遠い昔  はるか彼方の銀河系で…




FLESH + BLOOD



惑星ペコポン。砂の惑星であるこの星は、“ケロンの騎士”フユキ=スカイウォーカーの生まれ
故郷だった。
銀河系間戦争に巻き込まれたフユキは、ダース=ヒナタ率いる帝国軍に反旗を翻した同盟軍のシンボル、
ナツミ姫、流れ者の運び屋ハン=ギロロ、その相棒タママ=ウーキーとともに闘う。一度は帝国軍の
強力な要塞、スリップノットを破壊し、勝利した同盟軍だったが、帝国軍も反撃に出て、ナツミ姫は
捕らわれ、同盟軍は一時退却の憂き目にあう。

そのころ、流れ者ハン=ギロロは惑星デューンにいた。酒場の奥のテーブルで、宇宙マフィアを
取り仕切るボス、ドン=ヴァイパーと対峙していた。
「さて」葉巻を部下にカットさせ、火を点けてふかしたドン=ヴァイパーは言った。
「お前はこのわしに多大な借金があるのだが、今日がその期限だ」
ヴァイパーは帝国軍に捕らわれたところを宇宙の賞金稼ぎ、ドロロ=フェットによってヴァイパーの元に
連れてこられたナツミ姫をチラ、と見た。
「わしは物納は受け付けん主義だが、この女に関しては別だ」
「彼女は物じゃない」ギロロが言った。ヴァイパーは喉の奥でガラガラ、という音を立てて笑った。
「じゃあ金は持ってきたのか」
「いや」
「ではお前をどうしようとわしの自由だな。お前をわしの宮殿に飾るオブジェにしてやる。ありがたく
 思え」
「ギロロ!」
「おっと姫、動くと身体中に穴が開くよ。後ろのオタマジャクシもな」
ナツミ姫とタママ=ウーキーはヴァイパーの部下達に銃を突きつけられ、身動きがとれなくなってしまった。

ギロロは部下達に捕らえられ、ボードに磔になって冷気漂う液体で満たされた水槽に連れていかれた。
「この水槽は超低温のカーボナイトだ。ここに入ったら一瞬で凍りつき、高熱で熱さない限り、
 永遠に溶けない。生きた彫刻と化す」
ヴァイパーは楽しそうに言った。
「ギロロ!」
ナツミ姫が叫ぶと、ギロロはナツミ姫を見やって、二ッと笑った。
「ナツミ、愛してる」
その直後、ヴァイパーの部下によって水槽に浸けられた。しばらくしてボードが引き上げられると、
ギロロは浸けられる前の姿そのままで、凍っていた。

その時、酒場にギロロの親友、ケロロ=カルルジアン男爵が、軍隊を引き連れて乗り込んできた。
「ナツミ姫、ギロロ、タママ!助けに来たであります!」
「おや、ケロロ男爵、帝国軍に寝返ったんじゃなかったのか」ヴァイパーが言った。
「我輩、目が覚めたであります!ガンプラに釣られて帝国軍の言いなりになったでありますが、
 ガンプラより宇宙の平和が大切、とフユキ殿に教わったであります」
「ふん、もう遅い。ちょっとでも動くとギロロはこの場でパリン、だぞ」
ケロロは凍りついたギロロを見て、動けなくなった。
「お前達は指をくわえて見てろ。わしに逆らうとこうなる」
そしてヴァイパー一味はギロロを連れて、デューンを離れた。

