episode05 天に轟くパスワード
chapter04:coda

★ 西澤家・セキュリティセンタ

 何故か妙にソワソワして落ち着かないケロロ。
 クルルの後ろまで歩み寄ったかと思うと、踵を返してコンソールの間を往復したりしている。
 その様子を不思議そうに眺めている冬樹と桃華。
 クルルはただパソコンのモニターと、メインパネルを交互に見比べている。

ケロロ「(甘えるような声で)ね〜、クルル曹長〜」
クルル「(訝し気に)・・・何だよ?」
ケロロ「我輩も出撃したいなー、なんて考えてんだけど、ダメ〜?」
クルル「(振り向きもせず)何言ってんだよ、隊長は隊長らしく落ち着いてろや」
ケロロ「でもさでもさ、ホラ、頑丈そうなバリアじゃん? 我輩もあっちに加われば速攻で片が付くかなー、とか
    思っちゃうわけよこれが!」
クルル「・・・いいから黙って座ってろよ」

 ムカッ、と腹立ちを顕わにして、かなりの剣幕で捲くし立てるケロロ。

ケロロ「ふーんだ! 何だい何だいクルルのケチィ! 我輩だって活躍したいじゃん! 見せ場ほしいじゃん!
    そんなんだからクルルは、小隊のグッズ売り上げがいつまで経っても最下位なんだよっ!

 ぷちっ、と何かが切れる音がクルルから聞こえる。
 あまりに見兼ねて、慌てて間に入る冬樹。

冬樹「ちょっと軍曹、流石にそれは言い過ぎだと思うよ・・・」
ケロロ「(駄々っ子みたいに)だってさだってさ! クルルがあんなこと言うんだもん!」

 ドス黒いオーラを放つ、後ろ姿のクルル。
 ふっ、と通常の状態に戻り、こちらを振り向く。

クルル「・・・ま、そんなこともあろうかと、隊長のロボ、基地から運んでおいたぜぇ。トレーラーに分解して積ん
    で来て、もう組み立てもセッティングも終わってるからよぉ。いつでも出られるぜぇ」
ケロロ「(パアッ、と笑顔になり)ホントォ? やっふー! さっすがクルル曹長! 持つべきものは優秀な参謀
    でありますなぁ!」

 ウキウキと自動扉の方に走っていって、足踏みをしてこちらを振り返るケロロ。

ケロロ「(意気揚々と)んじゃ行ってくんねー! 冬樹殿ー! 桃華殿ー! あとヨロシクゥ!」

 プシューッ、と扉を開け、軽やかにスキップして走り出ていくケロロ。
 その姿を唖然として見送り、改めてクルルに目をやる冬樹。

クルル「(パソコンの画面を見詰め)・・・望み通り、見せ場作ってやっからよぉ、隊長・・・く〜っくっくっく・・・」

 地の底から響くような、捻くれた笑いをするクルル。
 顔を見合わせて、物凄く不安気な表情をする冬樹と桃華。

冬樹「・・・僕、目茶目茶イヤな予感がするんだけど・・・」
桃華「・・・私もです・・・」


★ 西澤家・砂漠地帯(空中

 オレンジ色の電磁バリアで覆われたヴァイパー艦。
 そこに一気に距離を詰めていく、ソーサーに乗ったタママ、ドロロ。

タママ「まずは僕からですぅ! (スゥーッ、と息を吸い)タママインパクトォッ!」

 掛け声と同時に、黄色い生体ビームを放つタママ。
 バリアを直撃。しかしそれは一瞬で拡散されて消滅する。
 やや後方から様子を窺い、眉を寄せるドロロ。

ドロロ「かなりの強度のバリアと見た・・・全力で叩かぬと危険!」

 バッ、と両手で印を組み、早九字を切るドロロ。

ドロロ「推して参る! ドロロ忍法究極秘奥義! 流星十時手裏剣ッ!」

 振り上げた右手の上に、巨大な光の手裏剣が登場。
 全力でそれをヴァイパー艦目掛けて投げ付けるドロロ。
 一気に襲い掛かる手裏剣、バリアに直撃。
 バシィィィ!と凄まじい放電。直後、パン!と弾ける音がして、手裏剣が消滅する。

ドロロ「何と! あっさりと!」

 一旦ヴァイパー艦を躱し、急速に反転して高度を上げるドロロ。
 タママもすぐ横に追い付いてくる。

タママ「先輩! 威力を上げてみますかぁ!」
ドロロ「いや! ここまでの強度となると、別な方法でないと破れないでござろう!」

 その時、後方から猛烈な勢いで接近する、モアの姿。
 擬態解除し、手にはルシファー・スピアを所持。
 それに気付くドロロ、タママ。

モア「ふたりとも下がって下さい! 行きます! 黙示録撃! 10万分の1ッ!」

 ふたりが避けた空間を一気に過ぎ、振り上げたスピアを戦艦のバリアに叩き付ける。
 ドン! バチィィィィッ!!!、と激しい放電と空気が割れるような轟音が響く。
 だが、放電が凄まじ過ぎ、反動で身体を弾かれるモア。

