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★ ケロロ小隊地下基地・射撃訓練場
【Ｎ】「今日も相変わらずの日向家。ヴァイパーＧの事件があってから、ギロロ伍長と夏美ちゃんはお互い想い が通じてることが判ったわけですが、表面上は以前とあんまし変わった様子はありません。特に賑やか な面々が揃う場所なもんですから、まあ、ふたりっきりになるのも難しいワケなんですよ。今回のお話 は、事件から数ヶ月経った頃の、珍しく家にふたりだけになった・・・おおっと、とにかく先を見てみましょう」 射撃訓練場が見下ろせる部屋に、自動扉を開けて入ってくる夏美。 ツカツカと硬質ガラス窓に近寄り、眼下に見える訓練場に視線を注ぐ。 下ではギロロがひとり、黙々と訓練を続けている。 ５列に並んだターゲットの、真ん中の列の延長線に立ち、銃を構える。 引き鉄を引き、バシュッ！と弾を放つ。標的の中心を寸分違わず射抜く。 次々に現れるターゲットを、ただひたすら撃ち続けている。すべて標的の中心。 夏美、後ろ手に組んで彼の後姿を、じっ、と見詰め続けている。 柔らかで暖かい微笑みを湛えた表情。 暫くして。 何かを思い立った様子で、部屋の横にある扉を手で開け、訓練場へと階段を降りる。 プシューッ、と自動扉を抜け、ギロロの左斜め後ろから近寄る。 総計20発ほど撃ち終えたギロロ、こちらに気付いて銃を置き、耳当てを外す。 ギロロ「（ふう、と息をつき）どうした？ ここに来るのは珍しいな」 夏美「だーって、（拗ねたように）いつまで経っても上に来ないんだもん。待ちくたびれちゃったからこっち来 ちゃったわよ」 ギロロ「（少し笑顔で）そうか、すまんな。つい夢中になってしまってな」 夏美「アンタらしいわよね」 目を細めて笑みを交し合うふたり。 ふと、ギロロは先ほどまで使っていた銃の隣に置いてあるもう１丁を手に取る。 それを夏美に差し出す。 ギロロ「たまには撃ってみるか？」 夏美「そーねぇ・・・じゃ、遠慮なく（銃を受け取る）」 ギロロと場所を入れ替わり、銃を一旦テーブルに置き、耳当てを装着。 再度銃を手にして、安全装置のスウィッチを外して押す。 新しく現れたターゲットに銃を向ける夏美。 一呼吸置いた後、引き鉄を引く。バシュッ！と閃光が飛ぶ。 鮮やかに標的を射抜くが、中心点より枠ひとつ外側。 ２発目、３発目と発射。段々と中心に近くなっていく。 そして５発目で、ギロロと同じように見事に中心を寸分違わず射抜く。 ギロロ「流石だな、夏美」 夏美「（銃を置いて、耳当てを外し）ありがと。この銃にも少しは慣れてきたかな？ 今まであたし、真面に訓練 なんかやったコトないのにね」 ギロロ「正直、天性だろうな。だからこそお前に敵うとは思えんのだ」 夏美「（彼に向き直り）そう？ 実戦だったらアンタに分がありそうなんだケド？」 ギロロ「（苦笑い）さあてな、どうなるか判らんな」 夏美、ギロロの眼前にしゃがみ込む。 ハッ、と顔を上げる彼を、まったく躊躇せず、ギュッ、と抱き締める。 見る見る全身真っ赤に染まっていくギロロ。 ギロロ「（声が裏返り）なっ！ ななな夏美ィ！・・・いきなり・・・その・・・」 暫くそうしていたが、急に不満でいっぱいの顔になる夏美。 腕を解いて戻し、掌を膝の上に置いて口を尖らせる。 冷静さを取り戻すが、頬はまだ朱色のままのギロロ。 少し怒気を含んだ眼差しの彼女と見詰め合う。 夏美「もーっ、ギロロったら！ まーだこんなんばっか！ いい加減慣れてくれないと困るわよ！ ギュッってす る度に気絶しそーになってるんじゃ、抱き締め甲斐がないじゃない！」 ギロロ「（やや焦り気味で）いや、その、こればっかりはだな・・・性分なんでな・・・」 夏美「（意地悪っぽく）それとも、気絶しよーがどうなろーが、アンタを抱っこしてアチコチお出掛けしちゃおうか なーっ？」 ギロロ「（大慌て）いや待て！ それはいくら何でも！ 俺自身が情けない！」 それを見て、ふっ、と優しい微笑みを浮かべる夏美。 夏美「（しっとりとした声で）それじゃさ・・・アンタが慣れるまで毎日でも、何回でもギュッとするから・・・覚悟しな さいよ、ね？」 右手人差し指で彼の額を、つん、と突付く夏美。 頬を真っ赤にして、思わず視線を落とすギロロ。 ギロロ「（小さく頷いて）あ・・・ああ・・・」 ★ 日向家・リビング コトリ、と皿をテーブルに乗せる夏美。 紅いジャムがトッピングされたクッキーが十数枚並ぶ。 それから、コーヒーの注がれた銀色のマグカップを、その横に置く。 