特別企画「暁!ギロ夏30分!」:【UFO伍長さん】

読むにあたっての注意書き
★この読み物は、小野寺浩二氏著「UFOおねぇさん」のパロディです。パロディと言えば聞こえはいいです が、早い話がパクリです。つまり吉崎氏と小野寺氏の双方からパクるという、設定も物語も何もかもオリジナ リティ皆無な、他人のフンドシもいいとこです。
★「UFOおねぇさん」は、小野寺氏の各作品の中でも個人的再読率が最も高い傑作です。何度も読んでるウ チに「あ、コレでギロ夏書きたい」と勝手に妄想したのがきっかけです。それをギロ夏チックにアレンジして、い つもの脚本風読み物に仕上げました。
★1冊完全網羅はなりませんでしたが、ネタですんで失笑してスルーして下さい。
★以上、自己弁護終了。では、アレな中身をドゾー。

【N】「これは、ある戦士の物語である。“戦場の紅い悪魔”と呼ばれた、ある戦士の・・・」

★ ケロロ小隊地下基地・医務室

【N】「ある日のこと、どっちかと言えば日常的な敵性宇宙人駆逐戦闘の最中、ギロロ伍長が眩暈を起こして倒
   れ、救けようとしたケロロ軍曹共々爆発に巻き込まれて医務室送りとなりました。戦いには勝利したもの
   の、どうにも後味の悪い結果となったのですが・・・」

 医務室のベッドの上で、包帯だらけで胡坐をかいて座るケロロ。
 事務机で書き物をしていたプルル、くるっ、と椅子を回してケロロと向き合う。

ケロロ「・・・で、ギロロは掠り傷で済んでるってワケ?」
プルル「(頷いて)ギロロくんの頑丈さはベラボーだからねー」
ケロロ「(大きく溜め息をして)いいなぁ、単純ってのは得で」
プルル「ケロロくんもいい勝負よ。そこんトコは」
ケロロ「・・・ま、それはともかく、ひとつ訊きたいんだけど」
プルル「なぁに?」

 少しの、間。
 表情を引き締めてプルルを見るケロロ。

ケロロ「(神妙な口調で)ギロロは・・・何の病気なの?」
プルル「・・・やっぱりケロロくん、気付いてたんだ・・・」
ケロロ「まあ、何となくね。奴との付き合いも永いでありますから」

 事務机の上のパソコンのマウスを操作し、画面を切り替えるプルル。
 ウィンドゥが開き、ギロロの写真と何かの解析データが同時に画面に表れる。

プルル「知っての通り、他の惑星に駐留する為には体質をその惑星に合わせなきゃならないでしょ。でないと、
     ちょっとしたバクテリアが原因で死んじゃうコトだってある。普通は薬で何とかなるんだけど、ごく稀にそ
     れでも適応出来ない場合も出てくるの。ギロロくんは・・・過去にいろいろあったから特に、ね・・・」
ケロロ「(溜め息をつき)“戦場の紅い悪魔”ん時の弊害が、こんなとこで出たってワケか・・・」

 両眼を閉じ、ゆっくりと項垂れるケロロ。
 静かに長く息を吐き、それから顔を上げる。

ケロロ「で、ぶっちゃ毛てほしいんだけど・・・(眉を寄せ、プルルを見て)ギロロがペコポンにいられる時間は?」
プルル「(目を伏せて)・・・あと、3ヶ月」
ケロロ「ギロロはそのことを?」
プルル「・・・知ってるわ」
ケロロ「夏美殿には? もう話したのかな?」
プルル「彼のコトだから、まだ話してないと思う。今の夏美さん、とてもそんな話に耐えられないでしょうね。あれ
     だけ関係が深くなると・・・記憶でも操作しない限り・・・」

 呼応するように、長い溜め息をするプルル。
 ケロロ、頭をボリボリと掻き、天井を見上げる。

ケロロ「(遠くを見るような目で)どうせアイツのことだから、今もきっと・・・夏美殿の隣でテンパってるんだろう
     なぁ・・・」


★ 奥東京市・神社境内

 ホゥホゥ、と梟が啼く声が林の奥から届く。
 境内の社の石段に並んで腰を下ろし、中空に浮かぶ満月を見上げるギロロと夏美。
 ただ黙って、月を眺めているふたり。
 蒼白い月光に染まる周囲。穏やかに掠めていく夜風。

ギロロ「俺は、多くの惑星に行って戦って、その度に戦場で夜を迎えてきた」

 急に始まった語りに、思わず彼を見詰める夏美。
 月を見たまま、言葉を繋げるギロロ。

ギロロ「戦いの合間の野原や森・・・キャンプで息をついてる時に・・・夜空を見上げると、そこには月が浮かんで
     いる。いろんな惑星のいろんな月を見てきた。だが・・・」

 僅かに、眩し気に目を細めるギロロ。

ギロロ「(フッ、と笑い)・・・ペコポンの月が一番綺麗だ」

 そしてギロロ、夏美を向いて眼差しを絡める。
 見詰め合った状態で、暫く動かないふたり。
 やがて、改めて中空の月を見上げるギロロ。
 少し首を傾げて、口許に笑みを湛える夏美。彼から視線を逸らさない。

夏美「ねぇ、ギロロ」
ギロロ「(顔を向け)何だ?」
夏美「今さ、『夏美の方がもっとキレイだ』って言おうとしたでしょ?(目を細め、頬を染める)」
ギロロ「(ボフン!と蒸気を出して赤面)な! ななななな何を言い出すんだッ!」
夏美「(満面の笑みで)んもうっ、ギロロの正直者っ!」
ギロロ「(あたふたして)い、いっ、いいい言おうとしとらんッ! 思っただけだッ!

