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★ ケロロ小隊基地・中央司令室
ケロロ、タママ、クルル、ドロロ、モアが整列している。 その前に立つガルルと、一歩引いて立っている夏美。 ガルル「（敬礼をして）任務中失礼いたします、ケロロ小隊の諸君」 ケロロ「（敬礼を返して）ご足労様であります、ガルル中尉。先ほど本部より連絡がありました。詳細はこれから ということでよろしいのでありますか？」 敬礼を解くガルル、続いて腕を下ろす小隊一同。 ガルル「左様です。私が本部より受けた勅命とそれに関するデータを、只今からご説明いたします。そして 貴殿より頂いた現在状況報告、更に実行中の作戦も同時に精査し、全員協力して事に当たるのが 得策かと考えますが？」 ケロロ「まったくもって同意であります、中尉殿。よろしくお願い申し上げる次第であります。 しかし・・・（夏美 を見て）何故、夏美殿がここに？」 疑念の声を出すケロロ。 振り返って彼女を一度見て、再びケロロに向くガルル。 ガルル「私が呼んだのです。今回の作戦の詳細、彼女は知らねばならんでしょう」 ケロロ「でもケロン軍本部勅命となると・・・問題が出るのでは？」 ガルル「全責任は私が負います。それに、彼女に作戦を知らせることは我が軍には何の不利益もありま せん。むしろ逆、となる筈」 ケロロ「（眉を顰めて）・・・よく解らんでありますが・・・」 ガルル、クルルに歩み寄り、光学磁気ディスクが５枚入った透明なケースを渡す。 ガルル「クルル曹長、これを。１枚目に今回の敵性宇宙人とそれに関係するデータが入っている。ここで再生 して全員に見せてくれ給え。順を追って説明する」 クルル「んー、了解」 自分用コンソールに座り、１枚目のディスクをドライブに挿入するクルル。 ガルル「それでは諸君、メインパネルに注目。これより今回本部より受けた勅命の内容、それの元になった 事例、及び作戦の全容を説明する。（夏美を見て）君はそこの席に座って聞くように」 ギロロがいつも座っているコンソールを指差すガルル。 コクン、と頷いて、座席に腰を据える夏美。 小隊各員とモアが着席し、それを見渡すガルル。 ガルル「まず、これを見て頂きたい。（手元にあるコンソールのキーを押す）これが何処だか判るかね、ケロロ 隊長」 ケロロ「（パネルに移された惑星を見て）おーっ、これはガマ星雲内の自治領の・・・えーっと・・・（クルルを 見て）何だったっけ？」 クルル「ガマ星雲第87番惑星、ケロン自治領、ケロカリプスだな」 ガルル「ご名答。既に長年我が軍の統治下にある・・・いや、あった惑星だ」 ドロロ「あった？・・・何故過去形なのでござる？」 ガルル、ふう、と息をつく。 ガルル「（パネルに目をやり）先日、滅びたのだ」 ケロロ「な、何ですとーっ！（椅子から立ち上がる）」 ドロロ「確かここには、ケロンの精鋭一個大隊が駐屯していたのでござらぬか？」 ガルル「左様。ケロカリプスは小さな惑星だが、過ごしやすい環境の為か、よく敵性宇宙人に狙われていた。 よって本部は、戦闘能力の高い大隊を配置に付けていたのだ。しかし・・・今回の事件は、それが徒と なった・・・」 ケロロ「（ゴクリ、と唾を飲み）何が・・・起こったのでありますか？」 それには即答せず、もう一度コンソールのキーを押すガルル。 切り替わった画面に映し出されたのは、一体の宇宙人の姿。 コブラのような顔、黒緑色の全身に黒いボディスーツ。