長ソファーに腕組みして座るギロロ、それを見詰めている。 ギロロ「夏美が焼いたのか？」 夏美「（自分のマグにコーヒーを淹れ）そっ。苔桃のジャム使ってみたの。酸味が強くてあんまり甘くないと思う から、ギロロも大丈夫だと思うわよ」 自分のコーヒーに砂糖とミルクを混ぜ、それを持って長ソファーに寄る夏美。 ギロロのすぐ横、掌ほどの間を空けて腰を下ろす。 夏美「じゃ、食べましょ」 ギロロ「（頬を染め）ああ・・・そうだな」 皿に手を伸ばし、クッキーを１枚取って口に運ぶギロロ。 サクサクッ、と軽やかな音を立てて、暫く噛み砕いて、ゴクン、と飲み込む。 彼の顔を、じっ、と見詰めている夏美。 ギロロ「・・・うん、甘みも程好い。俺には丁度いいくらいだ」 夏美「（パアッ、と笑顔になり）そう？ ふふっ、嬉しいっ。やっぱりギロロに褒めてもらえるのが一番嬉し いな・・・」 ギロロ「（再度赤くなり）そ、そうか」 マグを持ち、ブラックコーヒーを口に流し込むギロロ。 ふと、台所の方に目をやる。ここから見える、奥の食卓の上に大皿が乗っているのを確認。 そこには大量のクッキー。ただ、様々な色のトッピングが個々別々にされている。 ギロロ「（食卓を指差し）あれはどうした？」 夏美「（それを見て）ああ、あれね。あれはママや冬樹やボケガエルたち用。ギロロには多分、甘過ぎると思う わよ」 ギロロ「それでは・・・（自分の前の皿を見て）これは俺用、なのか？」 夏美「もちろん。あ、正確には・・・」 スッ、と苔桃ジャムのクッキーを取り、一口噛む夏美。 口を動かしながら、少し驚いた表情のギロロに視線を送る。 夏美「（飲み込んでから）アンタとあたし用」 ギロロ「お前と、俺用？・・・しかしお前には甘みが少な過ぎではないのか？」 笑顔を絶やさず、コーヒーを口にしてから見詰め返す夏美。 自分のマグを、コト、とテーブルに置く。 夏美「（艶やかな声で）・・・アンタと同じのが食べたかったの・・・」 ドキン、と心臓が跳ね上がるギロロ。 これ以上ないほど全身朱色に染まり、湯気を頭から噴く。 夏美、そんな彼と眼差しを絡め、頬に鮮やかな紅色を浮かべる。 暫く、そのまま。 何気に壁掛け時計を見た夏美、ハッ、として庭の方に目をやる。 夏美「そうだ、夕刊取ってこなきゃ。ちょっと待っててくれる？」 ギロロ「あ、ああ。構わんぞ」 リビングからサッシを開け、サンダルを履いて玄関方面へと向かう夏美。 彼女の姿が見えなくなった頃、はあ、と溜め息を吐くギロロ。 コーヒーを啜り、マグを見詰める。 ギロロ 《・・・信じられんほど穏やかで、和やかな時間だな・・・》 カタリ、とマグをテーブル置くギロロ。 ギロロ 《正直、未だに夢を見ているようだ・・・夏美と一緒の時間が、これほどまでに多くなろうとは・・・あい つが俺を見ていてくれた、ということだけで目一杯なのに、毎日が白日夢みたいな甘いひとときの 連続・・・しかし、夢なら覚めないでいてほしいものだ》 少し揺れているコーヒーの表面に目線を投げるギロロ。 ギロロ 《もし・・・俺にも家庭が持てるのならば、こういう感じなのだろうか・・・》 突然にギロロ、ハッ、と何かに気付く。 ギロロ 《家庭？・・・かてい？・・・け・・・結婚ッ!?》 【妄想モード】 リンゴーン、と鐘が鳴り響く教会。 そこの祭壇前に並んで立つ、夏美とギロロ。 純白のウィディングドレス姿の夏美、純白のタキシード姿のギロロ。 並んで見詰め合い、微笑みを交わしている。 【妄想モード終了】 ハッ、と我に返り、全力で頭をプルプルと振り、息を荒げるギロロ。 ギロロ 《いかんいかん！ 何を考えてるんだ俺！ 本来敵対同志の俺たちが結婚などと・・・しかし本部の許 しが下りれば、もしかしたら俺と夏美も・・・いや待て！ そもそも夏美の気持ちも確かめんと勝手に考 えてはいかん！ だがもしもＯＫと言ってくれるのなら・・・いやいやいや！ それでもあいつはまだ若 過ぎる！ 適齢期になればまだしも・・・って！ 何を考えてるんだ俺はーッ!!!》 夏美「どうしたのよ、ギロロ？」 ギロロ「（ソファーから跳び上がり）おんわ―――っ!!! 夏美ィッ！」 白目、全身真っ赤になって硬直するギロロ。 それにもさほど驚かず、庭からリビングに上がってくる夏美。 手には新聞の夕刊と、大きい封筒を持っている。 夏美「（冷静に）たまにアンタ、声掛けられて驚くことあるケド、何か考え事してるでしょ？」 ギロロ「（まだ赤面して）い、いやその、まあ・・・」 夏美「（軽く微笑んで）あたしに話していいんだったら、ちゃんと話してよね？」 