 一瞬、あっけにとられたような顔になる夏美。
 思わず、ハッ、として両手で自分の口を塞ぐギロロ。
 直後。
 はちきれんばかりの笑顔で、ギロロを抱き寄せて、自分の胸に埋める夏美。

ギロロ「(白目になって)むぐぐぐぐぅぅぅ!!!」
夏美「アンタ最高よっ、ホント!」
ギロロ「(ジタバタともがいて)んんん! 息が! むぐぐぐ!」

【N】「幸せの絶頂とでも言うべきギロロ伍長と夏美ちゃんですが、まさかそれから間もなくして、ふたりの関係
   が急転直下の事態になろうとは、誰が想像したでしょうか・・・」


★ 土井中海岸

夏美【N】「ギロロとふたりで神社に行ったあの晩、突然ギロロに『今度、海に行こう』って誘われたの。しかも泊
      り掛けで・・・もちろん行きたくて、ダメモトでママに話したら、意外なコトにすぐにOKしてくれたんだけ
      ど・・・ママが切なそうな顔してたのが気になった。それが何だったのか、あたしは後から知ることに
      なったわ・・・」

 海岸に立って、打ち寄せる波を見ているギロロと夏美。

夏美【N】「旅館で一泊した翌朝、ギロロとあたしは渚にいたの」

 ハーフブーツをおもむろに脱ぎ、裸足になる夏美。
 直後、バシャバシャ、と飛沫を蹴立てて波打ち際に駆けていく。
 ザバァ、と打ち寄せる波が、夏美の踝に纏わり付く。

夏美「(はしゃいだ声で)つべたーい!」
ギロロ「もうすぐ冬だからな。風邪をひく前に、上がってこい」
夏美「(ニコッ、と笑い)はーい!」

夏美【N】「それから暫く海岸を歩いてから・・・ギロロはすべてを話してくれた・・・もうすぐケロン星に帰らなきゃ
      ならないと・・・」

 ゆっくりとした調子で、砂浜を歩き続けるギロロ。
 まったく同じ速さで、ギロロの真後ろから付いていく夏美。
 永い、時間。
 話が一段落ついても、ふたりはやや俯き加減に歩いていく。
 暫くして、ギロロが立ち止まり、夏美も歩みを停める。

ギロロ「(振り返り)冷静に聞いてくれて、感謝する」
夏美「(薄く微笑み)少しはね、気付いてたの。でもアンタったら、何も話してくれなかったじゃない。このままずっ
    と黙ってんのかな、と思ってたケド・・・話してくれて、ありがと」
ギロロ「すまなかったな。余計な気遣いをさせてしまった」

 近くに大き目の流木があるのを確認するギロロ。
 それに近付き、腰を下ろしてから大きな溜め息をつく。
 途端、眉根を寄せて苦し気な表情で顔を伏せる。
 驚いて彼の眼前に屈み、ギロロの顔を覗き込む夏美。

夏美「(緊張感のある声で)大丈夫? 苦しいの?」
ギロロ「(顔を上げ、弱々しく微笑んで)い・・・いや、心配ない」
夏美「(立ち上がって)ちょっと待ってて。何かあったかい飲み物買ってくるから」

 砂浜を走り出そうと踵を返す夏美。

ギロロ「待て、夏美!」

 即座に彼を振り返り、何事かと凝視する夏美。
 少しの間。
 サァッ・・・と、緩やかな海風がふたりの間を抜ける。

ギロロ「(穏やかな笑みで)・・・ありがとう」

 夏美、笑顔で返事をする。
 海岸沿いの道路に駆け上がり、キョロキョロ、と自販機を探す。
 数100メートル先に、赤い躯体の自販機を発見する夏美。
 駆け寄り、息が上がりながらもコインを投入する。
 ホットの缶コーヒーを2本購入。1本はブラック、1本は微糖。

夏美《多分、もうあまり時間がない・・・考えなきゃ。今、あたしに何が出来るか・・・》

 缶コーヒーを両手に持ちながら、暫く立ったまま考える夏美。
 しかし結論が出ないまま、再び海岸へと戻る。
 先ほどギロロが座った流木が見える。しかし、ギロロの姿が見えない。
 代わりにそこには、紫色の体躯のケロン人と思しき影。
 夏美の胸の内が、ざわ、とうごめく。缶コーヒーを抱えて駆け寄っていく。
 こちらに気付いて振り返るケロン人。夏美と目が合う。

夏美「・・・ギロロのお兄さん」
ガルル「久しいな、ペコポンの女ソルジャー。いや・・・我が愚弟のパートナー、と呼んだ方がよろしいか」

 実に落ち着いた動作で、ゆっくりと身体を返すガルル。
 両手を後ろ手に組み、両脚を肩幅に広げて、キリッ、と表情を引き締める。

ガルル「ギロロは・・・(しっかりと夏美を見て)既にケロン星への帰途に就いた。さよならを言える自信がない
     から、このまま行くと・・・君に、すまない、と伝えてくれと・・・」

 直後。
 ザアッ・・・と強めの海風が走り抜ける。
 夏美の瞳が焦点を失い、表情が茫然としたまま凍結する。
 腕から2本の缶コーヒーが落下、ドサ、ドサ、と立て続けに砂に刺さる。
 凍り付いた顔のまま、俯いて目線を落とす夏美。
 そのまま永い時間、動けず。

夏美「(虚ろな声色で)い・・・いっつもそう・・・いっつも平気そうな顔して・・・何でもかんでもひとりで背負い込ん
    じゃって・・・」

 すーっ、と涙が夏美の頬を伝う。

夏美「(涙を散らしながら、大声で)あたしはいつだって何も出来てないじゃない!!!

