episode05 天に轟くパスワード
chapter03

★ 西澤家・セキュリティセンター

 巨大なパネルスクリーンの前に、やたら長い“くの字型”のコンソールが3段に並ぶ。
 西澤家・桃華親衛隊のメンバーが十数人、慌しく機器の間を駆け回る。
 最上段のコンソールの真ん中にはケロロが座り、5台のノートパソコンを準備している。
 モアはそのすぐ隣で、3台のレーダーを注視。同時にメインパネルとサブモニターを監視中。
 更にその上、司令ブース内にはガルルが後ろ手に組んで起立している。
 彼のすぐ後ろには、桃華、ポールが立っている。

ガルル「(桃華を振り返り)全面的なご協力感謝申し上げます。お陰様で順調に準備も進んでおります」
桃華「いえ、冬樹くんとタマちゃんのお知り合いの方ですから、遠慮なく使って下さいな。でも大変なんです
   ね・・・今回、ギロロさんが捕まっているなんて・・・」
ガルル「我が弟ながら、まったくもってお恥ずかしい限りです」
ポール「(桃華を見て)しかし、本当はご心配なのでしょうね?」
桃華「(ポールに目をやり)ええ、ご兄弟ですからね」
ガルル「・・・まあ、解釈は人それぞれですからな。とにかく、ギロロが戻ってきたら取り敢えず一発殴るつもり
    ですが」
桃華「(ガルルを見て、苦笑いして)それはちょっと・・・」

 一歩前に出て、モアを見下ろすガルル。

ガルル「ヴァイパー艦の現状を報告せよ」
モア「はい。目標は西澤タワー上空、防衛局より10時の方向、高度500の位置に停止中。ステルス機能と
   アンチバリアは解除しています。それ以上の動き、ありません」

 途端、ポールの通信機が鳴る。

ポール「私だ―――うむ―――判った、至急迎えを出せ。(桃華に向き直り)只今、冬樹様とクルル様が日向
    家を自転車で出られ、こちらに向かったそうです」
桃華「事は一刻を争います。急いで連れて来て下さい」
ポール「(礼をして)畏まりました。では」

 自動扉を抜け、足早にセンターから出るポール。
 突然、ピピピピピピ・・・と音を発し、レーダーが反応する。
 サブモニターを見て、緊張気味に眉を寄せるモア。

モア「来ました! 723、目標に急速接近中!」
ガルル「(息を飲み)・・・来たか・・・」


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 黒塗りの飛行船型戦艦、その艦橋は下部に位置する。
 その広い艦橋の真ん中にある、大きなコンソールの椅子に踏ん反り返るヴァイパーG。

ヴァイパーG「(ひねた笑いを浮かべ)ガーラガラガラ・・・ケロンのバカどもが。未だに怯えて出てこれねぇっ
       てか? ワザワザこっちから出てきてやったっつーのによ。1匹捕まえてあっから、出てくるのも
       時間の問題だがな」

 モニターの画面に目をやり、システム類の状態を確認するヴァイパーG。

ヴァイパーG「しっかし、こんな田舎の惑星にいる、たった5匹のケロンにヤラレっ放しとはな。本星の連中は
       役立たずもいいトコだ。オレ様に掛かりゃ、瞬殺だぜ瞬殺・・・(ギリッ、と奥歯を噛み)今まで蔑ろに
       しやがった本星のクズめら、これが終わったら思い知らせてやるぁ!」

 直後、レーダーが警報音を発し出す。
 気だるそうにそれを確認し、メインパネルのスウィッチを入れるヴァイパーG。
 画面には、小さな点がこちらに向かって飛来して来る映像。
 すぐにそれは拡大され、画面いっぱいに全身像が映される。
 トリコロールカラーのパワードスーツ姿の夏美。

ヴァイパーG「(眉間に皺を寄せ)こいつ・・・さっき捕まえたケロンと一緒にいた・・・さては救けに来たってか?
       (愉快そうに)ガーラガラガラ! 面白れぇ! 相手してやるぁ!」


★ 西澤タワー(上空)

 猛烈なスピードでヴァイパー艦に接近する夏美。
 いきなり急上昇し、戦艦の遥か上空を飛び越えて真正面へと降下する。
 そして艦の寸前、艦橋からこちらが目視出来る中空の位置に停止。
 艦先端部より200ほどの距離。
 キリッ、と眉を寄せて、ビームライフルと盾を手元に転送させる夏美。
 ライフルを構えて、艦橋へと狙いを定める。