ギロロ「あ・・・ああ、判った」 ふう、と安堵したような溜め息をつくギロロ。 すると夏美、手にしたＡ４サイズの封筒を彼に差し出す。 夏美「ところでさ、これ。アンタらの誰か宛てでしょ？」 ちら、と封筒の表面を見るギロロ。 地球上言語ではない文字がズラリと並ぶ。 それの一際大きく書かれた文字を目にした途端、ハッ、と目を見開くギロロ。 彼女の手から封筒を受け取り、じっ、と凝視する。そして眉を思い切り顰める。 ギロロ「ケロン語だ・・・しかも、俺・・・いや、俺と夏美宛てだ」 夏美「（驚いて）ええっ！ あたしの名前もっ!?」 夕刊をテーブルに置き、ギロロの隣に腰を下ろす夏美。 彼が持つ封筒の表書きを見詰める。 夏美「（ゴクリ、と唾を飲み）・・・誰から？」 封筒を引っくり返し、目線をスーッと移動させ、目を丸くして息を飲むギロロ。 ギロロ「・・・ガルルからだ」 夏美「お兄さんからっ!?」 驚愕を顔に浮かべたまま、見詰め合うふたり。 再度封筒に視線を戻し、少し震える手で口を開封するギロロ。 中身を、ドサ、とテーブルに滑らせる。 フルカラー印刷された小冊子が２冊、何処かの風景や遺跡、街並みの写真が表紙。 細長い小さめの封筒と、折られずに封入されていた便箋が数枚、ケロン語の手紙。 最初にギロロ、小さめの封筒を開ける。中には何かのチケットが２枚。 それに記載されている文字を素早く読む。 ギロロ「これは・・・（ふう、と息をつき）銀河鉄道のチケット、それも最近就航されたばかりの超高速特急列車 の乗車券だ」 夏美「チケット？・・・何であたしたちに？」 ギロロ「ちょっと待ってろ。ガルルからの手紙が入ってる」 便箋を手に取り、両眼を素早く動かして黙読するギロロ。 すぐ横で、固唾を飲んで彼を見詰める夏美。 ギロロ「（はああ、と溜め息を吐き）・・・何を考えてるんだ、奴は」 夏美「ねぇ、読んでくれない？ あたしケロン語読めないからさ」 ギロロ「要約だけでいいか？」 夏美「折角だから、ちゃんと全部聞かせてよ。あたし宛てでもあるんだから」 ギロロ「判った、心して聞けよ・・・（スゥ、と息を吸い）『謹啓 日増しに深まる秋冷の候、夕空を行く渡り鳥そぞ ろ侘しく、夜気は冷ややかに月影清かに、樹々の葉黄ばみ目の覚めるような紅葉美しく、庭に咲き誇 る白菊香る今日この頃、貴君等に於いては如何お過ごしでありましょうか。御家族御一同様には御健 勝のことと御喜び申し上げる次第です。平素の御無沙汰をお詫びいたします。私どもは一同御陰様を持 ちまして何事もなく暮らしておりますので御心配には及びません』・・・挨拶があと１枚分続くが、どう する？」 夏美「（思い切り眉を寄せ）・・・要約でお願い・・・」 ガクッ、と呆れたような表情で項垂れる夏美。 ギロロは便箋を改めて斜め読みして、視線を彼女に向ける。 ギロロ「要はだな、俺たちを（小冊子を手に取り）ここのリゾート惑星に招待する、という話だ」 夏美「（顔をギロロに向け）えっ？ リゾート惑星？」 ギロロ「銀河系やアンドロメダ銀河に数多く点在する、観光を目的とした惑星でな、このパンフレットはその中 のひとつ―――おおいぬ座矮小銀河にある“KO-N89”という名の星だ。ここ何年かで人気が上がって いるところで、宇宙ＴＶでも特集が組まれたこともあるらしい」 夏美「へぇー、そんなトコがあるんだ。で、お兄さんはそこへあたしたちを招待してくれたの？」 ギロロ「ああ、そのようだ。このチケットは後から席を指定出来るタイプで、日程が決まり次第、宇宙インター ネットで本予約する仕組みだ。そうしたら改めて連絡がほしい、とガルルは書いてきている」 ギロロ、夏美にパンフレットを手渡す。 ページを捲り始める夏美。文字は読めないが、写真を見ている。 地球と同じような青空と海、各種異星人が集う観光スポット、古い洋風な建物とその夜景。 夏美の表情が、柔らかく穏やかなものになっている。 夏美「・・・行ってみたいなぁ・・・」 ギロロ「そうか・・・行ってみたいか・・・」 グッ、と奥歯を一旦噛み、キリッ、と眼差しを前に向けるギロロ。 軽く息を吸って、意を決したように顔を上げて夏美を見る。 ギロロ「・・・一緒に行くか？ お・・・俺と」 夏美「（パアッ、と笑顔で）ホントっ!? 連れてってくれるのっ？」 ギロロ「お・・・俺とで、お前が嫌じゃなければ・・・だが・・・」 夏美「何言ってんのよ！ アンタとだからいいんじゃない！」 ギロロ「（赤面）そ、そうか。な、ならば・・・そう・・・するか・・・」 夏美「やったーっ！ 旅行けってーいっ！」 