヴァイパーＧＴの飛び去った方向を睨むギロロ。 同時にブースターに点火、一気に加速するふたり。 ★ 市街地観光区画・上空 彼方にヴァイパーＧＴの姿、それを猛スピードで追随する。 途端、ピピッ、とギロロの左手首の通信機が鳴る。 ガルル『（張りのある声で）待て！ 深追いはするな！ 戻って来い！』 ギロロ「深追いはしない。だが逃がしもしない。俺たちで奴を足止めする。この星には警察か守備隊はいない のか？」 ガルル『自警団レベルの組織はあるが、正直心許ない。宇宙警察出張署が近くの惑星にある筈だ。大至急 連絡を入れる』 ギロロ「頼むぞ、ガルル。それと、親父の様子はどうだ？」 ギロ/ガル父『俺は問題ねぇからよ、気にすんじゃねぇ。それよか、嬢ちゃんに無茶させんじゃねぇぞ。あっちの 親御さんに顔向け出来ねぇ』 夏美「（ギロロの左手に顔を近付け）あたしは大丈夫です！ ギロロと一緒ですから！」 ギロ/ガル父『（愉快そうに）カッカッカ！ いいねぇ！ 男冥利に尽きるなギロロ！』 ギロロ「（赤面して）茶化すな親父！」 ガルル『とにかく、無理は禁物だ。こちらも出来うる対策はすべて取る。必ず、ふたりで無事に戻って来い！ 解ったな！』 ギロロ・夏美「「了解ッ！」」 切れる通信、密接したまま顔を見合すギロロと夏美。 ふっ、と笑みを浮かべるギロロ。柔らか微笑む夏美。 そして、キリッ、とした視線を前方に向け、飛行を続ける。 ★ 銀河鉄道駅前・噴水広場 自警団とその看護班たちが集まり、観光客に怪我人がいないか確認している。 自警団のリーダーらしき人物と話をしていたガルル、離れて噴水近くに歩み寄る。 噴水の縁に腰掛け、打った膝の具合を見ているギロ/ガル父。 ガルル「宇宙警察には連絡した。しかし早くとも、到着に１時間ほど掛かるやも知れんそうだ」 ギロ/ガル父「（舌打ちして）けっ、そんでも警察かよ。それに、自警団の武装は豆鉄砲みてぇなもんだしな。 まあ、今までこんな事件が起きなかったからしゃーねぇがよ」 ガルル「膝はどうだ？」 ギロ/ガル父「暫くしたら動けるだろうがな。しかし・・・勘が鈍ったな、俺もよ」 ガルル「仕方あるまい。俺も今回は頭に血が昇って冷静さを欠いた。まだまだ未熟だな」 ギロ/ガル父「しっかしギロロの野郎・・・いつの間にあんな沈着さを身に付けたんだ？」 ガルル「親父・・・前に俺が言った“ギロロがペコポンで見付けたもの”の話を覚えているか？」 ギロ/ガル父「ああ、覚えてっけどよ」 ガルル「（ニッ、と笑みを浮かべ）彼女・・・夏美くんがそうだ」 ギロ/ガル父「（驚き）ほお！ そうか、そうだったんか！ ううむ・・・嬢ちゃんがなぁ・・・なるほどなぁ・・・」 腕組みをして、不敵な笑みをガルルに向けるギロ/ガル父。 ギロ/ガル父「解ったぜぇガルル、ギロロが変わった理由がな」 ガルル「そうか。なら俺の行動―――あのふたりの絆を援護する、というのも・・・今なら説明なしで理解出来 るか？」 ギロ/ガル父「ああ、バッチシ解った！ こりゃあ俺も一肌脱がねぇとな！」 フッ、と笑い返すガルル。 ★ 森林観光区画・上空 既に街並みは遥か後方になった、森林区画の上を飛んでいくヴァイパーＧＴ。 それを凄まじい速度で追随するギロロと夏美。 ギロロ「奴は、かなり高性能の飛行ユニットを装備しているな。パワードスーツの推進でも距離が縮まらない」 夏美「ここから攻撃出来ないの？」 ギロロ「あれだけの速度だ。当たるものも当たらん。奴がどういう手を打ってくるかも・・・」 突如。 前方を飛ぶヴァイパーＧＴの、更に先の空間が、グニャリ、と歪む。 途端に、その空間に姿を現わす黒塗りの小型飛行艇。 こちらを振り返りもせず、その飛行艇ハッチを開けて中に飛び込むヴァイパーＧＴ。 そして、下部バーナーに点火して一気に上昇して、ギュン！と加速する飛行艇。 あっという間に、それは小さな点になって遠ざかっていく。 夏美「逃げるつもりね！」 身体を屈めて、アフターバーナーに再点火しようとする夏美。 ギロロ「（左手で制し）待て夏美！ これ以上は追うな！」 夏美「どうして!? 逃げちゃうわよ！」 ギロロ「奴が何も考えずに逃げてると思うか？ あれほど用意周到に反撃や脱出手段を隠していた奴だ、恐ら く何か準備があるに違いない。思い出せ、夏美・・・奴がペコポンに来た時のことを。どれほどの装備で 襲撃してきたか覚えてるだろう？」 夏美「（ハッ、と気付き）・・・戦艦で乗り込んできた、わね・・・」 ギロロ「小型艇は、あくまで地上に降りる為の手段だ。背後には、砲門や弾道弾を備えた戦艦があると考えた 方がいい。俺たちも、一旦体制を立て直す必要がある。（眼下を見下ろし）あの湖の畔に降りよう。森の 中よりも視界が開けているから、対処が早く出来る。いいな？」 夏美「（微笑んで）解ったわ」 エンジンをアイドリングに切り替え、羽根の浮力と推進力のみで移動するふたり。 隣に浮かぶギロロを、じっ、と見詰める夏美。 夏美「（ふう、と息をつき）アンタ、すっごく冷静じゃない？」 ギロロ「そうか？ 確かに、妙に落ち着いてるのが自分でも解るな」 夏美「さっきの噴水広場での作戦もそうだったケド、今もびっくりするくらい自然体みたいよ」 ギロロ、隣の夏美を見詰め返す。 ギロロ「・・・お前がいるからかも知れん」 夏美「え・・・あたしが？」 ギロロ「ああ・・・お前がいるから・・・だな」 夏美「そっか・・・（口許を綻ばせ）そうなんだ・・・」 目を細めて、温かく柔らかい笑顔をギロロに向ける夏美。 夏美「それじゃあ・・・頼りにさせてね、ギロロ」 頬を薄く染め、ふっ、と笑みを浮かべるギロロ。 やがて、眼前に広がる蒼く広大な湖面。 飛行ユニットの羽根を少しずつ閉じ、並んでゆっくりと下降していくふたり。 【Ｎ】「リゾート惑星で楽しいバカンスの筈が、とんでもない迷惑客の来訪でドタバタしちゃってるギロロ伍長と 夏美ちゃん。さてさて、次回はふたりが一気にアレを！・・・あ、ちょーっとナニな表現でしたねぇ。つー訳 で、続きは次回のお楽しみ！ ところで『ヴァイパーＧＴ』の“ＧＴ”って・・・何の略なんでしょうねぇ？」 To be continued... [chapter03] |