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 ニヤリ、と笑うヴァイパーG。コンソール上のボタンに手を掛ける。

ヴァイパーG「バカめが・・・またもやソナーの餌食になりたいってか!」

 グッ、とボタンを押す。
 カーンッ!と大きな金属音が前方に轟き渡る。凄まじく震える空気。
 暫くその余韻が、戦艦周囲に漂っている。
 だが、夏美は平然とライフルを構えたまま。

ヴァイパーG「(大口を開け)何ィ! ソナーが効かねぇだと! バカな! こんな短時間でアンチシールドでも
       付けられたってのか!・・・(夏美を見て)ん? 何だ?」

 夏美、ライフルの構えを解き、盾と共に次元転送させて消す。
 両の掌を上に向けて肩を窄め、やれやれ、と言いたそうな表情で首を左右に振る。
 そして、フンッ、と鼻で笑うような顔を見せる。
 直後、くるり、と背を向けてブースターに再点火して離れていく。

ヴァイパーG「(見る見る怒りを浮かべ)・・・バ・・・バ・・・バカにしやがってクソがぁ! ブッ殺してやるぁ!
       待ちやがれぇ!」

 戦艦のメインエンジンを稼動させるヴァイパーG。
 ゴゴゴゴゴゴ・・・と重低音を撒き散らし、夏美の飛んでいった方向へと回頭させる。
 やがて彼女を追って動き出す戦艦。徐々に加速していく。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 メインパネルで一部始終を見ているガルルとケロロ。
 感心したように大きく頷き、腕組みをするガルル。

ガルル「見事だ。奴を挑発して誘き出せたようだな」
ケロロ「流石は夏美殿、堂々とした仕事っぷりでありますなぁ」
ガルル「それに、素晴らしい度胸だ。ケロン歴戦の猛者でも、なかなかあれほどの振る舞いは難しい。ペコ
    ポン最終防衛ラインの名は伊達ではないようだな」
ケロロ「中尉殿・・・このペコポンには夏美殿よりも強い方々がいるのはご存知でありますか?」
ガルル「ほお? 彼女よりも?」
ケロロ「(ニヤッ、と笑い)そうであります。何を隠そう、いえ、特に隠してたワケではないですが、夏美殿の
    ママ殿がそのひとりでありますよ」
ガルル「母君か・・・是非一度お逢いしてみたいものだな」
ケロロ「更にママ殿よりも上、“提督”であらせられるのが、夏美殿の御祖母様であります」
ガルル「(ケロロを見て)提督、か・・・うむ、貴重な情報を感謝する」
ケロロ「是非、今回の件と共に本部に報告して頂きたいのであります。ゲロゲロリ」

 意味あり気にニンマリと笑うケロロ。
 直後、コンソールから顔を上げてふたりを見上げるモア。

モア「ソナー情報解析、終わりました。有効範囲、発信部より最大950から1050、周波特性は主にケロン軍
   電磁周波数帯を全域カバーしています。尚、西澤家のセキュリティメカにも多少の動作障害が見られま
   すが、機器の動作不能などの状況は確認出来ていません」
ガルル「結構。今のデータを723のシステムに転送し給え」
モア「それと・・・(籠った声色で)先ほどのソナーで、723の簡易バリアが45%のダメージを受けました。同レベ
   ルのソナーを2回受けたら破壊されます・・・」
ガルル「(眉間に皺を寄せ)・・・そのデータも転送せよ・・・(ふう、と息を継ぎ)楽観するつもりはないが、かな
    り今回の作戦は梃子摺りそうだな」

 途端、プシューッ、と後方の自動扉が開き、クルル、冬樹、ポールが入室。
 モア以外の一同が振り返る。

桃華「冬樹くん!」
ケロロ「冬樹殿、お世話様でありました」
冬樹「遅れてごめん、軍曹。それと西澤さん、今回はありがとうね。お陰で大助かりだよ」
桃華「いいえ・・・冬樹くんのお役に立てれば・・・(頬を赤らめる)」
ケロロ「クルル曹長、急ぐであります。セットアップは完了済みなんで」
クルル「(モアの隣の椅子に座り)隊長にしちゃあ準備が早かったじゃねぇか」
ケロロ「我輩とてやる時はやるでありますよ」
ガルル「(メインパネルを見たまま)行けそうか? クルル」
クルル「頭ん中でシミュレートして来たんだけどよ、はっきし言って難しいな。だが正直、楽しめそうだぜぇ」
ガルル「よろしい。では始め給え」