左手が機械化されている。 目にはゴーグルを装着。牙を剥き出した凶悪な顔。 ケロロ「（驚いて）ヴァイパー？ いや、ちょっと色が違くね？」 ガルル「こいつの名はヴァイパーＧ。ヴァイパーの中でも異端者中の異端者だ。他のヴァイパーと決定的に 違うところは、今までのヴァイパー族が武闘派であるなら、こいつは頭脳派といったところか。しかし 極端に高慢で残忍な性質である為、同族からも疎ましがられているらしい」 タママ「ところで中尉さん、Ｇ、って何の略なんですぅ？」 クルル「そりゃあおめぇ見りゃ判んだろ？ “ゴーグル”に決まってんじゃねぇか」 ケロロ「（噴き出して）ヴァイパーゴーグル？ うわダッセー！」 ガルル「（冷静に）宇宙警察の手配書によると、Ｇは“グレイテスト”の略らしい」 クルル「小物だな。小物ほどテメェをでっかく見せようとするからよぉ」 ガルル「・・・クルル曹長、それが今回の奴に関しては侮れんのだよ」 続いてキーを押すガルル。 画面には、破壊し尽くされた建物ばかりの街の、上空からの写真。 それが連続スライドで何枚も、次々と映し出される。 息を飲む一同。誰ひとり声を発しない。 ガルル「・・・これが、現在のケロカリプスだ。駐屯していた一個大隊、及び少数の先住民は全滅・・・我々が 着いた時には、惨憺たる有様だった・・・」 言葉もない一同。 ガルル「そしてこれが、ヴァイパーＧひとりの姦計で行われたのだ」 ケロロ「しかし、たったひとりとは・・・確かに我輩たちケロン人はヴァイパーを天敵としてますが、あれだけの 精鋭部隊相手に勝てるとは思えないのであります。余程凄い戦艦や機動要塞や途轍もない武器でも 仕向けてきたのでありますか？」 ガルル「（首を振り）いや、戦艦一隻、それもさほど攻撃能力のない戦艦で・・・既に戦艦のデータや画像は 入手している。見て頂きたい」 ピッ、と画像を先送りして表示するガルル。 メインパネルには、黒塗りの飛行船のような飛行物体が映し出される。 夏美「（驚いて立ち上がり）ええっ！ これっ！」 ケロロ「夏美殿？」 夏美「（声を大きくして）さっきギロロとあたしに攻撃してきたヤツよ！」 ケロロ「ゲロッ！ （椅子から落ち掛けて）マジっすか！」 ガルル、重く力強く全員に告げる。 ガルル「そう、既に敵はペコポンに襲来している！」 戦慄が走り、強度の緊張感を覚える一同。 ゆっくりと座り直す夏美。何も言えず、再び黙り込む。 ガルル「（全員の顔を一通り見て）ケロカリプス常駐軍から緊急の救助要請が本部に届いた後、すぐに通信が 途絶え、我々ガルル小隊が偵察を兼ねて先発した時、この戦艦との戦闘になった。戦いは数時間に 及び、膠着状態になったが、突然こいつはケロカリプスを脱出し、我々の追撃を振り切って亜光速ドラ イブに移行、宇宙警察を通じてアンドロメダ街道に緊急配備を敷くも、ペコポン方面へ逃走した・・・と いうのが、現在時より20時間ほど前までのこと。至急本部へ戻り、戦闘結果と敵データを解析、それを 持って勅命を受け、私がここに来たという訳だ」 ケロロ「・・・中尉殿、我々にも勅命の詳細は知らされてないであります。如何なる内容か、お教え願えるで ありますか？」 ガルル「よろしい、ではお伝えしよう。ケロン軍本部より私が受けた命令は―――如何なる手段を用いても ヴァイパーＧ、及びその戦艦を殲滅せよ―――である」 クルル「（画面を見ながら）しかしよぉ、こいつぁ主砲もたいしたことなさそうな船だな。