右手を天井を指差すように掲げ上げ、満面の笑みの夏美。 それを見て、頬を染めたまま優しい笑顔になるギロロ。 しかしすぐに、ハッ、と何かに気付き、眉を寄せる。 ギロロ「・・・秋には、どう話す？」 その言葉に、冷水を浴びたように我に返る夏美。 右腕を下ろし、目を伏せて俯く。 夏美「（寂し気に）・・・どう、しようか・・・」 ギロロ「子供たちだけで遠出を認めんからな、俺たちだけなら尚更かも知れん。親として当然と言えば当然 だが」 夏美「・・・うん・・・（目を閉じ、項垂れる）」 ギロロ、じっ、と夏美を見詰め続ける。 そして暫くして、キッ、と前方の宙を睨む。 ギロロ「俺が話す。秋に話してやる」 夏美「（彼を見て）えっ？」 ギロロ「今回の旅行、俺がお前を引っ張り出す、ということにしておけ。お前は何も言わなくていい。俺がお前 を連れて行きたいから連れて行くんだ。下げて済む頭なら何度でも床に擦り付けてやる。結果がどうな るか判らんが・・・軍人として、いや、男としてスジも責任も通してやる。例え認めてもらえんでも、お前 は何も気に病むな。いいな！」 夏美「（柔らかな表情になり）・・・ギロロ・・・」 ゆっくりと彼の身体に両腕を回し、静かに抱き締める夏美。 頬が熱く火照るが、眼差しはしっかりとしているギロロ。 夏美「・・・ありがと、最高に嬉しいよ、ギロロ・・・」 ギロロ「なら・・・いいな？」 夏美「・・・うん・・・」 ★ 日向家・玄関 バイクで帰宅する秋、駐輪スペースに停めてヘルメットを取る。 軽く頭を振ってから、玄関の扉を開ける。 秋「（ドアを開けながら）ただいまー」 ふと、目の前の床マットの上に腕組みして仁王立ちするギロロを見付ける。 ギロロ「お、おう。お帰り」 秋「あら？ 珍しいわね、ギロちゃんがお出迎えなんて」 ギロロ「ま、まあな。た、たまには悪くあるまい」 秋「そうね。（じっ、とギロロを見て）何か話でもあるの？」 ギロロ「（ビクッ、と跳ね）あ、ああ。少し、時間をもらえるか？」 秋「（微笑んで）・・・ギロちゃん、そんな強張った顔しなくても大丈夫よ。今回は認めます。ギロちゃんがちゃー んと夏美に付いててくれるならＯＫよ」 ギロロ「そうか、なら・・・（思い切り驚愕の顔になり）って何で知ってるんだっ！ 誰から聞いたっ!? いやそれより、どういう話か解ってるのかっ!?」 秋「（しれっとした顔で）夏美と一緒に旅行したいんでしょ？」 口を上下に開いたまま、凝固するギロロ。 廊下の縁に腰を下ろし、ライダーズブーツを脱ぎ始める秋。 秋「今回は銀河鉄道の旅なんですって？ 地球上だとあなたはアンチバリア使わなきゃならないから、他の人 には夏美だけってことになるわよね。でも今回は隠れる必要もない。堂々と夏美の“ナイト”になれるじゃな いの」 ギロロ「（顔を赤らめ）・・・ナ、ナイト・・・（素に戻り）誰から聞いた？ この話」 秋「ガルちゃんからよ。連絡があったの」 ギロロ「（驚き）ガルルからっ!? いつの間にっ！」 ブーツを三和土の傍らに寄せ、笑顔で廊下に上がる秋。 秋「何でもこの話、ガルちゃんから来たんですってね。ガルちゃん言ってたわ。『私が全責任を負いますから、 ふたりの旅行を認めて下さい』って。最初は正直、不安もあったけど、ガルちゃんったらそれはもう真剣に 話すものだから、逆にこっちが恐縮しちゃったわよ」 ギロロ「（訝し気に）奴は・・・直接来たのか？ 秋のところに」 秋「ええ、職場にね。筋を通さないと失礼に当たる、なんて言っちゃって」 ギロロ「・・・そうか、知らなかった。俺にはそのことを伏せていたが・・・」 秋「そういうとこって、ギロちゃんそっくりね。ホント、兄弟だなぁ、って思うわ」 ギロロ「（少し赤面して）そんなことあるかっ！」 秋「（廊下の奥の方に向け）あなたもそう思うでしょ？ 夏美」 ハッ、として思わず振り向くギロロ。 おずおずと廊下の角から姿を現わす夏美。少し茫然とした表情。 夏美「・・・ママ・・・」 玄関まで歩み寄ってくる夏美。ギロロのすぐ隣に立つ。 優しく穏やかな笑顔で迎える秋。 夏美「（恐る恐る）・・・いいの？ ホントに？」 秋「ええ。ギロちゃんとガルちゃんを信用してるから、今回は許可します。ただし、危険なことに首を突っ込ん じゃダメよ。ギロちゃんの言うことをよーく聞いて、楽しい旅行、してらっしゃい」 夏美「（涙を浮かべ）・・・ママぁ・・・」 ガバッ、と秋に抱き付く夏美。はらはらと、笑顔で涙を零す。 目を閉じ、右腕を娘の背に回して柔らかく微笑む秋。 秋「普段、私の分まで頑張ってるんですもの、羽根を伸ばして来なさい。