 レーダーとサブモニターを交互に見ていたモア、メインパネルを切り替える。
 西澤家・砂漠地帯の地図と、レーダーの映像が重なる。

モア「(凛とした声で)723とヴァイパー艦、戦闘空域に突入します!」


★ 西澤家・砂漠地帯(空中

 眼下に砂漠地帯を見下ろし、更に飛行を続ける夏美。
 ピピピピピ・・・と、アイシールド内に次々に数字と言葉が映し出される。
 一通り目で追って、頷く夏美。

夏美 《戦艦との距離を1050以上に取らないといけないわね・・・》

 アイシールドには、ヴァイパー艦との距離がリアルタイムで表示されている。
 ちら、と後方を振り返る夏美。
 巨大な黒塗りの戦艦が、重低音と共に自分を追走している。
 突然。
 ガゴン、という何かが開くような音が戦艦より響く。
 やがて、ドン! ドン!という爆音を起こし、数本のミサイルが発射される。
 それとほぼ同時に、戦艦左右側面の隔壁が降り、砲門が迫り出して露わになる。
 白煙を上げて襲い掛かるミサイル、そして、ボッ!と音を立てて撃たれるレーザー砲。
 一気に夏美へと集中する。
 だが夏美は、最初のレーザー砲を身体を捻っただけで躱し、以降の攻撃もすべて回避する。
 ミサイルに至っては、それを足場にして別の砲撃を避けるほどの余裕を見せる。


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 バン!とコンソールを叩くヴァイパーG。

ヴァイパーG「(歯軋りをして)クソッ! ちょこまかとウザいヤツめ!・・・まあいい、アレを出せば済むことだ。
       もう1匹くらいを集めてからにしたかったが、1匹で充分だろうよ。アレは戦闘力の高い素体みてぇ
       だからな」

 キーボードをいくつか押し、何かのデータをモニター上に表す。
 そして、ニヤリ、と嫌らしいひねた笑いを浮かべる。

ヴァイパーG「(口を目一杯歪め)ガーラガラガラ・・・仲間同志で殺し合え!」

 ひとつのキーを思い切り叩くヴァイパーG。


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 続いていた砲撃が止み、少しの間の静寂。
 夏美が訝し気に戦艦を見ると、艦の前方下部のハッチが開き始める。
 バシュッ、と飛行ユニットで何かが飛び出してくる。
 急速に夏美に接近し、段々とその姿が近付いて、彼女が目視出来る距離まで接近。
 途端。
 驚愕の表情になる夏美。

夏美「(目を見開いて)・・・ギロロ!

 夏美の眼前、25メートルほどの中空で停止し、正面から対峙する精神拘束中のギロロ。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 メインパネルに大写しになる、彼の姿。
 見たことのないおどろおどろしい異様なフォルム、ゴテゴテと荒っぽく装備された重火器。
 顔にはゴーグルを装備させられ、それの表面を光の点が左右に往復している。
 両手には厳つい形の銃を持っている。

ケロロ「(汗を垂らし)・・・ギロロ・・・何という目に・・・」
クルル「悪趣味極まりねぇデザインだなぁ。同情するぜぇ先輩」
ガルル「(舌打ちをして)クルル、急いでくれ」
クルル「判ってるって・・・だがもうハッキングに10回失敗してる。暫く時間を稼いでくれや」
ガルル「・・・判った。モアくん、待機部隊への通信回線開け」
モア「了解!」
ガルル「こちらデルタ1。ダート1、ワカバ1、応答せよ」
ドロロ『こちらダート1』
タママ『ワカバ1ですぅ』
ガルル「目標よりスカル1が出てきた。現在723と対峙中。距離2000まで接近し、敵艦のレーダーに捕捉さ
    せ、そこで再び待機せよ。ただし、スカル1と723が戦闘を開始した場合でも、交戦は罷りならん。723が
    戦闘不能に陥った際には、その救助を最優先とせよ。以上!」
ドロロ・タママ『『了解!』』


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 あまりの様相のギロロを、茫然と見詰める夏美。
 しかし、彼の身体を凝視して大きな怪我もないことを確認し、ホッとした表情になる。
 そして、ふっ、と軽い笑みを浮かべる。