とても一個大隊が落とせ ねぇとは思えんがなぁ」 ガルル「問題はそこだよ。落とせなかった理由がある」 コンソールのキーを再び叩くガルル。 画面が切り替わり、ヴァイパー戦艦が砲撃を浴びている映像が流れる。 しかし、どの砲撃も戦艦本体まで届かず、周囲で消失している。 ガルル「理由その１、単一指向性次元バリアを装備していること」 クルル「（眉間に皺を寄せ）・・・マジかよ。完成してたっつーのか」 ドロロ「何でござる？ その次元バリアとは？」 ガルル「普通の電磁バリアは、物理的ダメージを防ぐが同時にバリア内から外部への攻撃も出来ない。しかし この代物は、内側からの攻撃が可能で、同時に外部からの攻撃を防御するというバリアだ。我がケロ ン軍でも研究中だったが、このヴァイパーＧは既に完成させていたのだ」 クルル、面白くなさそうに舌打ちをして足を組む。 ガルル「更にこのバリアは、レーダーにも捕捉出来ない上、アンチバリアの性質もある。次元の狭間の相違 空間を利用し、不可視、尚且つステルス機能を併せ持つ凶悪な装備だ」 モア「道理で監視レーダーに映ってなかったんですね。てゆうかぁ、神出鬼没？」 ガルル「（反応せず）理由その２、クラッシュソナーの使用」 クルル「（思わず立ち上がり）馬鹿な！ 論理上不可能じゃねぇのか！」 その場の全員がクルルに注目する。 彼は珍しく、猛烈に悔しそうな表情と顔に汗を流している。 ガルル「落ち着き給え、クルル。現に完成されて使用されているのだ。現実を弁えよ」 夏美「（疑念の籠った声で）ソナー・・・まさかそれって・・・ギロロとあたしが受けた・・・」 ガルル「・・・やはりそうか。ここでも早速使用したようだな」 怒りを抑えずに、ドガッ、と荒々しく椅子に座るクルル。 ガルル「クラッシュソナー、またはブレイクソナーとも呼ばれる。潜水艦の音響探査装置に似た兵器で、使用 することによりそれを浴びた武器、通信機、推進装置、同一周波数帯に於けるありとあらゆる機器を 使用不能にする。だがこれは、クルルの言う通り今までは開発不可能と言われ続けてきた。機器に よって電磁波周波数帯が異なる場合が多いので、同時に効果を現わすことは出来ない筈だった。 しかし・・・ヴァイパーＧはこれを完成させ、戦艦に搭載。ケロカリプスで使用し、ケロン軍精鋭の攻撃や すべてのシステムを黙らせた。何も打つ手をなくさせたのだ」 静まり返る司令室内。 ガルル「そして理由その３・・・これが最も悪辣だ・・・」 キーを押すガルル。 メインパネルに広がった１枚の画像。ハッキリと映ってないが、ケロン人と思しき陰が数体。 それがゴテゴテで異様な形の重火器を装備し、街を攻撃している様子。 ガルル「画像はこの１枚だけだが、よく見て頂きたい。ここに映っているのは間違いなくケロン軍兵士。しか し、彼らの装備している武器はケロン軍にはない。しかも彼らは、ケロン軍へ攻撃を仕掛けている・・・ これが何を意味するか、解るかね？」 ケロロ「（ハッ、として）ま・・・まさか・・・洗脳されて!?」 ガルル「流石は隊長殿、察しがよろしい。正確に言うと“精神拘束”を受けているのだが」 コンソールから手を離し、後ろ手に組むガルル。 ガルル「ヴァイパーＧは先ほど説明したクラッシュソナーを使用し、火器や飛行機器を沈黙させ、我が軍の兵士 を拉致、誘拐し、更に兵士に“精神拘束”を施す。自我を失わせるパーツを無理矢理付けさせ、自分の 傀儡・・・手駒としたのだ。