 途端、無言のまま手許に何かの装置を転送させてくるガルル。
 ペンライトを大きくしたような発光装置。それのスウィッチを入れる。
 キュイン、と中軸の辺りが光を発する。段々と大きくなっていく虹色の光。
 見る見る表情を強張らせていく夏美。

夏美「それは・・・まさか・・・(首を思い切り振って)待って! 記憶を消さないで! 誰にも話さない! 一生
    秘密にするから・・・だからギロロとの記憶を消さないで! お願い!」
ガルル「違う。その逆だ」

 光を夏美に向けようとするガルル。
 彼の言葉に驚き、声を出せないでいる夏美。

ガルル「今から君の記憶を戻す。5年前、私は君の記憶の一部を消した。それを君に返す。そしてそれは・・・
     (装置を構えて)ギロロからのメッセージでもある」

 クワァッ!と一段と虹色の光が弾け、夏美の両の瞳に跳び込む。
 
 【回想シーン】

ガルル【N】「今から5年前、我がケロン軍の大部分の兵士を投入して行われた『宇宙海賊プロメテウス撃滅作
        戦』・・・ケロン戦史に刻まれるほど永きに、また広域に渡って展開された作戦は成功したかに思
        われた。だが・・・戦いが長引き過ぎ、ケロン軍の兵士にも多大な影響が残った。我が弟、ギロロ
        は常に戦場に真っ先に飛び込み、君も知っての通りの二つ名“戦場の紅い悪魔”と呼ばれるよう
        になったのもこの戦いでだ。しかし凄まじい戦果を挙げると同時に、その内面は精神的に疲弊して
        いた。そして最後の戦闘が終わった途端・・・機動兵器のニューロシステムに精神を支配され、暴
        走したギロロはペコポンへと逃走したのだ・・・」

 地球の成層圏付近。
 宇宙仕様の赤褐色の重機動アーマーが、躯体のあちこちから火花を散らして飛んでいる。
 大気圏を突き破ってきたそれが、猛烈な速度で宙を裂いている。
 アーマーを追う、一機の宇宙艇。これも凄まじいスピード。
 宇宙艇内で、モニターに映る機体を苦々し気に見るガルルと小隊一同。

トロロ「(ガルルを見て)隊長! 本星から抹殺許可が出てるヨ! どーすんのサ!」

 僅かの間を置き、やや落ち着いた表情でモニターを見詰めるガルル。

ガルル「“命令”ではないのだな、トロロ」
トロロ「(驚き)え? う、うん。“許可”だヨ。やってもイイってコト」
ゾルル「・・・無駄だ隊長。最早ヤツの精神構造の深くマで、ニューロシステムが触手を伸ばし入りコんでいる
     ・・・元に戻ソうとしても拒絶反応で、その命すラ・・・隊長もミタだろう、精神支配から無理に戻そうトし
     て、何人救からなかっタか・・・」
タルル「(頭を振って)お気の毒とは思うっすけど・・・兵長の言う通りっす」

 キッ、とモニターを睨み、バッ、と鮮やかに身体を返して自分の席に座るガルル。

ガルル「(凛とした声で)私が直接やる! バスターライフル準備せよ!

 すぐさま操作パネルのキーボードを叩き、いくつかのボタンを押すトロロ。
 ガルルの席の正面にモニターが現れ、同時にターゲットスコープが重なる。
 座席正面のコンソールからトリガー部が迫り出し、それに手を掛けるガルル。
 ピピピピピ・・・と左右にブレるスコープ、ガルルの両手とこめかみに汗が伝う。

ガルル《戻って来い! ギロロ!》

 ピーッ!とアラームが鳴り、スコープ画面に“Rock On”と表示。
 グッ!とトリガーに掛けた指に一気に力を込めるガルル。
 直後。
 宇宙艇の先端部砲身より、バシュウウウウウッ!!!と蒼白いレーザーが射出。
 一瞬で重機動アーマーに届き、背面部にあるエネルギーチューブを、バシュン!と切断する。
 即座に推進ユニットが停止し、失速するアーマー。
 あっと言う間に高度を下げ、墜落していく。そして雲の間に姿が見えなくなる。

ガルル「追尾システム監視! ギロロを見失うな!」

ガルル【N】「しかしギロロの行方を見失い、漸く発見した時にはここ、土井中海岸に倒れていたのだ。そして
       モニター監視をしていた最中に・・・彼に近付く者がいた」

 明け方近くの土井中海岸。まだ闇が支配しているが、沖合いの空は朱に染まっている。
 その波打ち際に、仰向けに倒れているギロロ。
 全身が様々な傷に覆われ、息が細い。固く閉じられたままの瞼。

ギロロ《痛い・・・全身が痛む・・・苦しい・・・ここは・・・何処だ・・・》

 ザ・・・と波が自分の足元に打ち寄せるのを感じている。

ギロロ《・・・ああ、そうだ・・・俺はニューロシステムに乗っ取られて・・・》

 誰かが砂浜を走る音が、こちらに近付いてくる。
 少女の声が聴こえる。ただし意識が混濁している為、何を言っているのかは判らず。

ギロロ《誰だ・・・俺を呼んでいるのか?》

 少女と思しき影がギロロのすぐ横に立ち、しゃがみ込んで彼の身体を揺する。
 反応が出来ないギロロ。身体の自由が利いてない。
 段々と明瞭になっていく、少女の話し声。

少女「ねぇ、大丈夫!? しっかりして! これって溺れたのかな・・・どうしよう・・・え〜と〜・・・こんな時は・・・
    あっ! アレだ!」

 突然。
 ギロロの口に、少女の唇が重なる。
 そして、ぷぅうううううううう・・・と思い切り息を吹き込む少女。
 あまりの出来事に、クワッ!と見開かれるギロロの両眼。
 両手足が、ピキーン!と伸びて硬直し、プルプルと震え出す。
 暫く、そのまま。
 少女の唇が離れた途端、グワバッ!とバネで弾かれたように身体を起こすギロロ。

少女「(笑顔で)よかったー! 気が付いた!」

 ギロロ、ゆっくりと顔を向け、黒目が小さくなった両眼で彼女を見詰める。

ギロロ「(茫然と)・・・今のは、何だ?」
少女「何って、あの・・・(カアッ、と赤面して)溺れた人はこうやって救けるんでしょ!?」
ギロロ「何だか解らんが・・・とても、心地良かった・・・」