夏美「どうしたのよギロロ? そんなセンスの悪いカッコして。あたしがコーディネートし直してあげるからさ、
   (右手を伸ばし)一緒に帰るわよ」

 直後。
 ジャキッ、と両の銃を構えて、いきなり発砲してくるギロロ。
 鮮やかにそれを躱し、トンボ返りをして次の銃弾を避ける夏美。
 距離を取って離脱する彼女を追い、飛行を始めるギロロ。
 更にバズーカ砲、ミサイルポッド、バルカンを乱射しまくる。
 前後左右上下に縦横無尽の動きで、それらを全弾回避する夏美。

夏美「(僅かに微笑んで、声高に)それにそのゴーグル! 似合わないから取っちゃいなさいよ! アンタの
   いつもの吊り目、隠しちゃうなんてもったいないわよっ!」

 夏美、素早く彼の背後に回り込み、背後を取ろうとする。
 グルッ、と速攻で身体を返し、武器を再度乱射し始めるギロロ。
 真下に急降下する夏美。その空間を銃弾やレーザーが空しく通り過ぎる。


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 貧乏揺すりをしていて、苛立ちを抑えないヴァイパーG。

ヴァイパーG「ええいクソッ! いつまで掛かってんだ!」

 突然、レーダーに反応。
 距離が離れた空中に現れてこちらに接近するふたつの点。
 遠隔モニターを表示させ、映像を拡大させるヴァイパーG。
 ふたりのケロン人の姿を確認して、ニヤリ、と笑う。

ヴァイパーG「こいつぁ・・・向こうから出向いてきやがったか。なら早々と潰しておかねぇとなぁ。さっきは効か
       なかったが、今度はどうだ?」

 ヴァイパーG、コンソールのボタンに手を掛ける。


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 急に回頭を始めるヴァイパー戦艦。重低音を撒き散らして動き出す。
 ハッ、とする夏美。戦艦とギロロを交互に見る。一瞬、判断に迷う。
 途端、アイシールドの距離計がアラーム音を発する。距離600という表示。
 慌てて離脱行動をしようとする夏美。
 しかし、カーンッ!という激しい金属音が鳴り、全身を震わす。
 いきなりアイシールド内が赤い点滅を数回繰り返す。“caution”という文字。
 続いて“barrier 95% down”と表示される。 

夏美 《マズい! バリアが持たないわ!》

 一気に戦艦との距離を取ろうと、ブースターに再点火する夏美。
 それを追い掛けて飛行するギロロ。
 ヴァイパー艦の砲塔が曝され、レーザー砲が連発されて夏美に襲い掛かる。
 歯を食い縛って、余裕のない顔でそれを躱す夏美。
 更に戦艦上部に射出口が次々と剥き出され、一斉に無数の小型ミサイルが発射。
 スコールの如く、夏美の頭上に降り注ぐ。
 第一波は避け切ったが、間に撃たれたレーザー砲に気を取られ、第二波に気付くのが遅れる。
 ハッ、と見上げた時には、ミサイルが回避不能距離まで接近。
 思わず顔を両腕で覆い、目を閉じる夏美。

夏美 《・・・ギロロっ!》

 突然。
 ミサイルの群れは夏美まで届かず、ドガッ! ドゴッ!と爆発する。
 凄まじい爆炎と爆発が中空に広がっていき、あっと言う間にミサイル全部を飲み込む。
 爆風に身体を押し流され、戦艦から離れていく夏美。
 暫くして、爆発が治まった頃に、ゆっくりと目を開けて腕を下ろす。
 驚愕の表情になる夏美。
 すぐ目の前には、こちらに背を向けて彼女を庇うような位置に浮かぶギロロの姿。
 銃を、さっきまでミサイルが襲い掛かってきた空中に翳している。

夏美「(見る見る笑顔になり)ギロロっ!

 返事はなく、動きも止まっているギロロ。

夏美 《護ってくれたんだ、あたしを・・・洗脳されてる筈なのに・・・》

 涙が目頭に溜まり、流れそうになるのを堪える夏美。
 だが直後、ピピピピピ・・・とアラーム音がギロロのゴーグルから発せられる。
 くるり、とこちらを向き直り、銃を向けて構えるギロロ。
 再び夏美に発砲、攻撃を再開する。
 鮮やかにそれらを避け、彼と対峙する夏美。

夏美 《ギロロも抵抗してるんだ・・・洗脳と闘ってるんだ・・・もう少し、もう少しよ! パスワードさえ来れば!
    一緒に帰れるよ、ギロロ!》


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 キーボードを打ちながら、数台のモニターを1台ずつ見るヴァイパーG。
 僅かに首を傾げて、眉間に皺を寄せる。