モア「(吹き飛ばされ)キャアッ!」
ドロロ「モア殿!」

 瞬時にモアの後方にソーサーを反転させるドロロ。
 モアは軽々とトンボを切り、ブレーキを掛けたように宙で静止する。

ドロロ「無事でござるか?」
モア「ええ、大丈夫です」
タママ「(バリアを見て)まさかこんなに頑丈だなんて思わなかったですぅ・・・」
ドロロ「頑丈だけではござらん。恐らくメビウス・バリアの一種かと」
タママ「メビウス? 何です、それ?」
ドロロ「ダメージを受けた場合、他の無損傷部よりエナジーを転化し、即座に修復するバリアのことでござる。
    無限とでも言うべき回復力を誇る故、その名が付いたとか」
タママ「(驚いて)ええええ〜っ! それじゃ破れないですよぉ!」
ドロロ「しかし、如何なる兵器にも弱点が存在する筈。拙者が考えるに、対抗策はふたつ。多方位よりの同時
   攻撃、あるいは一点集中攻撃を長時間継続し、バリア回復速度以上のダメージを与え続けるか・・・いず
   れにせよ、迷ってる暇はござらん! まずは一点集中攻撃を実行! お二方、依存はござらんな?」
モア「OKですっ! てゆうかぁ、一致団結?」
タママ「はいですぅ! ドロロ先輩、指示下さい!」
ドロロ「(声を張り上げ)では参ろう! まずは拙者が! トイヤッ!」

 瞬時に流星十時手裏剣を翳し、全身を使って放り投げるドロロ。

ドロロ「モア殿! 手裏剣に黙示録撃をッ!」
モア「はいっ! 黙示録撃! 1万分の1ッ!」

 手裏剣の縁にスピアを叩き付けるモア。
 加速が一気に増し、大気を震わせて凄まじい回転を始める手裏剣。

ドロロ「タママ殿! 手裏剣に生体砲発射ッ!」
タママ「はいですぅ! (スゥーッ、と息を吸い)タママインパクトGXゥゥゥゥッ!!!」

 ゴオッ!と激しい爆音で、生体ビームを放つタママ。
 それは見る見る手裏剣の回転に纏わり付き、全体を覆い始める。
 遂に平たい円盤状の形を成し、轟音と共にヴァイパー艦に襲い掛かる。
 ズドン! バチバチバチィッ!と大音響を響かせる。


★ ヴァイパー艦・艦橋

 額の汗を拭いながら、コンソールのキーボードを叩きまくるヴァイパーG。
 艦橋の外の攻撃を、チラリ、と見る。すぐに眼前のモニターに目を移す。
 戦艦を覆うバリアが、バシィ!と修復される。

ヴァイパーG「(嫌らしい笑いを浮かべ)ムダだムダだ! 100万単位の隕石群すら無傷で潜り抜けたくれぇ
        頑丈なバリアだ! テメェらが寄ってたかっても壊せるわけがねぇ!」

 直後、モニター上が真っ白になり、ブッブー、と怪し気なブザー音。
 再び画面に浮かび上がってくる“クルルズ=ラボ”のロゴ。

ヴァイパーG「(頭を抱えて)ウガァァァ! こっちはてんでダメだぁ! 何てしつこくてねちっこいウィルスなんだ
       コリャあ! 製作者の性格が知れるぞ!」


★ 西澤家・砂漠地帯の外れ(空中)

 ケロロロボMK-Uで西澤家戦闘機格納庫を飛び立っていくケロロ。
 嬉しくて仕方ない様子で、鼻歌まで唄っている。

ケロロ「♪フッフ〜ン、いやぁ、一時はどうなることやらと。隊長たるものこーでないとね! これで我輩がヴァ
    イパーをビシバシッ!と倒しちゃえば万々歳でありますよっ!」

 遠くに、オレンジ色の球体に包まれたヴァイパー艦が見える。

ケロロ「まーずーは、戦艦後方に回り込んで・・・と・・・アレ?」

 操縦桿を動かすも、機体は反応せず、真っ直ぐに戦艦正面に向かって飛行。

ケロロ「何コレ? 操縦桿、利かねーじゃん。クルルの奴、メンテしてねーの?」

 通信機をONにして、セキュリティセンターを呼び出すケロロ。

ケロロ「(不満気に)ちょっとナルト1! これ操縦出来ないよっ!」
クルル『・・・まあそうだろうよ。俺がコントロールしてんだからよぉ』
ケロロ「え?・・・どゆこと?・・・うわっ!」

 突然、急加速するケロロロボMK-U。
 勢いで座席に貼り付いて、顔を思い切り歪めるケロロ。
 ギュン!と凄まじい加速は止まらず、ブースターも全開になっている模様。

ケロロ「(驚愕で)わわわわわわ! 何ナニ、何がどーなってんのっ!?」
クルル『隊長さっきよぉ、見せ場がほしい、って言ったよなぁ? 映画なんかでよくある、単身飛び立った飛行
    機なんかが最後にキメる、戦場に於ける最大の見せ場って何だと思う?』
ケロロ「最大の・・・(顔面蒼白になり)ま、ましゃかっ!」
クルル『くっく〜・・・“特攻”だぜぇ』
ケロロ「(絶叫)ゲロォォォォォォォォ!!!

 更に、グワッ、と速度を増すケロロロボMK-U。
 パニックになって操縦席のあらゆるボタンやレバーを動かしまくるケロロ。
 しかし、どれもまったく利かない。

ケロロ「ひええええっ! マジマジマジィ!? 洒落になんないよーっ!」
クルル『もちろん洒落じゃねぇ。大マジだぜぇ』
ケロロ「(サーッ、と血の気が引いて)あのさクルルくん、ひょっとして・・・怒ってる?」
クルル『ん〜、何のことかなぁ。ま、これで隊長のグッズ売り上げは倍に伸びるだろうがよぉ』
ケロロ「やっぱ怒ってんじゃ―――ん!