「とにかく、なんとかしてギロロを助けることが先決よ」
同盟軍の基地にいったん戻ったナツミ姫が言った。
「奴らはどこに行ったでありますか?」ケロロが言った。
「惑星ペコポンにあるヴァイパーの宮殿に、ギロロ先輩を飾るって言ってたですう」
タママが己の情けなさに唇を噛み締めた。
「惑星ペコポンは、僕の故郷だ。あそこの事なら僕がわかるよ。僕に考えがある。MO-A、おいで」
フユキが自分のドロイド、MO-Aを呼び寄せた。
「フユキ様、何をするつもりだ?クーックックッ」
もう一体の通訳ドロイド、K-RRがフユキに言った。フユキはニッコリして言った。
「今から君達には、ドン=ヴァイパーの所にお使いに行ってもらう。僕からのメッセージを持ってね」
「大丈夫なの、フユキ?」
ナツミ姫が心配そうな顔でフユキに訊いた。
「大丈夫、きっとうまくいく。ナツミ姫と男爵にも手伝ってもらいたいんだ」
「フユキ殿の頼みとあらば、合点承知のすけ、であります」
ケロロがドン、と自分の胸を叩いた。
「テユーカ、作戦会議?」
語彙がこれだけのMO-Aが言葉を発した。
「うわーなんかよくわかんないけど無性に腹が立つですう。オメーが出しゃばるんじゃないですう」
タママが血走った目でMO-Aを見た。
「と、とにかく、みんな今から僕が作戦を言うから、その通りに動いてね」
フユキの言葉に、全員が顔を引き締めた。




惑星ペコポン。果てしなく続くと思われる砂漠を、二体のドロイドがちょこちょこと進んでいた。
「まったくよお。フユキ様も面倒臭えこと考えやがるぜえ。さっさとヴァイパーの宮殿なんか
 同盟軍に頼んでブッ壊しちまった方が早くね?」
「テユーカ、安否不明?」
K-RRの愚痴に、MO-Aが言い返した。
「ケッ、それじゃギロロ様の安全は保障できねえってか。にしても、いっこうに宮殿らしきもんが
 見あたらねえ。…お、ひょっとして、アレか?」
ドロイド達は前方に巨大な建物を見つけた。それからたっぷり三十分ほど歩いて、ようやく入り口
らしき所にたどり着いた。
「すいませーん、誰かいますかー」K-RRはやる気なさげに緩いノックをして待ったが、応答はなかった。
「やっぱ誰もいねえ。帰ろ帰ろ」
K-RRが踵を返して帰ろうとした時、閉ざされた門からニョッキリとカメラアイが飛び出し、K-RRの
顔面を直撃した。
「何すんだよ」
『ナニモノダ。ナンノヨウダ』
カメラアイから声がした。
「あー俺はK-RR、こっちのチビはMO-A、フユキ様のドロイドだ。フユキ様のメッセージをヴァイパー様に
 持ってきた」
カメラアイは無言で門の向こうに引っ込んだ。
「なんだよ門前払いかよ。帰ろうぜ」
K-RRが背を向けた途端、門が開いた。MO-Aは素早く中に入り込み、それを追ってK-RRもヨロヨロと、
ドン=ヴァイパーの宮殿に入っていった。

宮殿は広いが暗く、ジメジメとしていた。二体のドロイドは、ヴァイパーのいる大広間に通された。
そこでは酒宴が開かれており、バンドが音楽を奏でていた。
「ケロンの騎士、だと?」グラスになみなみと注がれた酒を一気にあおって上機嫌のヴァイパーが言った。
側近がヴァイパーに何か耳打ちした。
「ただ今から偉大なるヴァイパー様へ、我が主人フユキ様からのメッセージをお伝えします」
K-RRがそう言うと、MO-Aはホログラムを映し出した。
『高名で偉大なるヴァイパー、ギロロは私の友人です。貴方にご迷惑はかけない。許して下さったら
 この二体のドロイドを貴方に捧げます。二体ともよく働きます』
「なるほど、そういうことかい」
K-RRが呟いた。ホログラムはそこで終わった。
「ガーラガラガラ、あいにくとわしはあの壁掛けが気に入っとるんでなあ。ケロンの騎士よ、
 残念だったなあ」
ヴァイパーがあごで壁の方を指し、大笑いした。K-RRがヴァイパーの指した方を見ると、カーボナイトに
凍りつき、苦悶の表情を浮かべたままのギロロが壁に張りつけられていた。
その時、伝令がやってきて、側近に何かを伝えた。側近はうなずいた。
「ヴァイパー様、タトゥイーンの賞金稼ぎが『ウーキーを捕まえたので賞金をくれ』と言ってます」
「あ?よし、通せ」
伝令の合図で入ってきたのは、黒いケープを頭からスッポリと被った賞金稼ぎと、縛られたタママ=
ウーキーだった。必殺技の、口から吐き出す“タママ・インパクト”を封じるために、口に拘束具を
はめられていた。
「ほう、ついにタママ=ウーキーも捕らえられるとは。なかなか腕の立つ賞金稼ぎだな」
「五万」賞金稼ぎは言った。ヴァイパーは葉巻を一服し、独特の匂いのする煙を吐き出して言った。
「二万五千だ」
「では交渉決裂だ。コイツに賞金を掛けている奴は他にもいる」
「このわしと交渉しようとはいい度胸だ。よし、三万五千出そう。これ以上は無理だ。よそでは
 こんなに出さんぞ」
賞金稼ぎはうなずき、タママをヴァイパーの部下に引き渡した。一瞬、その部下と賞金稼ぎが
視線を交わしたようにK-RRには見えた。