ヴァイパーG「さっきの行動は何だったんだ? 素体が不安定なのか?・・・まあいい、再インストールしといた
       から問題ねぇだろ。このままあっちにいるケロンどもを巻き込んで殺っちまうか」

 チラリ、と真横のモニターに目をやる。
 画面が何度も点滅しては、一瞬ブルースクリーンとなり、再び通常の安定を取り戻す。

ヴァイパーG「(口を目一杯歪め)システムにクラック仕掛けてきやがってるネズミが1匹いるようだがよ、オレ
       様の完璧なシステムプロテクトが破れるとでも思ってんのかぁ? 精々バカはバカなりに足掻いて
       みるんだな! ガーラガラガラ!」


★ 西澤家・セキュリティセンター

 ブン、とパソコンの画面上に×印が表示される。
 自分の膝に、バシッ、と握り拳を振り下ろすクルル。

クルル「(額に脂汗を浮かべ)チッ! まただ!」

 空気が重くなる室内。ガルルを除く誰もが不安気な表情。

ガルル「(ケロロを見て)ケロロ隊長、レーダー監視を代わってやってくれ」
ケロロ「モア殿は?」
ガルル「モアくんはクルルに協力してやってくれ。ハッキングの技術はあるかね?」
モア「やったことはありませんが、サポートくらいは私でも出来そうです」
ガルル「結構。では、頼む」

 ケロロと入れ替わりで座席を譲り、クルルの横に行くモア。
 クルルの操作しているパソコンの画面を覗き込む。
 猛烈な速度でマウスを動かし、高速で画面をスクロールさせているクルル。
 奥歯を噛んで、いつもの飄々とした気配が微塵もない。
 心配気にその横顔を見詰め、もう一度画面を目をやるモア。

モア「(ハッ、として)クルルさん! それ!」

 一斉に彼女を見る一同。
 舌打ちをしてモアを振り返るクルル。

クルル「何だ! 邪魔するんじゃねぇ!」
モア「(落ち着いて)今の画面、戻してみて下さい」

 訝し気に眉を顰め、スクロールホイールで画面を上に戻し始めるクルル。

モア「そこ! そこです! この画面、変じゃないですか?」
クルル「何?」

 じっ、と画面を見詰めるクルル。
 モア、彼のすぐ傍らに屈み、モニターの一部分を右手人差し指で示す。
 無数の数字の羅列の中、画面ギリギリの端の部分に、僅かな整列のズレ。
 見事に並んでいる数字の列で、そこだけが数ドットだけ間隔を空けている。
 ただし、言われても判らないような、本当に極最小の隙間。
 一瞬間の抜けたような顔になり、項垂れるクルル。
 そして、肩を震わせて笑い始める。

クルル「くっ・・・くっ・・・くくっ・・・(さも愉快そうに)く〜っくっくっく! く〜っくっくっく! (右手で膝をパンパン、
    と叩き)こいつぁゴキゲンだぜぇぇぇぇ!!!

 茫然と彼を見ている、ケロロ、冬樹、桃華。
 ガルルは小さく頷いて、改めてメインパネルに注視。
 クルル、モアを振り向いて、いつもの不敵な笑みを浮かべる。

クルル「モア、手ぇ貸せ。そっちのパソコンを使って、俺の送るデータと画面を突き合わせな。異状があったら
    すぐに言えよ。あのヘビ野郎に、とびきりの“爆弾”を埋めてやるぜぇ!」
モア「(嬉しそうに)は、はいっ!」

 一気に安堵の空気に包まれる室内。
 軽やかに席に座って、ノートパソコンの画面に向かうモア。
 それを確認し、自分の前のモニターを凝視するクルル。

クルル「(ボソッと)・・・よく見付けたな」
モア「目はいいんですよ、昔っから。てゆうかぁ、眼光炯炯?」
クルル「意味違うぞ、それはよぉ。くっく〜」

 キーボードの上で、バッ、と指揮者のように両手を翳すクルル。
 
クルル「(ニヤリ、と笑い)さあて・・・本気で行かせてもらうぜぇ!」


★ 西澤家・砂漠地帯の外れ(空中)

 自分のソーサーで宙に浮かんでいるドロロ、タママ。
 タママ、双眼鏡で戦艦の方向を見ている。
 ドロロは腕組みをして、じっとヴァイパー艦を凝視する。

ドロロ「膠着状態でござるな・・・」
タママ「(双眼鏡で見たまま)ドロロ先輩はスコープ要らないんですかぁ?」
ドロロ「完全に見えなくとも、感じれるでござる。心配御無用」
タママ「ふーん。忍のチカラって便利ですねー」