 ボッ!と音速を超える機体。
 涙を目一杯後方に垂れ流し、最早表情すら凝固したケロロ。
 ヴァイパー艦がかなり近くに見える。

ケロロ「(半狂乱で)クルルくん! クルルちゃん! クルル様ァァァァ! お願いだから止めてぇぇぇぇ!!!」
クルル『・・・安心しな隊長、骨は拾ってやっからよぉ。く〜っくっくっく』
ケロロ「いや拾わなくていいから! つーか骨にしないでぇっ!!!


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 多方位攻撃も封じられ、焦りを覚えるドロロ、タママ、モア。
 ヴァイパー艦から離れ、既に修復が終わってるバリアを凝視する。

ドロロ「くっ・・・如何したら良いか!」

 突如、遥か後方に、キラン、と光の点を発見するタママ。

タママ「先輩、あれ! 何か来るですぅ!」
ドロロ「何と!?」

 すると、彼らの下方から飛行ユニットとスナイパーライフルを装備したガルルが現れる。
 驚いた表情を見せる3人に近付き、真横に停止して顔を向ける。

ガルル「(張りのある声で)総員! ケロロ隊長を救出後、直ちに戦闘空域を脱出せよ!」
モア「ええっ! おじさまですかっ!?」

 ガルル、命令を下して、すぐにヴァイパー艦へ向かう。
 3人、後方から近付いてくる光を見詰める。
 あっと言う間に目視出来る距離に、空中を吹っ飛んで接近してくるケロロロボMK-U。

ケロロ「たああああああすうううううううけええええええてええええええええっっっ!!!!!

 あまりの速度に、思わずその場から飛び退く3人。
 その避けた空間を、音速を遥かに超えたスピードで、ギュン!と通過するケロロロボMK-U。
 まったく速度を落とさず、とうとうヴァイパー艦バリアに、ドゴン!と激突する。
 今まで見たこともない雷電と激しいスパークを撒き散らす。

ケロロ「(感電)キィィィィィィヤァァァァァァァッッッ!!!!!

 だが、ケロロロボMK-Uは推進を落とさない。
 更に一際高く爆音を立て、アフターバーナーに点火されて加速しようとしている。
 長い時間続くバリアへの圧力。
 ミシミシミシミシ・・・と亀裂がバリア表面を走る。
 遂に。
 パッキィィィィンッ!!!、という乾いた音を四方に放ち、一瞬にして砕け散る電磁バリア。
 黒焦げになって分解して落下を始める、ケロロロボMK-U。
 ハッ、とそれに気付いて、慌てて追う3人。
 コクピットから、アフロヘアになって真っ黒焦げで気絶しているケロロが零れる。
 一気に加速して彼を宙で捉え、抱き締めるモア。

ドロロ「万事完了! 戦闘空域より離脱するでござる!」
モア・タママ「「了解ッ!」」

 鮮やかなカーブを描き、西澤家本館方面へと進路を取る3人。


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 割れて四散していく電磁バリアを茫然と見ているヴァイパーG。
 あんぐり、と口をだらしなく開いて立ち尽くす。

ヴァイパーG「(震えて)バ・・・バカな・・・隕石衝突にも耐えられるバリアが・・・」

 ハッ、と艦橋横に浮かぶ人影に気付くヴァイパーG。
 こちらにスナイパーライフルを構えるガルルの姿。

ヴァイパーG「(顔面蒼白で)ヒッ!」

 標的を睨み付けるガルル。

ガルル「弟が世話になった礼だ・・・遠慮なく受け取れ」

 直後、ライフルが火を噴く。
 メインコンソールを射抜かれ、床に転がるヴァイパーG。
 パシュッ! バシュッ!と何発も叩き込まれるライフルの弾。

ヴァイパーG「(怯えまくって)ヒッ! ヒイイイッ! 救けてくれぇ!」

 艦橋内を転げまくって、頭を抱えて逃げ惑う。
 10発ほど打ち込まれて、静かになる艦橋。
 緩慢な動作で身体を起こし、辺りを見回すヴァイパーG。
 外の空中には誰もいない。

ヴァイパーG「クソッ、ヤツは何処へ・・・(ハッとして後方を振り返り)まさかッ!」


★ ヴァイパー戦艦後方・エンジン部真横(空中)

 スナイパーライフルを艦に向けて構えるガルル。
 キュルルルルル、とビームを溜めて、出力を最大にセッティングしている。
 レベルゲージが上昇し、砲身前方に光の点が集まり出す。

ガルル「そして・・・貴様の姦計で散っていった同胞たちの無念・・・思い知れ!