夜。人気のなくなった大広間に、黒い人影があらわれた。昼間、タママを連れてきた賞金稼ぎだった。
賞金稼ぎは壁のギロロに近寄った。凍りついたギロロの顔を指で撫で、解凍スイッチを押した。
カーボナイトに高熱が加えられ、徐々に溶けていった。だんだんと“宇宙の赤い無法者”ハン=ギロロの
姿があらわれてきた。
完全に解凍されたギロロは、床に倒れ込みそうになったところを賞金稼ぎに抱きとめられた。
「俺は…助かったのか?」
「そうだ」
「貴様は何者だ?目が…見えない…」
「今、あなたは冬眠から覚めた状態なのです。しばらくすれば見えるようになるでしょう」
そう言いながら、賞金稼ぎは頭の黒いフードを取り、変声機つきのマスクをはずした。
「わたしよ」
「ナツミ…」
ギロロは手を伸ばし、確かめるようにナツミ姫の顔に触れた。片時も忘れたことがなかった恋人の
懐かしい手の感触をナツミ姫が味わっていると、ギロロが顔を近づけてきた。
「ギロロ…」ギロロの唇が、ナツミの唇を探す。ナツミの唇が、ギロロを導く。
そしてふたりの唇は、重なった。

「ガーラガラガラ、おふたりさん、愛の抱擁は済んだかな?」
喉奥で痰を絡ませたような笑い声が響き、広間の灯りがいっせいに点いた。ドン=ヴァイパー、そして
ファミリーがふたりの周囲を取り囲んでいた。
「ヴァイパー!」
「これはこれはナツミ姫、変装してまで愛しい恋人を助けに来るとは、さすが同盟軍の勇ましい
 はねっかえりだ。わしはあんたみたいな気の強い女が大好きだよ」
「ヴァイパー、ナツミは関係ない。殺すのなら俺だけにしてくれ」ギロロが言った。
「心配せんでいい。貴様の相棒も一緒だ。それからそこの、ケロンの騎士も」
大広間のファミリーがいっせいに入り口の方を見ると、フユキがそこに立っていた。
「メッセージは届いていなかったようだね、ドン=ヴァイパー」
部下達がフユキに襲いかかってきた。フユキはケロンの騎士が持つ不思議な力“ファイズ”を使って
次々と撃退した。フユキはヴァイパーの心を操ろうと念じた。だが、ヴァイパーは不敵に笑って言った。
「わしに貴様の力は通用せん。貴様はジェヴォーダンの獣のエサとなるがいい」
ヴァイパーが手元のスイッチを押すと、フユキの足元の床が開き、フユキは地下に落とされた。
「そいつは大喰らいでなあ。いつも腹を空かせとる。頼むぞ、ケロンの騎士」
「フユキ!」ナツミが叫んだ。