 ふう、と息を継ぐドロロ。僅かに眉を寄せる。

ドロロ「このままでは、如何ともし難くなるやも知れぬ・・・」


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 ギロロからの砲撃を躱し、距離を取りながら様子を窺う夏美。
 そこに通信が入る。

クルル『聞こえるかぁ、コードネーム723』
夏美「ク・・・じゃなかったナルト1?」
クルル『おっさんの精神拘束解除のパスワード送るぜぇ』

 アイシールド内に画面が展開され、文字がスクロールされる。

夏美「・・・なっ! 何よコレぇ!(赤面する)」
クルル『何重にも掛かったプロテクトだ。ハッキングするのに苦労したんだぜぇ。そいつをおっさんの耳元で
    言ってやんな。そんで拘束は解けるからよ』
夏美「で、ででででも! こんなコト言わなきゃなんないの?」
クルル『その単語構成じゃなきゃダメだぜぇ。そいつなら間違いなく認証される筈だってばよ。あ、それから
    言っとくが、3回入力ミスしたらもうおっさんをブッ倒すしか方法はねぇからそのつもりでな』
夏美「そんな・・・」

 目の前で銃を構えるギロロ。
 真っ直ぐに見据えて、キッ、と眉を寄せる夏美。

夏美「解ったわ・・・行くわよ、ギロロ!」

 ブースターに再点火し、一気に距離を詰める夏美。
 銃を乱射して、同時に腰のバルカンも撃ちまくるギロロ。
 夏美、身体を回転させたり、細かな動きでそれらをすべて躱す。
 ギロロの頭上を飛び越え、目標を捕捉出来ない彼の背中に回りこむ。

夏美「ギロロっ!」

 その声に、ビクッ、と銃を構えたまま身体を固めるギロロ。
 即座に背後から、ガバッ、と抱き付き、彼の首許に顔を寄せる夏美。
 ゴーグルから耳に差し込まれているイヤホン状の機器に、口を近付ける。

夏美「(呼吸を整えてから)Giroro,my love...Kiss me tender and hold me tight forever...」

 途端。
 ブッブー、と怪し気なブザー音。

夏美「ええええっ!」
クルル『はい、1回目失敗。もっかい。もっと大きな声でやんねぇと駄目かもなぁ。く〜っくっくっく』
夏美「(頬を赤くして)これを大声で言えっていうの?・・・判ったわよ・・・(ギロロの後頭部を見詰め)これで元
   に戻らなかったら承知しないからね!」

 スゥーッ、と思い切り息を吸い込んで、一拍置く夏美。
 固く目を閉じ、腹の底からの凄まじい大声で叫ぶ。

夏美 「ギロロマイラブ! キスミーテンダーアンド!
  ホールドミータイトフォレバー!フォレバー フォレバー・・・

 それがエコーとなって、暫く響き渡る。
 やがて静まり返る砂漠地帯。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 あまりの大声に、茫然とする一同。

ケロロ「(少し呆れて)あっちゃ〜夏美殿・・・何もあんな大声で・・・」
冬樹「姉ちゃん・・・いくら何でも聞いてる方が恥ずかしいよ・・・」
桃華「(頬を染め)夏美さんったら・・・凄い」
モア「てゆうかぁ、大胆告白?」
ガルル「(腕組みをして)ふむ・・・」


★ 西澤家・砂漠地帯の外れ(空中

 ヴァイパー戦艦からかなり距離を置いて、ソーサー上で待機するタママ、ドロロ。
 双眼鏡で一部始終を見ていたタママ。声が聞こえない為に不思議そうな顔。
 横で腕組みをして目を閉じているドロロ。ふう、と溜め息をつく。

タママ「(双眼鏡を覗きながら)ねーねードロロ先輩、ナッチ何やってるんですぅ?」
ドロロ「・・・今は知らない方がいいでござるよ・・・」


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 ギロロを抱いている夏美を見て、暫し言葉を失うヴァイパーG。

ヴァイパーG「な・・・何を言ってるんだヤツは! ええい! こうなったら纏めて自爆しやがれぇ!」

 キーボード横の赤いボタンに手を掛けて、グッ、と力を入れるヴァイパーG。
 直後。
 コンソール画面が急にスクロールし出し、艦橋内他のモニターも同様の動き。
 そして次々と画面内に“ERROR”と表示されて動かなくなる。
 ボタンを押すが、まったく反応なし。カスッ、と空打ちする音。