 一瞬、ふたりの眼差しが宙で絡む。
 ハッ!として、互いに赤面したまま俯くギロロと少女。
 少しの後、少女が顔を上げて再度ギロロを見る。

少女「ねぇ、あなたどっから来たの? あたしたちとは違うみたい・・・でも喋ってるコト解るのね! (はた、と気
    付き)あ、えっと、あたし、日向夏美! ママと冬樹と近くにお泊りに来てるの! あなたの名前は?」
ギロロ「俺か?・・・ギロロ。ケロン軍所属、ギロロ伍長だ」
夏美「ギロロ? 変わった名前ねー。でもよろしくね! ギロロ!(握手する)」
ギロロ「(頬を染め)あ、ああ・・・」
夏美「ギロロも今日から、あたしとオトモダチねっ! 仲良くしよ!」
ギロロ「お前は・・・俺を救けてくれた、のだな?」
夏美「ん、まあ、そういうコトになるのかな? よく判んないケド」
ギロロ「(目を細めて)すまない。感謝する、ナ・・・ナツ・・・」
夏美「(じれったそうに)な・つ・み! ちゃんと覚えて!」
ギロロ「夏美・・・ありがとう、夏美」
夏美「(満面の笑みで)どーいたしましてっ!」

 ギロロ、緩やかに表情を解かしていき、落ち着いた微笑を夏美に向ける。
 渚で身体を寄せ合い、楽しそうに会話を始める。

ガルル【N】「宇宙艇の中からモニターで一部始終を見ていた我々は、正直驚きを隠せなかったよ」

 ギロロと夏美がいる海岸の遥か上空に待機する、ガルル小隊宇宙艇。

ゾルル「・・・馬鹿ナ・・・あり得ない・・・何が起こっタのだ?」
トロロ「(サブモニターの画面を見詰め)ギロロ伍長の精神状態、元に戻ってるヨ。意識レベルも深層部波形も
    正常・・・信じられないヨ!」
タルル「(ゴクリ、と唾を飲み込み)何が何だか解らないっす・・・コレって奇蹟なんすかね?」
ガルル「(フッ、と笑い)奇蹟? そんなものではないぞ、タルル上等」

 座席から立ち上がり、腕組みをして胸を張るガルル。
 一旦、息を大きく吸い込む。

ガルル「これは・・・愛の力だ!

 ピキッ!と、宇宙艇内が凍り付き、白色化するタルル、トロロ、ゾルル。

ガルルピュアな愛の力が、愛の自覚がない戦士の心を救ったのだ!!!

 フリーズしたまま戻って来れない3人。

ガルル「トロロ、報告書にはそう記録しておけ」
トロロ「やだヨ恥ずかしい」

ガルル【N】「それから我々は宇宙艇を着陸させ、君の前に姿を現した。当初は君の記憶を消すつもりだったの
        だが・・・」

 宇宙艇を砂浜に着地させ、上陸するガルル小隊一同。
 二言三言挨拶を交し、夏美の前でペン状の記憶操作装置を掲げる。

ガルル「君の記憶を消させてもらう。すまないが、これは侵略法で決まっている事項だ」
夏美「(きょとん、として)何のお話?」
ガルル「ギロロのことなら心配ない。私たちの軍に復帰出来るのでな。今回の件に関しては、私が全責任を負
     う。君は何も心配しなくていいのだ」

 ギロロに向かい身体を正対させる夏美。
 眉を寄せ、寂し気に瞳を曇らし、ギロロに一歩近付く。

夏美「ギロロ・・・もう、逢えないの?」

 返事はせず、無言のまま奥歯を噛み、項垂れるギロロ。
 ガルル、穏やかな表情で数歩歩み寄り、静かに語り掛ける。

ガルル「夏美くん、と言ったね。よく理解出来ないかも知れないが、君は彼を救うという、とても素晴らしいことを
     したのだ。本当に感謝している・・・」

 記憶操作装置を夏美の目の前に上げ、スウィッチを入れるガルル。
 カッ!と虹色の光が放たれ、思わず両手で顔を覆う夏美。
 固く両目を閉じ、ブンブン、と渾身の力で首を振って屈み込む。

夏美「(泣きながら)やだ! 何で忘れなきゃならないの!? ギロロ! あたし・・・あたし!」

 直後。
 しゃがんだ夏美を両腕で、ガバッ、と抱き締めるギロロ。
 ハッ、と顔を上げて、すぐ横にあるギロロの横顔を見詰める夏美。
 ギロロ、回した右手で彼女の頭を優しい動きで撫でる。
 一旦、装置のスウィッチを切るガルル。ふたりから目線を逸らさない。

ギロロ「泣くな・・・泣くな、夏美。必ず・・・必ずまた来る。何十年掛ろうと、何万光年離れていようと・・・俺の身
    体がボロボロになろうとも・・・(ギュッ、と腕に力を込め)約束だ、夏美。俺を救ってくれたお前との、初め
    ての約束だ。だから・・・必ず守る! 俺は、夏美に、逢いに来る!
夏美「(泣きながら、笑顔で)・・・うん・・・」

 夏美、両腕でギロロを包み込み、ギュッ、と力を込める。
 頬を寄せ合って、固く抱き合うふたり。

ガルル【N】「私はそれから君の記憶を切り取り、データベースに転送した。万が一を考え、ギロロの記憶も同じ
        く切り取り保管したのだが・・・ギロロに戻す機会は、結局ペコポン侵略作戦開始後にも間に合わ
        ず、至極最近になってしまった。それにしても・・・記憶があろうとなかろうと、君たちは惹かれ合う
        運命にあったのだな。宇宙創生から未来永劫まで書かれた『アカシックレコード』の記載事項のよ
        うに・・・奴は、ペコポンを去る前にここ、君と初めて逢った思い出の地を、ふたりきりで訪れたかっ
        たのだろう・・・さらばだ、夏美くん。そして、ギロロの言葉を信じてやってくれ・・・」

 【回想シーン終了】

 ガルルが去った海岸で、ひとり佇む夏美。
 彼方の水平線を見詰め、スーッ、と両の瞳から涙を流す。

夏美「(切な気に)出逢ってたのね・・・この場所で、5年前・・・ギロロもあたしも、記憶を消されちゃってたのに
    ・・・また地球に来て、あたしと出逢って・・・」