そしてギロちゃんと楽しい思い出、作 ること。いいわね？」 夏美「（しゃくり上げて、笑顔で）ありがとう・・・ママ・・・」 ギロロを見て、にっこりと目を細める秋。 秋「ギロちゃん、夏美をよろしくね。お土産、期待しちゃっていいかな？」 ギロロ「お、おう！ 任せておけ！」 ホッとした表情で返事をするギロロ。 【Ｎ】「で、実際の旅行期日を今度の３連休にしたふたり、宇宙インターネットで特急列車の予約をして、ガル ル中尉にメールを送りました。つーのも、夏美ちゃんは音声通信で直接お礼を言いたかったんですが、 ギロロ伍長が照れ臭かったらしく・・・」 ギロロ「誰が照れ臭いだと誰がッ！」 【Ｎ】「はいはい、図星図星。ちなみにギロロ伍長、有休使って休暇届を出した際に『私用』と書いたみたいで す。夏美ちゃんとふたりして出掛けるのはバレバレなのに、軍曹たちに隠せてるつもりですかねぇ？」 ギロロ「（怒り）やっかましい！」 ★ 夏美の部屋 【Ｎ】「で、あっちゅー間に旅行当日の朝。展開早ッ！」 鼻歌を唄いながら、ボストンバッグに着替えや携帯品を詰めている夏美。 それを床に胡坐をかいて座って見ているギロロ。 纏め終わってチャックを閉め、ポン、と１度バッグを叩く夏美。 夏美「でーきたっ！ お待たせ、ギロロ」 ギロロ「すまんな。俺の私物まで入れてもらって」 夏美「ううん、大丈夫よ。ギロロは旅行なのに、荷物少ないのね」 ギロロ「最小限の装備で動くのには慣れている。無論、武器庫の転送アクセスはいつでも可能に設定してあ るがな」 夏美「戦いに行くんじゃないんだから。（ふっ、と笑って）アンタらしいケドね」 ギロロ「（笑みを返し）・・・行くか？」 夏美「うん！」 ★ 日向家・玄関 玄関の三和土に立って夏美を振り返るギロロ。 つま先を、トントン、とさせて靴を履き、ボストンバッグを手にする夏美。 ギロロ「忘れ物はないな？」 夏美「ええ、準備万端よ」 ガチャ、と玄関の扉を開ける夏美。 直後。 パン！ パン！ パパパン！とクラッカーの弾ける音が鳴り響く。 ギロロ・夏美「「うわっ!!!」」 続けて連発されるクラッカー、飛んでくる紙テープ、舞う紙吹雪。 ケロロ「ギロロ伍長あーんど夏美殿ッ！ ふたりっきりの旅行おめでとーっ！」 目の前に横一列に並んでいる、ケロロ、タママ、クルル、モア。 ケロロとタママは『祝 ギロロ伍長＆夏美殿ラヴラヴ逃避行』と書かれた横断幕を持つ。 一歩傍らに外れて苦笑いをしている冬樹。溜め息をついているドロロ。 あまりのことに、目を点にして呆然としているギロロと夏美。 ギロロ「（声を震わせ）な・・・何やっとるんだ貴様らーっ！」 ケロロ「何ってあーた、おふたりの門出をお祝いしに来たんじゃない。大体ギロロってば水臭いじゃん。折角 夏美殿とあま〜いラヴラヴな旅行行けるのに“私用”で休暇申請って味気なくね？」 ギロロ「どういう理由だろうが俺の勝手だ！ 第一何だこの横断幕！ 誰が逃避行するんだ誰がっ！」 タママ「事実じゃないんですかぁ先輩？ 今更隠さなくたってみんなにはバレバレですよぉ」 夏美「（赤面）もう！ 恥ずかしいからそれ広げないでよっ！ 逃避行じゃなくって、ちゃんとママにＯＫもらって るんだからねっ！」 ケロロ「知ってるでありますよ。ママ殿から聞いたのですからな」 ギロロ・夏美「「えっ！」」 すると、車庫の方から歩いて登場する秋。 ふたりの驚いた目線を受け、ニッコリと笑みを向ける。 秋「私はちゃんと話したんだけどね。（ケロロを見て）ケロちゃん、お祝いの気持ちはありがたいけど、逃避行な んて後ろめたいものじゃないのよ。夏美とギロちゃんは堂々と行くんだから」 ケロロ「もちろん、解ってるでありますよ。ただ赤ダルマがどんな反応するか楽しくて・・・」 ギロロ「（赤くなって怒り）人をからかうのもいい加減にしろっ！」 秋、チャリッ、と車のエンジンキーを右手指先で回す。 秋「ふたりとも、東京駅まで送るわ。今日は私もお休みだから、遠慮なく乗って」 夏美「（笑顔で）ありがとう、ママ」 ギロロ「（一礼して）すまん、手数を掛ける」 冬樹「姉ちゃん、珍しい物あったら買ってきてよ。期待してるからね」 夏美「宇宙だからね。アンタには何買ってきても珍しいんじゃない？」 タママ「僕はお菓子がいいですぅ！ 最近売り出した『宇宙暴君ロネバハ』！」 ケロロ「我輩ね！ 我輩は『マスターグレード：パーフェクトジオング』！」 ギロロ「わざわざ旅に出てガンプラ買えって言うのかっ！」 和やかな笑いが起こる。暖かい雰囲気。 