ヴァイパーG「(大慌てで)な、何だ何だ! 自爆しやがらねぇ! うわっ! 画面が目茶目茶だ!(片っ端から
       キーボードを叩きながら)クソッ! 一体どうしたんだ!」


★ 西澤家・砂漠地帯(空中)

 夏美に抱きかかえられてるギロロの装備が、突然激しい振動を発する。
 驚いて一旦離れた瞬間、パキッ、パキッ、と各パーツが分解していく。
 ひとつのパーツが彼のベルトのバックルに当たり、ガキッ、と傷を付ける。
 そして装備がバラバラになりながら、落下し始めるギロロの身体。

夏美「ギロロ!」

 慌ててそれを追う夏美。
 ギロロに取り付けられていた武装パーツとゴーグルはすべて外れ、軍帽とベルトのみになる。
 真っ逆さまに頭から落ちていくギロロに、あっという間に追い付く夏美。
 そのままもう一度、大事そうに彼の身体を抱き締める。
 一気に迫る地上。
 夏美は、クルッ、と空中で前転し、背中を地上と水平にする。
 直後、アフターバーナーに点火して、仰向けのまま一気に加速する。
 地上と水平の状態で暫く飛び続けるが、一瞬バランスを崩す。
 砂漠地帯の砂山を掠めた時、エンジンを止め、惰性で飛ぶ夏美。
 通過するいくつかの砂山の裾に身体を当てて速度を落とし、やがてひとつの砂山に減り込む。
 ブワッ、と大きな砂埃を立て、もうもうと砂煙が上がる。
 それが消える頃、ケホッ、と咳をして砂地に座る夏美の姿が現れる。
 そして、抱きかかえられたままのギロロの眉が、ピクッ、と動く。
 ゆっくりと開かれるギロロの目。
 そこに映る、こちらを見詰める夏美の顔。

ギロロ「・・・な・・・つ・・・み・・・?」
夏美「(目を丸く見開き)ギロロ!」
ギロロ「(茫然と)俺は・・・生きてるのか?」 
夏美「(泣きながら)・・・う・・・ギロロぉ・・・ギロロぉ・・・」
ギロロ「夏美! 何で泣・・・」
夏美「ギロロぉぉぉぉぉ!!!!!

 名を呼びながら、渾身の力で再び彼を抱き締める夏美。

ギロロ「(顔を真っ赤にして)ぐわぁっ! な、ななな夏美ぃ!」
夏美「(泣きながら、笑顔になり)よかった・・・戻ってきた・・・ギロロが戻ってきた!
ギロロ「(少し冷静になって)夏美・・・?」

 ピッ、と夏美の首許の通信機が入る。

ガルル『良くやった。救出成功だな』
ギロロ「その声は・・・! 何故貴様がいる!」
ガルル『スカル1、貴様には言いたいことがあるが、今は作戦続行中につき、次の指示を与える。723と共に
    戦列を離れ、次の指示があるまで待機せよ』
ギロロ「何?」
ガルル『723、君はスカル1の保護を続行。敵正面を背に2時の方向に退避し、戦闘領域より離脱の後、スカル
    1と同様に待機せよ。以上だ』
夏美「(少ししゃくり上げてたが、気を取り直し)解ったわ!」
ギロロ「待て! 俺は戦えるぞ!」
夏美「行くわよギロロ、しっかり捕まってて!」
ギロロ「夏美! ちょっと待・・・」

 再度ブースターに点火し、ギロロを抱いてその場を離れ始める夏美。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 モニターでそれを確認して、ケロロを振り向くガルル。

ガルル「これで思う存分動けますな・・・ケロロ隊長、ご指示を」
ケロロ「(元気よく)よっしゃあ! 行くであります諸君! 目標、正面ヴァイパー戦艦!
    総攻撃であります!
モア「了解ですっ!」
タママ『はいですぅ!』
ドロロ『承知!』
クルル「んじゃ、俺は奴さんに挨拶でもしとこうかねぇ」


★ ヴァイパー戦艦・艦橋

 凄まじい速さでキーボードを操作するヴァイパーG。
 しかし艦橋内の全モニターはフリーズしたまま、一向に回復する兆しがない。

ヴァイパーG「(脂汗を垂らし)この野郎! 何がどうなってやがんだ!」

 すると、いきなり各画面が変化する。
 ブーッ、という可笑しなブザー音が次々とスピーカーから響き、モニターが真っ白になる。
 そしてフェードインして浮かんでくる“クルルズ=ラボ”のロゴ。
 艦橋内、メインパネルも含む全画面にそれが表示される。