 夏美の脳裏に次々と浮かぶ、ギロロとの想い出。
 それに暫くの間、浸りながら緩やかに微笑む夏美。

夏美「でもねギロロ・・・待ってばっかりって、あたしらしくないの・・・だから・・・」

 一気に右手で涙を拭い、キッ!と決意に溢れた視線を水平線に向ける夏美。
 握った両手に、グッ、と力を入れる。

夏美「(凛とした声で)今度は・・・あたしがアンタに逢いに行く!」

【N】「そしてそれから時は流れ、更に5年後・・・残されたケロロ小隊メンバーと地球に、未曾有の危機が迫って
    いたのでした」


★ 奥東京市・上空(5年後)

 ある日の午後。
 ヘビの顔を機体にあしらった宇宙戦艦、宇宙強襲揚陸艦、宇宙駆逐艦が現れる。
 その数、雲霞の如く数百以上。見る見る上空を覆い尽くしていく。
 地上では人々が集まり、好奇と不安の入り混じった表情。
 ざわざわざわ・・・と、何事かと囁き合う街の人々。
 突然。
 一機の宇宙船の中から、舞台のセリのように船上に登場する異星人。
 コブラのような容姿。地上を見下ろして、ニヤァ、と歪に笑う。

ヴァイパー「(腕組みをして、高笑い)ガーラガラガラ! ペコポンの馬鹿どもォ! オレ様はヴァイパー! 突然
       だがオレ様はペコポンを侵略するぜぇ! 愚かなオメェらは、優れたオレ様に支配されて当然だ!
       ひれ伏せ! 泣いて命乞いをしやがれぇ! ガーラガラガラ! ガーラガラガラ!」

 途端。
 宇宙戦艦や駆逐艦が、一斉に砲撃を開始する。
 地上に降り注ぐレーザー砲、雨の如く落ちてくる爆弾。
 ドゴオッ! ボガッ! ドガガガガッ!と、次々に破壊されるビル群。
 パニックを起こし、絶叫を挙げて逃げ惑う人々。
 地面が割れ、建物が木っ端微塵に吹き飛び、橋が真っ二つになって落下する。

【N】「同時刻、この攻撃は世界各地で起こってたのです!」

 【映像】
 ニューヨーク、砕け散る摩天楼のビル群。倒れる自由の女神。
 ハワイ、海岸沿いのホテルに降り注ぐレーザー弾。
 パリ、真上から貫通され、崩壊する凱旋門。真横から折れるエッフェル塔。
 ロンドン、時計を止めたまま横倒しになるビッグベン。落ちるロンドン橋。
 【映像終了】

ヴァイパー「(悪鬼の如く笑い)ガーラガラガラ! 見ろ! 人がゴミの・・・」 
タママ「そうはさせないですぅ! 喰らえッ! (ドスが効いた声で)タママインパクトォ!

 いきなり間近に、ソーサーに乗ったタママが急接近して、生体ビームで攻撃。
 ドシュウウウウッ!と空を劈いて、至近距離でヴァイパーに激突。
 だが、バリアに覆われているらしく、瞬時にビームが消し飛ぶ。

ヴァイパー「(嘲るように)ケッ、ガキの遊びだな。ぜーんぜん効きゃしねぇぜ!」
ドロロ「ならば参る! 零次元斬ッ!

 続いてソーサーで接近したドロロ、跳躍して攻撃を仕掛ける。
 小刀でヴァイパーの腹部を切り付け、ドン! ザシュッ!と空間に切断面が走る。

タママ「やったぁ! マトモに喰らったですぅ!」

 ヴァイパーを背後に、ストン、とソーサーに着地するドロロ。
 彫刻のように凝り固まるヴァイパー。
 しかし僅かの後、ニヤアリ、と口を歪めて上げ、くるうり、とドロロを振り向く。
 そしてボディビルダーの筋肉誇示のポーズを、ビシッ!と決める。

ヴァイパー「無傷! 痛くも痒くもねぇぜ!」
ドロロ「(驚き)何と!」
ヴァイパー「オレ様のヴァイパー星は気温470℃、気圧は100気圧! その中で生まれ育ったこの身体!
       むぁさぁに無敵ィィィッ!!!」
ドロロ「(冷静に)・・・いや、そんな惑星に生命が誕生するのが、まず変でござるが?

 沈黙。
 沈黙。
 沈黙。

ヴァイパー「(怒声)ツッコむんじゃねぇッ! ヴァイパービィィィィィム!!!

 真っ赤になって激怒したヴァイパー、ドロロとタママ目掛けてサイコガンを乱射。


★ ケロロ小隊地下基地・中央司令室

 司令室中央でスクリーンを見上げ、地団駄を踏むケロロ。

ケロロ「(歯軋りをして)何なのアレ! ヴァイパーってあんな強かったっけ!?」
クルル「(舌打ちをして)ヘビ野郎、ハンパねぇ攻撃力と防御力を備えてやがる。今までのマヌケっぷりが嘘み
     てぇだ。どっからあんだけの戦艦や強襲艦を揃えたか知んねぇが、戦力比が200倍じゃキカねぇ・・・隊
     長、攻撃の手が足りな過ぎだ。何とかならねぇのかよ?」
ケロロ「判ってるでありますが、一般住民の避難を西澤家私設軍にお願いしてるんで・・・ケロン星への緊急援
     軍要請は伝わったのでありますか?」
クルル「援軍は今出たって言ってるぜぇ。何度通信しても同じだ」
ケロロ「(頭を抱えて)キーッ! 蕎麦屋かよっ! (モアを振り返り)モア殿! 西澤家各部隊に、住民救助と
     避難を最優先に指示!」
モア「了解ですっ!」

 途端、ピリリリ、ピリリリ、と緊急呼び出しコールが鳴る。
 インカムの位置を指で確認し、モアがコンソールパネルを凝視する。

モア「(顔色を変えて)こちら司令室! どうされました!?」
私設軍兵士A『こちらアップル1! 現在ヴァイパー戦艦からの猛攻撃を・・・うわああッ!』
私設軍兵士B『ストロベリー1がやられた! 援軍を頼む!』
私設軍兵士C『グレープ2から応答がない! こちらは既に囲まれてる!』
モア「(緊迫した声で)全軍に指令! 動ける方は味方の援護をしつつ、可能な限り一般住民の避難と救助を
   お願いします!」