 ゲージが振り切った瞬間、引き鉄を引く。
 ギャン!と一直線にビームが飛び、ボゴォッ!とエンジン部に突き刺さる。
 くるり、と艦に背を向けるガルル。

ガルル「(低音の声で)ミッション・コンプリート」

 そう言い残し、急速に艦から離れていくガルル。
 途端。
 エンジン部を打ち抜いた穴から凄まじい光が溢れる。
 推進ノズルが一瞬沈黙し、直後真っ白な光が、クワアッ!とノズル全体を覆う。
 ミシミシミシッ、とエンジン部に一気に亀裂が走り、遂に爆発を起こす。
 ドゴゴゴゴゴゴッ!!!、とあっと言う間に戦艦後部全体が爆炎に飲み込まれる。
 そして大音響を立てて、一瞬にして艦内を走り抜ける爆発。
 前方先端部を砕いて、艦側壁を次々と破壊しまくって、爆風が炎を纏って噴き出す。
 遂に。
 ドッゴォォォォォォン!!!!!と一際の大爆発を伴って、真っ二つに折れるヴァイパー艦。
 空中に留まることが出来ず、中央より割れて“くの字”になって墜落していく。
 砂漠に落下、地震のような揺れと耳を劈く轟音が一体に広がっていく。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 メインパネルに大写しになる、ヴァイパー艦の最後。
 途端、一斉に大歓声が起こる。
 その室内にいた親衛隊全員、冬樹、桃華が声を上げて嬉しさを表している。
 笑顔で頷いているポール。平然とパネルを見ているクルル。

冬樹「(桃華の手を取り)やったよ西澤さん! 勝ったんだね!」
桃華「(赤面して、コクコクと頷き)え、ええ! 勝ったんですわ!」
冬樹「本当にありがとう。何てお礼を言っていいのか・・・」
桃華「い、いえ、冬樹くんが喜んでくれるんでしたら、私はそれでいいんですの・・・」
クルル「(パネルを見たまま)おいおい、いちゃつくのは他所でやってくれよなぁ」

 ハッ、と我に返ったように手を離す冬樹。
 互いに赤面したまま、俯いて向かい合う冬樹と桃華。
 炎上するヴァイパー艦を画面に見ながら、不敵な笑みを浮かべるクルル。

クルル「(フッ、と息をつき)ま、どいつもこいつも『どつかれさん』ってトコかね」


★ 西澤家・砂漠地帯(地上)

 轟音を上げて爆発し、地上に墜落するヴァイパー戦艦。
 それを遠くから見ている夏美とギロロ。
 夏美はパワードスーツのまま、足を伸ばして座り、ギロロを腿の上に座らせている。
 両腕はギロロを包み込んでいる。

夏美「・・・終わったのね・・・」
ギロロ「ああ・・・終わったようだな」

 ふうう、と長い溜め息を吐くギロロ。

夏美「(彼の胸元を覗き込み)ベルトのバックル、壊れてない?」
ギロロ「あ・・・ああ、そうだな。戻ってから直すとしよう」

 ギロロ、ふと、今の状態を再確認し、真っ赤になる。

ギロロ「(声を上擦らせ)な、夏美・・・その・・・俺はもう大丈夫だ・・・だから、その、だな・・・そろそろ下ろしてく
    れんか?」
夏美「(顔をギロロの後頭部に近付け)・・・ダメ」

 夏美、より一層両腕を絡め、ギュッ、とギロロを抱き締める。
 頭頂から湯気を噴くギロロ。凝り固まる。

夏美「(しっとりとした声で)今日はこのまま、あたしの言うことを聞いて・・・心配しなくても、ちゃんと家に連れ
   てってあげるから・・・疲れてたら休んでていいし、眠ってもいいから・・・一緒に帰ろう、ギロロ・・・ね?」
ギロロ「う・・・む・・・」

 白目、全身朱色に染まり切ったギロロ、一度だけ頷く。
 暮れかかっている空、橙色に染まる雲。
 未だ爆炎を上げ続けるヴァイパー戦艦。


★ 日向家・ケロロ小隊地下司令室

 プシューッ、と自動扉が開き、並んで入ってくるギロロと夏美。
 夏美は私服に着替え終えている。
 モアの横で包帯だらけのケロロ、ハッ、として身体を起こす。

ケロロ「夏美殿! ギロロ!」
ドロロ「ふたりともご無事で!」
クルル「相変わらずしぶといねぇ先輩。長生きするぜぇ」
冬樹「姉ちゃん・・・大丈夫?」
夏美「ええ。まったく問題なしよ」
ギロロ「(ケロロの前に立ち)すまん・・・迷惑を掛けた・・・」
ケロロ「何言ってんの。無事で良かったじゃん(満面の笑み)」

 ふと、ガルルの姿を見付け、彼を凝視するギロロ。

ギロロ「(眉を顰め)ガルル・・・」

 つかつかと近付いてきて、ギロロのすぐ前に立つガルル。
 いきなり。
 右の拳を握り、渾身の力でギロロの頬を殴り飛ばす。
 ドガッ!と大きな音を立てて床に転がるギロロ。

ギロロ「(頬を歪め顔をしかめ)グアッ!」
夏美「ギロロ!」

 慌ててギロロの横にしゃがみ込み、彼を抱き起こす夏美。

ガルル「何たる愚かなことをしたものか! ギロロ!」
ギロロ「(唇の端から出血させ)何ぃ・・・」
ガルル「貴様の初動体制、及び723との偵察行動、あれが今回の作戦最大の失策と断じて良い。正体の判別
    しかねない敵に於いて払うべき注意も警戒も怠り、ひいてはケロロ小隊、そして我が軍に大きな被害を
    もたらすところだった。出撃する際に何故、基地に連絡しなかった? 貴様だけで何とかなるとでも思っ
    たか! この愚か者!」
ギロロ「(奥歯を噛み)ぐっ・・・」
ガルル「更に貴様にとっての最悪とでも言うべき失敗は・・・(夏美に目をやり)初動体制に於いて彼女を危険
    に晒した挙句に、彼女の心に深い傷を負わせたことではないのか?」