それらをケロン軍に向け、攻撃させる。同時にソナーで相手の武器を使用 不能にさせる―――これを繰り返し、ケロカリプスはものの数時間で壊滅に追い込まれた・・・」 夏美「（蒼褪めて）じゃあ・・・ギロロも同じように・・・」 ガルル「可能性は極めて高い」 血の気が引いた表情で、口許に両手を当てる夏美。 それを見てから、ケロロが眉を寄せて質問する。 ケロロ「その、ヴァイパーに洗脳させられた兵士たちは、その後？・・・」 目を伏せ、怒りを帯びた顔になるガルル。 そして間を置いて、重苦しい声で答える。 ガルル「自爆させられた・・・」 ドロロ「（立ち上がり）何と！」 タママ「ヒドい！ ヒド過ぎですぅ！」 ケロロ「（目を剥き）何たる卑劣！ 許せんであります！」 クルル「・・・つまらねぇ真似しやがる・・・」 双方の瞳を丸く開き、両腕で自分を抱え込む夏美。 顔を伏せて、微かに震えている。 夏美「（覚束ない声で）ギロロも・・・そうなるの？・・・」 ハッ、とその場の全員が彼女に目線を戻す。 ガルル、短く息を継いで夏美に向き直る。 ガルル「精神拘束を受けた者は、相手を攻撃して壊滅させるまでは自爆させられることはない筈だ。何故なら ―――ヴァイパーＧにとって利用出来る内は、利用し続けるだろうから。奴はそのつもりで兵士を拉致 しているのだからな。だから、安心しろ、とは言えんが、絶望するまでもない。解るな？」 ゆっくりと顔を上げ、未だ不安が拭い切れない表情で頷く夏美。 再び全員を見渡し、やや視線を伏せるガルル。 ガルル「（一段と低い声色で）ヴァイパーＧの遣り口は、攻撃対象の同胞や同族を誘拐し、精神拘束で自分の 捨て駒とする。そして今まで仲間や友軍であった相手に銃を向けさせ、挙句の果てに自爆をもって 全滅へと導く・・・自分では手を汚さず・・・高みの見物だ・・・」 今までに見たことのないほどの怒りの眼差しで、奥歯を、ギリッ、と噛むガルル。 ガルル「奴がペコポンに来た目的は、恐らくケロロ小隊の壊滅であろう」 ケロロ「（ふう、と息を吐き）で、ありましょうな。ヴァイパーはケロンを叩く為なら、どんな辺境宇宙にまでも飛ん でいくでありますから」 夏美「じゃあ・・・ギロロはそれで狙われたのね？」 ガルル「間違いないだろう。奴からすれば、勝手に飛び込んできてくれたようなものだな」 夏美、ギロロと共に飛行物体に偵察に向かった場面を思い出す。 眉を寄せ、申し訳なさそうに目を閉じる。 ガルル「敵詳細とケロカリプスに於ける事例の説明は以上だ。続いて、今回の作戦の概要を説明したい・・・ が、その前に、諸君にお願いがある」 ケロロ「何でありましょうか？」 ガルル「今回の作戦に―――（夏美を見て）彼女を参加させたい」 全員、驚きの声を上げる。 ケロロ「（口を思い切り開き）夏美殿をっ!? マジっすか!?」 ガルル「大真面目だとも。私は最初からそのつもりでここに呼んだのだ」 ケロロ「確かに夏美殿の戦闘能力の高さは、我輩たちも熟知してるであります。最終防衛ラインとしてパワー ドスーツを装着した時など、どれほどの強さを誇るか・・・しかし！ 今の中尉殿の説明だと、もしかしたら ギロロが洗脳させられて出てくるかも知れない！ （一段と声を高くして）ギロロと夏美殿を闘わせるつも りでありますかッ！」 ガルル「止むを得んだろう。ヴァイパーＧを叩くには仕方がない」 ケロロ、怒りを顕わに立ち上がってガルルを睨む。 ケロロ「だとしたら・・・今回の作戦には協力出来ないであります！」 