 目を閉じ、項垂れて短い溜め息をつくケロロ。
 ギシ、と椅子に背を預け、ケロロの背中を見詰めるクルル。

クルル「この街だけじゃねぇ・・・ペコポン全域だぜぇ・・・(ギッ、と奥歯を噛み)隊長、最悪の場合も考えといて
     くれや・・・」

 返事はせず、ただ項垂れたままのケロロ。


★ 奥東京市・地上

 ヴァイパー戦艦からの攻撃がひたすら続いている。
 次々と崩れ落ちるビルや家屋。避難民を誘導するふたりの私設軍兵士。
 戦闘服とヘルメット、濃い色のアイシールドを装備。個人は特定出来ない。
 上空を見上げ、戦艦が移動しながら砲撃する様を睨む兵士N。

私設軍兵士F「(絶望的な声で)地球が・・・目茶目茶になる・・・どうすることも出来ない・・・」
私設軍兵士N「(力を込めた声で)まだ諦めない! 援軍は必ず来る!」

 次の瞬間ふたりが、戦艦の砲塔が下向きに動くのを確認。
 その向けられた先を見て、ハッ!と同時に驚く。
 逃げ遅れた母親と男の子。抱き合ってうずくまっている。

男の子「(泣きじゃくって)・・・お母さーん・・・」
母親「(顔面蒼白で)だ・・・大丈夫、大丈夫よ・・・大丈夫・・・大丈夫・・・」

 【スローモーション】 
 戦艦の砲塔が、レーザー弾を発射する寸前となる。
 兵士N、即座に、ダッ!と地面を蹴って走り寄ろうとする。
 ワンテンポ遅れて、兵士Fも駆け出そうとする。
 【スローモーション終了】
 直後。
 チュドオオオオオオン!!!!!と爆発を起こし、真っ二つになる戦艦。
 思わず見上げる兵士Nと兵士F、母親と男の子。
 更に数十回の爆発を連鎖させ、遂に木っ端微塵に四散する。
 茫然としている母子に駆け寄り、手を貸して避難させるふたりの兵士。


★ 奥東京市・上空

 対峙するヴァイパーとドロロ、タママの周囲の戦艦が、次々と爆破される。
 ズガン! ボゴオッ! チュドン!と、見る見る破壊されている。

ヴァイパー「(気付いて)ん? 何が起こってんだ?」
ドロロ「(ハッ、として)タママ殿! 緊急回避ッ!」
タママ「(大慌て)うわわわわわわッ!!!」

 直後。
 遥か彼方から猛スピードで、1基の巨大なミサイルが飛来。
 あっと言う間にヴァイパーを直撃、爆裂。バキイッ!と砕け散るバリア。
 思わず目を瞑ったヴァイパーが顔を上げた途端、新しいミサイルが腹部にヒット。
 グボゴン!とめり込み、眼球を思い切り飛び出させるヴァイパー。
 声を上げることも出来ず、ミサイルごと吹っ飛んでいく。
 しかも飛んでいくそれに、雨アラレとばかりにミサイルポッド、レーザー弾が集中する。
 ドゴガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!と、空中で凄まじい大爆発が発生。
 まるで太陽のような紅蓮の炎が、中にヴァイパーを擁したまま膨れ上がる。
 そして、キラッ、と輝きを放ち、遥か上空から迫る一機の真紅の重機動アームドベース。
 とどめとばかりに上部の主砲を向け、ボンッ! ボンッ!とレーザーを連発。
 光の帯が炎の中を貫通し、ヴァイパーを飲み込んだまま地上に突き刺さる。
 ドォォォォォォンッッッ!!!!!と、とんでもない高さの火柱が天に噴き上がる。
 

★ 奥東京市・地上

 一連の猛攻撃でヴァイパーが墜落するまでの一部始終を見詰める、ふたりの私設軍兵士。

私設軍兵士N「(茫然と)あれは・・・間違いない! あのベラボーなやり方は!」

 攻撃を一通り終え、鮮やかな曲線軌道を描いて地上に下降していくアームドベース。

【N】「そう! この情け容赦ない攻撃はッ! “戦場の紅い悪魔”ギロロ伍長ッ!

 コクピットでヴァイパーが堕ちた様子を確認し、フッ、と笑うギロロ。
 静かに地上に着地し、ふたりの兵士の姿を見付けて、ストッ、と降りる。
 足早に近寄ってくる兵士Nと兵士F。どちらも意外そうな表情。

私設軍兵士F「(溜め息をついて)ちょっとやり過ぎじゃないかなぁ・・・」
ギロロ「気にするな。ヴァイパーに情けなど必要ない。(ふたりを見上げ)それより貴様ら、西澤家私設軍兵士
     だな? 至急、調べてほしいことがある。『日向夏美』の安否を確認して知らせてもらいたい。私用なの
     だが、無事なのかどうか大至急知りたい」

 途端。
 互いに顔を見合わすふたりの兵士。
 兵士N、小首を傾げてギロロを見ている。

私設軍兵士N「ひょっとして・・・その人の為だけに地球に?」
ギロロ「(赤面して)そ、そうだが・・・何か問題でも?」
私設軍兵士N「いや、何か、じゃなくて・・・(訝し気に)え? 地球の平和は二の次? いくら何でもそれ
         って・・・」
ギロロ「(大声で)だーっ! いいから俺の言うことを聞いてくれ! 一分一秒とて惜しいんだ! 早く夏美の
     居場所を・・・」
私設軍兵士N「その人は・・・無事よ、ギロロ・・・
ギロロ「(ハッ、と驚き)・・・まさか!?」

 ギロロの眼前に屈み込む兵士N、おもむろにヘルメットを取る。
 ふわさっ、と濃桃色の長髪が垂れる。ツーサイドアップに纏めた髪型。
 柔らかく、穏やかな微笑みで彼を見詰める夏美がそこにいる。
 直後。
 驚きのあまり大きく両眼を見開き、彼女を見詰めるギロロ。
 口が半開きになり、微かな震えが全身を走る。