 ハッ、として夏美を見詰めるギロロ。
 少し悲し気に目を伏せる夏美。だがすぐに、首を左右に振る。

夏美「あたしは大丈夫だったから・・・気にしないで・・・」
ギロロ「夏美・・・」

 無表情のまま、それを見るガルル。

ガルル「未熟だとは解っていたが、ここまで大馬鹿者だったとはな・・・」

 ふう、と息を継いでから、ケロロを振り返るガルル。

ガルル「ケロロ隊長殿、今回の作戦に於ける事後処理は本部より私が一任されております。彼の・・・ギロロ
    の処分に関して、私が判断してもよろしいかな?」
ケロロ「(目を見開き)ゲ、ゲロォ! マジっすか!」

 奥歯を噛んで悔しそうな顔のギロロ。
 隣で両眼を見開き、表情を凍らせる夏美。

夏美「(わなわなと震え)処・・・分・・・ギロロが・・・嘘・・・」

 後ろに手を組んで直立し、凛と声を出すガルル。

ガルル「では処分を伝える。ギロロ伍長、貴殿は本日をもって・・・」
夏美「待って!」

 言葉を割り込ませ、立ち上がる夏美。
 隣のギロロ、それに続いて立って彼女を見上げる。

夏美「最初の偵察の時、あたしがギロロに連れていってほしいってお願いしたの。だからギロロが攫われたの
   はあたしの責任よ」
ギロロ「(彼女の横顔を見詰め)夏美・・・」
ガルル「・・・それは君個人の行動ですな。作戦初動時には、貴方はケロン軍の指揮下にはなかった。よって
    君はこの処分に関しては何も問われません」
夏美「でも! あたしが勝手なコト言い出さなきゃ、ギロロだってちゃんと警戒して偵察出来たと思うの。敵の
   ソナーに行動不能になった時も、ギロロはあたしを庇ってくれてた。そしてあたしを救けて、敵に捕まっ
   ちゃったのよ・・・だからギロロは何も悪くない! 処分はあたしにすればいいでしょ!」
ギロロ「(左手で彼女を遮り)もういい、夏美」
夏美「良くないわよ! いいわけないわよ!」

 声を荒げて両手の拳を握る夏美。

ガルル「(嘆息をつき)物分りの悪い方ですな。部外者には口を挟んでほしくありません」
夏美「部外者? 今更? 何ふざけたこと言ってるの? ギロロを救出する作戦で一緒に戦って、役目が終
   わったらポイ? 冗談じゃないわよっ!」

 怒声を発し、ガルルを睨み付ける夏美。
 その次の瞬間、急に表情を曇らせて、悲壮な顔になる。

夏美「折角救出出来て・・・やっとギロロが戻ってきて・・・(涙声になり)なのに今度は・・・ギロロをどうにかす
   るわけ?・・・何よそれ・・・何よそれぇ!」
ギロロ「夏美・・・」
夏美「(嗚咽を堪え)ギロロを処分させる為にあたしを作戦に参加させたの?・・・」

 ポロポロ、と涙を流し頬に伝わせる夏美。

夏美「罰ならあたしにすればいいじゃない・・・それで収まるんだったらそうしてよ・・・だから・・・だから・・・」

 一瞬の間。
 そして渾身の声を張り上げる夏美。

夏美「(絶叫)お願いだからギロロを何処にも連れて行かないで!

 途端。
 沈黙が司令室内を覆う。
 誰も何も言えず、泣きじゃくる夏美を見詰めている。
 暫くした後、ガルルが口を開く。

ガルル「・・・成る程、彼をこのままペコポンに残留させるのなら、貴方を処分対象にしてよろしいと、こうおっ
     しゃる訳ですか?」
夏美「(涙混じりの声で)ええ」
ギロロ「待て! 夏美に罪はない! すべて俺の責任だ! だから夏美には・・・」
ガルル「(一段と低い声で)黙り給え、ギロロ伍長・・・」

 威圧感を発する言葉に、ぐっ、と黙ってしまうギロロ。

ガルル「そういうことなら致し方ありませんな。では処分を伝えるとしましょう。両名、気を付けーッ!」

 号令一過、両の踵を揃えて直立するギロロと夏美。

ガルル「ギロロ伍長! 貴殿は・・・」
夏美「(驚いて)ちょっと! ギロロには何もしないって・・・」
ガルル「任務追加命令の最中だ。最後まで聞き給え」
夏美「え? 任務・・・追加?」
ガルル「ギロロ伍長! 貴殿は本日より宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊、通称ケロロ小隊に於けるペコポン軍
    最終防衛ライン対策担当を兼務することを命ずる!」

 何を言われたか判らず、抜けたような顔になるギロロ。

ギロロ「な・・・何だと?」
ガルル「ペコポン最終防衛ライン、コードネーム723、通称“ナツミ”を常に捕捉、監視し、彼女の周囲に常時警
    戒を怠らぬこと。これが貴殿への『処分』であり、尚且つ新しい任務である。その手段等は一切貴殿に
    任せるものとし、我がケロン軍に危害が及ばない限り報告は不要である」
夏美「(少しずつ笑顔になり)あ・・・」
ガルル「続いて日向夏美殿! 貴殿は只今より、負傷していると思われるギロロ伍長を保護、そちらに置いて
    ある救急箱を持ち、貴殿の部屋、もしくは表の野営テント内にて応急処置を実施せよ。これが貴方に対
    する『処分』ということになる」