ガルル「落ち着け、ケロロ隊長。今回の作戦を協力して進めなければ、ヴァイパー殲滅はおろか、ギロロ救出 もままならん。私は彼女に『ギロロ救出作戦』を担当させたいと考えている。恐らく・・・いや、間違いなく 作戦遂行可能なのは日向夏美殿を於いて他にはいない、と判断したのだ」 夏美「（少し驚いて）あたし・・・だけ？」 ガルル「（僅かに目を細め）理由は貴方自身が一番解っているでしょう？」 意味あり気に口許を綻ばせるガルル。 微かに瞳を潤ませ、柔らかな表情で俯く夏美。 ガルル「ギロロを無事連れ戻れせるのは、貴方だけだと確信していますからな」 直後、キッ、と決意に溢れた眼差しを見せる夏美。 両の拳を握り、コンソールの上で力を込める。 夏美「（力強く）やるわ！ あたし！ ギロロを救けに行く！」 ケロロ「（慌てて）夏美殿っ!?」 夏美「もう決めたわ、止めてもムダよ。どう言われようと、あたしが迎えに行くから」 迸る意志を漲らせ、ケロロに目線を送る夏美。 ケロロ、ふう、と諦めたように溜め息を吐く。 ケロロ「・・・了解であります。夏美殿もギロロと同じで頑固でありますからな」 夏美「（ニッ、と笑い）判ってんじゃないの」 ガルル「ではケロロ隊長、今回の作戦を改めて練り直すことにしたい。彼女の参加によって全容を再構築する 必要がある。今から打ち合わせをするのでよろしいか？」 ケロロ「ＯＫであります。ところで中尉殿、作戦本部はこのままここを使うので？」 ガルル「ソナーで攻撃された場合、ペコポンでの作戦中枢であるここが使用不能になる。それだけは避けた い。もし別な場所に前線基地を設定出来れば越したことはないが・・・」 タママ「だったら、僕がモモッチに頼んでみるですぅ」 ドロロ「おお、それは良い考え。西澤家の機能であれば、もしかしたらソナーも効かないでござるからな」 クルル「ペコポンのシステムなら、ケロンシステムとの互換性はバッチリだぜぇ」 ガルル「よろしい、決まりだな。では今から、私とケロロ隊長は作戦全体を精査し直す。クルル曹長は残りの データディスクを使用し、ヴァイパーシステムをクラックする為のプログラムを組んでくれ給え。タママ 二等とドロロ兵長は協力先に連絡を。（モアを見て）君は引き続き、レーダー監視を頼む。（夏美に目を やり）貴方は時間まで、自由に待機していて構わない」 コクリ、と頷く夏美。決意に溢れた表情。 ガルル「では各自任務に付き、1400に作戦会議室に集合せよ。以上！」 ★ ケロロ小隊基地・作戦会議室 会議室の椅子のひとつに腰を下ろしている夏美。他にはまだ誰も来ていない。 腕時計を見て、そろそろ時間であることを確認する。 夏美 《何か、変な気分よね・・・あたしがここに座ってるってのも》 会議室全体を一通り見回す夏美。 プシューッ、と自動扉が開き、タママとドロロが入室。 タママ「あれっ、ナッチ早いですねー」 夏美「うん、他に用もないし。真っ直ぐこっち来て待ってたの」 ドロロ「（不思議そうに）夏美殿、その席・・・」 夏美「え？ ここじゃマズいの？」 ドロロ「いや、そういう訳では・・・もしや知ってたのではござらぬか？」 夏美「（怪訝そうに）だから、何が？」 ドロロとタママ、夏美の傍らで顔を突き合わせる。 タママ「（愉快そうに）やっぱ気持ちが繋がってるんですよー」 ドロロ「（頷き）確かにあり得る話でござるな」 夏美「ちょっとぉ、ワケ解んないんだけど。一体何の話よ？」 夏美に向き直るふたり。