夏美「(声を震わせ)・・・本当はこっちから行くつもりだったケド、5年じゃ間に合わなかった・・・(スーッ、と涙を
    流し)お帰り・・・お帰り、ギロロ・・・」

 ガバッ!と、同調した動作で抱き締め合うふたり。
 しゃがんだ夏美の首筋に両手を伸ばし、グイッ、と抱き寄せるギロロ。
 噛み締めるようにゆっくりと腕に力を込める夏美。両目を固く閉じて、彼に頬を摺り寄せる。
 暫く茫然としていたギロロ、実感に浸りながら夏美の肩に顔を埋める。

ギロロ「(声を湿らせ)背が、伸びたな・・・」
夏美「うん」
ギロロ「髪も、伸びたな・・・」
夏美「うん」
ギロロ「頑張ったな・・・そして・・・無理させた、な・・・(涙を流し)ありがとう、夏美・・・」

 永い時間、そのままのふたり。
 頃合を見計らった様子で、続いてヘルメットを取る兵士F。
 以前より精悍な顔立ちになった冬樹が立っている。
 それに気付いて、懐かし気な表情になるギロロ。自然な動作で身体を戻すギロロと夏美。

ギロロ「(笑顔で)冬樹か? お前も逞しくなったな」
冬樹「(笑顔で)お帰り、伍長。僕はまだまだ弱いよ。それより、いつコールドスリープから覚めたの?」
ギロロ「20時間ほど前か。身体調整はこちらに来る船内でしてあるから問題ない」
夏美「ま、戦いっぷり見てて判ったわ。相変わらず強引でベラボーよね。(嬉しそうに笑い)その感じだと、病気
    もすっかり回復したみたいねっ!」
ギロロ「ああ、もう回復した。心配ない」
冬樹「ホント、5年近くも冷凍睡眠に入ってたとは思えないよ。(腕の通信機が、ピピピ、と鳴り)あ、そろそろ着
    くみたいだよ」
ギロロ「援軍か? ならば俺たちの方も・・・」
夏美「そーじゃなくて、アンタに話したいコトがあるの。というか、逢わせたいんだけど」

 間髪を入れず、すぐ傍の道路に現れる1台のジープ。
 停止すると即座に後部座席ドアが開き、やや大人びた雰囲気になった桃華が降りてくる。

桃華「(手を挙げて)冬樹くーん! お連れしましたー!」
冬樹「(手を挙げて)ありがとう西澤さん!」

 桃華が横に避けると、もうひとり、4歳くらいの女の子がおずおずと降りてくる。
 髪の毛は短めで、柔和な感じの紅色。綺麗な弧を描く吊り目。
 その子がギロロの姿を見た瞬間、パアッ、と明るい笑顔になって思い切り手を振る。

女の子「パパーっ!!! ギロロパパーっ!!!」

 沈黙。







ギロロ「(大衝撃)何じゃとてェェェェェェッッッ!!!!!
夏美「(頬を染めて)“あの時”の子供よ。ホラ、最後に海に行った前の晩に・・・(真っ赤になって)もうギロロ
    ったら! 子供の前でこんな話させないでっ!」

 両頬に手を当て、赤面しながら顔を、ブンブン、と振る夏美。
 流れのままギロロの頭を肘で、コツン、と小突く。
 その直後。
 軽やかな飛行音を立て、3台のソーサーがギロロの近くに飛行してくる。
 あっけに取られているギロロの前に、ケロロ、タママ、ドロロが現れる。

ケロロ「(満面の笑みで)いよぅ! 噂の一撃必中野郎! 憎いよコノォ!」
ギロロ「(怒声)久々に逢っていきなりその台詞かッ!」
タママ「伍長さーん! お久し振りですぅー!」
ドロロ「ギロロ殿、健勝そうで何よりでござる」
ギロロ「お前たち・・・久しいな」

 続けて、その場の全員の通信装置が、ピピッ、と一斉に回線を開く。
 何事かと耳をそばだてるギロロ。

クルル『よぉ先輩、あんた今やケロン星だけじゃなく、ガマ星雲一の有名人だぜぇ。コールドスリープで眠ってる
     5年間、いろいろあってなぁ・・・何しろホレ、オレは口が固いんで有名だろ?』
ギロロ「(眉をひそめて)・・・何をしたんだ貴様・・・」
クルル『真面目な話、あんたと日向夏美の娘が誕生したんで、ケロン星学会はとんでもねぇ大騒ぎになった。
     ペコポン人との混血は初めてだからなぁ』
モア『しかもその一連のエピソード、クルルさんがプロデュースと監督をして映画化されて、空前の大ヒットを
   飛ばしたんですよ! ギロロさんが眠ってる間に、おふたりの名を知らない人はガマ星雲じゃ存在しませ
   ん。まさに“全ケロンが泣いた!”ってワケです! てゆうかぁ、感動巨編?』
ギロロ「(茫然)な・・・(怒声)クルル貴様ッ! 何をやっとるんだッ!!!
タママ「僕も10回観て、10回泣きました!」
ケロロ「(自慢気に)我輩なんか11回でありますよ!」
ドロロ「拙者は、初回特典付きDVDを購入したでござるよ」
ギロロ「(わなわなと震え)貴様らまで・・・何をしとるんだ何を・・・」
ケロロ「(ギロロを見て)今やこのペコポンは、映画を観てふたりのファンになった者の聖地であります。援軍と
     してここに来る兵士のほとんどが、ギロロと夏美殿のファンで占められてるんでありますよ?」
ギロロ「(驚き)・・・そう、なのか?」
ケロロ「何が何でもペコポンを護る―――そう決意して、志願した兵士ばかりと聞いてるであります」

 【映像】
 世界各地で、ヴァイパー戦艦の更に上空から被さるように現れる、ケロン軍各種宇宙船。
 宇宙戦艦、宇宙空母、宇宙強襲揚陸艦、宇宙駆逐艦など、大型小型合わせて数千単位。
 凄まじい迫力で、ヴァイパー戦艦を威圧してる。
 【映像終了】
 そして奥東京市上空にも、ケロン軍各種宇宙船が次々と飛来してくる。
 その中心に、一際巨大な強襲揚陸艦。
 艦の下部の一箇所が開き、中にスピーカーらしき物が晒される。

ガルル『ペコポンの諸君、突然ですが我々ケロン星は、大元帥閣下直々の命によりペコポンとの星間交友を
     開始いたします。このような急な展開は、異例中の異例・・・恐らく多大な混乱を生じると思われます
     が、こうなってしまった以上は前進あるのみ! (高らかに)さあ! 新しい時代の幕開けで
   す! ようこそ! 無限の大宇宙へ!