フユキが落ちた暗がりに目が慣れると、そこは地下の洞窟のように横に広いということがわかった。
すると背後で重い鉄製の扉が開けられる音がして、フユキは振り返った。扉の向こうからあらわれたのは、
大きな口に無数の牙を生やした、四足の獣だった。
フユキは警戒しながら獣の目を見つめ、視線を逸らさずに移動した。獣が右に歩を進めると、フユキも
一定の距離を保ったまま右に進む。その途中、足に棒切れが当たり、そっと拾いあげた。
一瞬の間のあと、獣が爪を立て、飛びかかってきた。フユキは獣に押し倒される格好となったが、
持っていた棒切れを獣の左目に突き立てた。獣は悲鳴を上げ、フユキの身体から飛びのいた。
その隙を見てフユキは出口らしき所に向かったが、そこには頑丈な鉄柵がはめられていた。そのうち、
深手を負いながらも体勢を立て直した獣が再びフユキに飛びかかってきた。鉄柵を背にしていたフユキが
咄嗟にかわすと、獣は鉄柵に激突し、倒れて動かなくなった。
ドン=ヴァイパーは舌打ちし、部下に命じ地下のフユキを捕らえ、そのまま牢に閉じ込めた。




翌日。今日も惑星ペコポンのふたつの太陽は、ギラギラと地表を照らしていた。
ヴァイパーの宮殿から飛行艇が二台出てきた。ひとつはヴァイパーや側近が乗り、もう一台の屋根のない
粗末な飛行艇には、ギロロ、タママ、フユキが乗せられ、周囲をヴァイパーの部下、そしてドロロ・
フェットが囲んでいた。
二台の飛行艇は砂漠の真ん中に開いている、大きな穴の周りに停まった。
「これからお前達をデザート・ニョロロのエサにしてやる。コイツに飲み込まれると、完全消化までに
 数十年かかる。もちろんその間、吸収される生物の意識は保たれたままだ。助からず自ら死を選ぶ
 こともできない。まさに地獄の苦しみだ」
ドン=ヴァイパーは上機嫌で言った。その傍らには、胸と下腹部を覆っただけの露出度の高い衣装を
身につけさせられ、太い鎖を首に巻いた輪に繋がれたナツミ姫がはべらされていた。
「ギロロ!タママ!フユキ!」
ナツミが窓から三人の姿を見つけて、近寄り覗き込もうとすると、ヴァイパーは鎖を引っ張って
ナツミを引き戻した。
「あう…」
「苦しがる声もまたそそるな、姫。あんな蛙よりわしの方がスゴイところを見せてやる」
ヴァイパーはナツミの髪を掴み、自分の所に引き寄せた。ヴァイパーの葉巻臭い息がナツミの顔に
かかる。ナツミは顔を背けた。ヴァイパーはナツミの顔を、自分の手で強引に上げ、自分の方を
向かせた。
「わしの舌は、何千人もの女を鳴かせとる。お前もすぐに鳴かせてやる」
そう言ってヴァイパーは自分の長い舌を伸ばし、その二つに割れた舌先でナツミの顔を舐めまわした。
ナツミは必死に屈辱に耐えた。

「ヴァイパー様、準備が整いました」
側近の声にヴァイパーは舌を引っ込め、ナツミを放り出した。
「よし、それではケロンの騎士からだ」
フユキが飛行艇の縁に連れて来られると、そこから飛び込み台のようなボードが伸びた。
フユキはそこに立つように促された。すると、獲物の匂いを嗅ぎつけたデザート・ニョロロが
その恐ろしい姿をあらわし、大きな口を開けた。
「ヴァイパー!」フユキはボードの上で叫んだ。
「僕たちを処刑すると、後悔することになるぞ」
「ほざけ、若造」ヴァイパーはフユキの叫びを一蹴した。
「大した事もできず、帝国軍も倒せず、お前達は死ぬのだ。やれ!」
部下が背後からフユキを押そうとした瞬間、フユキはボードからダイブして、ボードの縁を掴み、
ぶら下がった。