意味あり気な笑顔。 タママ「そこの席、ギロロ先輩がいっつも座ってる席なんですよぉ」 夏美「えっ！ （頬を染め）そ、そ、そうなんだ。ふーん」 ドロロ「成る程、おふたりならば想定など簡単に超えた事象も可能、ということでござるな」 タママ「ねーナッチ、何で伍長さんの席って判ったんですぅ？」 夏美「（真っ赤になり）だから知らなかったんだってば！ だってアンタたちが会議してる時なんて、あたし入っ て来たことなかったでしょ!? ホントに知らなかったのよ。偶然よ、偶然！」 タママ「ええー、こんだけ数のある席のひとつを間違えずに選ぶって凄いですよぉ。ラヴラヴでアチチっていい ですよねー。僕もいつか軍曹さんと・・・」 夏美「だーかーらー！ 違うって！ 誰がラヴラヴよ誰が！」 ドロロ「（タママを手で制し）まあタママ殿、その辺で良いでござろう」 ドロロ、一歩前に出て夏美に目をやる。 ドロロ「（短く息をつき）ところで、これは個人的な意見でござるが・・・拙者は、夏美殿が戦いに参加するのに は反対でござる」 夏美「ドロロ？」 ドロロ「それは隊長殿とて同じ気持ちかと・・・ギロロ殿救出も、当初は拙者たち小隊メンバーだけで実行する 計画で作戦を立てたもの。いくら戦闘力が高いとは言え、本来夏美殿は非戦闘員でござるから」 夏美「それはそうだけど、あたしがやりたくて参加するんだから、問題はないでしょ？ ま、出来るだけアンタ たちの足を引っ張らないようにするつもりでやるわ」 タママ「心配しなくても、伍長さんを救け出すことに集中して下さいよぉ。ヴァイパーをブッ倒すのは僕らの役目 ですからねー。ナッチはギロロ先輩のことだけ考えてていいんですからぁ」 夏美「（再び頬を染め）ええ、そうさせてもらうわ」 ドロロ「（大きく頷き）判り申した。ならば拙者も、自分の役目に全力を尽くす所存。夏美殿、どうかギロロ殿を ・・・いや、ギロロくんをよろしくお願い致す！」 夏美「（頷き返し）任せて！」 そこに、再度自動扉が開き、クルルとモアが入ってくる。 すぐ後ろから、ガルルとケロロが並んで入室。 ガルル「全員揃ったようだな。では各自着席し給え」 ケロロとガルル以外のメンバー、席に着く。 ケロロはプロジェクターとスクリーンを準備し、ガルルはクリップボードを手にしている。 セッティングが終わり、ふたりがこちらを向く。 全員が居住まいを正すのを確認し、頷くガルル。 ガルル「では、全作戦概要を説明する。既にコードネームNPGの協力は得たと、タママ二等より連絡は受けて いる。よって作戦は当初の立案通り実行に移すものとする」 ピッ、とプロジェクターの電源を入れるケロロ。 スクリーンに投影される、西澤家の地図。 ガルル「作戦、及び戦闘の主な場所はここ―――（画面の一部を拡大させ）NPG領内にある砂漠地帯。ここで なら、仮に戦艦を落としてもペコポンへの影響はほとんどない。まずヴァイパーＧとその戦艦をここに誘 い込まねばならんが、（夏美を見て）それを君にやって頂きたい」 夏美「もしソナーで攻撃してきたら？ パワードスーツだとまた動かなくなるんじゃ？」 クルル「そいつなんだがよ、やっつけ仕事だがソナー全音域を遮断する簡易バリアを付けといてやるぜぇ。 パワードスーツは外部からコントロールしてるワケじゃねぇから、問題なく動けるだろ。ただし、ヤツの ソナーを喰らった時の耐久性がハッキリしねぇ。