秋の隣に、夏美とギロロが並んで立って、ケロロたちを振り向く。 改めて横に整列したケロロ、タママ、クルル、ドロロ、モア、冬樹と向かい合う。 ケロロ「それでは・・・（真面目な顔で）夏美殿とギロロ伍長の旅の安全を祈っているであります。（甲高い声で） 一同、敬礼ーッ!!!」 サッ、と鮮やかな敬礼をするケロロ、タママ、クルル、ドロロ、モア。 それを見て、力強い動作で敬礼を返すギロロ。 ギロロ「行ってくる！」 敬礼を解き、ふっ、と笑うギロロ。 対して、ニッ、と笑顔になるケロロ。 夏美とギロロ、車庫に向かって歩き始める。 ふと、秋が立ち止まってケロロを振り返り、数歩戻ってくる。 秋「じゃあケロちゃん、帰ってきたら行くから、準備しといてくれる？」 ケロロ「（敬礼をして）了解であります、ママ殿」 ★ 東京駅・０番ホーム 十数人の異星人が列車待ちをしているホームのベンチに、夏美が座っている。 すぐ目の前を、左右に行ったり来たりしてウロウロと歩みを繰り返すギロロ。 夏美「落ち着きないわねー、アンタにしちゃ珍しく」 ギロロ「（はた、と立ち止まって）そ、そんなことはない。平常時と変わらん」 夏美「（微笑んで）あたしと一緒の旅行で緊張してる、とか？」 ギロロ「（真っ赤になり）き、き、緊張なんかしとらん！」 夏美「じゃあ・・・嬉しいんだ？」 ギロロ「それはもちろん・・・（ハッとして）あ！ いやその・・・」 可愛らしい満面の笑みでギロロを見詰める夏美。 夏美「・・・あたしは嬉しいよ、ギロロ」 目線を絡ませ、この上ない温かい表情になるふたり。 その直後。 地球上言語ではないアナウンスがホームに響き、線路の遥か向こうから列車が入線。 速度を落としながら、ふたりの眼前にゆっくりと近付いてくる。 恐ろしく細長い流線型を描く先頭車両、断面が楕円形であろう客車のボディ。 色は、純白の地に水色と銀色のラインが帯を成すデザイン。 ベンチから立ち上がって、目を見開いて感動する夏美。 夏美「凄い・・・カッコいいわねぇ・・・」 ギロロ「銀河鉄道超高速特急『マゼラン』・・・間近で見ると壮烈だな」 完全に停車した車両に近付くふたり。 プシューッ、と目の前のドアが上にスライドして開いた後、乗り込む。 ★ 銀河鉄道・超高速特急『マゼラン』列車内 チケットを左手に持ち、車内表示に従って先を進むギロロ。 彼のすぐ後ろを、客車内装をキョロキョロと見回して歩く夏美。 しかし先に進むにつれ、段々と客車の雰囲気が高級なものへと変わる。 車両から車両へと移り、とある扉の前で立ち止まるふたり。 ギロロ「・・・ここだ。（扉の上を見上げ）この車両のA01だ」 自動扉が開く。中を見て驚きの余り固まるふたり。 目の前には、もう一枚の扉。表札に『A01：S』とだけ書かれている。通路もない。 ギロロ「な・・・何だここは？」 夏美「でも、間違いないんでしょ？」 ギロロ「ああ、（チケットと見比べて）間違いはない。とにかく、入るか」 もう一枚の扉を開けて、中に入るふたり。 途端。 フワッ、と一斉に室内灯が点き、内部を浮かび上がらせる。 そこは、やたら広いリビングルーム。両側には列車の車窓が並ぶ。 一般的な座席はそこにはなく、家庭にあるような家具、調度品、ソファーが鎮座する。 エアコン、冷蔵庫や小さなキッチンまで完備されている。 更にその奥には別なガラス張りの扉があり、スモークが掛かって中は窺えない。 夏美「（驚いて）嘘ぉ・・・ここ、リビングなの？ 想像してた座席と全然違う」 ギロロ「俺も驚いている。しかもこの大きさや構成だと、この車両全部がひとつの個室、ということになる・・・」 夏美「ええっ!? ここ全部がっ？」 つかつか、とリビング内を歩き回るふたり。 夏美、奥のスモークの扉を開け、突然声を上げる。 夏美「嘘！ やだ！」 ギロロ「どうした！ 何があったんだ？」 慌てて走り寄るギロロ。扉を思い切り閉め、背を寄り掛からせて頬を紅色に染める夏美。 はあ、と息を吐いて、ギロロに視線を向ける。 夏美「（言いづらそうに）・・・ここ・・・ベッドルーム・・・」 ギロロ「な・・・何だとぉぉぉ!!!」 あまりのことに全身朱色に上気して、目を合わせられずに俯くふたり。 同時に、ふうう、と溜め息をついてから顔を上げて見詰め合う。 ギロロ「（たどたどしく）ま、まあ、個室寝台のグレードの高いものなのだろうから、寝室があるのも判らんでも ない、な。きっとその、あれだ・・・そういうことなんだろう」 夏美「（たどたどしく）そ、そっか。うん、そうなんだね、きっと」 暫く押し黙って眼差しを絡めた後、はあ、とはっきりとした息を同時に漏らすふたり。 