「夏美。
目を、閉じてくれ」
そう、耳元で囁かれる声が、秘密の時間の合図。
その低い声に操られるように、瞼を閉じる。
「夏美。愛している」
耳元で低く奏でられるその声は、あたしの心を狂わせる。
「ギロロ……」
彼の事しか、考えられなくなる。
熱い吐息。
囁く声。
あたしを呼ぶ、声。
世界中の音が消えて。
あたしの耳には、それだけしか届かなくなる。
―それ以外、何も要らなくなる。
「夏美」
目を閉じたままのあたしの唇に落ちる、熱。
熱い、と感じるほどの、その感触が。
あたしの心を燃え上がらせる。
目を閉じているから。
闇に閉ざされているから。
―ダイレクトに響く、その熱と音。
「う…ふぅ……」
柔らかく熱いものが、あたしの唇を這い回り、止められずに漏れた喘ぎに開いた唇を割って中へ
入り込み、逃げ惑うあたしを追い詰める。
服従しろと。
従えと。
すべて委ねろと。
嘘つきな言葉なんかより雄弁に語る、その動き。
あたしがすべてを投げ出すのを、待っている。
じっと獲物を待つ、獰猛な野生の獣のように。
「やだ…やめて」
それでも、最後の抵抗を試みるあたしの耳元を、またあの声が擽る。
「素直になれ、夏美」
ズルイ…
そんな優しい声で。
そんな穏やかな声で。
…それでいて、熱く滾るような声で。
あたしの名前を呼ばないで。
あたしの力を奪わないで。
―認めてしまえば、堕ちてゆくしか無いから。
それでも。
囚われてしまった心は、あたしの制御を離れてゆく。
自分の身体に回された、あたしの腕に。
ぴたり、と彼に密着する、あたしの身体に。
満足気に笑う気配が伝わる。
「いい子だ、夏美」
ああ、もう何も考えられない。
「それでいいんだ、夏美」
俺だけを、感じていればいい。
その声に、惑わされて。
今日もまた、侵略を許す。
それは、甘美で秘めやかな、枷。
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