完璧な盾、とは言えねぇから気を付けな」 夏美「（コクン、と頷き）判ったわ」 ガルル「ヴァイパー艦誘導に成功した後、実際に攻撃を仕掛けるのだが・・・ここで奴が如何なる手を打って くるのか不明だ。作戦を完遂するには、まずギロロ伍長の救出を最優先にしたい。ただし、状況によっ ては戦艦への攻撃を優先する場合も想定しておく必要がある」 画面は切り替わり、西澤家本館とセキュリティーセンターのある建屋を拡大する。 ガルル「前線基地はここ、NPG防衛局に置き、ここより一切の指令を出す。私とケロロ隊長、クルル曹長、それ とアンゴル＝モアくんは前線基地内に留まる。タママ二等、ドロロ兵長は砂漠地帯外周より500の基地 寄り空中にてソーサーで待機する。攻撃指令があるまでは、ヴァイパー艦への手出しは行わないこと」 夏美「あたしが先に攻撃を仕掛けるんでいいの？」 ケロロ「出来れば夏美殿も、こちらの指示を待ってほしいのであります。あくまでヴァイパーへの攻撃は我々 ケロロ小隊、夏美殿の役割は・・・」 夏美「ギロロの救出、でしょ？ 解ってるケド、仕方ない場合もあるんじゃない？」 ガルル「それでも、指示を待ち給え。回避行動を優先して構わない。その間、クルル曹長がヴァイパーシステ ムへのハッキングを行い、ソナーやバリアプログラムを破壊する。出来れば、攻撃はそれからにしたい」 クルル「さっきディスクの中身を見たんだがよ・・・ハッキリ言って今度のは厄介そうだぜぇ。“爆弾”を埋めるの に手間取るかも知れねぇ」 渋い表情のクルル。傍らで心配気に見るモア。 クルル、夏美に向き直る。 クルル「（眉間に皺を寄せ）それとよ、前回のソナーでパワードスーツのナビが故障しちまった。他の機能や 武器は戻ったが、ナビまで直す時間がねぇ。今回は我慢してくれよぉ」 夏美「（不安気に）う・・・うん」 クルル「簡易バリアを装備させるのに、もちっと時間が掛かる。出撃までには間に合わすつもりなんだがな。 それともう一個、“爆弾”を仕掛けた後、あんたにやってもらわなきゃなんねぇコトがあるぜぇ・・・パスワ ードの入力なんだがなぁ」 夏美「パスワード？」 クルル「おっさんを救けるには、精神拘束を解かなきゃなんねぇ。以前、あんたのパワードスーツが暴走した 時におっさんが止めたろ？ それと同じだぜぇ。音声で入力しなきゃ効果がねぇから、設定が終わり 次第通信を入れっからよ。それまで何とか凌いでくれや」 夏美「（ゴクリ、と唾を飲み）・・・判ったわ」 ケロロ、遣り取りを一通り見てから、ふう、と息を継ぐ。 ケロロ「流石のクルルも、今回は真面目そのものでありますな」 クルル「（軽く笑って）何言ってやがる。オレはいつだって真面目そのものだぜぇ。く〜っくっく」 その一言に、少し空気が和む一同。 ガルル、夏美に目をやり、両手を後ろに組む。 ガルル「君はこのまま、この家で出撃を待ち給え。敵を捕捉した際には、すぐに出て頂きたい。そして敵艦の 戦闘空域までの誘導を、まずは行うこと。よろしいか？」 夏美「（大きく頷き）了解したわ」 ガルル「（他のメンバーを見渡し）只今より、クルル曹長は引き続きパワードスーツの調整をラボにて実施、 他の諸君はNPG防衛局に移動し戦闘準備に当たれ。同時に武器、装備等を前線基地まで運搬する。 以降の指令は、追って行う。以上、質問はないか？」 全員がそれぞれ頷き、決意に満ちた眼差しをガルルに向ける。 満足気に頷き返すガルル。 ガルル「では！ 現在時1425！ 『ギロロ伍長救出及びヴァイパーＧ殲滅作戦』ミッション・スタート！ 諸君の健闘を祈る！」 ★ 日向家・中庭 静まり返った日向家。 【Ｎ】「既にここ、日向家には夏美ちゃんと冬樹くん、クルル曹長の３人のみとなり、他のメンバーは西澤家の トレーラーに武器なんかを積んで移動しております。そして出撃を待つ夏美ちゃん、ギロロ伍長を想い ながら中庭にいました」 ギロロの野営テントの前に立っている夏美。 彼の目が書かれたテントを見詰める。じっ、とその目と視線を絡めている。 ギロロの姿がそれと重なり、心臓の鼓動が早足になっている。 夏美 《ギロロ・・・》 【回想】 今日の朝、冬樹との会話でいろいろと聞かれたこと。 ギロロが自分に想いを抱いてるかも知れない、と感じた瞬間。 彼の許に来て気持ちを尋ねようとした場面。 【回想終了】 ゆっくりと顔を上げ、中空に目線を浮かべる。 夏美 《・・・決めた！》 グッ、と右の拳を握って胸の前に持ってくる夏美。 途端。 日向家に装備させている警報装置が、ビーッ！ ビーッ！と激しく鳴り響く。 驚いて辺りを見回すと、西澤タワーの方面から凄まじい重低音が響いてくる。 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・と地鳴りがここまで届く。 夏美 《来た！ あん時と同じだわ！》 リビングのサッシを思い切り開け、部屋の中に目をやる夏美。 警報が鳴り続ける室内。他の気配はない。 夏美 《パワードスーツはまだなの!?》 直後、奥から廊下を走ってくる足音。 相当な速さでリビングに駆け込んでくる冬樹。 冬樹「姉ちゃん！ これ！」 冬樹、手にしたパワードスーツのスウイッチを投げる。 スカルマーク入りのそれを見事に受け取り、笑顔になる夏美。即座に押す。 凄まじい光に包まれ、スーツを装着する。 全身の装備は以前と変わらないが、薄い赤の半透明のアイシールドを追加装備している。 すぐにブースターに点火、アイドリングを開始。 上空に顔を向ける夏美。 夏美「冬樹！」 冬樹「（息を切らせて）何？」 夏美「（彼を振り返って）あたし・・・戻ってきたらギロロに伝えるよ。自分の気持ち！」 冬樹「（笑顔になり）姉ちゃん・・・」 夏美「必ず無事で・・・ふたりで戻ってくるからね！」 冬樹「うん！ 頑張って、姉ちゃん！ 僕も西澤さん家に行くからね！」 夏美「オッケー！ じゃ、家の戸締り、よろしくね！」 再び空の彼方に視線を送り、キリッ、と眉を寄せる夏美。 夏美「（元気のいい大声で）日向夏美！ 行っきまーすっ！」 夏美、アフターバーナーを全開にし、一気に飛び立っていく。 それをリビングから眺め、嬉しそうに頷く冬樹。 少し遅れて、奥からクルルが首をコキコキ鳴らして現れる。 冬樹「クルル、お疲れ様」 クルル「何言ってやがる。パーティーは始まったばかりだぜぇ」 冬樹「それじゃ、僕たちも行こうか？」 クルル「“足”は何使うんだ？」 冬樹「自転車。クルルはアンチバリアで、前籠ね」 クルル「（口許を歪め）成る程、ソナーも役に立たねぇハイテクだなぁ。く〜っくっくっく」 ★ 奥東京市・上空 西澤タワーの遥か上より姿を浮かび上がらせてくる、黒塗りの飛行船型の戦艦。 それを目標に加速していく、パワードスーツの夏美。 夏美「（力強い眼差しで）待っててね！ ギロロっ！」 空を劈き、一気に距離を詰めていく。 【Ｎ】「1605、日向夏美、ギロロ伍長救出の為、出撃。高鳴る胸に、熱い想いを秘めて」 To be continued... [chapter03] |