ヴァイパーG「(驚いて)ああ? 何じゃこりゃあ!」
クルル『・・・よぉ、聞こえっか? ヴァイパーゴーグル』
ヴァイパーG「ゴーグルじゃねぇ! ヴァイパーグレイテスト様だ! それよりテメェ何者だ!」
クルル『オメェみてぇな下品な野郎に名乗る名前はねぇよ。(一段低い声で)よぉ、随分と人ん家の庭先で好き
    勝手やってくれたなぁ? オメェのご自慢のシステムとやらは、俺の可愛いウィルスがディナーにさせて
    もらったぜぇ。残念だがな、もうソナーも次元バリアもあらゆる攻撃手段も全部使えねぇからよ。この
    ままエンジンでも暴走させて爆破してもいいんだがよぉ、そんじゃ気が済まねぇ、って奴が若干1名いる
    んでな。ま、精々バカはバカなりに足掻いて楽しませてくれよぉ。あ、それからよ、セキュリティホールも
    塞いでねぇとは大した野郎だなオメェ。く〜っくっくっく! く〜っくっくっく!・・・』

 プチッ、と切れる通信。
 茫然と立ち尽くすヴァイパーG。

ヴァイパーG「(怒声)クソむかつくぅぅぅ!!! 何て厭らしい野郎だ!

 艦橋前部に駆け寄り、コンソール下の小さな扉を開けるヴァイパーG。
 中の黒いハンドルを、グルン、と回し、艦橋の外を見る。
 バチバチバチ・・・と音を立てながら、オレンジ色の電磁バリアが戦艦を包んでいく。

ヴァイパーG「緊急のバリアを設置しといて良かったぜ・・・これが持ち堪えてる間に、急いでワクチンをブッ込
       まねぇとな・・・」

 再び、中央のコンソールに戻るヴァイパーG。


★ 西澤家・セキュリティセンター

 ピリリリリリ・・・とアラーム音が、クルルの前のパソコンから鳴る。
 画面を覗き込むクルル。ふう、と溜め息を吐く。

クルル「んー、どうやら電磁バリアを張ったみてぇだ。ま、物理的に壊せるがね。どうする?」
ガルル「構わん。攻撃を開始するとしよう。(ケロロを見て)私はこれから出撃する。ここの指揮はケロロ隊長
    に引き続きお願いしたい」
ケロロ「はっ! 了解であります!(敬礼)」
ガルル「それと、モアくんも出撃させてくれ給え。攻撃の手は多い方がいい」
ケロロ「ではモア殿、ガルル中尉と共にドロロ兵長、タママ二等と合流し、ヴァイパー艦への攻撃をお願いする
    であります!」
モア「了解しました! おじさまっ!(敬礼)」

 後方の自動扉に向かおうとするモア、ガルル。

クルル「(ガルルを見て)悪ぃがよ、あんたのスナイパーライフル、ちっとばっかしいじらせてもらったぜぇ」
ガルル「(立ち止まって彼を見て)何?」
クルル「リミッター、オフにしといたんでな。今回は必要だろ?」
ガルル「・・・私の考えたことが判っているような言い方だな」
クルル「(ニヤッ、と笑い)これでもよ、一時期あんたの上長だった男だぜぇ」
ガルル「(フッ、と笑い返し)流石だな・・・感謝する、クルル」
クルル「よせや、くすぐってぇ」

 ガルル、モア、並んで司令室を走り出ていく。
 クルルは足を組んで、椅子に反り返ってモニターを見ている。
 妙に静かになる室内。
 ぼーっ、と突っ立っているケロロ。
 はた、と何かに気付いて汗を垂らす。

ケロロ 《何か・・・気のせいか、我輩、出番少なくね? 活躍、してなくね?》

【N】「えーと、ホラ、この物語の主人公はギロロ伍長と夏美ちゃんだし。他の方々はふたりに比べれば、ねぇ、
   多少の出番の差は仕方ないワケだし」

ケロロ 《ひょっとして・・・我輩、このまま見せ場ナシで終わるワケ?》

【N】「いや、そのー・・・何かこの方、ストーリーに不満感じちゃってますが・・・何はともかく! ギロロ伍長
   救出に成功して、いよいよ決戦の時は来た! 果たしてヴァイパーGを討ち果たすことが出来るのか!
   ついでにケロロ軍曹の見せ場はあるのか! 待て、次回!」


 To be continued... [chapter04]