直後、車外から、リリリリリリ・・・と発車を告げるベルが聞こえてくる。 それに、ハッ、と顔を車窓に向けるギロロ。 ギロロ「（落ち着いて）発車するようだ。大気圏離脱まではソファーに座っていた方がいい」 夏美「（気を取り直して）あ、うん」 左の車窓に近い、向かい合わせの１対の単座ソファーに向かうふたり。 夏美は進行方向に正対したソファーに、ギロロはその真向かいに座る。 やがて、ゆっくりと動き出す特急列車。 段々と加速していき、ホームを離れ、斜めになった軌道を一気に駆け上がっていく。 地上が窓の外に傾き、見る見る遠ざかっていくのを、目を輝かせて眺める夏美。 そんな様子の彼女を、じっ、と見詰めているギロロ。 暫くすると、窓の外は地球の縁と宇宙の漆黒が入り混じった色になる。 それが完全に黒色と点在する星々の光だけになるまで、瞳を潤ませて見ている夏美。 そして長い溜め息をついて、ギロロを見詰め返す。 夏美「・・・感動しちゃった・・・地球ってやっぱり綺麗よね・・・」 ギロロ「そうだな・・・お前がそう思うのなら、そうなのだろう」 夏美「（柔らかな微笑みで）なぁに、それ？ あたしが言わなくたって、地球は綺麗な星なの」 ギロロ「お前の言う綺麗さなら、ケロンも悪くない。恐らく・・・気に入るかも知れん」 夏美「（顔を近付け）じゃあさ・・・いつか連れてってよ、アンタの故里」 ギロロ「（ふっ、と笑みを浮かべ）ああ、いずれ、な」 目を細めて、笑顔を交し合うふたり。 ★ 銀河鉄道・超高速特急『マゼラン』列車内Ｓクラス個室（寝室） ガチャッ、とスモークのガラス扉を開けて、中に入ってくるギロロと夏美。 寝室内に立って、室内を見回している。 シンプルだが高級感溢れる装飾や、ツインベッド、鏡台やアメニティの数々。 夏美「（感嘆して）うわあ・・・落ち着いて見ると、ここもすごーい・・・」 ギロロ、茫然と辺りを見渡し、言葉を失っている。 夏美「高級ホテルのスイートルームみたい・・・」 ギロロ「（訝し気に）スイート？」 夏美「リビングと寝室が別々にあるホテルの部屋のことよ。まさか列車の中にこんな凄い個室があるなんて 思わなかった・・・」 ギロロ「俺は何処へ行っても野営ばかりだったからな。そういうのには疎い」 夏美「（彼を見て）まあ、戦いに行くのにホテルってのも変だものね」 顔を見合わせて、微笑み合うふたり。 そして踵を返し、夏美を振り返るギロロ。 ギロロ「長時間の列車の旅だ。気楽にのんびりするといいだろう。俺は運行スケジュールと、食堂車の営業 時間を確認してくる。少し休んでいても構わんぞ」 夏美「うん、ありがと」 扉を抜けて、隣の部屋へ移動していくギロロ。 ふうう、と長い溜め息を吐き、ベッドのひとつに腰を下ろす夏美。 改めて室内を見回す。もう一度息を継ぐ。 夏美 《・・・何か、まだ信じられないなぁ・・・ギロロとあたしだけで旅行だなんて・・・》 斜め上に、ぼーっ、と視線を投げている夏美。 夏美 《ずっと夢を見てるみたい・・・ついこないだまで、まさかこんなに一緒にいる時間が長くなるなんて思わ なかった・・・ギロロが前からあたしを想ってくれてた、ってだけで奇蹟みたいなもんなのに、毎日あいつ と過ごす時間が持ててる・・・夢なら覚めないでほしいなぁ》 ふっ、と優しく柔らかい笑顔を浮かべる夏美。 夏美 《ふたりっきりの旅行・・・何か今回・・・新婚旅行みたい・・・》 突然に夏美、ハッ、と何かに気付く。 夏美 《新婚？・・・しんこん？・・・け・・・結婚っ!?》 【妄想モード】 リンゴーン、と鐘が鳴り響く教会。 そこの祭壇前に並んで立つ、ギロロと夏美。 純白のタキシード姿のギロロ、純白のウィディングドレス姿の夏美。 並んで見詰め合い、微笑みを交わしている。 【妄想モード終了】 ハッ、と我に返り、全力で頭をプルプルと振り、息を荒げる夏美。 夏美 《ちょ！ ちょっと何考えてんのよあたしってば！ そんな急に結婚だなんて出来るワケ・・・でもママが 許してくれれば、あたしたち・・・やだ待って！ ギロロの気持ちも確認してないのに勝手に考えちゃ ダメ！ でも、もし、いいって言ってくれたら・・・違う違う！ それでもあたしだってまだ学生だし！ 将来の約束ならまだしも・・・って！ 何考えてんのよあたしってばーっ!!!》 ギロロ「どうした、夏美？」 夏美「（ベッドから跳び上がり）きゃあっ!!! ギロロ！」 顔を真っ赤に染め上げて、目を丸くしてギロロを見詰める夏美。 反応に思わず後退って、逆に驚いた表情のギロロ。 ギロロ「どっ、どうした!? 