 思わず顔を見合わせるギロロと夏美。
 微笑んで彼を見詰める夏美と、驚いたまま彼女を見詰めるギロロ。
 そして、ゆっくりとガルルに向き直るふたり。

ギロロ「(茫然として)ガルル・・・貴様・・・」
ガルル「(意味深に目を細め)如何ですかな? 納得して頂けたでしょうか?」
夏美「(笑顔を弾けさせ)はいっ!」
ガルル「では以上、すぐに実行に移すように。両名、下がってよろしい!」


★ ケロロの部屋

 テーブルを囲んで座るケロロ、ガルル、タママ、ドロロ。
 クルルはパソコンのキーボードを打っている。

モア「お茶です。お疲れ様でした、ガルルさん」
ガルル「どうぞ、お構いなく」
ケロロ「いんやー、それにしても! 先ほどは見事な裁量でありましたなぁ!」
ガルル「何の話ですか? 私はただ単に『処分』を行ったに過ぎません」
ケロロ「またまたまたー、夏美殿とギロロをふたりっきりにして、仲睦まじくさせよーってのが見え見えでありま
    すよん! ま、ああでもしないといつまで経ってもヘタレでありますからなぁ」
クルル「(パソコンに向いたまま)今日辺りで一気にイクとこまでイって決めちまうんじゃねぇ? 先輩はダメで
    も日向夏美がよぉ」
ケロロ「あ、そーかもね。夏美殿は積極的でも、あの赤ダルマはダメっぽいよねー」
ガルル「・・・赤ダルマ?」
ケロロ「そ、赤ダルマよ赤ダルマ! 昔っからあんなんだったからさー、土壇場でも腰引けそうじゃん? 噛ま
    せ犬でダルマだもん、しょーがないよねー!」
ガルル「・・・ほお、赤ダルマと?」
ドロロ「(ケロロを指で突付いて)・・・隊長殿、少し言葉が・・・」
タママ「(ケロロを肘で突いて)軍曹さーん・・・お兄さんの前ですよぉ・・・」

 ハッ、と現実に気付くケロロ。
 こちらをじっと見ているガルルと目を合わせ、全身蒼褪めるケロロ。

ガルル「・・・赤ダルマ、とおっしゃいましたか? ケロロ隊長」
ケロロ「(ガタガタ震えて)あ、あ、い、いやその、何でありますか、その・・・」

 途端、弾かれるように離れて土下座するケロロ。

ケロロ「(顔を上下させ、泣きながら)言い過ぎでありましたーっ! 申し訳ございませーん! だから何卒、
    何卒、乾燥独房とかニョロロ営倉だけはご勘弁をーっ!」
ガルル「・・・ふむ、赤ダルマか・・・」

 ポン、と手を打つガルル。

ガルル「(頷いて)見事な命名ですな、ケロロ隊長」
ケロロ「(涙目で)は?」
ガルル「なるほど、赤ダルマとは上手い言い方です。あれだけ入れ込んでいる女性に対し、真っ赤になって手
    も足も出ない様・・・うむ、言い得て妙とはこのこと。流石はケロロ隊長、素晴らしいセンスをお持ちで
    すな。感服いたしましたぞ」

 バッ、と立ち上がり、頭を掻いて満面の笑みになるケロロ。

ケロロ「(弾んだ声で)いんやーそれほどでもー! そう言ってもらえると命名した甲斐があろーってなカンジで
    ありますかねっ! ゲ〜ロゲロゲロッ!」
タママ「さっすが軍曹さん、無責任に切り替え早いですぅ」
ドロロ「(溜め息をついて)早過ぎでござるよ隊長殿・・・」

 直後、ドアが2回ノックされる。
 モアがドアまで行き、ガチャッ、とノブを回す。

モア「お母様?」
秋「お邪魔するわね、モアちゃん」
ケロロ「ママ殿、お帰りなさいであります。夕飯は冬樹殿の担当でありますが?」
秋「ええ、知ってるわ。その冬樹に聞いたんだけど、ギロちゃんのお兄さんが来てるんだって?」

 それを聞き、立ち上がって近寄り、秋の前に後ろ手で直立するガルル。

ガルル「直接お逢いするのは初めてでしたな。私がギロロの兄、ガルルです。お見知り置きを」
秋「(少し屈んで)初めまして。私が夏美の母の秋です。よろしくね」
ガルル「こちらこそ、ご丁寧に恐れ入ります」

 頭を下げるガルル。
 感心したような笑顔になり、身体を起こす秋。

秋「ざっと今日のコト、冬樹に聞いたんですけど・・・夏美がお世話になったそうで」
ガルル「(頭を上げ)いえいえ、彼女にはこちらがお世話になりまして、深く感謝申し上げます。それに、こちら
    こそ弟がいつもお世話になりっ放しで。反ってご迷惑ばかりお掛けして心苦しい次第です」

 傍で見ていて、呆然としているケロロ。

ケロロ「(眉を顰め)何かドえらい大人の会話・・・PTAの保護者同志じゃないんだからさー」
モア「でもいいですね、こういう穏やかな会話も。てゆうかぁ、温良恭倹?」

 秋、一通り挨拶を済まし、ガルルに笑みを向ける。

秋「お夕飯、ご一緒に如何です?」
ガルル「いえ、お気遣いなく。今回の件で本部に報告に赴きますので、そろそろお暇せねばなりませんから
     な。いずれまたお伺いすることもありましょう」
秋「そう? 残念だけど、またということで」

 もう一度ガルルの前で身体を屈め、目を細めて笑顔になる秋。

秋「(ニッコリと)じゃあ、またいらっしゃってね。ガルちゃん!