それを合図に、ヴァイパーの傭兵のひとりが他の部下達に攻撃を加えはじめた。
「フユキ殿、大丈夫でありますか」
「大丈夫だよ、男爵」
ケロロ男爵がヴァイパーの宮殿に潜入し、チャンスをうかがっていたのだった。
「お前…なんでもっと早く助けない」ギロロがケロロに憎まれ口を叩いた。
「作戦には、チャンスとタイミングが大切なのであります。それよりギロロ、あーたの目は
 見えるようになったのでありますか?」
「ああ、昨日よりは回復してる。少しぼやけるがな」
「そうでありますか…おっと」ふたりは敵の攻撃をかわしながら会話を続けた。
「ナツミは、無事なのか」
「今、ヴァイパーの所にいるであります。早く助けないと、あのスケベオヤジにあんな事やこんな事
 されちゃうであります」
タママが必殺のタママ・インパクトを放ち、飛行艇の敵は次々と穴に落ちてデザート・ニョロロに
飲み込まれていった。
唯一残っていたドロロ=フェットがギロロに襲いかかってきた。
「ギロロ、あぶない!」
ギロロを助けようとしたケロロが、ドロロの剣に振り払われ、飛行艇から落ちそうになった。
「ケロロ!」
ケロロは飛行艇から突き出たボードにつかまった。しかし飛行艇は徐々に傾き、デザート・ニョロロの
触手がケロロの足に絡みついてきた。
ドロロの剣が今度はギロロを襲った。ギロロも傍らに落ちていた剣をとり、応酬した。ヴァイパーの
船が、ギロロ達の乗っている船にビームキャノンで攻撃を仕掛けてきた。
「船もろとも穴に落としてしまえ!」
ビームが船の左舷に当たり、船はさらに穴の方に傾いた。ドロロが足元を滑らせた。その瞬間、
ギロロはドロロの足を掴み、穴に放り投げた。
「ひどいよギロロくん…今回の拙者の出番、これで終わり…?」
ドロロ=フェットが何かを呟きながら落ちていき、デザート・ニョロロに飲み込まれた。

「タママ、俺の足を持て!」
ギロロが助走をつけて、ボードを腹這いになって滑っていった。タママも精一杯身体を伸ばし、
必死にギロロの足を掴んだ。
ギロロは手を伸ばしたが、デザート・ニョロロの触手に引っ張られているケロロのせいでボードが
たわみ、ケロロの手を掴むことができなかった。
「ギロロ先輩、この銃でニョロロの触手を撃つですう!」
タママが落ちていた銃をギロロに向けて滑らせた。ギロロは片手でそれを受け取り、焦点の定まらない
目で下を見た。ケロロの足に絡まっている触手は直径十センチほどで、ぬめぬめと動き続けていた。
「距離10か?くそっ、照準合わせるどころじゃないな」
「ギロロ、自分の勘を信じるであります!」
ケロロが叫んだ。ギロロは一瞬、恐ろしいほどに集中し、トリガーを引いた。見事にニョロロの触手に
命中し、触手は吹き飛び、その反動でケロロはボードから跳ね上がり、船の中にべちゃっと身体ごと
着地した。
「ふう…助かったであります」
「あのまま飲み込ませても良かったかな、この裏切り者。貴様のせいで俺は冬眠するハメになったんだぞ」
「許してほしいであります。帝国軍に脅されて仕方なくやったんであります」
「もういい。こうして助けに来てくれたしな」
ギロロはフッ、と笑った。そしてすぐに真顔に戻って言った。
「ナツミを、助けねば」




ドン=ヴァイパーの乗っている船では、暴れ出したギロロ達に慌てたヴァイパーが、ビームキャノンを
立て続けに発射させていた。
「撃て!奴らをデザート・ニョロロに喰わせろ!!」
外の様子に気を取られたヴァイパーは、ナツミの存在を忘れて焦っていた。
ナツミ姫は自分の首に取りつけられている太い鎖を両手でしっかりと握り、隙を見てヴァイパーの
首に巻きつけた。
「うえっ!?何をする!!」
「今度は自分の首に巻いてみれば?」
そしてナツミは渾身の力を込めて、鎖をきつく締めつけた。
ヴァイパーはじたばたと苦しんでいたが、やがてその力が緩み、先ほどナツミ姫を舐め回したその舌を
長く垂らし、失神した。
「わたしを鳴かせられなくて、残念ね」