何かあったのか？」 夏美「（顔を振り）ううん！ な、ななな何でもないの！」 ギロロ「（冷静さを取り戻し）・・・気分でも悪くなったか？ 電車酔いになったか？」 夏美「（落ち着いて）だ、大丈夫。気分はむしろいいくらいよ。心配しないで」 ギロロ「なら、いい」 ギロロ、夏美の眼前に歩み寄る。 ギロロ「停車駅は３箇所だけだ。何事もなければ、ダイヤ通りあと９時間30分ほどで到着する。食事だが、Ｓ クラス個室にはルームサービスで運んでくるらしい。食堂車やブッフェの営業時間中に連絡すればいつ でもいいそうだ」 夏美「すごーい。至れり尽くせりなのね」 ギロロ「もし疲れたようだったら、ここで一眠りするといい。俺が起こしてやるから、安心しろ」 夏美「ありがと。でも、まだ起きてられるわ。あ、そうだ、今からお茶しない？」 ギロロ「そうだな。確かブッフェメニューに、炭水化物系植物使用の菓子があった筈だ」 夏美「ホントっ？ じゃあ早速！」 ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべ、ギロロの傍らに立つ夏美。 ふっ、と微笑みを返すギロロ。並んでリビングに移るふたり。 ★ 宇宙人街特別区画・温泉施設「ウララの湯」 新しくオープンした宇宙人向けの温泉施設、その男湯。 とてつもなく広い浴場と湯船。はしゃぎ回って泳いでいるケロロとタママ。 湯船の片隅で、肩まで湯に浸かって、はあーっ、と息をつく冬樹。 隣で平然と入浴しているドロロ。シャワーの前で身体を洗っているクルル。 冬樹「いいお湯だねー。まさかこんなに広いなんて思わなかったよー。チケットをくれたガルル中尉に感謝しな くちゃねー」 ドロロ「こういう施設は大歓迎でござるな。広々としていて、気も爽快になる故」 クルル「（振り向き）しっかし、ガルルのおっさんも妙なとこに目ぇ付けるよなぁ。どう考えても結び付かねぇだ ろ？ あの強面と温泉がよ」 ドロロ「確かに・・・しかし、個人の趣味は自由でござろう」 クルル「それなんだがよぉ・・・チケットを受け取ったのは日向 秋だろ？ 奴さんは何で秋に渡したんだ？ そういうもんなら隊長に渡すと思わねぇか？」 冬樹「（頷いて）そうだね。でもさ、ママに渡したってことは、軍曹たちだけじゃなくって僕らも一緒に、ってこと じゃなかなぁ？」 クルル、シャワーのコックを捻って身体を流す。 一通り泡を流した後、もう一度振り返って冬樹とドロロを見る。 クルル「俺の勘だがよ・・・（ニヤリ、と笑い）トラブル＆アクシデントの匂いがプンプンするぜぇ。く〜っくっ くっく・・・」 ドロロ「（呆れたように）いくら何でも考え過ぎでは・・・」 苦笑してから、湯気に煙った天井を見上げる冬樹。 冬樹 《姉ちゃんと伍長・・・今頃何処らへんかなぁ・・・》 ★ 銀河鉄道・超高速特急『マゼラン』列車内Ｓクラス個室（寝室） 【Ｎ】「ふたりが地球を出発してから、早９時間以上が経ちました」 ベッドのひとつに横になり、静かな寝息を立てている夏美。 彼女の足元の方、ベッドの上で背を向けて腕組みをしているギロロ。 目を閉じ、口を真一文字に結んでいる。 やがて、夏美の瞼が開かれ、緩慢な動作で身体を起こして足元を見る。 ギロロの背を見詰め、優しい笑みを口許に浮かべる。 夏美「・・・寝ちゃってたんだ、あたし・・・」 ギロロ「（背を向けたまま、目を開け）銀河鉄道での始めての旅だ。疲れも出るだろう。（振り返って）あと30分 ほどで到着する。そろそろ準備をしておけ」 夏美「うん。判った」 ベッドから降り、隣のリビングに移動するギロロ。 両腕を上げて身体を伸ばし、彼に続いて部屋を移る夏美。 車窓から外を眺めていたギロロ、夏美に目をやる。 ギロロ「来てみろ、目的地が見えるぞ」 夏美「ホントっ？」 窓際に駆け寄り、ギロロの隣に立つ夏美。 眼下に、緑と茶色と白の三色が格子縞に構成された色彩の惑星が見える。 表面が地球と同じような雲にところどころ覆われている。 ギロロ「あれが、おおいぬ座矮小銀河のリゾート惑星“KO-N89”だ」 夏美「あれが・・・そうなんだ・・・」 瞳を輝かせて惑星を見詰める夏美。 彼女の横顔に目を向け、笑みを浮かべるギロロ。 【Ｎ】「いよいよリゾート惑星に着いたギロロ伍長と夏美ちゃん・・・実はこの星でとんでもない事件が起ころう とは、脚本家以外は誰も知る由もなかったのです。え？ それくらい予想出来るって？ まあそれは それ、っつーことで、どーっすか？」 To be continued... [chapter02] |