 直後。
 ケロロ、ドロロ、タママ、クルル、白色化。
 茫然と口を開け広げて凝固する。

ケロロ 《ガ、ガルちゃん?・・・に・・・似合ーねー・・・》
タママ 《ちゃん付けが浮きまくってますぅ・・・》
クルル 《・・・ヒデぇ・・・笑えねぇ・・・》
ドロロ 《向き不向きがあるでござろう・・・》

 当のガルル、表情を一切変えずに秋を見詰め続けている。


★ 夏美の部屋

 ベッドに並んで座り、夏美の治療を受けるギロロ。

夏美「よかった。あまり怪我してないみたい」
ギロロ「これくらい掠り傷だ。わざわざ手当てなどする必要はない」
夏美「可愛くないわね、その言い方。大人しく手当てされてなさいよ」
ギロロ「う・・・む」

 包帯を手首に巻かれる様を見詰めるギロロ。

ギロロ「(口籠もって)すまなかった・・・約束を破ってしまった・・・」
夏美「え?」
ギロロ「命を懸けないと言っておきながら、この様だ・・・情けない・・・」
夏美「(切な気な瞳で)ギロロ・・・」
ギロロ「罰は罰だ。針千本でも何でも飲む。気が治まらんのなら、如何様にでもしてくれ」
夏美「(ふっ、と微笑んで)そんなに飲みたいの? 針千本」
ギロロ「いや、決してそうなのではないが・・・俺は・・・」

 俯いて黙るギロロ。
 包帯を巻き終わった彼の手を握ったまま、ギロロを見詰める夏美。

夏美「・・・あたしね、その約束した日から、ずっと考えてたコトがあるの」
ギロロ「(顔を上げ)・・・何だ?」
夏美「やっぱりあれ、あたしの我儘だなぁ、って。ギロロはあたしの為にしてくれるのに、あたしは無理難題
   ばっか言ってる、って思ったの」
ギロロ「いや、それは違うぞ、夏美。今日のことでお前に嫌な思いをさせたのも、俺の未熟さが招いたことだ。
    ガルルの言う通りだな」
夏美「(首を振り)ううん、アンタは未熟なんかじゃない。よっぽどあたしの方が未熟よ。子供みたいに喚いて、
   ギロロに負担ばっか掛けてる・・・もしかしたら足手纏いかも知れないし・・・」
ギロロ「(声を強め)そんなことはない! 絶対にない!」

 夏美、ギロロと視線を絡める。
 柔らかな笑みを湛え、顔を彼に近付ける。

夏美「ねぇギロロ・・・聞いて」
ギロロ「・・・言ってみろ」
夏美「(間を置いてから)あたし、ギロロの重荷にはなりたくないの」
ギロロ「だからそれはあり得んと・・・」
夏美「いいから言わせて。ギロロがあたしを護ってくれるのはもちろん嬉しい。でもね、それでアンタが辛くて苦
   しい目に遭うのは、嫌なの。救けに来てくれるのはすっごく嬉しいのにね。矛盾してるでしょ?・・・だか
   らね・・・あたしも同じコトしよう、って決めたのよ」
ギロロ「(眉を寄せ)同じこと?」
夏美「今日あたしがギロロに、連れてって、ってお願いしたのも、アンタを護って闘いたい、って思ったから・・・
   アンタがいっつもしてくれるみたいに、あたしもアンタを護りたい・・・それがあたしの気持ちだから・・・」
ギロロ「・・・夏美・・・」

 彼女の名を呟き、それから項垂れるギロロ。

ギロロ「(一段と低い声で)だが・・・今日の一件はあまりに自分が情けない・・・屈辱的な傀儡に成り果てた挙
    句に、お前に迷惑を掛けた・・・本当にすまない・・・」
夏美「(軽く微笑んで)謝らないで。あたしが希望して救けに行ったんだもの。それに・・・今までギロロにいっ
   ぱい救けてくれた分の、何十分の1にもならないから」
ギロロ「そ、そんなことはないぞ! 救けてくれて・・・その・・・(消え入りそうな声で)感謝してる・・・」
夏美「(ニッコリと)どういたしまして」

 一通りの処置を終え、ベッドに隣り合わせで座ったまま、言葉を切らすふたり。
 長い沈黙。
 やがて、思い切った様子で言う夏美。

夏美「ねぇ! ギロロ!」
ギロロ「(驚き)な、何だ夏美?」
夏美「(頬を染め)あのね、実はさっき・・・ギロロを救けた時にパスワードを入力してるの。それ・・・ちょっと聞
   いてくれる? 今から言うから!」
ギロロ「(訝し気に)あ、ああ。(少し考えて)・・・パスワード?」
夏美「正座!」
ギロロ「あ! はい!」