ナツミは辺りを見回した。すると、K-RRと共に逃げまどっているMO-Aを見つけた。
「MO-A、こっちへいらっしゃい」
「テユーカ、安全確認?」
「おんや、無事だったのかい、ナツミ姫様」K-RRが言った。
「MO-A、わたしのこれを焼き切ってちょうだい」
MO-Aはアームで鎖を挟み、熱で焼き切った。
「ありがとう」
「ナツミ!!」
護送船を操縦してヴァイパーの船に乗り込んできたギロロ、ケロロ、タママがナツミ姫のもとに
駆け寄ってきた。
「ギロロ!!」
ナツミ姫はギロロを跪いて迎えた。
「もう、目は見えるの?」
「ああ、大丈夫だ」
「あのう…おふたりさん、愛の確認作業はここを無事脱出してからにしてほしいでありますな」
咳払いをひとつして、ケロロ男爵が言った。ギロロとナツミ姫は顔を赤くした。
「あら、そういえばフユキは?」
「フッキーなら、甲板にいるですう」タママが言った。
「きっとビームキャノンの砲台を破壊する気ね!ギロロ!」
「わかってる。俺たちも行こう」

甲板では、フユキがビームサーベルで、ヴァイパーの部下達と闘っていた。
「フユキ!」
ナツミ姫の叫びにフユキがそちらをチラ、と見た時、背後から敵が襲ってきた。そこをすかさず
ギロロが銃で援護した。
「ケロンの騎士たるもの、女ごときに現を抜かしていては命がないぞ」
ギロロの言葉に、フユキは「そういうんじゃないけどね」と苦笑した。
「もうヴァイパーに力はない。一気に叩くぞ、フユキ!」
「うん!」




こうしてフユキ、ギロロ、ナツミ、タママはヴァイパーの船に乗っていた部下を一掃し、宮殿の
地下に置かれていたギロロの宇宙船で飛び出した。
「ヴァイパー達が追いかけてくるんじゃない?」
「あいつらは追いかけてこないさ」
次の瞬間、地響きがして、ヴァイパーの宮殿が音を立てて崩れ落ちた。
「“砂上の楼閣”だからな。一点を爆破すればもろいのさ」
ナツミ姫はギロロに抱きついた。
「ナツミ」ギロロがナツミの耳もとで囁いた。
「なあに?」ナツミが甘い声で囁き返した。
「その扇情的な格好で抱きついてくるのはうれしいんだが、皆が見ている」
ナツミ姫ははっとして船内を見回した。ケロロもタママもニヤニヤとふたりを見ていた。
「見せつけてくれるじゃねえの、おふたりさん。ウチの純情なご主人様が目のやり場に困ってるぜえ」
「テユーカ、夫婦善哉?」
二体のドロイドも、ふたりをからかった。
「同盟軍の本部に着くまではその格好で我慢してくれ。ま、俺は別にずっとその格好でも構わんがな」
「うわあギロロ先輩ったら、エロオヤジまる出しですう」
「タママ、そんな軽口叩いてないで、ワープに入る準備をしろ」ギロロが言った。
「了解ですう!」
「次はいよいよ、帝国軍との決戦でありますな」
ケロロが言うと、皆は一様に気を引き締めた。
「俺達が加われば、同盟軍は勝ったも同然だ」ギロロが言った。
「宇宙の平和のために」ナツミ姫が言った。
ギロロはナツミ姫をじっと見つめた後、前方に向き直り、「ワープ準備完了。ただいまよりワープ
航行に入る。全員位置につけ!」と言った。
やがて船は銀河系の彼方に飛び去り、見えなくなった。




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image from “STAR WARS” Episode Y “Return of the Jedi”




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