★ ケロン軍強襲揚陸艦・艦橋

 揚陸艦の艦橋で、満足気にマイクのスウィッチを切るガルル。

タルル「(ニッ、と笑い)まったく隊長ってば、浮かれっぷり絶頂っすね。流石は、映画初日の為に座席予約の
     電話を掛け捲ったのは伊達じゃないっす」
トロロ「ま、ボクは別にペコポンに来ても来なくてもよかったんだけどね。プププ〜」
ゾルル「・・・隊長命令とあれバ、仕方なイ・・・」
タルル「おや兵長? 映画観てハンカチが足らなくなったのは誰っすか? それとボロ泣きして座席から立てな
     くなった新兵さんはどこのどなたでしたっけ?」
ゾルル「(ピキ、と表情を固くして)・・・黙ってイろ・・・」
トロロ「(血管を浮かせ)自分のコト棚に上げてよく言うヨッ!」

 キリッ、と表情を引き締めるガルル。
 雰囲気を察知し、緊張感を覚えながらも不敵な笑顔を見せる小隊一同。

ガルル「(凛として)全軍! ペコポン全域に展開! ヴァイパー戦艦を完全に駆逐せよ!


★ 世界各地・上空

 途端、一斉にヴァイパー艦への攻撃を開始する全ケロン艦。
 ドン! ボガッ! ボンッ!と、抵抗すら出来ず粉々に爆破されるヴァイパー艦の数々。
 それを見て歓声を上げる、各地の避難民の人々たち。


★ 奥東京市・地上

 奥東京市上空でも、同様にヴァイパー艦への一斉攻撃が展開されている。
 その有様を地上で茫然と眺めているギロロ。

ギロロ「(唖然として、震え)お・・・俺のせいで・・・歴史が変わっていく・・・」
ケロロ「(真後ろから、ひねた声で)正確にはギロロの[ピーッ]一発が歴史を動かしたんでありますよ?」
ギロロ「(赤面して大汗で)のわああああッッッ!!!
ケロロ「やったでありますなギロロ! あーたってば歴史の教科書に載るねー! ゲロゲロリ(ニヤニヤと笑う)」
プルル「あんましギロロくんをからかっちゃ駄目よ、ケロロくん」

 するとケロロのすぐ横に、ソーサーに乗ったプルルが登場する。
 彼女の姿を目にして、バツが悪そうに頬を掻いて苦笑するケロロ。

夏美「プルルちゃん! 久し振り!」
プルル「(笑顔で)お久し振りです、夏美さん。母子共に健康そうで安心したわ」

 ギロロに目線を投げるプルル。

プルル「ギロロくん、貴方がペコポンに帰って来れたのは、この子のお陰なのよ

 少し驚いた様子で、夏美の傍らに寄り添う自分の娘を見詰めるギロロ。
 彼に眼差しを注ぎ、コクリ、と大きく頷く夏美。

プルル「夏美さんとギロロくんの混血であるこの子の血液から、貴方がペコポンにいられる新薬が開発出来た
     の。同時に、遺伝子レベルでの体質改善もやってみたわ。コールドスリープ中にどんどん回復して
     って、それでも5年掛ったケド・・・もう心配いらないわ。これからは、親子で暮らせるのよ」

 一歩一歩ふたりに近寄るギロロ。すぐ傍まで寄って立つ。
 もじもじと身体を縮めるギロ夏/娘。頬を薄く染める。

ギロロ「(照れくさそうに)・・・まだ、名前を聞いてなかったな」
夏美「(柔らかく微笑んで)この子の名前はね・・・」

 次の瞬間。
 ズドォォォォォン!!!と地面を突き上げ、墜落した地中深くから空中に飛び出すヴァイパー。
 全員の目線が集中し、各人が一気に臨戦態勢へと移行。

ヴァイパー「(激怒)ぬぐうああああああッッ!!! こんなんで終わってたまっかッ!!!

 怒りのあまり顔が赤黒く変色しているヴァイパー。
 ストッ、と地上に着地して、サイコガンを構えてギロロたちと対峙する。

ヴァイパー「(怒りで震え)こうなったらテメェらケロン人を全滅させてやるぁ! 覚悟しやがれぇ!

 ふうう、と長い溜め息をつくギロロ。
 頭を左右に振って、これ以上ないほど呆れた様子で首をすくめる。

ギロロ「(フッ、と笑い)やれやれ、どうにもしつこい奴だ。(ふたりを振り向き)今から一仕事してくる。ふたりで
     待っていてくれ」
夏美「オッケー。気を付けてね、ギロロ」
ギロロ「(娘を見て)怖くないか?」
ギロ夏/娘「(首を振って、笑顔で)ぜーんぜん! だってパパはうちゅーさいきょーだって、ママいっつもいって
       るもん!」

 娘を見詰め、続いて夏美を見詰めるギロロ。
 3人の眼差しが宙で絡み、ほぼ同時に笑顔になる。
 くるり、と踵を返し、左右に待機するケロロ、タママ、ドロロ、冬樹、桃華を順に見る。
 その度に笑顔でサムズアップをする各人。
 キュイン! ジャキッ!と飛行ユニットとビームライフル、マシンガンを転送して装備するギロロ。

ギロロ「(大声で)“戦場の紅い悪魔”ギロロ! 出撃するッ!

 ダッ!と地面を蹴り、飛行ユニットに点火するギロロ。

【N】「そしてヴァイパーは、ギロロ伍長に喧嘩を売ったことを、激しく後悔することになったのでした。そう!
   ギロロ伍長の活躍のお陰で、地球は今日も平和なのであります! “戦場の紅い悪魔”伝説『UFO伍長
   さん』これにてお開きとさせて頂きます! ご拝読、ありがとうございました!」