 ベッドの上で正座して向かい合うふたり。
 夏美、両目を閉じ、息を吐いてからゆっくりと言う。

夏美「(温かな口調で)Giroro,my love...Kiss me tender and hold me tight forever...」

 薄目を開ける夏美。
 そこには全身真っ赤になって硬直したギロロが鎮座している。

ギロロ「(口を大きく開けたまま)うあ・・・な・・・な・・・」
夏美「(同様に赤くなり)は、恥ずかしいから2回は言わないからね!」

 夏美、ふっ、と穏やかな笑みを浮かべる。

夏美「(囁くように)ねぇギロロ・・・前にあたしのパワードスーツの暴走を止めた時、確かパスワード入力してる
   わよね? もし覚えてたら・・・教えてくれる?」
ギロロ「(動揺して)い、いやそれは! ちょ、ちょっと待て夏美! 心の準備が、その・・・じゃなくってだな!
    ええとその・・・」
夏美「(拗ねたように)何よぅ、覚えてるの? 忘れちゃったの?」
ギロロ「いや・・・覚えてはいるが・・・」
夏美「じゃあ、言って」

 焦ったギロロ、自分のベルトのバックルに手を一瞬触れる。
 パキッ、と音がして外れるバックルの蓋。

ギロロ「あっ!」
夏美「あ、さっきのベルト、まだ・・・あら?」

 ベッドの上に落ちる蓋と、後を追って中から落ちる写真。
 慌てて取ろうとするギロロ。しかし夏美に先に取られる。

夏美「何、これ?」

 それを見て、目を見開いて硬直する夏美。

夏美「(驚きで声が固く)あ・・・あたし? あたしの写真?」

 ギロロ、ワナワナと震えてガックリと両手を突く。

ギロロ 《終わりだ・・・夏美に知られてしまった・・・》
夏美「(俯いて)ギロロ・・・この写真・・・ずっとベルトに入れてたの・・・?」
ギロロ「(声をやや荒げ)ああそうだ! ずっと入れてた! 肌身離さず身に付けてた!」

 言い切って嘆息をつくギロロ。

ギロロ 《もういい。夏美も軽蔑するだろう。甘い夢もこれで終わりだ》
夏美「(やや湿った声で)じゃあギロロ・・・もしかして・・・前からあたしを・・・」

 胡坐をかいて座り直し、腕組みをして両眼を固く閉じるギロロ。
 諦めたような雰囲気で、一度だけ頷く。
 それを確認した途端、夏美の脳裏に次々と浮かぶ、ギロロと一緒の時。
 【回想】
 最初の出逢い。ギロロを一蹴した時。
 焼き芋を焼いてもらい、並んで食べている庭。
 運動会での二人三脚。
 節分でのピンチに、戦闘モードになり駆け付けてくれた姿。
 高熱を出して寝込んだベッドから見上げた、ソーサーの軌跡。
 ガルル小隊襲来時に、彼の名を呼んだこと。
 感激で潤んだ目で見た、自分の元に推参した彼の勇姿。
 【回想終了】
 薄っすらと涙が浮かぶ、夏美。
 暫くの沈黙。
 突然、スッ、と伸びてきた手に目を開けた次の瞬間、夏美に抱き締められるギロロ。
 途端にギロロ、驚きのあまり白目を剥いて硬直する。
 これ以上ないくらいの満面の笑顔で、彼をギューッと抱き締める夏美。

ギロロ「(顔を真っ赤にして)どわぁぁぁっ! な、ななな夏美ィ! 何をっ!」
夏美「(頬を摺り寄せ)ギロロったらぁ! もうっ!」
ギロロ「(湯気を出し)は、離してくれぇ! 茹だるぅ!」
夏美「(最上の笑みで、悪戯っぽく)だーめ! パスワード入力してくれなきゃ離れませーん!」

 半分悲鳴のような声を出すギロロ。
 彼の体温を噛み締めるように、身体を密着させる夏美。

【N】「この後、ギロロ伍長はパスワードを言い終わる前に気絶してまい、オアズケとなってしまいました。やっ
   と始まったふたりの関係、何にしてもよかったね! おふたりさん!」


★ 宇宙空間・ガルルの宇宙艇

 星々を眺め、コクピットに深く座るガルル。

ガルル「・・・ガルちゃん・・・か・・・・」

 ふと、秋の顔が浮かぶ。
 目を細めるガルル。

ガルル「(感慨深げに)・・・悪くないな・・・」

 亜光速ドライブに移る宇宙艇。
 一本の光の帯を残し、遥か彼方へと消える。


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[ 次回予告 ]

 (BGM:ケロッと!マーチ)

夏美「夏美です!」
ギロロ「ギ、ギロロだ」
夏美「まあいろいろあったケド、ギロロとあたしはラヴラヴな関係になりました!」
ギロロ「ちょ! ちょっと待て! ラヴラヴってお前・・・(赤面)」
夏美「なーに今更テレてんのよ。この物語はあたしたちの話じゃない。ギロロとあたしの、あーんなコトや、こー
   んなコトがいっぱい書かれるのよ」
ギロロ「(湯気を出し)あのなぁ! いくら何でもそれは直球過ぎだろっ!」
ケロロ「そんなことより次回は・・・」
夏美「(怒り)そんなコトとは何よっ! アンタはすっ込んでなさいっ!」
ギロロ「(慌てて止め)落ち着け夏美ッ! これは次回予告だぞっ!」
ケロロ「あー・・・(投げ遣りに)次回は『戦場の中心で愛を叫ぶ』であります・・・全4本っつーことで、どっ
    すか?・・・我輩、疲れたんで温泉にでも行って休養してくるでありますよ。ゲッゲロ〜」